特集、その他

QNAPの「攻めるNAS」を試す、
SSDキャッシュでの高速化やビデオ変換、仮想マシンまで…

SSD 4台でもテスト text by 清水 理史

 2.5インチHDD/SSDに最適化されたスリムタイプの4ベイNAS「TS-451S」がQNAPから登場した。

 単にスリムなだけでなく、SSDの装着によって超静音、超高速なストレージ環境を構築できるのが特徴だ。

 ビデオトランスコードや仮想マシンの実行を加速するデュアルコアのCeleronも搭載していたり、メモリを簡単に増設したりできるなどの工夫もなされた注目の製品を実際に試してみた。

攻めるQNAP、その姿勢が現れた「TS-451S Tubrbo NAS」

QNAPのスリムタイプ4ベイNAS「TS-451S Turbo NAS」
2.5インチ対応のベイを搭載。SSDの装着が可能となっている

 ここ最近のQNAPのアグレッシブさは、ちょっとすごい。

 QEMUベースの仮想化ソリューションを搭載してくるは、samba4のドメインコントローラー機能を搭載してWindows Server代わりとして使えるようにするは、SSD用に最適化したモデルはリリースするは・・・・・・。とにかく、矢継ぎ早に新手を打ってくる。

 個人的には、手持ちのNASがどんどん旧型になっていく悲しさはあるが、次は何をしてくれるのか? と、その動向にワクワクさせられる日々だ。

 そんなQNAPから新たに登場したのが、今回紹介する「TS-451S Tubrbo NAS」だ。

 これまでの2ベイモデルとほぼ同等のサイズに、2.5インチ用のベイを4つ備えた、まさに攻めるQNAPを代表するような新しいタイプの製品となっている。

 通常、NASは容量を重視して3.5インチの大容量ハードディスクを装着するのが一般的だが、本製品はベイを2.5インチ用として割り切ることで、SSDでの利用に最適化している。

 もちろん、3.5インチHDDの大容量化が進む中、SSDはそこまで大容量化や低価格は進んでいないが、容量を犠牲にしても、静音性やスピードを手に入れたいというニーズは少なくない。

 家庭で言えばAV用途のストレージがそうだし、ビジネスシーンでもビデオ編集や3Dデータの取扱など、高速に扱えるネットワーク上のストレージの用途はある。また、現状、NASではQNAPのみが搭載する仮想化ソリューションでも、仮想マシンを高速に動作させるのにSSDは有利だ。

 もちろん、本製品にも2.5インチの通常のHDDを搭載することは可能だが、どちらかというと、SSDの静音性やスピードが求められるピンポイントの用途にピッタリとはまるNASと言えるだろう。

スリムだが高性能

 それでは実機を見ていこう。外観は、前述したように4ベイながらスリムなデザインとなっている。サイズとしては150×102×216mm(高さ×幅×奥行き)で、実は2ベイのTS-251(168.5×102×225)よりもコンパクトに仕上がっている。

正面
側面
背面
【TS-451S スペック】
CPUIntel Celeron 2.41GHz dual-core
(バースト時2.58GHz)
RAMDDR3L 1GB(2スロット最大8GB)
ベイ4(2.5インチ)
LAN1000BASE-T×2
USBUSB3.0×3
HDMIv1.4a×1
赤外線受光部○(MCE互換)
サイズ高さ150×幅102×奥行き216mm
重量1.74kg
消費電力20.83W(稼働時)
13.48W(HDD停止時)
ファン7cm×1

 スペックはコンパクトモデルとは思えない充実ぶりだ。

 従来のNASでは、コンパクトモデルはARM系のプロセッサかAtomを搭載している場合が多かったが、今回の製品ではデュアルコアのCeleronを搭載している。

 過剰なようにも思えるかもしれないが、本製品には、ハードウェアアクセラレーションを利用したビデオエンコード機能が搭載されているが、この機能に欠かせないわけだ。

 また、前述したように、QNAPのNASでは、QTS4.1で仮想化ソリューション(Virtualization Station)に対応し、NAS上でWindowsなどの仮想マシンを実行可能になったが、これにもVT-xをサポートしたCPUが欠かせないことになる。同様に、仮想マシン用に割り当てられるようにLANポートも2つ搭載している。

 実際、TS-451SでVirtualization Stationを実行するには、標準の1GBのメモリでは実行要件を満たさないため、後述するようにメモリを増設する必要があるが、要するに、現状のQNAPの最新のソリューションを使い尽くせるだけのスペックを備えたモデルというわけだ。

SSDの実力は?

 気になる実力だが、何はともあれSSDによるパフォーマンスを見てみよう。Intel SSD 730(480GB)を4台装着(RAID5)し、ネットワーク上のPCからCrystalDiskMark 3.0.3aを実行した際の結果は以下の通りだ。比較対象として、2.5インチのWD Red(WD10JFCX)を同じ構成で装着した際の値も掲載する。

SSD×4(左)とHDD×4(右)のCrystalDiskMark 3.0.3aの結果

 結果を見ると、シーケンシャルのリードライトは、どちらも100MB/s越えと同じだが(値としてはかなり優秀)、512kのリード、4K/4K QD32のリードライトと、ランダムアクセスの値が大きく向上していることがわかる。

 日常的な文書ファイルなどを読み書きするケースでのパフォーマンス向上が見込めるだろう。通常のHDDでは、たとえ台数を増やしたとしても、ここまでのパフォーマンスは見られないので、大きなメリットと言えそうだ。

SSDをキャッシュドライブとして割り当てることができる。GUIで簡単に設定が可能

 とは言え、さすがにSSD×4という構成は、容量を考えても、価格を考えても現実にはなかなか難しい。そこで、HDD×3+SSD×1という構成で、SSDをHDDボリュームのキャッシュとして構成してみた。

 あらかじめHDD×3でRAID5でボリュームを作成しておいてから、「ストレージマネージャ」の「キャッシュ加速」で、残りのSSDをキャッシュ用に追加すればいい。キャッシュの構成と聞くと難しそうだが、GUIで簡単に設定可能だ。

 以下は、HDD×3+SSD×1の結果と前掲したテストと同じHDD×4の結果だ。

HDD×3+SSD×1(左)とHDD×4(右)のCrystalDiskMark 3.0.3aの結果

 こちらもシーケンシャルの値は同じだが、ランダム512kリードで3割、ランダム4kでは小数点以下だったリードの値が5~7へと向上、ライトもHDDのみの構成を上回った。前掲のオールSSDの結果と比べると、ランダムの各項目が若干落ちてしまうが、HDDに比べて明らかにリード性能が向上していると言えるだろう。

 ちなみに、TS-451Sの管理画面では、キャッシュのヒット率がグラフで確認できるようになっている。CrystalDiskMark 3.0.3aを実行しながら、この様子を見ていると、なかなか面白い。

 グラフが標準での閾値が1MBに設定されていることもあり、シーケンシャルでは沈黙していたグラフが、ランダムに進むとグッと上昇し、キャッシュが効いていることが目で判断できる。スピードと容量を両立さたいときは、キャッシュでの利用が適していると言えそうだ。

キャッシュ容量の仕様
キャッシュ容量RAM要件
512GB1GB
1TB4GB
2TB8GB

 なお、キャッシュで利用する場合は仕様に注意する必要がある。QNAPのNASでは、メモリ搭載量によってキャッシュに利用できる容量が決められており、TS-451S標準の1GBメモリでは、最大512GBまでしかキャッシュを利用できない。より多くのSSDをキャッシュに利用したい場合は、メモリも一緒に増設する必要があるので注意しよう。

QNAPの正規代理店、テックウインドも動作確認済みメモリを発売している

 メモリの増設もこのシリーズの製品から手軽にできるようになっており、背面のネジを3本外してケースを開け、側面のメモリスロットに装着するだけで増設できるようになっている。従来モデルと異なり、増設用スロットだけでなく、標準メモリのスロットにもアクセスできるのが特徴だ。

 1.35vのDDR3Lメモリを使う必要があるが、標準の1GBを取り外して、4GB×2の8GBまで簡単に増設できる。SSDキャッシュの容量を増やせる以外に、前述したVirtualization Stationが使えるようになるので、個人的にはぜひ増設をオススメしたい。

 なお、メモリ増設する場合は、原則として同一規格、同一容量のDDR3Lメモリを2本同時に利用する必要がある。いわゆる「相性」的な問題が発生する可能性もあるため、動作確認済みメモリを利用するのが確実だ。

本体ケースを開けると簡単にメモリの増設が可能。増設だけでなく、標準の1GBメモリも交換できる
標準搭載の1GBメモリモジュール。1.35vのDDR3Lとなる

トランスコードも高速

ビデオのトランスコードでハードウェアアクセラレーションを利用可能。30分の映像を11分でトランスコードできた

 このように、SSDによる高速なアクセスが可能なTS-451Sだが、パフォーマンスという点ではCPUの恩恵もかなり大きい。特に顕著なのが、前述したビデオのトランスコード機能だ。

 NAS上に保存したビデオをFileStationやVidoeStationなどのアプリから手動でトランスコードすると、あらかじめ選択したスマートフォン向けの形式(H264、360p)に自動的に変換することができる。

 実際に試してみたところ、ハードウェアアクセラレート有効の状態で、30分の映像(MPEG2 TS)を11分でエンコードすることができた。

 特定のフォルダにある動画を監視して、すべて自動的にトランスコードする設定もできるので、NASに動画を保存しておけば、あとはおまかせで、スマートフォンなどでも再生できる形式に変換することができる。

 SSDのおかげで、エンコード中の動作音も無音となるため、リビングのテレビの近くなどに設置しておいてもまったく気にならない。

 TS-451Sには、HDMIでテレビに接続し、キーボードやマウスなどを使ってデスクトップPCのようにNASを操作できるHDStationというアプリも搭載されている。Chromeを使ってWebを閲覧したり、XBMCを利用して写真や動画を再生することもできるので、AV用途としてもかなり実用的なNASと言えそうだ。

フォルダを監視して自動的にトランスコード可能
HDMIでテレビにつないで各種アプリやメディアを再生可能。無音のSSDなら、映像や音楽鑑賞に最適

可能性が垣間見えるVirtulization Station

 最後に、Virtualization Stationにも少し触れておこう。前述したようにメモリ増設必須となるが、この機能はかなり面白い。

 LinuxユーザーにはおなじみのQEMUを利用した仮想環境となるが、数クリックで仮想マシンを簡単に作成できるうえ、VMStoreなどから仮想マシンをダウンロードして利用することができるので、簡単にテスト環境などを構築できる。

 実際に使ってみたが、SSDを搭載していることもあり、かなり快適に仮想マシンが動作することに驚かされた。

 ビジネス向けの用途になるが、今年の7月にサポートが終了するWindows Server 2003からの以降にもうってつけだ。仮想環境でWindows Server 2012 R2を動作させ、Active Directoryを仮想環境に移行したり、業務アプリケーションを動作させれば、ファイルサーバーとしてのNASとADや業務サーバーを統合することができるだろう。

 ADからの移行という点では、Samba4のドメインコントローラーサービス(QTS4.1は搭載済み)を使う手もあり、移行の選択肢が豊富に用意されている。Windows Serverからの本格的な移行、もしくは統合を本気でできる製品だ。

仮想マシンを動作させることが可能
Windows Serverを動かすこともできる

現状のNASの中では指折りの面白さ

 以上、QNAPのTS-451Sを実際に試してみたが、SSDにしろ、メモリ増設にしろ、仮想マシンにしろ、ドメインサービスにしろ、ビデオエンコードにしろ、とにかく試してみたい機能がてんこ盛りで、とても「いじり甲斐」のあるNASと言える。

 もちろん、静音性とスピードを活かした実用性の高さも兼ね備えており、NASの新しい用途を提案する優れた製品となっている。個人的には、データ保存用の大容量NASに加えて、SSD搭載の各種処理用NASとして、2台目として導入を検討したいところだ。これからNASの購入を検討している人はもちろんのこと、すでにNASを使っているユーザーも、ぜひ選択肢として検討すべき一台と言えるだ。

清水 理史