【 2011年8月3日 】
[不定期連載]PCパーツ最前線:
玄人志向に聞く「PC電源のツボ」
開発担当はなんと「謎のサングラス男」、実は真面目に技術を語る

 今年、注目のPCパーツといえば「電源」がその一つに挙げられるだろう。

 これまで高価だった80 PLUS電源も値下がりし、高効率の80 PLUS GOLD電源も普通に手が届く範囲になってきた。そして高効率電源と言えばやはり「節電」。つまり、性能を落とすことなく、消費電力を削減できる重要なポイントとなるわけだ。

 そこで今回は、安価な80 PLUS GOLD電源などを発売する玄人志向に電源について伺った。

 ………と、ここまでは普通だったのだが、普通じゃないのはここから。

 インタビュー相手は、気がつくとあの「謎のサングラス男」になっていた。謎のサングラス男といえば玄人志向の顔。ユーザーにも馴染み深いキャラクターを起用した企画か…などと思っていたら大間違い。

 実はこのサングラス男は「開発の人」。しかも、玄人志向黎明期の「CHANPON」シリーズや、最近でも人気の電磁波軽減カード「NO-PCI」シリーズなど、玄人志向らしい製品の設計者であり、電源ユニットの開発担当でもあるという。

 裃(かみしも)姿にサングラスという姿からはとても想像できないが、実は真面目な技術者だったサングラス男。

 今回は、玄人志向ブランドを展開するCFD販売の技術担当者として、マーケティング担当の加藤 政雄氏と共にインタビューに応じていただいた。


聞き手:鈴木 光太郎、石川ひさよし
協力:CFD販売
実施日:2011年7月7日


 
自社検証&自社企画で、国内ニーズを満たした電源を開発
「1万円の80 PLUS GOLD電源」へのこだわりも


事業推進部 玄人志向マーケティンググループ 加藤政雄氏(左)と開発担当 謎のサングラス男氏(右)

−−最初にお伺いしておきたいのですが、玄人志向の電源はどのように「開発」されているのでしょうか?ビデオカードのように「リパッケージ」というわけではないのですか?

[サングラス男]電源については、弊社が直接製造しているわけではありませんが、リパッケージ製品でもありません。

 例えば、電源メーカーのベースモデルに対し、コンポーネントやファンを変更、あるいは機能を追加するといったことを企画/検証し、国内ニーズに即した製品として製造してもらっています。こうしたことで、ベースモデルとは異なる、玄人志向ならではの製品特徴が出せるわけです。80 PLUSの認証も玄人志向独自で行っています。



約1万円と安価な80PLUS GOLD電源「KRPW-G530W/90+」

KRPW-G530W/90+の内部(1)

KRPW-G530W/90+の内部(2)
−−最近、約1万円と安価な80PLUS GOLD電源「KRPW-G530W/90+」を発売され、話題になっていますが、これはどのような製品でしょうか?

[サングラス男]玄人志向としては比較的高価な電源で、性能面で妥協せず、しかし、同時に低価格というニーズを満たすよう努力しました。

 例えば、コンデンサはもちろん耐久性に優れた105℃品ですが、日本製ではなく台湾製です。ただ、台湾製でも105℃品の選別品でして性能の上では自信をもっております。こだわる部分はこだわり、低価格を実現する部分は十分に吟味した、というところでしょうか。

また、500Wクラスの電源では組み込むケースもコンパクトなものが想定されるので、電源きょう体の奥行きを12.5cmとコンパクトに設計しました。これを実現するため内部にはかなりの高性能部品を採用しています。さらに、ErP Lot6(EUのエネルギー関連製品に関する指令)など、最新の規格にも対応しており、電源オフ時の待機電力も削減しています。

−−80 PLUS GOLDを満たすため、具体的にはどのような仕組みが採用されているのでしょうか?

[サングラス男]一般的な電源では12Vや5V、3.3Vを並行して変換しますが、KRPW-G530W/90+では「デュアルトランジスタフォワード同期整流回路」で一度全て12Vに変換した後、「DC-DCコンバーター回路」で+12Vから5Vや3.3Vに変換する方法を採用しました。

 こうすることで効率が高まると同時に、追従性も向上し、安定性の面でも効果があります。ほかにも、一般的に80 PLUSのグレードが上がるにつれて損失の小さい部品を採用しています。そうした製品は高価なのですが、それを低価格で提供できるよう日々努力しております。

−−例えば具体的な効果を測ったデータというのはあるのでしょうか?

[サングラス男]これに関しては社内で計測したデータがあります。

 80 PLUS認証を得ていない「KRPW-L400W」から80 PLUS GOLDの「KRPW-G530W/90+」に交換した例ですが、KRPW-L400Wでの消費電力が240Wに対し、KRPW-G530W/90+が218Wとなりまして、差し引き22W、これは1割近い計算です。出力側で損失を測った場合も42Wに対し17Wで済みます。なお、KRPW-L400Wも電力変換効率を測ると82.5%を達成しており、決して変換効率が低い製品ではありません。

【80 PLUS 認証のない電源と80 PLUS GOLD電源の例(約200W出力時)】
 KRPW-L400W
(80 PLUSなし)
KRPW-G530W/90+
(80 PLUS GOLD)
入力240W218W-22W
出力198W201W----
損失42W17W----
電力変換効率82.5%92.2%9.7%
※80PLUS.orgのサイトには、同社80 PLUS電源のテスト結果も掲載されている


 
電源のプロが伝授する電源選びとメンテナンス方法
「きちんと冷却」がポイント


語るサングラス男氏。もちろん本名はあるが「匿名で」とのこと。ちなみに最近結婚されたそう。
−−電源というのは容量ラインアップが豊富で、初心者はどれを買えばよいのか悩むところでもあります。そうした方向けに目安を示していただけないでしょうか?

[サングラス男]まず、電源は50%前後の負荷時に変換効率も最大になります。つまり最大でも60%あたりまでに常用域が収まるのがベストで節電にも効果ありということになります。その上でマージンもみなければならないわけですが、これはおよそ200Wを加算すれば良いでしょう。

 例えば統合GPUで十分、ビデオカードは使わないというのであれば400W前後の容量がベストです。ただしハイエンドビデオカードを積むようなハイワッテージなシステムではさらに20%以上マージンを確保しておくのが良いでしょう。

−−同じ玄人志向の80 PLUS BRONZE電源でもプラグインタイプと直付けケーブルタイプがありますが、選ぶ時のポイントはありますか?

[サングラス男]プラグインと直付けにはそれぞれにメリットとデメリットがあり、ケースバイケースとしか言いようがありません。使い勝手に関して言えばプラグインタイプの方が便利です。必要なケーブルのみ接続することでスッキリとした配線ができ、ケース内エアフローを改善することで放熱特性も上がります。しかし、プラグインコネクタはごく僅かとはいえ損失が発生し、電圧変動を起こします。それも高出力電源ではこの電圧変動がより大きくなりやすい点に注意が必要です。

 こうした点から省エネを重視するならば直付けタイプがオススメです。頻繁にケース内パーツを交換するでなければメンテナンス面の重要度は下がりますし、エアフローに関しては、ケーブルをきれいに束ねることで改善できます。

 とはいえトレンドとしてはプラグインタイプの方が人気ですね。そういった方にはプラグインタイプのRPW-P630W/85+をオススメします。一般的にプラグインタイプの電源は直付けタイプの電源よりもサイズが大きくなってしまうのですが、KRPW-P630W/85なら使いやすい奥行き14cmですので、プラグインか直付けケーブルかで迷った方にはオススメです。

−−電源によって+12V出力を複数系統に分けたマルチレールと1系統にまとめたシングルレールがあります。この違いや選び方のポイントはありますか?

[サングラス男]概ねシングルレールはハイエンド構成向け、マルチレールは一般構成向けとなります。

 何が違うかといいますと、まず複数の高性能ビデオカードなどを搭載するハイエンド構成では、それらに供給する+12V系統が重要になります。シングルレールの場合は電流の容量さえ十分ならばとにかく繋げば大丈夫ですが、マルチレールの場合は+12Vの各系統の容量ごとに配分を考えなければなりません。

 一方、一般構成ではもちろんシングルレールでも構いませんが、1系統に大容量の電流を流すよりはマルチレールのように+12Vの電流の容量が抑えられている方が比較的安定性が高いと考えることができます。玄人志向では最近のトレンドであるシングルレール製品に力を入れていますが、ニーズに合わせて選べるようマルチレールもラインナップしています。

−−電源を長く利用していくうえで気をつけたい点は何かありますか?

[サングラス男]電源ユニットにとっての敵は熱です。もちろん高温でも動作するよう設計してはいますが、電源ユニットの寿命は環境温度が低ければ低いほど長寿命です。電源としては理想は0℃以上(の結露しない範囲)であれば、より低い温度が望ましいですが、実際のところ室温としての目安は18〜28℃、ケース内はそれよりプラス10℃以下に抑えることが電源にとっては望ましいと考えます。

 なお、きょう体内のエアフローを改善することでケース内温度も下がり、変換効率も高まり、こうした点が電源の安定だけでなく節電にもつながりますので是非ご検討下さい。

 そしてエアフローという面ではホコリも大敵です。ただ、カバーを開けてしまいますと製品の保証対象外となりますので、カバーを開けての掃除は行ってはいけません。まずホコリ対策としてはPCケース側にフィルターを付けることで、ケース内にほこりが混入することを防ぎます。もし掃除をするというのであれば開口部のホコリを綿棒でとったり、掃除機に小さめのノズルを付けて弱運転で取り除くことをおすすめします。吹きつけのエアーダスターよりも吸込みの掃除機の方が安全です。

 この時の注意点は強く吸い込まないことです。強く吸い込むことで、ホコリが予期せぬ細部につまったりすることも考えられます。また、ファンに過度な負荷を与えることも厳禁です。ファンが壊れてしまいます。そしてファン部分だけでなく回路部までなど、あまりにホコリが溜まっている場合は無理に掃除するよりも製品を交換することをおすすめします。そうならない為にも、こまめな掃除が大切です。



パッケージの裏にはファンコントロールのグラフなどが記載されている。同社のファンコントロールは、低負荷では回転数を下げ静音性能を向上、高負荷時は積極的に冷却するパターン。システムの最大電力を電源容量の50%程度に抑えることで電力効率だけでなく静音にも効果がある
−−ファンへの負荷という話が出ましたが、例えばファンレスとファン有りではどちらが製品寿命として長いでしょう? また、静音へのポリシーなどがあれば教えてください。

[サングラス男]冷却で考えればファンがあった方が有効です。そしてファンの故障を考慮するよりは他の部品に気を使った方が良いでしょう。

 品質を維持するために我々が大事にしていることは、コンデンサを含めたコアな部分を「きちんと冷却する」ことです。

 将来、弊社がファンレスモデルを出さないとは言い切れませんが、ファンがあることのメリットを考慮しています。とはいえ静音も重要でして、製品パッケージにも記載していますが、出力に応じてファン回転数を細かく制御しています。

−−電源ユニットの寿命はどのくらいでしょう。また交換時期の目安というのはあるのでしょうか?

[サングラス男]実際の耐用年数となると稼働率や負荷率、環境温度など使用環境によって変わりますので、判断は難しいのですが、電源は基本的に使い始めてから徐々に劣化していくものとお考えください。ただ、劣化はPCを使っている間はほとんど感じることはなく、ある日突然起動しなくなったといったトラブルに会い、故障箇所の切り分けに時間を割いた後にようやく電源の寿命に気付くといったことがよくあります。CPUやマザーボードを買い換えるときに、電源も買い換えていただけますと、こういったトラブルを避けやすくなります。先に述べたようにホコリがたまってきたときなども電源の買い替えをご検討下さい。


 
玄人志向電源の今後
400Wの80 PLUS BRONZE品などを検討中


現在の同社主力製品。左から80 PLUS BRONZEの「KRPW-SS500W/85+」、同80 PLUS BRONZEでプラグインタイプの「KRPW-P630W/85+」、そして80 PLUS GOLDの「KRPW-G630W/90+」

玄人志向の電源の中心帯となる容量は500W/600Wクラス。メインストリームユーザーが求める容量帯に対し、80 PLUS GOLDなどの高付加価値製品を、1万円前後の低価格で提供することを目指しているとのこと
−−最後に玄人志向の電源の、今後についてお聞かせください

[加藤氏]将来の製品についてはなかなか確約できませんが、統合GPUをお使いになるユーザー向けに80 PLUS BRONZEで400Wクラスの少容量な製品をリリースしようと考えています。また、これは当然の流れではありますが、現在80 PLUS BRONZEで提供しているラインを80 PLUS SILVERへと置き換えていくことも当然検討課題です。

 ただし、80 PLUSも複数のグレードが規格され、省電力性能と価格というユーザーのニーズがどの辺りになるのか見極める必要があります。例えば低価格な80 PLUS BRONZEと省電力性能の高い80 PLUS GOLDに挟まれた80 PLUS SILVERは果たして受け入れられるのか、と。

 今回、使い勝手の良い容量帯に「省電力電源の定番になる」と自負できる製品を投入しました。昨今の節電が求められるなか、引き続き玄人志向ができることとして、低価格でありながら入手性や使い勝手に優れる省電力電源を供給していきます。今後にご期待下さい。

−−ありがとうございました。


□玄人志向
http://www.kuroutoshikou.com/
□玄人志向のATX電源ラインナップ
http://www.kuroutoshikou.com/modules/display/?cid=206
□CFD販売
http://www.cfd.co.jp/

□関連記事
【2011年6月18日】安価な80PLUS GOLD電源が登場、9,980円で530W 
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20110618/etc_kuroto.html

玄人志向製品

※特記無き価格データは税込み価格(税率=5%)です。