週刊3Dプリンタニュース

「3Dプリンタの自作」体験イベントが開催、実際どんなもの?

~造形サイズ最大級の個人向け3Dプリンタ「Creatr」が国内発売~

 今週の週刊3Dプリンタニュースは、自作3Dプリンタ体験イベントの体験記とパーソナル3Dプリンタの新製品に関するニュースをお届けしたい。

「3Dプリンタを作ってみる」イベントRepRap Community Japanの代表、加藤氏が講演

講師を務めた加藤大直氏。RepRap Community Japan代表であり、合同会社Genkeiの代表も務める
加藤氏のプロフィール。RepRap系自作3Dプリンタはもちろん、3Dプリンタ業界事情にも詳しい
パーソナル3Dプリンタを含む3Dプリンタの市場シェア。RepRapプロジェクトに関係する製品でほぼ半分のシェアを獲得している。Makerbot社やUltimaker社もRepRapが元だ

 9月26日(木)、「初めての自作3Dプリンタ体験イベント ~動いているのを見てみよう~」というイベントが、東京・渋谷のコワーキングスペース「Lightning spot Shibuya」で開催された。

 このイベントは、自作3Dプリンタ「atom 3Dプリンタ」の実演と、3Dプリンタの真の実力についての講演の2部構成。講師を務めたのは、「自作3Dプリンタ」の中心となっているRepRapの日本コミュニティ、RepRap Community Japanの代表であり、atom 3Dプリンタの発売元である合同会社Genkeiの代表でもある加藤大直氏。

 RepRapとは、基本特許が切れたFDM方式の3Dプリンタをオープンソースハードウェアとして開発しようというプロジェクトであり、そこから様々な3Dプリンタが誕生している。Makerbot社ののReplicatorシリーズも、その元となったのはRepRapの派生モデルだ。

 加藤氏は、以前ニューヨークに在住しており、プロダクトデザイナーとして多数のプロジェクトに参加。その経験を活かして、自ら設計したオリジナルの3Dプリンタを次々開発。現在までに開発した3Dプリンタは6種類にも及ぶ。2011年11月、日本に帰国した加藤氏は、RepRap Community Japanを共同発起し、代表を務める。そして、氏を中心に開発されたのが、国内初の純国産オープンソース3Dプリンタ「atom」である。

 加藤氏は、2013年3月に、一般ユーザーに対して3Dプリント技術とそこから発生する可能性を普及させるための合同会社Genkeiを設立し、atomをより進化させたGenkei版「atom 3Dプリンタ」の組み立てキット販売や組み立てワークショップなどを展開している。加藤氏は、RepRap系プロジェクトの第一人者であるだけでなく、3Dプリンタ業界事情にも詳しい。

 このイベントは、3Dプリンタに興味があるが、まだ実物が動いているのを見たことがない人や、自作3Dプリンタの実力に興味がある人などを対象にしたものだが、3Dプリンタへの関心は依然として高いよう。参加者は、若い学生から女性、仕事で光造形RPを使っていたというベテランの方まで幅広く、結果、定員の20名を上回る盛況ぶり。

 加藤氏はまず、RepRapプロジェクトについての解説を行い、3Dプリンタの世界市場シェアを示した。この市場シェアは、いわゆるパーソナル3Dプリンタを含むものだが、RepRapプロジェクトおよびそこから派生した製品で、ほぼ半分を占めている。RepRapプロジェクトによって、3Dプリンタ市場は大きく広がり、今後もさらなる拡大が期待される。

加藤氏の右にあるのが、自作3Dプリンタ「atom 3Dプリンタ」だ

 さて、今回実演されたatom 3Dプリンタは、完成品ではなく、組み立てキットとして提供されていることが特徴である。

 自分で組みたてることによって、3Dプリンタの動作の仕組みをしっかりと理解できるので、トラブル時の対処もしやすい。Genkeiでは、atom 3Dプリンタの組み立てキットや主要パーツを販売しているだけでなく、組み立てワークショップ(参加者各自がatom 3Dプリンタを組み立て、完成した3Dプリンタを持ち帰れる)も開催しているが、今回のイベントでも、実際に組み立て作業の一部を体験することができた。

 もちろん、バラバラの状態から完成させるには、慣れてない人で6時間程度、慣れた人でも3時間程度はかかる。今回は、半分以上完成させたatom 3Dプリンタが用意され、希望者数名が、そこから最後までの組み立てる、という体験を行った。完成後、実際に出力を行うところまで体験することができ、参加者も満足していたようだ。

途中まで組み立てたatom 3Dプリンタが用意されており、希望者は、そこから最後まで組み立てる体験ができた
atom 3Dプリンタを組み立ててるところ。組み立てに特別な工具は不要
慣れた人でも、バラバラの状態から組み立てるには3時間程度かかるとのこと
参加者の手で組み上がったatom 3Dプリンタ。フレームの剛性が高く、品質の高い国産パーツを使っているため、高精度な造形が可能だ
完成したatom 3DプリンタとPCをUSBケーブルで接続し、STLデータをスライスするためのソフトを起動する
完成した3Dプリンタで出力を行っているところ
atom 3Dプリンタでの出力例。中央やや上に並んでいる小さいオブジェは、GenkeiのロゴとLightning spotのロゴをモーフィングさせたもの。通常の金型を使った射出造形では製造が困難な形状をしている。このオブジェは、アンケートに記入した参加者全員にプレゼントされた

 組み立てた3Dプリンタが正常に動作することを確認したら、後半の講演が開始された。講演では、3Dプリンタは決して新しい技術ではないが、パーソナルな3Dプリンタが誕生したのは最近であり、その可能性はユーザーのアイデア次第でさらに広がるということが解説された。

 3Dプリンタという言葉を聞いたことがあっても、実際に動いているところを見たことがないという人はまだまだ多いと思われる。そうした人にとって、こうしたイベントは非常に有用な機会であろう。今後もこの種のイベントが、さまざな場所で行われることを期待したい。

3Dプリンタは、実は1984年には考案されていた
3Dプリンタがあれば、作りたいと思った形状が作れるが、まだノウハウが必要である

クラス最大級の造形サイズ「Creatr」が国内発売

Creatr

 株式会社システムクリエイトは、オランダ製のパーソナル3Dプリンタ「Creatr」の販売を10月1日から開始した。この製品は、クラス最大級の造形サイズを実現しているのが特徴で、最大270×230×200mmのモデルを出力できる。

 Creatrは、オランダのLeapfrog社が開発したFDM方式のパーソナル3Dプリンタで、筐体にアルミフレームとスチールパネルを採用し、各所にレーザーカットアルミパーツを採用することで、軽量化と耐久性を両立していることが特徴だ。本体のサイズは500×600×500mmで、重量は約32kgである。

 パーソナル3Dプリンタとしては大型の部類に属し、最大造形サイズも270×230×200mmと大きい。シングルヘッドタイプとデュアルヘッドタイプが用意されており、価格はそれぞれ357,000円、388,500円となる。デュアルヘッドタイプでは、2色の材料を使った造形も可能だ。

 ノズル径は0.35mmで、積層ピッチは0.05~0.35mmの範囲で変更が可能だ。位置決め精度はあまり公表されていないことが多いが、本製品は0.05mmとされており、このクラスのパーソナル3Dプリンタとしては精度も高い。造形テーブルはガラス製だが、ヒーターが内蔵されており、造形物の反りや変形を抑えるようになっている。対応材料はABSまたはPLAで、サポート材料として温水で融解されるPVAにも対応する予定である(サポート材料の利用はデュアルヘッドタイプのみとなる)。材料は、ABS10色、PLA12色が、それぞれ1kgあたり15,750円で販売される。

 海外製3Dプリンタは、トラブルが起こったときのサポート面などに不安があるものも多いが、本製品は、システムクリエイトが一台一台、動作確認と検品作業を実施し、日本語マニュアルを付属して出荷される。また、国内のLeapfrogサポートセンターとして、修理の依頼や各種サポートも実施されるとのことで、初めて3Dプリンタを導入するという人でも安心だ。

(石井 英男)