パワレポ連動企画

Zen 3から性能3割アップ、Ryzen 7000が来た!

DOS/V POWER REPORT 2022年秋号の記事を丸ごと掲載!

「Zen 4」はブースト5GHz超&2次キャッシュも倍増

 AMDの新アーキテクチャ「Zen 4」を採用する「Ryzen 7000シリーズ」がついに登場した。パッケージがLGA1718となり、ソケットはAM5へと変更。ダイのプロセスはZen 3の7nm+12nm(CCD+IOD)から、5nm+6nm構成となった。

 CCD1基あたりのコア数は最大8基で、最大2基のCCDが1パッケージに格納できる仕様に変更はないため、コア数の上限は16基で変化はないが、動作クロックとTDPが大幅に引き上げられている。

LGA1718になってもCPUの基板サイズは従来と同じ。
キャパシタが表側にあるため、ヒートスプレッダがそれをまたぐ形状になっている

 Zen 4アーキテクチャでも命令実行にかかわるさまざまなステージに手が加わった。例として分岐予測の強化(Branch Target Bufferの拡大、1サイクルあたり2分岐の予測)、Opキャッシュの拡大(最大68%)などだ。2次キャッシュも倍増したほか、未解決のキャッシュミス情報を保持しておくエントリーも増やすなど、キャッシュ性能を向上させる改善も入っている。

Ryzen 9 7950Xのキャッシュ
Ryzen 9 5950Xのキャッシュ

 Ryzen 9 7950Xと5950Xのキャッシュ構成を比較すると、7950Xは2次だけ容量が2倍になっている。3次は容量据え置きだが、これは今後投入される3D V-Cache版でフォローされる見込みだ。

Zen 4はZen 3に比べ13%のIPC向上をうたっているが、その内訳はフロントエンド部分の強化が大きい。2次キャッシュの大容量化よりも分岐予測やロード・ストアの強化のほうが性能向上に貢献している
Ryzen 7000シリーズのラインナップ
製品名コア数/スレッド数定格/最大ブーストクロック3次キャッシュ対応メモリ倍率アンロックPCI Express内蔵GPU(最大クロック)コードネームTDP予想実売価格
Ryzen 9 7950X16C/32T4.5GHz/5.7GHz64MBDDR5-5200/2ch24レーン(Gen5)Radeon Graphics(2.2GHz)Raphael170W117,800円
Ryzen 9 7900X12C/24T4.7GHz/5.6GHz64MBDDR5-5200/2ch24レーン(Gen5)Radeon Graphics(2.2GHz)Raphael170W92,500円
Ryzen 7 7700X8C/16T4.5GHz/5.4GHz32MBDDR5-5200/2ch24レーン(Gen5)Radeon Graphics(2.2GHz)Raphael105W66,800円
Ryzen 5 7600X6C/12T4.7GHz/5.3GHz32MBDDR5-5200/2ch24レーン(Gen5)Radeon Graphics(2.2GHz)Raphael105W49,900円

AM4用クーラーと互換性を確保するが発熱量は大

 DDR5やPCI Express 5.0をサポートするRyzen 7000シリーズでは従来のピン数では足りないため、新たにSocket AM5が採用された。ソケット変更の理由はDDR5対応やCPU直結M.2スロットの追加による信号線の増加、電気特性の向上、最大230W(PPT:最大ソケット電力。TDPの1.35倍の値)の電力供給などが挙げられる。

 Socket AM5ではAM4用クーラーが利用可能というのがウリだが、Socket AM5ではバックプレートがソケットと一体化されているため、専用バックプレートを使う一部のクーラーは転用できない可能性が高い。

ソケットの上物とベース部分が一体化しているため、AM4用クーラーを転用するには専用のバックプレートを使わないタイプに限定される。ソケットレバーはLGA1700ほどではないが堅め

 実際の発熱量だが、36cmラジエータの簡易水冷(ASUS ROG RYUJIN 360)環境で「Handbrake」によるエンコード時の発熱を追跡したところ、コア数の少ないRyzen 5 7600Xでもコア温度(Tctl/Tdie)は90℃に即座に張り付くほど発熱量は増えている。マザーの味付けやBIOSのチューニングによって変わる可能性はあるが、パフォーマンス重視のマザーでは強力なクーラーを準備したい。ただTDPを105Wや65Wに絞って使うという手もあり、組む側のセンスが試される。

全モデルに内蔵GPUを搭載するも性能は……

 Ryzen 7000シリーズは全モデルに内蔵GPU(Radeon Graphics)が標準搭載となったことで、Intel製CPUのアドバンテージがまた一つ消滅した。このGPUは6nmプロセスのIODに内蔵されており、PCI Express x4で接続される。

 このGPUのアーキテクチャは最新のRDNA 2が使われているが、CU数が2基と少ないためグラフィックス性能はかなり制限されている。ただ、ビデオカードが使えない小型ケースにも組み込めるようになったため、Ryzen の使いどころは確実に広がったと言える。

【検証環境】
マザーボード<Socket AM5>ASRock X670E Taichi(AMD X670)、<LGA1700> ASRock Z690 PG Velocita(Intel Z690)
メモリG.Skill Trident Z5 NEO F5-6000J3038F16GX2-TZ5N(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※PC5-41600で動作)、<LGA1700>Kingston FURY Beast KF552C40BBK2-32(PC5-41600 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※PC5-38400で動作)
システムSSDCorsair CSSD-F1000GBMP600[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
データSSDSilicon Power SP002TBP34A80M28[M.2(PCI Express 3.0 x4)、2TB]
電源Super Flower LEADEX TITANIUM 1000W(1,000W、80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro

チップセットは“実質”2種類! 仕様違いに注意

 Ryzen 7000シリーズをサポートするチップセットは「X670E」、「X670」、「B650E」、「B650」の4種類があり、X670系とB650系ではチップセット側のPCI Express 4.0(Gen4)のレーン数やUSBなどの仕様に違いがある(後述)。

 そしてEと無印の差異だが、CPU直結のx16スロットがPCI Express 5.0(Gen5)でリンクするのがEとされているが、Eと無印でチップが違うわけではない。チップ自体は一緒だったX570とX570Sの関係に相当するただのブランディングに過ぎない。マザーメーカー側が「設計コストをかければ」X670やB650でもGen5によるリンクも可能なのだ。

 そこで本稿ではEと無印の区別はせずX670とB650という呼称を用いる。実際にマザーを買う場合はEの有無よりもスペックに注意したい。

 X670とB650では拡張性が大きく変わるが、マザーに実装されるチップセットも異なる。2チップ構成を採用するX670ではUSB3.2 Gen 2x2が最大2ポート、Gen4が最大12レーン確保できるのに対し、1チップ構成のB650ではUSB 3.2 Gen 2x2は1系統、Gen4レーンは8レーンまでに制限される。チップ数の多いX670のほうが発熱量も多くなるため、ケースファンもしっかり活用したい。なお、CPUのOCに関してはX670でもB650でもサポートされる。

チップセットPCI Express(CPU側)PCI Express(チップセット側)システムバスSerial ATAUSB 3.2 Gen 2x2
X670E24レーン(Gen5)12レーン(Gen4)PCI Express 4.0 x46Gbps×8(最大)2
X6704レーン(Gen5)、20レーン(Gen4)12レーン(Gen4)PCI Express 4.0 x46Gbps×8(最大)2
B650E24レーン(Gen5)8レーン(Gen4)PCI Express 4.0 x46Gbps×6(最大)1
B65024レーン(Gen4)8レーン(Gen4)PCI Express 4.0 x46Gbps×6(最大)1

メモリOCは「EXPO」対応メモリを狙え

 AMDはインテルのXMPに代わる独自の規格「AMD EXPO」を立ち上げた。クローズドなXMPではAMDからメモリの細かい情報にまでリーチできないためである。DDR5-5200を超えてOCする場合はEXPO対応を買うとよい。

 また従来Infinity Fabric(flck)、メモリコントローラ(uclk)、メモリのクロック(mclk)は1:1:1が最適だったが、Ryzen 7000ではflckはmclkの2/3まで許容。DDR5-6000が新Ryzen に最適なメモリOC(DDR5-6000の場合mclk 3000MHz:fclk 2,000MHz)となる。

G.Skill「Trident Z Neo」はEXPOに対応したOCモジュール。これをIntel製マザーで運用することもできるが、XMPプロファイルは入っていない
EXPOでもXMPと同様に安定か攻めたプロファイルを選択することが可能。画像はASRock「X670E Taichi」にEXPOメモリを装着した状態

Ryzen 7000シリーズの実力を14CPUで比較!

3DCGとエンコードでCPUパワーを比較

 Ryzen 7000シリーズのパフォーマンスを比較するにあたり、本誌連載「CPU定点観測所」で取得したベンチマークデータに新規で取得したRyzenのデータを合わせた。ただUEFIもテスト期間に2回ほど上がるなど土壇場での検証であるため、今後傾向が変わる可能性もあることはお断りしておきたい。

 まず「CINEBENCH R23」では、Ryzen 97950Xがこれまでの王者Core i9-12900KSを圧倒。コア数の少ない7900Xと12900KSがマルチスレッドスコアで並んだ。今回メモリは定格(DDR5-5200)で検証しているためかシングルスレッド性能は12900KSにおよばなかったが、Zen 4アーキテクチャのすごさが確認できた。

 動画エンコードアプリの「Media Encoder 2022」でも同様のAMDによる逆転劇が確認できた。こちらもコア数の少ないRyzen 7000シリーズが第12世代Coreより早く処理を終了するなど、CINEBENCHだけの速さでないことがうかがえる。

ゲーム性能はどこまで向上した?

 ゲームグラフィックスのパフォーマンスを見る「3DMark」による検証ではテストにより勝敗の傾向が分かれた。まずDirectX 11ベースの“Fire Strike”では、Ryzen 7000シリーズが第12世代Coreに勝つシーンが観測された。Graphicsスコアを確認するとどのCPUも43,000台で安定しているが、CPUパワーが試されるPhysicsテストやCombinedテストではRyzen 7000シリーズがスコアを伸ばし、それが総合スコアの高さに結び付いた。しかしRyzen 7 7700Xと7900Xが逆転するなど、安定していない部分もある。

 そしてDirectX 12ベースの“Time Spy”では第12世代Coreがトップを死守した。Ryen 7000シリーズはGraphicsスコアにおいてもCPUスコアにおいても第12世代Coreを微妙に下まわったためだが、ゲームエンジンとのかみ合わせによってはCINEBENCH R23最速のCPUでも伸び悩むことを示している。

 実ゲームによる比較は「レインボーシックス シージ」(Vulkan)で実施した。Ryzen5000シリーズから見ると7000シリーズは平均フレームレートはおおむね向上しているが、最低フレームレートは数fps〜20fps近く落ちるシーンも見られた。さらにコア数の多いRyzen 9 7950Xでフレームレートが伸び悩むなど、まだまだ安定していない感が強い。

 3DMarkで示したとおりゲームエンジンとのかみ合わせしだいで性能の傾向が変化するため、この結果だけでRyzen 7000シリーズのゲームに対する強さを判断するのは間違いだ。次号以降でも検証を続けるので注視していただきたい。

写真編集の性能と消費電力をチェックする

 左グラフはPhotoshopとLightroom Classicを実際に動かす「UL Procyon」のPhoto Editing Benchmarkのスコア比較だが、Ryzen5000→7000シリーズへの伸び幅が非常に大きい。

 第12世代CoreではDDR4よりDDR5環境のほうがLightroom Classic(Batch Processing)が伸びることが知られているが、Ryzen 7000シリーズは第12世代Coreを完封。DDR5メモリの差がほぼないPhotoshop(Image Retouching)でもスコアを大幅に伸ばしている点を考えると、Zen 4アーキテクチャとPhotoshopの相性がよいことが示唆されている。Photoshopを多用するユーザーなら、Ryzen 7000シリーズはとくにオススメだ。

 そして、消費電力はエンコードアプリの「HandBrake」で4K/60fps動画をフルHDのH.264/MKVに変換する処理中の消費電力に注目。Ryzen 5000と7000シリーズの同コアモデルを比較すると、5950X→7950Xで約110W上昇、5600X→7600Xで約70W上昇と、クロックが大幅に引き上がったぶん消費電力も増大した。

 またRyzen 7000シリーズはアイドル時の消費電力もかなり上がっているが、今回テストしたのがチップセットの数が多いX670マザーであるため、その分が消費電力を底上げしていると推察される。プラットフォーム間の消費電力をもっと多角的に比較するために、1チップのB650も待ちたい。経験上Ryzenのアイドル時消費電力はBIOS更新でわりと上下しやすいため、今回の結果だけで判断しないようにしたい。

【検証環境】
マザーボード<Socket AM5>ASRock X670E Taichi(BIOS1.05)(AMD X670)、<Socket AM4>GIGA-BYTE B550 VISION D(rev. 1.0)(BIOS F15c)(AMD B550)、<LGA1700> ASRock Z690 PG Velocita(BIOS10.02)(Intel Z690、DDR5)、ASUSTeK TUF GAMING Z690-PLUS WIFI D4(BIOS 1503)(Intel Z690、DDR4)
メモリG.Skill Trident Z5 NEO F5-6000J3038F16GX2-TZ5N(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※Ryzen 7000シリーズの定格で動作)、Kingston FURY Beast KF552C40BBK2-32(PC5-41600 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※第12世代Coreの定格で動作)、G.Skill Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX(PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2 ※第12世代Coreの定格で動作)×2
ビデオカードNVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Edition
システムSSDCorsair CSSD-F1000GBMP600[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
データSSDSilicon Power SP002TBP34A80M28[M.2(PCI Express 3.0 x4)、2TB]
電源Super Flower LEADEX TITANIUM 1000W(1,000W、80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro
Media Encoder 2022Premiere Pro 2022で編集した再生時間3分の4K動画をMedia Encoder 2022で4K MP4ファイルに出力。bitレートは50Mbps/VBR/1パス
アイドル時OS起動10分後の安定値
HandBrake時4K@60fps動画(約3分)をプリセットの“Super HQ 1080p30 Surround”および“H.265 MKV 1080p30”でMP4/MKV形式に書き出したときの安定値
電力計ラトックシステム RS-WFWATTCH1、Intel系マザーボードのパワーリミットはすべて無制限に設定

[TEXT:加藤勝明]

最新号「DOS/V POWER REPORT 2023年冬号」は絶賛発売中!

 今回は、DOS/V POWER REPORT「2022年秋号」の記事をまるごと掲載しています。

 なお、最新号「DOS/V POWER REPORT 2023年冬号」では、年末恒例の「PCパーツ100選 2023」を総力特集。また、本特集では、PCパーツ選びの最新基準を徹底解説!是非ご覧ください!