パワレポ連動企画
Zen 3から性能3割アップ、Ryzen 7000が来た!
DOS/V POWER REPORT 2022年秋号の記事を丸ごと掲載!
2023年1月23日 00:05
「Zen 4」はブースト5GHz超&2次キャッシュも倍増
AMDの新アーキテクチャ「Zen 4」を採用する「Ryzen 7000シリーズ」がついに登場した。パッケージがLGA1718となり、ソケットはAM5へと変更。ダイのプロセスはZen 3の7nm+12nm(CCD+IOD)から、5nm+6nm構成となった。
CCD1基あたりのコア数は最大8基で、最大2基のCCDが1パッケージに格納できる仕様に変更はないため、コア数の上限は16基で変化はないが、動作クロックとTDPが大幅に引き上げられている。
Zen 4アーキテクチャでも命令実行にかかわるさまざまなステージに手が加わった。例として分岐予測の強化(Branch Target Bufferの拡大、1サイクルあたり2分岐の予測)、Opキャッシュの拡大(最大68%)などだ。2次キャッシュも倍増したほか、未解決のキャッシュミス情報を保持しておくエントリーも増やすなど、キャッシュ性能を向上させる改善も入っている。
Ryzen 9 7950Xと5950Xのキャッシュ構成を比較すると、7950Xは2次だけ容量が2倍になっている。3次は容量据え置きだが、これは今後投入される3D V-Cache版でフォローされる見込みだ。
製品名 | コア数/スレッド数 | 定格/最大ブーストクロック | 3次キャッシュ | 対応メモリ | 倍率アンロック | PCI Express | 内蔵GPU(最大クロック) | コードネーム | TDP | 予想実売価格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen 9 7950X | 16C/32T | 4.5GHz/5.7GHz | 64MB | DDR5-5200/2ch | 〇 | 24レーン(Gen5) | Radeon Graphics(2.2GHz) | Raphael | 170W | 117,800円 |
Ryzen 9 7900X | 12C/24T | 4.7GHz/5.6GHz | 64MB | DDR5-5200/2ch | 〇 | 24レーン(Gen5) | Radeon Graphics(2.2GHz) | Raphael | 170W | 92,500円 |
Ryzen 7 7700X | 8C/16T | 4.5GHz/5.4GHz | 32MB | DDR5-5200/2ch | 〇 | 24レーン(Gen5) | Radeon Graphics(2.2GHz) | Raphael | 105W | 66,800円 |
Ryzen 5 7600X | 6C/12T | 4.7GHz/5.3GHz | 32MB | DDR5-5200/2ch | 〇 | 24レーン(Gen5) | Radeon Graphics(2.2GHz) | Raphael | 105W | 49,900円 |
AM4用クーラーと互換性を確保するが発熱量は大
DDR5やPCI Express 5.0をサポートするRyzen 7000シリーズでは従来のピン数では足りないため、新たにSocket AM5が採用された。ソケット変更の理由はDDR5対応やCPU直結M.2スロットの追加による信号線の増加、電気特性の向上、最大230W(PPT:最大ソケット電力。TDPの1.35倍の値)の電力供給などが挙げられる。
Socket AM5ではAM4用クーラーが利用可能というのがウリだが、Socket AM5ではバックプレートがソケットと一体化されているため、専用バックプレートを使う一部のクーラーは転用できない可能性が高い。
実際の発熱量だが、36cmラジエータの簡易水冷(ASUS ROG RYUJIN 360)環境で「Handbrake」によるエンコード時の発熱を追跡したところ、コア数の少ないRyzen 5 7600Xでもコア温度(Tctl/Tdie)は90℃に即座に張り付くほど発熱量は増えている。マザーの味付けやBIOSのチューニングによって変わる可能性はあるが、パフォーマンス重視のマザーでは強力なクーラーを準備したい。ただTDPを105Wや65Wに絞って使うという手もあり、組む側のセンスが試される。
全モデルに内蔵GPUを搭載するも性能は……
Ryzen 7000シリーズは全モデルに内蔵GPU(Radeon Graphics)が標準搭載となったことで、Intel製CPUのアドバンテージがまた一つ消滅した。このGPUは6nmプロセスのIODに内蔵されており、PCI Express x4で接続される。
このGPUのアーキテクチャは最新のRDNA 2が使われているが、CU数が2基と少ないためグラフィックス性能はかなり制限されている。ただ、ビデオカードが使えない小型ケースにも組み込めるようになったため、Ryzen の使いどころは確実に広がったと言える。
マザーボード | <Socket AM5>ASRock X670E Taichi(AMD X670)、<LGA1700> ASRock Z690 PG Velocita(Intel Z690) |
メモリ | G.Skill Trident Z5 NEO F5-6000J3038F16GX2-TZ5N(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※PC5-41600で動作)、<LGA1700>Kingston FURY Beast KF552C40BBK2-32(PC5-41600 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※PC5-38400で動作) |
システムSSD | Corsair CSSD-F1000GBMP600[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB] |
データSSD | Silicon Power SP002TBP34A80M28[M.2(PCI Express 3.0 x4)、2TB] |
電源 | Super Flower LEADEX TITANIUM 1000W(1,000W、80PLUS Platinum) |
OS | Windows 11 Pro |
チップセットは“実質”2種類! 仕様違いに注意
Ryzen 7000シリーズをサポートするチップセットは「X670E」、「X670」、「B650E」、「B650」の4種類があり、X670系とB650系ではチップセット側のPCI Express 4.0(Gen4)のレーン数やUSBなどの仕様に違いがある(後述)。
そしてEと無印の差異だが、CPU直結のx16スロットがPCI Express 5.0(Gen5)でリンクするのがEとされているが、Eと無印でチップが違うわけではない。チップ自体は一緒だったX570とX570Sの関係に相当するただのブランディングに過ぎない。マザーメーカー側が「設計コストをかければ」X670やB650でもGen5によるリンクも可能なのだ。
そこで本稿ではEと無印の区別はせずX670とB650という呼称を用いる。実際にマザーを買う場合はEの有無よりもスペックに注意したい。
X670とB650では拡張性が大きく変わるが、マザーに実装されるチップセットも異なる。2チップ構成を採用するX670ではUSB3.2 Gen 2x2が最大2ポート、Gen4が最大12レーン確保できるのに対し、1チップ構成のB650ではUSB 3.2 Gen 2x2は1系統、Gen4レーンは8レーンまでに制限される。チップ数の多いX670のほうが発熱量も多くなるため、ケースファンもしっかり活用したい。なお、CPUのOCに関してはX670でもB650でもサポートされる。
チップセット | PCI Express(CPU側) | PCI Express(チップセット側) | システムバス | Serial ATA | USB 3.2 Gen 2x2 |
---|---|---|---|---|---|
X670E | 24レーン(Gen5) | 12レーン(Gen4) | PCI Express 4.0 x4 | 6Gbps×8(最大) | 2 |
X670 | 4レーン(Gen5)、20レーン(Gen4) | 12レーン(Gen4) | PCI Express 4.0 x4 | 6Gbps×8(最大) | 2 |
B650E | 24レーン(Gen5) | 8レーン(Gen4) | PCI Express 4.0 x4 | 6Gbps×6(最大) | 1 |
B650 | 24レーン(Gen4) | 8レーン(Gen4) | PCI Express 4.0 x4 | 6Gbps×6(最大) | 1 |
メモリOCは「EXPO」対応メモリを狙え
AMDはインテルのXMPに代わる独自の規格「AMD EXPO」を立ち上げた。クローズドなXMPではAMDからメモリの細かい情報にまでリーチできないためである。DDR5-5200を超えてOCする場合はEXPO対応を買うとよい。
また従来Infinity Fabric(flck)、メモリコントローラ(uclk)、メモリのクロック(mclk)は1:1:1が最適だったが、Ryzen 7000ではflckはmclkの2/3まで許容。DDR5-6000が新Ryzen に最適なメモリOC(DDR5-6000の場合mclk 3000MHz:fclk 2,000MHz)となる。
Ryzen 7000シリーズの実力を14CPUで比較!
3DCGとエンコードでCPUパワーを比較
Ryzen 7000シリーズのパフォーマンスを比較するにあたり、本誌連載「CPU定点観測所」で取得したベンチマークデータに新規で取得したRyzenのデータを合わせた。ただUEFIもテスト期間に2回ほど上がるなど土壇場での検証であるため、今後傾向が変わる可能性もあることはお断りしておきたい。
まず「CINEBENCH R23」では、Ryzen 97950Xがこれまでの王者Core i9-12900KSを圧倒。コア数の少ない7900Xと12900KSがマルチスレッドスコアで並んだ。今回メモリは定格(DDR5-5200)で検証しているためかシングルスレッド性能は12900KSにおよばなかったが、Zen 4アーキテクチャのすごさが確認できた。
動画エンコードアプリの「Media Encoder 2022」でも同様のAMDによる逆転劇が確認できた。こちらもコア数の少ないRyzen 7000シリーズが第12世代Coreより早く処理を終了するなど、CINEBENCHだけの速さでないことがうかがえる。
ゲーム性能はどこまで向上した?
ゲームグラフィックスのパフォーマンスを見る「3DMark」による検証ではテストにより勝敗の傾向が分かれた。まずDirectX 11ベースの“Fire Strike”では、Ryzen 7000シリーズが第12世代Coreに勝つシーンが観測された。Graphicsスコアを確認するとどのCPUも43,000台で安定しているが、CPUパワーが試されるPhysicsテストやCombinedテストではRyzen 7000シリーズがスコアを伸ばし、それが総合スコアの高さに結び付いた。しかしRyzen 7 7700Xと7900Xが逆転するなど、安定していない部分もある。
そしてDirectX 12ベースの“Time Spy”では第12世代Coreがトップを死守した。Ryen 7000シリーズはGraphicsスコアにおいてもCPUスコアにおいても第12世代Coreを微妙に下まわったためだが、ゲームエンジンとのかみ合わせによってはCINEBENCH R23最速のCPUでも伸び悩むことを示している。
実ゲームによる比較は「レインボーシックス シージ」(Vulkan)で実施した。Ryzen5000シリーズから見ると7000シリーズは平均フレームレートはおおむね向上しているが、最低フレームレートは数fps〜20fps近く落ちるシーンも見られた。さらにコア数の多いRyzen 9 7950Xでフレームレートが伸び悩むなど、まだまだ安定していない感が強い。
3DMarkで示したとおりゲームエンジンとのかみ合わせしだいで性能の傾向が変化するため、この結果だけでRyzen 7000シリーズのゲームに対する強さを判断するのは間違いだ。次号以降でも検証を続けるので注視していただきたい。
写真編集の性能と消費電力をチェックする
左グラフはPhotoshopとLightroom Classicを実際に動かす「UL Procyon」のPhoto Editing Benchmarkのスコア比較だが、Ryzen5000→7000シリーズへの伸び幅が非常に大きい。
第12世代CoreではDDR4よりDDR5環境のほうがLightroom Classic(Batch Processing)が伸びることが知られているが、Ryzen 7000シリーズは第12世代Coreを完封。DDR5メモリの差がほぼないPhotoshop(Image Retouching)でもスコアを大幅に伸ばしている点を考えると、Zen 4アーキテクチャとPhotoshopの相性がよいことが示唆されている。Photoshopを多用するユーザーなら、Ryzen 7000シリーズはとくにオススメだ。
そして、消費電力はエンコードアプリの「HandBrake」で4K/60fps動画をフルHDのH.264/MKVに変換する処理中の消費電力に注目。Ryzen 5000と7000シリーズの同コアモデルを比較すると、5950X→7950Xで約110W上昇、5600X→7600Xで約70W上昇と、クロックが大幅に引き上がったぶん消費電力も増大した。
またRyzen 7000シリーズはアイドル時の消費電力もかなり上がっているが、今回テストしたのがチップセットの数が多いX670マザーであるため、その分が消費電力を底上げしていると推察される。プラットフォーム間の消費電力をもっと多角的に比較するために、1チップのB650も待ちたい。経験上Ryzenのアイドル時消費電力はBIOS更新でわりと上下しやすいため、今回の結果だけで判断しないようにしたい。
マザーボード | <Socket AM5>ASRock X670E Taichi(BIOS1.05)(AMD X670)、<Socket AM4>GIGA-BYTE B550 VISION D(rev. 1.0)(BIOS F15c)(AMD B550)、<LGA1700> ASRock Z690 PG Velocita(BIOS10.02)(Intel Z690、DDR5)、ASUSTeK TUF GAMING Z690-PLUS WIFI D4(BIOS 1503)(Intel Z690、DDR4) |
メモリ | G.Skill Trident Z5 NEO F5-6000J3038F16GX2-TZ5N(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※Ryzen 7000シリーズの定格で動作)、Kingston FURY Beast KF552C40BBK2-32(PC5-41600 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※第12世代Coreの定格で動作)、G.Skill Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX(PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2 ※第12世代Coreの定格で動作)×2 |
ビデオカード | NVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Edition |
システムSSD | Corsair CSSD-F1000GBMP600[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB] |
データSSD | Silicon Power SP002TBP34A80M28[M.2(PCI Express 3.0 x4)、2TB] |
電源 | Super Flower LEADEX TITANIUM 1000W(1,000W、80PLUS Platinum) |
OS | Windows 11 Pro |
Media Encoder 2022 | Premiere Pro 2022で編集した再生時間3分の4K動画をMedia Encoder 2022で4K MP4ファイルに出力。bitレートは50Mbps/VBR/1パス |
アイドル時 | OS起動10分後の安定値 |
HandBrake時 | 4K@60fps動画(約3分)をプリセットの“Super HQ 1080p30 Surround”および“H.265 MKV 1080p30”でMP4/MKV形式に書き出したときの安定値 |
電力計 | ラトックシステム RS-WFWATTCH1、Intel系マザーボードのパワーリミットはすべて無制限に設定 |
[TEXT:加藤勝明]
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