髙橋敏也責任無編集 本ナマ!改造バカ
高橋敏也の改造バカ一台 その256「固いぞ!重いぞ!もろいぞ……ガチ勝負セメントPC!」
DOS/V POWER REPORT 2022年夏号の記事を丸ごと掲載!
2022年12月14日 09:05
ガチです。セメント勝負
セメントで勝負するからセメント勝負。実に分かりやすい流れである。そもそもセメント勝負とガチンコ勝負はどこが違うのだろうかと、ネットであれこれ調べてみたがどうやら定説はないようだ。いずれにしても真剣勝負という意味で両者は使われているらしい。
そんなこんなでセメント勝負である。別に誰かとどこかで真剣勝負をするというわけではない。そもそも私の辞書に「なまくら」はあっても「真剣」という言葉は存在しないのだから。では何がセメント勝負かと言うと、セメントで勝負をするのだよ、セメントで!
自作PCユーザー、なかでも改造をたしなむ紳士淑女にとってセメントやコンクリートはまさに憧れの素材である。誰もがいつかはセメントやコンクリートで自作をしたい、もう石膏や樹脂に頼るのは卒業したいと思っているはずだ。ならば実際にセメントでPCを作ってみようじゃないか!というのが今回の勝負なのである。
なお、あくまで個人的な嗜好の話(性癖ともいう)なのだが、私はセメントよりもコンクリートのほうが語感的に好きだ。そしてここでふと疑問が。「セメントとコンクリートって何が違うんだ?」。気になって調べてみたら意外なことが分かった。
要するにセメントというのは素材であり、そこに何かを混ぜて材料にするとコンクリートやモルタルになるらしい。たとえばコンクリートならセメントに水、砂や砂利を混ぜる。一般的なモルタルの場合はセメントに水、砂を混ぜるといった具合だ。
まあ、細かい違いはどうでもいい。要はセメントで自作PCが作れればいいのである。そんなこんなで手に入れたのが、4kgの速乾セメント一袋であった。
ほーん、石膏みたいなもんやろ
セメントPC完成への第一歩は「葛藤」であった。ネットで調べてみるとセメントも水だけ混ぜて使うなら石膏のようなもの(ちなみに石膏はセメントの材料でもあるらしい)。そうなると今回のようなテーマの場合「安直安易な道」と「険しく困難な道」という二つの道があるのだ。
安直安易な道は作業も簡単だし成功が約束されている。そう、セメントを適度な濃度にして市販の本体ケースに塗りまくるのである。それだけであら簡単!アッという間にセメントPCのできあがりである。また、塗ったくるセメントに砂を混ぜればあら不思議!モルタルPCの完成だ!
あのね、それじゃ塗装カスタムですよね。さすがにそれは許されないでしょうに。はい、私もそう思って険しく困難な道を選びました。いや実際ですね、険しいわ困難だわ失敗の連続だわで体重が500グラムも減ってしまったほどである。というか事前テストをしないとムリだったわ、これ。
考えが甘かったわ……激甘だったわ……
当初考えたプランは次のようなもの。
1.コンパクトなマシンに仕上げられるパーツを用意する
2.それらを並べて箱(本体ケース)に必要な面のサイズを把握する
3.前面はファンにして背面は開放にし、残り4面分のパネルをセメントの板で作る
4.セメント板を組み合わせて完成
なんとなく私の中ではセメントと石膏が同一視されていて、セメントの板を作るならまず型枠を用意してそこにセメントを流し込み固めればよいと思っていた。いや、実際そうしたのだが。
ちなみに私は今までセメントやコンクリート、モルタルは見たこと触ったこと(塗ったりとか簡単な作業で)はあるが、自分で水加減を調整して作ったことはない。だがなんとなく「石膏と同じ感覚でいいんじゃないかな」ぐらいに思っていたのだ。そしてそれはマリモッコリじゃなかったマリトッツォ以上の激甘な考えだったのだが。
結果から言ってしまうと、混ぜる水の量が問題なのか、それともセメントだけで「板」を作ろうとしたのが問題なのか、とにかくうまくいかなかった!試行錯誤をしている時間もなかったので、説明書きの水分量を参考にして、自作した型枠に水で溶いたセメントを流し込んだ。そして乾燥させると確かに固まった、板になった……が、ひび割れた!
セメントは水を混ぜることで化学反応が発生して固まる。石膏でも樹脂でもそうなのだが、固まる際には素材の伸縮があってサイズが狂ったり、ひび割れができたりする。いや、知ってたよそれは!でもまさかここまで盛大にひび割れが発生するとは。
砕け散るセメントと夢
まず水分量。説明書きでは4kg一袋に水を900ml混ぜると書いてあったのだが、今回の用途だと一気に4kg一袋を使うことはない。板の分だけ小分けにして使っていく訳だが、たとえば500グラムを使うなら水は112.5mlとなる。そう、この時点で「だいたいでいいか」と思ってしまったのだ。さらにセメントが固いようなら扱いづらそうだからと水を少し追加し、軟らかいようだとセメントを追加した。
ぶっちゃけ結構いいかげんに水分量を決めていたのである。もちろんこのいいかげんさはひび割れの一因になっているはずだ。さらにもう一つ、致命的と言うか自明の理と言うか、ひび割れはおろか板の大崩壊を招いたのが「厚さ問題」である。
セメント板で本体ケースを組み上げるとなると、強度よりも重量が問題になると私は考えていた(間違い)。そこで何か根拠があったわけでもなく、私は板の厚さを7mmに設定した。「5mmじゃ薄いし10mmじゃ厚い」ぐらいの軽い気持ちである。しかし結果がどうなかったと言うと、7mmでは薄く10mmでようやくなんとか、といった具合なのだ。
なお、大きな板(修復済み)のほうで重量は1kgちょっと、小さな板のほうで650グラムちょいの重さだ。驚くほど重い!というわけでもないのである。これなら全部の板を10mm厚に統一して作ったほうが結果的にはよかっただろう。あるいは12mm厚、15mm厚とかにしたほうがよかったと思っている。重くなったとしても強度が確保できて、見た目の重量感にも期待できた。まあ、今となっては後の祭りなんですけどね。
私は転ぶにしても前のめりで転びたい!
乾燥時に発生した無数のひび割れ。そのひび割れから崩壊していく「薄いほう」の板。修復を繰り返し、なんとか板状にしたはいいものの、サイズがおかしくなった上にやっぱり強度不足の感が否めない……。
サイズが狂ったのはある意味致命的だった。4枚のパネル+ 14cm角ファン2基を組み合わせて箱状にし、それを本体ケースと言い張ろうとしたのだが、コーナーがズレまくっているのだ。ズレたコーナーをセメントで埋めようとも思ったが、どう考えてもセメントが盛り過ぎになるし、強度が確保できるとは思えない。よって最終段階の接合は断念した。そう、失敗である。
ただ今回は収穫もあったので、同じ失敗でも気持ち的には前向きである。セメントのパネルは質感がおもしろいので本体ケースの材料としては最高だ。砂を混ぜたり小さな砂利を混ぜたりしてモルタル風、コンクリート風にしてもいいだろう。モルタルやセメントならパネルを固める際に表面から型押しなどで模様を付けることもできるだろう。
強度に関してはまず厚さは10mm以上にしなくてはならない。あえて厚い方向に振って15mmというのもアリだろう。さらに5mm厚分のセメントを流し込んで少し固まったら金網を入れ、さらに上からセメントを流し込んで強度を確保するという手も思い付いた。あるいは針金を入れて「なんちゃって鉄筋コンクリート」にするのもいい手だと思う。
同じ失敗でも、今回は納得の失敗である。次につながるヒントが得られたし、次に同じようなことをする際にはもっといいゴールが目指せると思うから(なお、ゴール=成功とは言っていない)。前回も失敗だったわけだけど、まあ前回はひどかったよ、まったく。思いとおりに行かないことの連続だし、ああしようこうしようというヒントもほとんど得られなかったからねえ……。
そう、人間は失敗する生き物なのである。ならば前向きに失敗し、どんどん先へ進もうじゃないか!そういう気持ちになれたということで、今回は成功と言ってもいいんではなかろうか……。ところでセメントの板って、廃棄するときは砕いて不燃ゴミでいいんですかね……?ゴミ処理センターに聞いておこう……。
[TEXT:高橋敏也]
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