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CORSAIR傘下のレースシムデバイスメーカーFanatecが日本市場へ参入、ZENKAIRACINGと提携し製品を展開

エキシビジョンマッチの様子

 7月29日、レーシングシムデバイスを開発するFanatec(ファナテック)と、レーシングシムビルダーのZENKAIRACINGがパートナーシップを締結したことを記念し、都内でメディア・関係者向けのイベントが開催された。

 イベントには国内四輪レーストップカテゴリーのスーパーフォーミュラで活躍する大湯都史樹選手らプロドライバーも駆けつけ、Fanatecのレーシングシム筐体を用いたエキシビジョンマッチを実施、来場者向けの体験会も行なわれた。

記念イベントの会場となったシティサーキット東京ベイ。今では23区内唯一のカートコースがある

Fanatecとの提携で幅広い層にレーシングシムを提供可能に

 Fanatecはレーシングシムデバイスのトップブランドの1つ。近年になって財政的な問題が顕在化し、ちょうど1年前の2024年7月に破産申請したが、その後、PCパーツでおなじみのCORSAIRが買収し再スタートを切った。

 今回、そのFanatecとZENKAIRACINGが代理店契約を締結したのを受け、記念イベントを開催することとなった。

グランツーリスモ公式のステアリングとホイールベース「Gran Turismo DD Pro」
高トルクのホイールベースがセットになった「ClubSport Racing Wheel F1」
自動車メーカーとのコラボ製品も多数
オプション的なデバイスとなるシフトとハンドブレーキ

 ZENKAIRACINGは、日本国内でレーシングシムやeモータースポーツに関わる事業を多面的に展開する企業。レーシングシムビルダーとして早くから取り組んできたほか、ECサイトを通じた関連製品の販売、eモータースポーツイベントの運営、リアルレースへの参戦や選手へのサポートなどを積極的に行なっている。同社が製作を手がけたレーシングシムの導入施設は全国各地に多数あり、墨田区には誰でも体験可能なショールーム(ファクトリー)も設置している。

 同社自らのレース参戦によって獲得できるノウハウに加え、サポートドライバーやレースチームなどとの長年にわたる協力関係から得られた膨大な車両データ・走行データをレーシングシムの製作に活かせるのが、他にはないZENKAIRACINGならではの強み。ハードウェアのセットアップ・カスタマイズから、シミュレーターソフトのMOD作成、細部のパラメーター調整に至るまで、ユーザーニーズに応じてきめ細かく対応しているという。

株式会社ゼンカイレーシング 代表取締役の林寛樹氏

 今回のFanatecとの代理店契約の締結により、同社はFanatec製品の国内販売を担うことになる。一般ユーザー向けにはデバイス単体の販売だけでなく、複数のFanatec製品をセットにしたパッケージの開発・販売、サポートの強化が可能になるとしたほか、法人向けには大量導入や独自カスタマイズを施したパッケージの提供なども行なえるとしている。

 イベントで登壇したZENKAIRACING代表取締役の林氏は、「Fanatec製品はライトユーザー向けというイメージもあるが、今後ホイールベース(モーター)やステアリング、ペダルなどのデバイスが拡充されると聞いている。我々は今までハイエンドユーザー向けを強みとしていたが、ミドルエンドやローエンドも含め、幅広い層に製品提供できるようになる」と協業の意義を語った。

Fanatec製品で構成するレーシングシムパッケージの販売を予定
ECサイトのラインアップも拡充される

 一方、Fanatecのシニアディレクター トビアス・ステルツァー氏は、ZENKAIRACINGとのパートナーシップについて「今まではWebからしかFanatec製品を購入できなかったが、ZENKAIRACINGとの提携により、これまでとは異なるターゲット層にリーチできるようになる」と期待感を口にした。

Fanatec シニアディレクターのトビアス・ステルツァー氏

 それを全面的に支援してくれているのがCORSAIRだとしたうえで、「我々と一緒に世界中の多くのユーザーに製品を届けるという明確な戦略があり、市場ごと、大陸ごとに段階的に展開していく。欧米ではすでに強固な基盤を築いているが、今後はアジア、とりわけ大きな可能性がある日本の市場を開拓していきたい」と述べた。

スポーツカーのディメンションに沿ったデザインのレーシングシム筐体を開発
CORSAIR傘下となったことにより、PCパーツで培われたノウハウの投入やElgato製品との連携強化が期待される

エキシビジョンマッチの勝負の行方勝者はスーパーフォーミュラドライバーか、グランツーリスモ出身者か

「ClubSport GT Cockpit」
直販価格は135,175円

 会場にはFanatecのレーシングシムデバイスが装着された筐体「ClubSport GT Cockpit」が5台設置されており、イベントの後半はその筐体を使ったプロレーシングドライバーによるグランツーリスモ7のエキシビジョンマッチと、来場者向けの体験会が実施された。

バケットシートはオプションで約5万円
ステアリングとホイールベース
ペダルのポジションは細かく調整可能
実際のクルマと同様、シート位置の前後調整はシート下のハンドルで行える
シートの高さと傾きの調整もOK
前方にはゲーム機やPC本体を置けるトレイを装着可能
VESA準拠のモニターを固定できるブラケットが標準装備
CORSAIRのPCケースなどで見られるあしらいが目を引く
ケーブルをフレーム内に隠せる構造

 エキシビジョンマッチに名乗りを挙げたのは、スーパーフォーミュラおよびSUPER GTのGT500クラスで活躍する大湯都史樹選手、同じくスーパーフォーミュラとGT300クラスに参戦するイゴール・オオムラ・フラガ選手、そしてGT300クラスの冨林勇佑選手。

 3選手ともZENKAIRACINGがサポートするドライバーだが、イゴール選手と冨林選手については、もともとカーシミュレーターのグランツーリスモで頭角を現し、それをきっかけに実車レースへ活動の場を移すという「バーチャルからリアル」を体現したことでも知られる。レーシングシムが単なるゲームではなく、プロレーシングドライバーへの登竜門にもなりうることを身をもって証明した2人だ。

大湯都史樹選手
イゴール・オオムラ・フラガ選手
冨林勇佑選手

 エキシビジョンマッチは富士スピードウェイをスーパーフォーミュラマシンで2周するという内容で争われた。スーパーフォーミュラドライバーである大湯選手とイゴール選手に有利に働くのか、はたまたグランツーリスモ世界大会優勝経験者である冨林選手が意地を見せるのか、注目が集まった。

ウォームアップ走行の後、レーススタート

 レースは、抜きつ抜かれつのデッドヒートが終始繰り広げられる展開に。2周目の中盤まで3台がほとんどひとかたまりになっていたものの、後半に入りイゴール選手がトップに立つと、追いすがる他2台を巧みなマシンコントロールで抑え、トップでチェッカーを受けた。

エキシビジョンマッチの様子(2時間11分頃~)

 イゴール選手は、「グランツーリスモ出身なので負けられないという思いが強く出た」としつつ、実際に体験したFanatecの筐体に関しては「自分が使っている機材に似ているので乗りやすかった」とのこと。「剛性感もあって操作性も良く、自分の乗りたいポジションにアジャストできる」点もいいところだと話した。

レースを振り返る3選手

 惜しくも2位となった冨林選手は、「(スーパーフォーミュラに)乗っていない僕でも、2人とバトルできるのはこの筐体のおかげ。自分に合わない筐体だとうまく運転できないが、自分の感性が行き届くような筐体だったので素晴らしい」とした。

 大湯選手もフFanatecの筐体の高精度さをポイントとして挙げ、「グランツーリスモは(シミュレーター環境として)誰の手にも届きやすいので、いろいろな人が挑戦してほしい」と話していた。

筆者もレーシングシムを体験。細かな調整機能のおかげで自分の体格にフィットするポジションを探れる
剛性感はたしかに高く、強力なフォースフィードバックがあるステアリングを切ってもびくともしない。より高トルクのホイールベースにも対応できそうに感じた