最新自作計画
円安&インフレ時代の強い味方になるのか!?6,000円を切る激安ATXケースの実力を探る
その実力は決して侮れない!安くても魅力的な3製品 text by 竹内 亮介
2024年12月23日 09:00
原料高騰、円安、諸々のインフレなどの影響もあり、PCパーツはずいぶん高くなった。CPUやビデオカードなどのメインどころのパーツだけではなく、筆者が専門とするPCケースにもその波は押し寄せており、使いやすくて構造や拡張性に優れる標準的なPCケースだと、実売価格が1万円台後半から2万円台半ばにもなる。コスト優先で自作PCを楽しんでいるユーザーにとっては、なかなか厳しい状況だ。
しかし、まだ「安いPCパーツ」はある。価格比較サイトでは1万円を切るPCケースもまだ見付かるし、なんなら最低価格で6,000円を切るような激安ケースもある。そこで今回は、普段ならあまり検証の対象には取り上げないそうした激安モデルを3製品集め、使い勝手や冷却性能などを検証していこう。
そもそも安いケースと高いケースはどこが違うの?
今回取り上げた3モデルはいずれもATX対応で汎用性に優れるPCケースだが、価格比較サイトでは最低価格が6,000円を切る。こうした激安ケースのスペックをざっくりチェックしてみたところ、ビデオカードは長さ30cm前後、CPUクーラーも高さ16cm前後まで対応しており、大型の高性能パーツを満載する、とかでなければ問題なくPCが組めるスペックにはサポートしている。
では、この価格レンジのPCケースと、1万円を超える昨今の標準的なPCケースと何がどう違うのかと言うと、まずは標準搭載のファンの数だ。標準的なPCケースの場合、前面に14/12cm角ファンを3基、背面も1基という構成が多い。イルミネーション重視の傾向もあって、だいたいはアドレサブルLEDを搭載した美しいファンが付属する。一方で激安ケースでは前面はなし、背面に1基という構成が多い。
また激安PCケースは比較的コンパクトなモデルが多いため、大型のラジエーターを取り付けにくい。標準的なPCケースでは36cmクラスまでのラジエーターに対応することがほとんどであるのに対して、激安ケースでは24cmクラスや12cmクラスまでと言った非常に控えめなスペックが多い。今回取り上げる「Versa H26」のように、36cmクラスに対応する大型モデルもあるが少数派的な存在だ。
材質的な違いもある。標準的なPCケースでは比較的厚みのあるスチール素材をベースに、強化ガラス製の側板や前面パネルを採用している。木材をワンポイントに使い、質感の高い塗装で高級感を出すモデルも増えてきた。一方で激安PCケースではそうしたデザイン面の配慮は最小限で、スチールパネルの厚みは薄い。
ただ重量のある素材も痛しかゆしで、PCケース自体が重くなって組み込みやメンテナンスがしにくくなる。また最近の構成では、振動音や共振音の発生源となる3.5インチHDDを採用しない傾向があり、激安ケースでも3.5インチHDDの発する重低音に悩まされることはあまりない。そういった意味では、ここは激安ケースでも問題が起きにくい部分と言ってよい。
構造も違いは多い。最近の標準的なPCケースでは前面パネルや防塵フィルターを簡単に着脱して清掃できたり、天板を外してラジエーターを付けやすくする機能をサポートするモデルが多い。またマザーボード裏面で各種ケーブルを美しく整理するためのギミックや、複数のファン/LEDデバイスをまとめて制御するハブ機能などを装備する。しかし激安ケースでは、こうした「気の利いた機能」はほぼ搭載しない。
サイズ感の異なる3モデルを徹底検証大型のCPUクーラーやビデオカードを組み込むとどうなる?
ここからは、今回取り上げる3モデルを紹介していこう。また下の表は今回のPCケースに組み込んだパーツリストで、ミドルロークラスのゲーミングPCを想定している。さすがにこのクラスのPCケースにハイエンドのCPUやビデオカードを組み込むのは現実的ではないし、大型の簡易水冷型CPUクーラーが利用できないモデルもあるので、こうした構成にしている。
CPU | AMD Ryzen 7 5700X(8コア/16スレッド) |
マザーボード | ASUSTeK TUF GAMING B550-PLUS(AMD B550) |
メモリ | CFD販売 W4U3200CS-16G (PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2) |
ビデオカード | ZOTAC GAMING GeForce RTX 4060 Ti 8GB Twin Edge (GeForce RTX 4060 Ti) |
SSD | MSI SPATIUM M460 PCIe 4.0 NVMe M.2 [M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB] |
電源ユニット | Corsair RM750e(80 PLUS GOLD、750W ) |
CPUクーラー | サイズ MUGEN6 BLACK EDITION (サイドフロー、12cm角×2) |
MSI / MAG FORGE 110R
前面や天板はメッシュ構造、左側面には組み込んだパーツを眺めて楽しめるアクリル製側板を採用する。また30cmを超えるビデオカードにも対応しながら、比較的コンパクトなサイズであることも特徴の一つだ。背面のケースファンにはアドレサブルLEDが組み込まれているほか、前面パネルの下部にはMSIならではのドラゴンエンブレムが印刷されており、デザインのアクセントになっている。
メインパーツを組み込むエリアにはほぼ構造物はなく、スッキリとしていて作業しやすい。天板とマザーボードの隙間は実測値で約4.5cm確保しており、高さ15.4cmのCPUクーラー「MUGEN6 BLACK EDITION」を組み込んだ状態でも、EPS12V電源ケーブルを挿したり抜いたりと言った作業は問題なく行えた。ラジエーターを天板に組み込みたいユーザーも安心の作りだ。
底面近くに装備するシャドーベイユニットは着脱可能な構造で、奥行きが長い電源ユニットや、前面に簡易水冷型CPUクーラーを組み込む場合は外してしまうのがオススメ。今回のマザーボードとの組み合わせだと、ケースファンの回転数はアイドル時で400~500rpmまで押さえられており、軽作業時はほぼ無音で利用できた。
Thermaltake Technology / Versa H26
比較的小型の激安ケースの中にあって、奥行きは45cm以上、高さは50cm近くと言うかなり大きめなサイズを採用する。その分拡張性は高く、5インチベイのトレイを外すことで前面と天板に36cmクラスのラジエーターを装備できる。また12cm角ファンを前面と背面に1基ずつ装備するのもめずらしい。
大きめな筐体なので内部は十分に広く、5インチベイに光学ドライブを取り付けたとしても、マザーボードの組み込み時にジャマにはならないだろう。天板とマザーボードの隙間は実測値で5cm前後確保しており、天板に簡易水冷型CPUクーラーを取り付けてもマザーボードに干渉する可能性は低い。また前面に簡易水冷型CPUクーラーを組み込む場合に備え、電源ユニットカバーの一部やシャドーベイを外せる構造を採用する。
ただ裏面配線用のケーブルフックが、標準的なPCケースと比べると少なめだ。特に太い電源ケーブルの経路をまとめにくい。価格帯を考えると仕方のないところではあるが、ほかの装備がかなり充実しているだけにもったいないと感じる。ケースファンはアイドル状態なら回転数は500rpmと、このモデルも非常に静かに動作する。
なお、今回のテストにはホワイトモデルを使用したが、最安価格は同仕様のブラックモデルとなっている。
ZALMAN Tech / T8
ぱっと見はミニタワーケースのようなサイズだが、れっきとしたATXマザー対応のPCケースだ。実際、同社のmicroATX対応ケース「T3 PLUS」と比べても奥行きが約4cm短いだけで、幅と高さはほぼ同じである。両側板はスチール製でシンプルなデザインながら、前面パネルにアドレサブルLEDを搭載し、デザインのアクセントとしている。
最近ではめずらしく、電源ユニットは上部に組み込む。また着脱可能な5インチベイ用のトレイや3.5/2.5インチシャドーベイユニットを外すと、内部は非常にスッキリとした状態になる。マザーボードやビデオカードを組み込む際にジャマになる構造ものはなく、コンパクトながらスムーズに組み込めるだろう。ただフロントポートや電源ボタンなどのピンヘッダーケーブルが若干短めで、裏面配線でまとめる際に苦労する場面はあった。
また3.5/2.5インチシャドーベイユニットを付けたままだと、マザーボードのピンヘッダーや取り付け用のネジ穴にアクセスしにくいので、その意味でも最低限、このユニットだけは外しておこう。ケースファンは12cm角タイプを背面に1基搭載する。アイドル時は500rpm前後で動作し、このケースも軽作業時は非常に静かに利用できる。
エントリー~ミドルン時構成のゲーミングPCなら冷却性能も十分
最後に、今回の構成でCPUやビデオカードの温度がどうなったかを紹介していこう。「アイドル時」はPC起動後10分間でもっとも低い温度を計測した。「動画再生時」は、動画配信サイトの動画を1時間再生したときの平均的な温度である。これらは軽作業時の目安と考えてほしい。
「3DMark時」は、PCゲームの長時間プレイを踏まえて3DMarkのTime Spyを利用したStressテストを実行中の平均的な温度、「Cinebench時」は、主にCPUに高い負荷がかかったときの状況を想定し、Cinebench R23の[CPU(Multi Core)]のテストを実行したときの平均的な温度とした。温度計測は「OCCT 13.1.11」を利用し、CPU温度は「CPU(Tctl/Tdie)」、GPU温度は「GPU Temperature」をそれぞれ記録している。
まずはCPU温度だ。Ryzen 7 5700Xは比較的発熱が小さいCPUということもあるが、CPUの負荷が大きくなるCinebench時でも60℃かそれ以下という結果になっており、今回のような激安ケースでもしっかり冷えていることが分かる。特にケースファンを前面に1基多く搭載しているVersa H26は、もっとも低い58℃だ。
3DMark時のGPU温度は、72~74℃だった。長時間PCゲームをプレイしても安心の温度である。もっとも低かったのはT8だった。側板に12cm角ファンを取り付けられるファンマウンターがあり、ここから外気を取り込んで冷却できる状態だったことも影響している可能性はある。
総じてどのPCケースも問題ない温度にとどまっており、ケースファンが少ない激安ケースでも、構成を選べば問題なく利用できることが分かる。また、Cinebench時や3DMark時のように負荷が高い状況でも、ケースファンの回転数は最大でも800rpm前後までしか上がっておらず、比較的静かに利用できた。
PC自作のツボをよく知る中~上級者なら選択肢に加えてみたい
これらの検証結果や、組み込み時にほとんどトラブルがなかったことを考えると、激安ケースも結構使えるのでは? という印象を受ける。予算重視、実用性重視で検討、ということなら、今回の3台はなかなか優秀だ。
もちろん使い勝手の面では標準的なPCケースにおよばない部分が少なくなく、誰にでも楽々使える汎用性はより上位の製品に譲るところもあるため、自作PCの組み込みに慣れていない初心者には、安いからと言ってもちょっとお勧めはしにくい。しかし、スペックの見極めや必要な機能・装備の取捨選択ができ、「予算を抑えてサブマシンを作る」のような明確な目的があるような中~上級者なら一つの選択肢になり得る可能性は感じた。