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この夏にCPUクーラー、どれを選ぶ?最新簡易水冷CPUクーラー7製品を一挙計測!!
【夏のクーラー一斉比較・前編】高性能CPU向きのラジエーター36cmクラス製品を比較 text by 石川 ひさよし
2024年8月21日 09:00
今夏は猛暑に加えて電気代も高騰傾向。PCをゴリゴリ使うためにキンキンに冷えた室内に……というのも少々はばかられる。とはいえ自作PCファンとしてはやはりPCを快適に使いたいので、PCの負担を少しでも軽減するにも熱対策が必須ではある。となってくると、最大のポイントは、CPUクーラーの新調・換装だろう。
そこで本企画では、前後編の2回にわたり、注目のCPUクーラーの一斉性能比較テストの結果をお届けする。“前編”の今回は、今どきの簡易水冷CPUクーラー(ラジエーター36cmクラス)を7製品検証してみた。この夏休みに、お好みの簡易水冷CPUクーラーを見つけてみてはいかがだろうか。
検証環境と計測条件
今回テストを行った製品は下記の7製品+α。製品は以下の通り。参考値の空冷クーラーを除き、テストに使用した製品はすべて36センチラジエーター採用の簡易水冷クーラーだ。
メーカー名 | 製品名 |
CPS | DS360 BLACK |
Antec | Vortex 360 ARGB White |
Geometric Future | Eskimo igloo 36 |
DeepCool | MYSTIQUE 360 |
MSI | MPG CORELIQUID D360 |
オウルテック | OWL-LCS360ARGBL-WH |
ASUS | ROG STRIX LC III 360 ARGB LCD |
(参考)DeepCool | LS720 |
(参考: 空冷)DeepCool | AK400 |
まずは検証環境をまとめておこう。CPUについては、今回はミドルレンジの最高位であるCore i5-14600Kを使用し、かつパワーリミットをCPUの定格181Wとした。
ほどほどのTDPのCPUを定格で……とした理由だが、これは、上位CPUやパワーリミット無制限だと負荷をかけて早々、テスト終了まで終始CPU温度がサーマルリミットに貼り付いてしまい、各製品の特徴がほとんど分からなくなってしまうためだ。
大型の水冷クーラーであれば多少の“粘り”を見せるものもあるが、“後編”でまとめる空冷CPUクーラーについては特にこの傾向が強い。12cm角ファン搭載のシングルタワー空冷CPUクーラーの性能も横並びに見ていくなら、このくらいの条件が妥当と考えてのものだ。
CPUの安全のための機能であるサーマルリミットなのだから、サーマルリミットに達すること自体には運用上問題はない(最高性能が出せているかどうかは別の話だが)。ただ、今回の記事の目的はCPUクーラーの一斉検証であるということをご理解いただきたい。
CPU | Intel Core i5-14600K(14コア20スレッド) |
マザーボード | ASUS ROG STRIX Z790-F GAMING WIFI(Intel Z790) |
メモリ | DDR5-5600 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2) |
システムSSD | M.2 NVMe SSD 1TB(PCI Express 4.0 x4) |
ビデオカード | NVIDIA GeForce RTX 4070 |
電源 | 850W(80PLUS Gold) |
OS | Windows 11 Pro |
グリス | 親和産業 SMZ-01R |
暗騒音:31.6dB、室温:26℃、CPUクーラー換装時グリスをなじませるため本計測の前に数回Blender Benchmarkを実行
温度ログの取得にはHWiNFO64を使用した。ログの取得間隔はデフォルト2,000ms(=2秒)だが、PC全体の負荷によってタイミングのズレが生じるため、“約2秒ごとの計測回数カウント”(=count、約2秒で1カウント)としている。また、ログ取得開始のタイミングを完全に合わせることは困難なので、グラフに多少のズレが生じている点はご容赦いただきたい。
ファン回転数の設定は使用したマザーボードのASUS Armoury Crate「FanXpert 4」からターボモードを適用している。ただしMSI「MPG CORELIQUID D360」についてはクーラーの制御をMSI Centerで行う必要があるため、FanXpert 4のターボに近い設定になる「Extreme Performance」を適用した。また、同製品は内部USB接続でファン回転数を制御するためHWiNFO64からファン回転数ログを取得できなかった。
また、各グラフには参考として、別途取得したDeepcoolの空冷クーラー「AK400」、水冷クーラー「LS720」のデータを添えている。これらの計測は条件に若干の差異があるので(室温28℃前後、暗騒音30dB以下)、あくまで参考としていただきたい。
簡易水冷クーラー7製品の計測結果
それではさっそく計測結果をまとめたグラフを見ていこう。
まずはCPU温度のアイドル時およびアプリ使用時の最大値。Blender Benchmark 3.1.0は、CPU高負荷時のCPU温度推移を見るため、CPUによるレンダリングを選択している。サイバーパンク2077は内蔵ベンチ実行時の計測結果。計測前には5分間のアイドルタイムを設けてCPU温度を落ち着かせている。
次は動作音の計測結果。二つのベンチマーク時の最大動作音に加え、マニュアル設定でPWM:20%およびPWM:100%時の動作音を加えている。PWM:20%はおよそサイレントモード設定(FanXpert 4)における最低回転数における動作音。PWM:100%はその製品の最大ノイズ量ととらえていただきたい。
次は一定時間内のCPU温度の推移を比較してみる。こちらのグラフはBlender Benchmark 3.1.0実行中のもの。“グラフ1”の最大温度は取得できた中での瞬間的な最大値なので、こちらで推移を把握したほうがより実用的な冷却性能が読み取れる。
こちらは同テスト中のCPUクロック(全コア平均値)推移。AK400(空冷/参考)のように時間経過に伴い低下することがなければ性能を引き出していると言える。
続いてはサイバーパンク2077実行中のCPU温度推移。ゲーム起動後、3分のアイドルタイムを設けて計測しているが、起動と同時にCPU負荷がかかるため、おおむね50~60℃になった状態から計測スタートとなっている。計測条件はフルHD、レイトレーシングウルトラ。
こちらは同テスト中のフレームレートの推移。およそ5~35カウントあたりが実際にベンチマークが進行している状態だ。極端にフレームレートが低下していなければ、冷却面で問題なし、と見ていいだろう。
各製品の特徴とテスト結果の傾向
計測結果を一望したところで、各製品のポイントを解説していく。今回ピックアップした製品のテスト結果だけ見てみると、冷却性能的には大差は付かなかったものの、静音性や価格まで総合的に見てみると、それぞれに特徴が見られた。
コスパのよい空冷CPUクーラーで認知度が高まっているCPS(旧ブランド名はPCCOOLER)。本機はユニークな水冷ヘッドデザインの「DS」シリーズの36cmラジエーターモデルだ。半分をクリアパーツとした水冷ヘッド部は、イルミネーション、ディスプレイといった見た目だけでなく、内部は大小サイズの異なるデュアルチャンバー構造で、冷却液が大→小空間を通る際の「ベンチュリー効果」によって流速を高めることができると言う。
冷却性能は今回のテストの中では上位に入った。動作音については、PWM:20%に絞ったときはやや大きめ、一方のPWM:100%時は比較的静か。サイバーパンク2077など実使用時は平均的といったポジションだった。
Antecの最新簡易水冷CPUクーラー「Vortex 360 ARGB」のホワイトモデル。水冷ヘッド、ファンともにクリア感のあるLEDイルミネーションで、とくに水冷ヘッド側は渦をモチーフとしたユニークな光り方をする。RGBコントローラーハブも付属し、配線をまとめられる。
冷却性能、動作音ともに今回の比較中で平均的なポジション。36cmクラスの製品としては比較的低価格なので、コスパはよい印象だ。
日本国内には比較的最近入ってきたメーカーGeometric Future。「Eskimo igloo 36」は同社の簡易水冷CPUクーラーでも上位モデルで、水冷ヘッド内に小径ファンを内蔵、ポンプをチューブの途中に設ける設計、独特なファンと、かなり技術的チャレンジを盛り込んだ製品に仕上がっている。
冷却性能は今回のテスト結果ではやや低い部類に入るが、CPUクロックもしっかり引き出せているので実力は十分。静かさはトップクラスなので、静音性に重きを置くユーザーにオススメしたい。
DeepCoolの簡易水冷CPUクーラーのハイエンドモデル。最新第5世代のポンプと再設計された水冷ヘッドなどを採用する。水冷ヘッドには多機能なディスプレイを搭載し、各種ステータスやアニメーション画像を表示できる。
冷却性能は比較中トップクラス。動作音も平均レベルにある。同社は最近、性能は良好だが機能豊富で若干高価、という製品が続いていたのだが、本機では改めてコスパのよさでも存在感を示したと言えるだろう。
ポンプ部は上位モデルの「MEG CORELIQUID S360」と同等、ラジエーター部やファンは「MPG CORELIQUID K360」を受け継ぐモデル。価格、性能、見た目でもバランスを取ってきた印象だ。大きなディスプレイに各種ステータスやアニメーション画像を表示可能。水冷ヘッド部に小径ファンを内蔵している。
冷却性能は平均ラインで、動作音は負荷時で見るとやや大きめ。ファンの回転数が非公開だが、TORX FAN 4.0採用の他製品を調べると最大2,500rpm前後に達しているため、本機もこれに近いものと思われる。ほかの製品より最大回転数が大きいことが、動作音の大きさの原因ではないだろうか。一方でアイドル時は抜群に静か。このようにファンの回転数レンジが広いので、より熱量の大きなシステムで活きてくるだろう。
オウルテックが自社ブランドとして展開している簡易水冷CPUクーラーで、本製品はディスプレイも備えた上位モデルに位置する。ディスプレイには各種ステータスやアニメーション画像などを表示可能。国内メーカーという点で、大きな冊子サイズの分かりやすいマニュアルも付属する点は、海外メーカー勢にはない特徴。
Blender Benchmarkでは平均ライン、サイバーパンク2077はやや高めだったが悪くない冷却性能だ。動作音はBlender Benchmarkやサイバーパンク2077実行中は平均かやや静か、アイドル時とPWM:100%時が大きめ。回転数レンジが狭めかつより熱量が高いCPUと組み合わせた際に余裕のありそうなキャラクターだ。
Asetek第7世代(V2)ポンプを採用し、ファンには0dB対応のROG STRIX AF-12S ARGB FANを搭載。ASUSのパーツシリーズ「ROG」に属し、デザインの統一感、同シリーズマザーボードとの親和性も良好。ヘッド部分には2.1インチの液晶(IPS方式)を搭載しており、美しい画質で各種情報を表示できるリッチ仕様だ。
冷却性能はトップクラスで、動作音についてはやや大きな部類に入る。ただし、0dB対応ということで、CPU温度が十分に冷えた状態になるとラジエーターファンが回転を停止する点ではアイドル時にもっとも静かな製品と言える。性能は申し分ないが5万円の高価なのが気になるポイント。ただ、マザーからクーラーまでまるっとROGで統一したいという人には間違いなく最良の選択肢だ。
(参考)見やすく分割したグラフ
上で掲載した各種グラフだが、製品数が多いため、特に折れ線グラフが見にくい部分もある。以下に掲載製品を2分割したグラフを掲載するので、こちらも参考にしてみていただきたい。