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扱いやすさならやっぱり空冷!この夏に試したい最新モデル7製品を一斉テスト
【夏のクーラー一斉比較・後編】お手頃価格の製品から水冷並のハイエンドモデルまで text by 石川 ひさよし
2024年8月26日 09:00
大熱量のCPUの登場に伴い簡易水冷CPUクーラーばかり注目されているが、空冷CPUクーラーも着実に進化してきている。ツインタワー型モデルでは最新の上位CPUにも対応可能な大型新製品が登場。シングルタワー型モデルにも定番製品に追い付け追い越せの新製品がしのぎを削っている。
サイズ、ヒートシンクやファンの形状や数、総合的な性能や価格など、製品により差はあるにせよ、空冷クーラーでもメインストリームCPUの定格運用なら十分だし、液体を扱う必要がなく駆動部品がファンだけという信頼性・安心感の高さは健在。扱いやすさや価格も考えると、空冷クーラーは引き続き広く普及しているCPUクーラーのポジションにある。そこで本稿では、“前編”の水冷クーラーに続いて、注目の空冷CPUクーラー7製品集めて一斉検証してみた。
検証環境と計測条件
今回テストを行った製品は下記の6製品+3製品。実売4,000円前後の普及価格帯の製品から、2万円前後以上のハイエンドモデルまで集めた。参考値の水冷クーラーのみ36cmラジエーター採用の簡易水冷クーラーだ。
メーカー名 | 製品名 |
Geometric Future | Prawn |
CPS | RZ400V2 |
ZALMAN Tech | CNPS14X DUO BLACK |
CPS | RZ820 |
SilverStone | Hydrogon D140 ARGB |
be quiet! | Dark Rock ELITE |
Noctua | NH-D15 G2 HBC |
(参考: 空冷)DeepCool | AK400 |
(参考: 水冷)DeepCool | LS720 |
検証環境は以下のとおり。主だったところは水冷クーラー編と同様で、CPUにCore i5-14600Kを用いつつパワーリミットをCPUの定格である181Wとしている。定格とはいえ181Wは、比較的手ごろな価格帯のシングルファン・シングルタワー型の空冷CPUクーラーにとってはまずまずの熱量。デュアルファン・ツインタワーの空冷CPUクーラーなら200W後半のTDPに対応するモデルがあるため、これらの製品の効果も大いに気になるところだ。
CPU | Intel Core i5-14600K(14コア20スレッド) |
マザーボード | ASUS ROG STRIX Z790-F GAMING WIFI(Intel Z790) |
メモリ | DDR5-5600 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2) |
システムSSD | M.2 NVMe SSD 1TB(PCI Express 4.0 x4) |
ビデオカード | NVIDIA GeForce RTX 4070 |
電源 | 850W(80PLUS Gold) |
OS | Windows 11 Pro |
検証台 | 親和産業 2WAY ベンチテーブル SMZ-2WBT-ATX |
グリス | 親和産業 SMZ-01R |
室温:26℃、暗騒音:31.0dB、CPUクーラー換装時グリスをなじませるため本計測の前に数回Blender Benchmarkを実行
今回はいわゆるまな板検証の水平配置ではなく、検証台を立て垂直配置で計測している。一般的なタワー型PCケースに搭載する際と同じ条件だ。
温度ログの取得にはHWiNFO64を使用した。ログの取得間隔はデフォルト2,000ms(=2秒)だが、PC全体の負荷によってタイミングのズレが生じるため、“約2秒ごとの計測回数カウント”(=count、約2秒で1カウント)としている。また、ログ取得開始のタイミングを完全に合わせることは困難なので、グラフに多少のズレが生じている点はご容赦いただきたい。
ファン回転数の設定は使用したマザーボードのユーティリティ、ASUS Armoury Crate「FanXpert 4」を使用し、設定はターボモードを適用している。
なお、今回の各グラフの製品のうち、Noctua「NH-D15 G2 HBC」、比較用のDeepCoolの空冷クーラー「AK400」、水冷クーラー「LS720」のデータは、スケジュール都合で別途実施したテスト時のデータを参考として掲載している。こちらの3製品については、テスト内容および計測方法は同一だが、日程と環境(室温28℃前後、暗騒音30dB以下)が別条件となるため、参考値として比較していただきたい。
空冷クーラー7製品の計測結果
それではさっそく計測結果をまとめたグラフを見ていこう。
まずはCPU温度のアイドル時およびアプリ使用時の最大値。Blender Benchmark 3.1.0は、CPU高負荷時のCPU温度推移を見るため、CPUによるレンダリングを選択している。サイバーパンク2077は内蔵ベンチ実行時の計測結果。計測前には5分間のアイドルタイムを設けてCPU温度を落ち着かせている。
次は動作音の計測結果。二つのベンチマーク時の最大動作音に加え、マニュアル設定でPWM:20%およびPWM:100%時の動作音を加えている。PWM:20%はおよそサイレントモード設定(FanXpert 4)における最低回転数における動作音。PWM:100%はその製品の最大ノイズ量ととらえていただきたい。
次は一定時間内のCPU温度の推移を比較してみる。こちらのグラフはBlender Benchmark 3.1.0実行中のもの。“グラフ1”の最大温度は取得できた中での瞬間的な最大値なので、こちらで推移を把握したほうがより実用的な冷却性能が読み取れる。
こちらは同テスト中のCPUクロック(全コア平均値)推移。時間経過に伴い低下することがなければ性能を引き出していると言える。
続いてはサイバーパンク2077実行中のCPU温度推移。ゲーム起動後、3分のアイドルタイムを設けて計測しているが、起動と同時にCPU負荷がかかるため、おおむね50~60℃になった状態から計測スタートしている。計測時のグラフィックス関連の設定は“フルHD”、“レイトレーシング ウルトラ”。
こちらは同テスト中のフレームレートの推移。およそ5~35カウントあたりが実際にベンチマークが進行している状態だ。極端にフレームレートが低下していなければ、冷却面で問題なし、と見ていいだろう。
各製品の特徴とテスト結果の傾向
計測結果を一望したところで、各製品の寸評をお届けする。価格帯の違いによる性能差、ハイエンド帯での各社製品の特徴の違いなどがポイントだ。
4本のヒートパイプを用いたシングルタワー型空冷CPUクーラー。ヒートシンクは上から見ると角が丸いラウンド形状も特徴だが、そのほかにもユニークな点が多い。中央に支柱を設けて傾きを抑える設計。ヒートシンクの一部を折り返しとしてファンを固定する設計。なお、ファンはヒートシンクに固定されておりクーラー装着の工数という点ではほかより少ない。
冷却性能についてはシングルタワー型なりで、181Wは少々キャパをオーバーしている印象だ。本機だけでなく、今回テストしたシングルタワー型はすべてBlender Benchmark実行中のCPUクロックで低下が見られている。ただしサイバーパンク2077のフレームレートについては特に顕著な低下はない。ゲームメイン用途であれば手頃で個性的なデザイン、5,000円以下と比較的手頃な価格から選択肢の一つに挙げられるだろう。
4本のヒートパイプを用いたシングルタワー型空冷CPUクーラー。「アンチグラビティ・ヒートパイプ」を採用することで平置き、縦置きなど設置方向による影響を受けにくいと言う。フィンの面積拡大、高性能ファンとの組み合わせなども製品特徴。
冷却性能ではシングルタワー型空冷CPUクーラーの雄、DeepCool AK400とがっぷり四つ。動作音はAK400よりも大きかったが、空冷CPUクーラーの中では平均レベルと言える音量だ。Blender Benchmark中のCPUクロック推移ではほかのシングルタワー型と同様に低下が見られた。CPU負荷の高いアプリケーションで使うならTDP 100W以下のCPUとの組み合わせがよいだろう。
12cm角ファン2基のツインタワー型モデル。冷却効率と静音性を高める「シャークフィン」付きの12cm角ファン、熱抵抗を抑える「リバースダイレクトタッチヒートパイプ」方式などを採用している。
今回の比較中では唯一の12cm角ファン×2基モデル。しかし13.5cm、14cmといったより大型のファンを搭載するモデルに迫る冷却性能を示している。加えてデュアルファンでありながら静音性も優秀だ。価格的にはシングルタワー2基分相当だが、大型ツインタワーモデルと比べればぐっと安め。この価格でこの冷却性能、静音性は驚きだ。
性能・デザイン共にCPS(旧ブランド名PCCOOLER)のフラグシップとなる近日登場予定の最新モデル。ヒートパイプは8mmΦと6mmΦを各4本、ファンも14cm角と12cm角を組み合わせており、現行のRZ620からかなりの強化・最適化が図られている。製品情報ページによると、対応TDPは実に290Wとのことだ。全体的にフラットなキューブ形状で、天板の角にはデザイン的なワンポイントとして三角形のARGB LEDを搭載している。
冷却性能は優秀で、RZ820の結果は参考値として掲載した36cmクラス水冷のLS720に迫る。Blender Benchmarkもサイバーパンク2077もよく冷えており、ベンチマーク中のクロック低下も見られなかった。ただしBlender BenchmarkおよびPWM:100%での動作音は56dB台で、検証した中ではもっとも大きい。ただ、サイバーパンク2077時の49.3dBで、これくらいなら許容範囲。ゲーミング目的の方は安心してよいだろう。
14cm径と12cm角ファンを組み合わせたツインタワーモデル。どちらもARGB LED仕様でイルミネーションを楽しめる。ヒートパイプは6本。価格的にも、また一つ14cm径ファンを搭載してはいるものの、スペックを総合するとツインタワー型のスタンダードクラスといったポジションだ。
冷却性能もシングルタワーとハイエンドツインタワーの中間的ポジションにある。動作音はアイドル時なら33.2dBと静か。ただしサイバーパンク2077の負荷でも50dBを超え、Blender BenchmarkやPWM:100%でもこれとほとんど大差ない51.5dBなので、比較的早い段感で最大回転数に達した印象だ。
※本製品はCPUソケットに対して左右の位置に固定ネジを設けた構造(ほかのツインタワーモデルはソケットの上下で固定する)。締め付けトルクは適正だが、垂直配置した今回の検証台では1kg超の本体の重さもあって面圧に偏りが生じている可能性もある。
静かさで定評あるbe quiet!の製品で、13.5cm径ファン「Silent Wings」を2基搭載するツインタワー型モデルだ。トップカバーにARGB LEDも備え、カバー内には2モードの回転数切り換えスイッチが用意されている。
冷却性能は今回テストしたツインタワー型の中では平均的なポジション。Blender Benchmark中のCPUクロック推移を見ると後半、若干の低下が見られた。見どころはやはり動作音。サイレントおよびパフォーマンスの2モードのうち、回転数が高い後者で計測しているが、アイドル時はテストした製品でもっとも静か、負荷時もツインタワーモデルで見れば1クラス小径のCNPS14X DUOに次ぐ静かさと非常に優秀だ。
空冷の雄、Noctuaの最新モデル。14cm径ファン2基と大型ツインタワーヒートシンクを組み合わせ、HBCモデルではIntel LGA1700に最適化したヘッド面形状を採用している(このほか、汎用タイプやRyzen最適化モデルの「LBC」もラインナップ)。ファン回転数を250rpm抑えてさらに静音化するL.N.A.アダプターも付属するが、ここでのグラフ値はノーマル状態のもの。L.N.A.を使用したデータはこちらの記事で確認いただきたい。
今回の検証での冷却性能トップはRZ820だが、本機もこれに迫るトップクラス。ただし、動作音は本機のほうがはるかに静かで、このあたりは流石のNoctuaといったところだ。ほかのハイエンドツインタワーでは、Dark Rock ELITEよりは動作音が大きいものの、冷却性能では上回りCPU負荷の高いBlender Benchmark実行中のCPUクロックでも低下が見られない。つまりパワーリミット181W時のCPU性能を100%引き出しつつ冷やせて静かなもの、総合力の高い製品は本機と言ってよいだろう。ただし、少々値が張る点はやむなしか。
(参考)見やすく分割したグラフ
上で掲載した各種グラフだが、製品数が多いため、特に折れ線グラフが見にくい部分もある。以下に掲載製品を3分割したグラフを掲載するので、こちらも参考にしてみていただきたい。