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本当に消費電力は下がった?「Core Ultra 7 265K」は空冷CPUクーラーで十分冷えるのか試してみた

6,000円切りの空冷クーラー「サイズ FUMA3」で検証 text by 瀬文茶

 Intel最新のCPUであるArrow Lake-SことCore Ultra デスクトップ・プロセッサー (シリーズ 2)は、電力効率や冷却性の改善が最大のメリットとしてアピールされています。ただし、上位モデルの最大ターボ電力(MTP)は250Wに設定されており、この点は前世代CPUの最大ターボ電力253Wから大きくは変わっていません。

 今回、編集部より「Core Ultra 7 265K」の検証機材一式が届いたので、水冷クーラーより安く入手できる空冷CPUクーラーを使い、新型CPUの性能をテストしてみました。Intelが発表しているように扱いやすいCPUになったのか、特性を確かめてみたいと思います。

高コスパな空冷クーラーにASUSの白いZ890マザーとCrucialのCUDIMMを用意

 まずは、今回のテストに用いる機材一式を確認しましょう。

 CPUのCore Ultra 7 265Kは、Arrow Lake-Sことデスクトップ向けの準ハイエンドに位置する20コア/20スレッドCPUです。8基のPコアと12基のEコアを搭載しており、ベース電力(PBP)が125W、最大ターボ電力(MTP)は250W、温度リミット(TjMax)は105℃に設定されています。

 Arrow Lake-Sでは新しいアーキテクチャと製造プロセスの導入で電力効率を改善し、PコアとEコアを交互に配置するなどの工夫で冷却性を高めたとされていますが、MTP=250WのCPUが果たして空冷CPUクーラーで冷やせるものなのでしょうか。

20コアCPUの「Core Ultra 7 265K」
8基のPコアと12基のEコアを搭載したArrow Lake-Sの準ハイエンドモデル

 マザーボードはASUSの「Z890 AYW GAMING WIFI W」。白基板にIntel Z890チップセットを搭載した白いLGA1851対応マザーボードで、フォームファクターはATX、基板サイズは305×244mm。

 価格は48,000円前後と、Z890マザーボードとしては比較的安価な製品ながら、80A対応DrMOSを使用した12+1+2+1フェーズの電源回路を備えており、MTP=250Wの上位モデルにも余裕で対応できる実力を備えています。また、LGA1851ソケットには固定圧力を調整してCPUの変形を抑える「RL-ILM」が採用されていました。

白基板を採用したZ890マザーボード、ASUS「Z890 AYW GAMING WIFI W」
基板からI/Oシールドまで白いカラーリングを採用している
80A対応DrMOSを使用した12+1+2+1フェーズのVRMを搭載
LGA1851ソケットは、CPUの変形を抑えるために固定圧力を調整した「RL-ILM」仕様

 メモリには、近日発売予定のCrucial製CUDIMM「CT16G64C52CU5」を2枚使用します。CT16G64C52CU5はJEDEC規格に準拠したCUDIMMで、1.1Vの動作電圧でDDR5-6400動作に対応した16GBモジュールです。

 メモリモジュール上にクロックドライバを実装したCUDIMMの利用にはCPUとマザーボード側の対応が必要なため、今のところCore Ultra デスクトップ・プロセッサー (シリーズ 2)向けとされているようです。

DDR5-6400動作に対応するCrucialの16GB CUDIMM「CT16G64C52CU5」を2枚使用
CUDIMMの利用にはCPUとマザーボードの対応が必要なため、今のところCore Ultra デスクトップ・プロセッサー (シリーズ 2)向けとされている
CUDIMMにはクロック信号を生成するクロックドライバがメモリモジュール上に配置されている
MicronのDRAMチップ「D8DKT」を片面に8枚実装している

 Core Ultra 7 265Kの冷却に用いる空冷CPUクーラーは、筆者の推しCPUクーラーのひとつであるサイズ「FUMA3(SCFM-3000)」です。

 6,000円切りと安価でありながら、優れた冷却性能と完成度の高いリテンションキットを備えたミッドシップサイドフロー型クーラーで、周辺パーツとの干渉を回避しつつ全高を154mmに抑えているため、マザーボードやPCケースとの相性問題を起こしにくい優等生です。

筆者の推しCPUクーラー、サイズ「FUMA3」
120mmファンの採用で全高を154mmに抑えた"コンパクト"なミッドシップサイドフロー型クーラー
6mm径ヒートパイプを6本採用しており、LGA1851にも問題なく搭載可能
周辺パーツとの干渉を回避する設計を採用しており、Z890 AYW GAMING WIFI WのメモリスロットやPCIeスロットとも干渉しない

標準で常時250Wの電力消費設定となっているCore Ultra 7 265K大多数のケースに搭載した時と同じ「縦置き」状態で冷却性能をテスト

 これらのパーツを組み合わせて構築したテスト環境は以下の表の通り。

 ASUS Z890 AYW GAMING WIFI Wに搭載したCore Ultra 7 265Kは、Intel Default Settingsに基づいて電力リミットが「PL1=PL2=250W」に設定されており、常に250Wの電力消費を許されたCore Ultra 7 265Kを空冷CPUクーラーで冷却できるのかに注目です。

 なお、テスト時は長尾製作所 3wayオープンフレーム スタック式を使用して、一般的なタワー型ケースと同様にマザーボードを垂直設置した状態で冷却性能テストを実施します。

冷却性能テストはマザーボードを垂直設置した「縦置き」で実施

空冷での運用が現実的になったIntelの最新CPUCore Ultra 7 265Kなら空冷で静音まで狙える?

 冷却性能テストでは、Cinebench 2024「CPU (Multi Core)」を最低実行時間10分で実行してモニタリングデータを取得。CPUの温度やクロック、ベンチマークスコアなどの情報からCore Ultra 7 265Kを適切に冷却できているか判断します。

 また、今回はFUMA3の冷却ファンのPWM制御を「50%」にした場合と「100%」にした場合の2パターンでテストを実施。ファンスピードを絞ることで温度やパフォーマンスにどの程度影響が出るのか確かめます。

Cinebench 2024を利用し、CPUに高負荷をかけて動作をテスト

 まず、CPU温度についてはPWM=50%で平均88.9℃(最大96℃)、PWM=100%では平均79.1℃(最大85℃)で、いずれも温度リミットである105℃より十分に低い値となっています。つまり、FUMA3はCinebench 2024実行中のCore Ultra 7 265Kを冷やしきれていると言ってよいでしょう。

 その結果、CPUクロックは全コア稼働時の最大クロックであるPコア=5.2GHz、Eコア=4.6GHzをほぼ保っており、ベンチマークスコアは両PWM設定とも「2,018」で同等のパフォーマンスを記録しました。

CPU温度 (平均/最大)
CPUクロック (平均/最大)
ベンチマークスコア

 なお、CPU消費電力に関しては、温度上昇に伴うリーク電流の増加等によるものと思われる原因でPWM=50%の方が10Wほど高い数値となっています。温度リミットの範囲内でもCPU温度を低く保つメリットと、消費電力が増えた分だけ増加する発熱に対処可能なFUMA3の優れた冷却性能が確認できる結果です。

CPU消費電力 (平均/最大)
PWM=50%設定時のモニタリングデータ
PWM=100%設定時のモニタリングデータ

 FUMA3が前面側に備える吸気ファンから約40cm離れた位置に設置した騒音計で計測した騒音値が以下のグラフです。

 前面と中央部の冷却ファンがともに1,000rpm未満で動作するPWM=50%の騒音値は「33.6dBA」、ファンスピードが約1,500rpmに達するPWM=100%は「45.1dBA」となっています。PWM=100%でもそこまで大きな動作音という訳ではありませんが、PWM=50%は体感的に動作音がほとんど気にならないレベルの静音動作でした。

騒音値

空冷でも余裕で冷やせるCore Ultra 7 265Kコストを削るもよし、静粛性や省電力性を追求するもよし

 MTP=250Wというスペックが設定されているCore Ultra 7 265Kですが、それなりにCPU負荷の高いCinebenchを実行した場合のCPU消費電力は200W前後と控え目で、空冷CPUクーラーのサイズ FUMA3でも余裕で冷やせる程度に冷却が容易なCPUでした。

 室温約24℃のオープンエアという好条件とは言え、ファンスピードを絞ったFUMA3でも冷やせたという結果を考えれば、より安価な空冷CPUクーラーでコストを削減できる余地はあります。逆に、より高性能なCPUクーラーで静音動作やリーク電流の抑制を狙ってみるのも面白いでしょう。