PCパーツ名勝負数え歌
これがPCパーツ界の二刀流!? M.2スロット搭載ビデオカード、ASUS「Dual GeForce RTX 4060 Ti SSD OC Edition 8GB GDDR6」
【第4戦】異色どころかGen 5 SSD冷却の最適解となるか text by 芹澤 正芳
2024年3月29日 08:05
ウィー! どうも芹澤正芳です。「PCパーツ名勝負数え歌」の第4戦はASUSの「Dual GeForce RTX 4060 Ti SSD OC Edition 8GB GDDR6」に勝負を挑みたい。これは背面にM.2スロットを搭載するという異色のビデオカード。SSDは問題なく認識して普通に使えるのか、性能はしっかり出るのか、冷却面はどうなっているのか、そしてビデオカードのパフォーマンスに影響はあるのか、いろいろ気になるところだらけのビックリアイテムだ。それぞれ検証していきたい。
RTX 4060 Ti搭載カードにGen 5対応M.2スロット搭載
Dual GeForce RTX 4060 Ti SSD OC Edition 8GB GDDR6は、GPUにGeForce RTX 4060 Ti(8GB版)を搭載するビデオカードだ。最大の特徴はGen 5対応のM.2スロットを搭載していること。
なぜ、このような異色のカードが登場したのか。ポイントとなったのは、RTX 4060 TiがPCI Express Gen 4の“x8接続”であることだろう。PCI Expressが16レーンあるx16スロットに搭載しても、GPUが8レーンしか必要としていないので、半分が使われずに余ってしまう。だったら、ビデオカードにM.2スロットを搭載して余った8レーンを活用しよう、という発想だ。NVMe SSDは基本x4接続なので、その気になればM.2スロットを2基搭載するビデオカードも作れるのではないだろうか。
とはいえ、余ったレーンを活用するのは簡単ではないようだ。本製品は、ビデオカードとしてはどのマザーボードでも利用できるが、M.2スロットを認識できるのはASUSの対応マザーボードかつUEFIを最新版にアップデートした場合に限られる。そして、UEFIメニューでPCI Express x16スロットの動作モードを変更することで、M.2スロットが有効化される、という仕組だ。
まさにビデオカードとM.2スロット増設カードの二刀流となるわけだが、そうなるとプロレスでも総合格闘技でも強烈なインパクトを残した高山善廣を思い出すにはいられない(回復を祈っています)。どちらの性能も気になるところだが、まずは基本スペックを紹介しておこう。
ブーストクロックは定格の2,535MHzから2,565MHzにアップされたファクトリーOCモデル。「GPU Tweak III」アプリでOCモードにすることで2,595MHzまで向上が可能だ。カード長は227.2mmと比較的コンパクト。RTX 4060 Tiのカードとしては扱いやすいサイズだ。
SSDの取り付け方法を紹介! ヒートシンク付きは非対応
それではビデオカードのM.2スロットにSSDと取り付けてみよう。なお、動作検証が済んでいるSSDはASUSのWebサイトで公開されている。確実にSSDを使いたい人はチェックしておくとよいだろう。ちなみに、マザーボード側のPCI Express x16スロットがGen 5に対応していれば、M.2スロットもGen 5 x4に対応できる。そのため、今回は対応リストにもあるGen 5対応のCrucial T700(2TB版)を用意した。
物理的な手順はいたってシンプル。付属のサーマルパッドをM.2スロットに貼り付け、SSDを固定する。SSDはツールレスで取り付けできるQ-Latchを採用しているので簡単だ。最後にサーマルパッド付きのカバーをネジで固定すれば終了となる。
注意したいのは、SSDの表面がM.2スロットの下になること。一般的なM.2スロットの逆だ。そのためヒートシンク付きのSSDは物理的に取り付けできない。なぜ逆向き? と思うところだが、ここが最大のポイントと言える。SSDの表面をビデオカードの巨大なヒートシンクに貼り付けることで、ビデオカードの大型ヒートシンクとファンをSSDの冷却に利用するのだ。ビデオカードの強烈な冷却力をSSDにも活かせるわけだから、現在最高クラスのSSD冷却環境と言ってよいだろう。
ちなみに、筆者がマザーボードのROG CROSSHAIR X670E HEROとの組み合わせで試す限り、M.2スロットに取り付けたSSDはデータ保存用として使えるのはもちろん、Windowsをインストールし、起動させることも可能だった。
Gen 5 SSDの性能は引き出せるのか!? 冷却力は? ベンチマークで検証
さて、性能チェックに移ろう。テスト環境は以下のとおりだ。ドライバは「Game Ready 551.86」を使用。X670Eチップセットなので、PCI Express x16スロットもM.2スロットもGen 5対応のものが搭載されている。
CPU | AMD Ryzen 9 7900X(12コア24スレッド) |
マザーボード | ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO (AMD X670E) |
メモリ | Micron Crucial DDR5 Pro CP2K16G56C46U5 (PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2) |
システムSSD | Micron Crucial T500 CT2000T500SSD8JP (PCI Express 4.0 x4、2TB) |
CPUクーラー | Corsair iCUE H150i RGB PRO XT (簡易水冷、36cmクラス) |
電源 | Super Flower LEADEX V G130X 1000W (1,000W、80PLUS Gold) |
OS | Windows 11 Pro(23H2) |
まずは、ビデオカードとしての性能を見るため、定番ベンチマークの「3DMark」を実行する。
3DMarkはすべてRTX 4060 Tiの標準的なスコアをマークしており、M.2スロットを備えているからと言って性能面に影響はないと言ってよいだろう。フルHD~WQHD環境で、ハイリフレッシュレートなゲーミングモニターが活きるFPS、あるいはDLSSでフレームレートが伸びるゲームをプレイするのに向くミドルレンジのカードだ。
それでは、いよいよ本題のM.2スロットの搭載したSSDの性能をチェックしていく。比較対象として、マザーボードのGen 5対応M.2スロットに搭載した場合の結果も入れている。まずは、データ転送速度を測る定番ベンチマークの「CrystalDiskMark 8.0.5」から試そう。
シーケンシャルもランダムもビデオカードのM.2スロットに搭載したときのほうが若干ではあるが優秀だ。Gen 5 SSDの性能をしっかり引き出せている。
次は、Office系、クリエイティブ系、ゲーム系などさまざまなアプリの動作をシミュレートしてレスポンスのよさを測るPCMark 10のFull System Drive Benchmark、ゲームの起動やロード、録画などゲーム関連のさまざまな処理をシミュレートする3DMarkのStorage Benchmarkを実行する。
どちらのテストでもビデオカードのM.2スロットに搭載した場合のほうが15%ほどスコアは高くなった。アプリやゲームのインストール用途としてもまったく問題がないと言ってよいだろう。
冷却力はどうか。連続書き込み時の温度と速度の推移をチェックしたい。TxBENCHを使って5分間連続でシーケンシャルライトを行ったときの速度と温度をモニタリングアプリの「HWiNFO Pro」で追った。マザーボードのM.2スロットは、付属のヒートシンクを利用している。室温は21℃だ。
Gen 5 SSDは、その速度ゆえに発熱も大きいが、ビデオカードの大型ヒートシンクとファンで冷やすためマザーボードのヒートシンクに比べて強烈に冷えているのが分かる。最大でもわずか38℃だ。マザーボードのヒートシンクは、54℃まで上昇した。もちろん54℃ならまったく問題のない温度でもあるのだが……。速度推移に関しては、どちらもほぼ同じ。安定して動作していた。
Gen 5 SSDに負荷がかかるとGPUの冷却に影響が出るのでは? という疑問もあるだろう。そこで3DMarkのStressTest(Speed Way)を5分間動作させるテストをビデオカードのM.2スロットに搭載したCrucial T700に連続書き込みしながら実行した場合と、書き込みを行わずに実行した場合でのGPU温度推移を「HWiNFO Pro」で追った。
【お詫びと訂正】記事初出時、誤ったグラフが表示されていました。お詫びして訂正させていただきます。
Gen 5のSSDがいくら高温になると言っても、ビデオカードの巨大な冷却システムの前にはほとんど影響することがないレベルということだろう。GPU温度はどちらもほとんど変わらなかった。ゲームプレイしながらガンガンにSSDへのアクセスが発生しても安心と言える。
異端と見せかけてGPUもSSDも快適に使える実力派
ビデオカードにM.2スロットを搭載……使わないPCI Expressのレーンをなんとか活用しようとするキワモノ系と見せかけて、ビデオカードの冷却システムを使えばSSDをとてつもなく冷やせるという新たな発見をもたらしてくれた。日米レスリングサミットで硬派な天龍源一郎と陽気なアメリカンプロレスのランディ・サベージのシングルマッチはかみ合わないように思えたが、それぞれの持ち味が素晴らしい融合を起こし、1990年屈指の名勝負になったことを思い出す。
こういう“実用性がありそうなキワモノパーツ”はやはりおもしろい。願わくは、M.2搭載タイプがこの1枚で終わらず、ほかのGPUとの組み合わせが登場し(下位GPUでは必要レーン数が少ないものも少なからずある)、対応マザーボードが広がることに期待したい。