PCパーツ名勝負数え歌
低価格ゲーミングPC自作の最適解が見えた!Ryzen 7 5700X3D/5700Xの10~13万円プランで徹底ベンチ
【第8戦】エントリー~ミドルGPUに3D V-Cacheは効くのか!? text by 芹澤 正芳
2024年6月24日 09:05
ウィー! どうも芹澤正芳です。「PCパーツ名勝負数え歌」の第8戦はAMDのAM4向けCPU「Ryzen 7 5700X3D」と「Ryzen 7 5700X」を使ったゲーミングPC自作に挑戦したい。ターゲットはフルHD解像度で軽めのFPS/TPSなら高フレームレート、重量級ゲームなら平均60fps以上を狙えるスペックだ。
組み合わせるビデオカードは「GeForce RTX 4060」と「GeForce RTX 3050」。どちらもエントリーからミドルレンジの人気GPU。価格を抑えつつ、がっちりゲームを遊べるプランの正解はどこか。早速、ロックアップしていこう。
どちらも8コア16スレッドのCPU。最大違いは3D V-Cacheの有無
今回のプランでキモとなるのがSocket AM4向けCPUのRyzen 7 5700X3DとRyzen 7 5700Xだ。AMDの主力はSocket AM5に移行しているが、AM4もまだまだ現役で2024年7月には新モデルが投入される。AM4のメリットは、低価格のマザーボード選択肢が多い、メモリがDDR5よりも安価なDDR4である点だ。2027年まで使われると明言されているSocket AM5に比べて将来性は劣るものの、現時点で低価格ゲーミングPC自作を狙うならうってつけと言える。
CPU | Ryzen 7 5800X3D | Ryzen 7 5700X3D | Ryzen 7 5700X | Ryzen 7 5700 |
実売価格 | 50,000円前後 | 36,000円前後 | 23,000円前後 | 24,000円前後 |
アーキテクチャー | Zen 3 | Zen 3 | Zen 3 | Zen 3 |
コア数 | 8 | 8 | 8 | 8 |
スレッド数 | 16 | 16 | 16 | 16 |
定格クロック | 3.4GHz | 3GHz | 3.4GHz | 3.7GHz |
最大ブーストクロック | 4.5GHz | 4.1GHz | 4.6GHz | 4.6GHz |
3次キャッシュ | 96MB | 96MB | 32MB | 16MB |
対応メモリ | DDR4-3200 | DDR4-3200 | DDR4-3200 | DDR4-3200 |
PCI Express | Gen4 24レーン | Gen4 24レーン | Gen4 24レーン | Gen4 24レーン |
TDP | 105W | 105W | 65W | 65W |
内蔵GPU | なし | なし | なし | なし |
CPUクーラー | なし | なし | なし | Wraith Spire |
最近ではCPUパワーを要求するゲームが増えていることもあり、価格を抑えつつも8コアはほしい。ということでピックアップしたのがRyzen 7 5700X3DとRyzen 7 5700X。どちらも8コア16スレッドだ。最大の違いは、Ryzen 7 5700X3Dには大容量3次キャッシュの「3D V-Cache」を搭載していること。3D V-Cacheがゲームのフレームレート向上に効果的なのは、Ryzen 7 5800X3DやRyzen 7 7800X3Dなどでこれでもか、というぐらい証明されている。
その一方で、Ryzen 7 5700XはRyzen 7 5700X3Dよりも実売価格が13,000円ほど安く、最大クロックが高いのが強み。それでいてTDPは65Wと低く、発熱も小さいため扱いやすさはこちらのほうが上だ。3D V-Cacheが効かない場面では、5700Xのほうがよいのでは? と思うところで、その辺りも含めて後半の検証は注目してほしい。
マザーボードは価格と機能のバランスからB550チップセットを選択
今回は、Ryzen 7 5700X3Dを使いつつ10万円台前半に抑える、という想定目標でパーツ構成を考えてみた。具体的な製品名を挙げていないメモリ、ビデオカード、CPUクーラー、電源、PCケースについては、このくらいの予算になる製品を探して検討するものとしている。
カテゴリー | 製品名 | 予算 |
CPU | AMD Ryzen 7 5700X3D | 36,000円前後 |
マザーボード | ASUS PRIME B550M-A WIFI II | 15,000円前後 |
メモリ | DDR4-3200 16GB×2 | 10,000円前後 |
ビデオカード | NVIDIA GeForce RTX 4060 | 47,000円前後 |
SSD | M.2 SSD(PCI Express Gen 4 x4) 1TB | 11,000円前後 |
CPUクーラー | ミドルレンジ空冷クーラー | 4,000円前後 |
電源ユニット | 650W 80PLUS Bronze | 7,000円前後 |
PCケース | microATX ミニタワーケース(サイドクリア) | 6,000円前後 |
合計 | 137,000円前後 | |
※実売価格は2024年6月中旬時点のもの |
なお、OSやキーボード、マウスといった価格は含まれていない。
さらに、これをベースに価格を抑えた派生プランも考えてみた。
- CPUをRyzen 7 5700X(実売価格23,000円前後)に変更→合計124,000円前後
- ビデオカードをGeForce RTX 3050(6GB版、実売価格31,000円前後)に変更→合計121,000円前後
- CPUとビデオカードをRyzen 7 5700XとGeForce RTX 3050(6GB版)に変更→合計108,000円前後
それぞれの組み合わせで性能がどう変化するのか後半で検証していく。
【GeForce RTX 4060/3050のスペック】 | ||
GPU名 | RTX 4060 | RTX 3050(6GB) |
CUDAコア数 | 3,072 | 2,304 |
ベースクロック | 1,830MHz | 1,042MHz |
ブーストクロック | 2,460MHz | 1,470MHz |
メモリサイズ | GDDR6 8GB | GDDR6 6GB |
メモリバス幅 | 128bit | 96bit |
アーキテクチャー | Ada Lovelace | Ampere |
DLSS | 3 | 2 |
NVENC | 第8世代 | 第7世代 |
カード電力 (W) | 115 | 70 |
今回組み合わせるGPUのスペックも確認しておこう。RTX 4060は最新世代だけあり、アップスケーラー&フレーム生成のDLSS 3に対応、NVENCもAV1のエンコードに対応するなど基本スペックはもちろん、機能面でもRTX 3050を上回る。ただ、3万円前後で購入できるエントリーGPUとしてRTX 3050の6GB版は貴重な存在であるのは確かだ。基本、補助電源の接続が不要なので、取り付けがラクというメリットもある。
CPU、ビデオカード以外で重要になるのはマザーボードだ。当然Socket AM4対応から選ぶことになるが、チップセットの選択肢はグレードの高い順にX570/B550/A520となる。X570チップセット搭載マザーボードは価格が高めになるのでコスト重視だと避けるとして、かと言ってA520だとPCI ExpressがGen 3までの対応になるため、Gen 4対応のビデオカードやストレージの性能を活かし切れなくなってしまう。ゲーミング目的では避けたいところ。となれば、Gen 4対応で手頃な価格の製品も多いB550チップセット搭載マザーボードから選ぶのが今回の趣旨にはピッタリだ。
そこでチョイスしたのがASUSの「PRIME B550M-A WIFI II」だ。B550チップセット搭載のmicroATXマザーボードで、発売が2024年2月と比較的新しい製品。M.2スロットが2基とストレージを複数搭載しやすく、ワイヤレス機能もWi-Fi 6+Bluetooth 5.2と現代的。ゲーミングなら有線LANだけで十分だろと思うかもしれないが、コントローラーやヘッドセットの接続にBluetoothがあったほうがよいという判断だ。このマザーはアンテナも大きめで、Bluetooth接続の安定性も期待できる。
低画質で高fps狙いなら5700X3D! アプリを選ばないのは5700Xだ
さて、性能チェックに移ろう。テスト環境は以下のとおりだ。Ryzen 7 5700X3D+RTX 4060、Ryzen 7 5700X3D+RTX 3050、Ryzen 7 5700X+RTX 4060、Ryzen 7 5700X+RTX 3050の4パターンでテストを行っている。ビデオカードのドライバは「Game Ready 555.85」を使用。Ryzen 7 5700X3DはTDP 105W/PTT 142W/TDC 95A/TDC 140A/Tj 90℃、Ryzen 7 5700XはTDP 65W/PTT 76W/TDC 60A/TDC 90A/Tj95℃の設定(マザーボードのデフォルト)だ。Resizable BARは有効にした。
CPU | AMD Ryzen 5 5700X3D(8コア16スレッド)、 AMD Ryzen 5 5700X(8コア16スレッド) |
マザーボード | ASUS PRIME B550M-A WIFI II(AMD B550) |
メモリ | Micron Crucial DDR4 Pro CP2K16G4DFRA32A (PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2) |
システムSSD | Micron Crucial P3 Plus CT2000P3PSSD8JP (PCI Express 4.0 x4、2TB) |
CPUクーラー | DeepCool AK400(12cm角×1、サイドフロー) |
電源 | Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold) |
OS | Windows 11 Pro(23H2) |
今回の環境で注意しておきたいのは、マザーボードのデフォルト設定だとResizable BARが有効にならないこと。最近のマザーボードはResizable BARが有効がデフォルトになっていることがほとんどだが、AM4環境ではデフォルトが無効状態がめずらしくない。Resizable BARが無効だと一部ゲームでフレームレートが大きく下がることがある。忘れずに有効化しておきたい。
まずは定番の3DMarkから実行しよう。新たに加わったSteel Nomadは、GPU依存率の高いテストでCPUの影響が小さいためテストには含めなかった。
Ryzen 7 5700X3D、Ryzen 7 5700XどちらのCPUでも誤差レベルのスコア差しかない。今回のビデオカードとの組み合わせでは、3DMarkで3D V-Cacheの効果は見られなかった。
実際のゲームではどうだろうか。まずは、FPS系から「Apex Legends」、「オーバーウォッチ2」、「Call of Duty Modern Warfare 3」を実行しよう。Apex Legendsはトレーニングモードの一定コースを移動した際のフレームレート、オーバーウォッチ2はbotマッチを実行した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で測定した。Call of Duty Modern Warfare 3はゲーム内のベンチマーク機能を利用している。
RTX 4060との組み合わせならそれぞれ最高画質に設定してもフルHDで高フレームレート、WQHDでも十分快適に遊べるだけのフレームレートを出せる。RTX 3050はフルHDなら十分プレイできるが、高フレームレートは厳しいという結果だ。高リフレッシュレートのゲーミング液晶を使うならRTX 4060と組み合わせたいところ。
そして、残念ながらここでも3D V-Cacheの効果は見えず、Ryzen 7 5700X3D、Ryzen 7 5700Xのどちらもほとんど変わらないフレームレート。これは、CPU性能が影響する前にビデオカードの性能限界にぶつかっているためと考えられる。エントリーからミドルレンジのビデオカードを使う場合は、フルHDでも高画質だとGPU使用率はすぐ100%に到達してしまう。
重量級ゲームだとどうだろうか。「エルデンリング」、「Starfield」、「サイバーパンク2077」を試そう。エルデンリングは、リムグレイブ周辺の一定コースを移動した際のフレームレート、Starfieldはジェミソンのロッジ周辺の一定コースを移動した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で測定。サイバーパンク2077はゲーム内のベンチマーク機能を利用している。
DLC発売で人気再燃中のエルデンリングは、最大60fpsのゲームだ。RTX 4060ならWQHDまでほぼ上限に到達。RTX 3050はフルHDでも平均60fpsには届かず、快適なプレイには画質設定を落とす必要がある。エルデンリングはDLSSなど描画負荷軽減技術に対応していないのがつらいところ。
Starfieldは超重量級と言えるゲームだが、アップスケーラー&フレーム生成のDLSS 3に対応していることもあって、RTX 4060ならWQHDでも平均60fpsを超えられる。逆にフレーム生成のないDLSS 2までの対応となるRTX 3050ではフルHDでも平均27fps前後だ。プレイには大きく画質を落とす必要がある。
サイバーパンク2077もDLSS 3対応のゲーム。レイトレーシングをゴリゴリに効かせた設定では、RTX 4060はフルHDでは平均100fpsオーバーだが、WQHDでは30fps台と一気に厳しくなる。フレーム生成を利用できないRTX 3050はフルHDでも30fps台と快適なプレイは厳しいフレームレートだ。
そして、ここでもRyzen 7 5700X3D、Ryzen 7 5700Xでほとんど差は見られない。このクラスのビデオカードで高画質設定だと3D V-Cacheはなかなか効果が出ないと言ってよいだろう。では、グッと画質を下げてGPU負荷を下げた場合どうなるかを試したい。
「オーバーウォッチ2」と「Call of Duty Modern Warfare 3」に、ここでは「フォートナイト」を加えた。フォートナイトはソロマッチのリプレイデータを再生した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定している。
Call of Duty Modern Warfare 3は、画質設定を最低まで落としてもGPU負荷が高めなのであまり差は見られなかったが、オーバーウォッチ2/フルHDでのRTX 4060が興味深い。Ryzen 7 5700X3Dのほうが、Ryzen 7 5700Xよりも約1.3倍もフレームレートが出ているのだ。GPU負荷が減ったためCPU性能がフレームレートに与える影響が大きくなり、そのため3D V-Cacheが効いた、というロジックだ。RTX 3050は画質を一番下の低設定にしたもGPUのパワー不足で負荷が下がらず、CPUによる差がほとんど出ていない。
フォートナイトのパフォーマンスモードはGPU負荷が非常に低いため、3D V-Cacheの効果がキッチリ出てRTX 4060/3050ともRyzen 7 5700X3Dのほうがフレームレートが圧倒的に高くなっている。画質を下げてフレームレートを稼ぎたいというFPS/TPSガチ勢にとっては、Ryzen 7 5700X3Dの意義はあると言ってよいだろう。
クリエイティブ系では処理によって勝敗に差
クリエイティブ系のベンチマークも試しておこう。まずは、CGレンダリングでCPUのパワーをシンプルに測定する「Cinebench 2024」から。GPUがほとんど影響しないテストなのでRTX 3050との組み合わせは除外している。
どちらも8コア16スレッドのCPUなので、マルチコアのスコアはほぼ互角。シングルコアではクロックが高いRyzen 7 5700Xのほうがスコアが高くなっている。同じくCPUをフルに使う動画のエンコードではどうだろうか。HandBrakeを使用して、3分の4K動画をH.264とH.265のフルHD解像度にエンコードする時間を測定した。同じくGPU影響のないテストなのでRTX 3050との組み合わせは除外した。
HandBrakeでは3D V-Cacheの恩恵があるのか、動作クロックの低いRyzen 7 5700X3Dのほうがエンコードがわずかに早く終了した。
次は、AdobeのPhotoshopとLightroom Classicを実際に動作させて画像処理を行うUL Procyon Photo Editing Benchmarkを試そう。一部処理にGPUが使われるため、ここではRTX 3050との組み合わせも加えている。
PhotoshopメインのImage Retouchingでは、クロックの高いRyzen 7 5700Xが強く、Lightroom ClassicがメインのBatch ProcessingではRyzen 7 5700X3Dがわずかに優位だ。処理の内容によって得手不得手があるのが分かる。
温度や消費電力ではRyzen 7 5700Xが優位に
最後にCinebench 2024を10分間動作させたときのCPUクロック、温度、消費電力の推移をチェックしよう。アプリは「HWiNFO Pro」を使用し、クロックは「Core Effective Clocks (avg) 」、温度は「CPU (Tctl/Tdie) 」、消費電力は「CPU Package Power」の値を追った結果だ。室温は24度でバラック状態で動作させている。
クロックはRyzen 7 5700X3Dは4GHz前後で推移、Ryzen 7 5700Xは4.1GHz前後で推移した。ここに大きな差はないが、温度と消費電力はRyzen 7 5700X3Dが平均74.5度と平均83.9W、Ryzen 7 5700Xが平均61度と平均77.5Wとなった、Ryzen 7 5700Xのほうが温度も消費電力も圧倒的に低いと扱いやすさではこちらが上だ。TDPが違うので仕方がないとはいえ、クロックは低いのに温度は高いという点はちょっと気になるところだ。
Ryzen 7 5700X&RTX 4060の組み合わせが良バランス
Ryzen 7 5700X3Dは、“GPU負荷が低いシーンなら”ゲームのフレームレート向上に効くのは確かだ。ただRTX 4060/RTX 3050では、ゲームの画質を最低レベルまで落とさないとその状況を作れないのが苦しいところ。かと言って上位GPUを使う人は、CPUもさらに上位を選ぶだろう。3万円台で3D V-Cache搭載という点はおもしろいが有効に働くシーンが限られている以上、低価格ゲーミング自作においては、初登場から2年以上が経過しても潤沢に流通していてかつ2万円台前半で購入できるRyzen 7 5700Xのほうが、現時点ではオススメしやすい。
また、AM4プラットフォームはかなり息が長く、チップセットが古くても、BIOS/UEFIのアップデートを行えば最新のRyzen 7 5700X3Dが使える、というマザーボードも多い。旧世代のAM4 CPUを使っている人が、予算を抑えつつ“最新の技術を取り込んだCPU”にアップグレードして現環境を延命したい、という目標であれば、Ryzen 7 5700X3Dは選択肢となり得る。
そして、ビデオカードはフルHDならほとんどのゲームを高画質設定で遊べるRTX 4060を選びたいところ。RTX 3050の6GBではDLSS 3に対応していないこともあって、重量級ゲームをプレイするにはパワー不足を感じる場面が多いからだ。次世代CPUの登場も近づいてきた昨今だが、Ryzen 7 5700X&RTX 4060という絶妙な組み合わせは、ダッドリー・ボーイズやニュー・エイジ・アウトローズばりの名タッグと言ってよいのではないだろうか。