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OC版GTX 1080の電力効率を爆上げ!オリジナルデザインモデルを美味しく使うテクニック
ZOTAC製「IceStorm」搭載GTX 1080/1070の電力効率を最大40%向上 text by 瀬文茶
2016年6月30日 11:00
今回紹介するのは、Power Targetを調整してPascal世代のハイエンドGPU「GeForce GTX 1080/1070」の電力効率を大幅に向上させるテクニック。
このテクニックを用いることで、電力効率と引き換えにパフォーマンスを追求したオーバークロック版のビデオカードでも、Pascal世代ならではの圧倒的な電力効率が実現できる。
もし、オーバークロックによって電力効率が損なわれることを理由に「Founders Edition」の購入を考えているのなら、ぜひ今回のテクニックとテスト結果を見てから再考してもらいたい。
テストに使うのはZOTACのオーバークロック版GTX 1080/1070
今回のレビューに用いたオーバークロック版ビデオカードは、ZOTACの「GeForce GTX 1080 AMP Extreme」と「GeForce GTX 1070 AMP Edition」の2製品。まずはテストに使う製品の仕様と実力をチェックしてみよう。
ZOTAC GeForce GTX 1080 AMP Extreme
まずはGeForce GTX 1080 AMP Extreme。3基の冷却ファンを備えた2.5スロット仕様の大型GPUクーラー「Triple Fan IceStorm」を搭載した、GeForce GTX 1080のスーパーオーバークロックモデルだ。
GPUコアはベースクロック1,771MHz(+164MHz)、ブーストクロック1,911MHz(+178MHz)へとオーバークロック。VRAMのGDDR5X(8GB)メモリも10.8Gbps(+0.8Gbps)に高速化している。
ZOTACオリジナル仕様の基板には、8+2フェーズの電源回路を搭載。GPUクーラーのTriple Fan IceStormが持つ強力な冷却能力との組み合わせにより、最大で1.9GHzを超える高クロック状態においても安定した動作を支える。
ZOTAC GeForce GTX 1070 AMP Edition
GeForce GTX 1070 AMP Editionは、GeForce GTX 1070のオーバークロックモデル。
2基の冷却ファンを備えた2スロット仕様のGPUクーラーDual Fan IceStormを搭載し、GPUコアはベースクロック1,607MHz(+101MHz)、ブーストクロック1,797MHz(+114MHz)へオーバークロックしている。基板もZOTACオリジナル仕様を採用しており、8ピン2系統の補助電源コネクタと、8+2フェーズの電源回路を備えている。
ZOTACオリジナルデザインのGTX 1080/1070の性能をテスト
ZOTACらしい重厚なつくりが魅力の両製品。
そのパフォーマンスはどの程度なのか、前世代のウルトラハイエンドモデルZOTAC GeForce GTX 980 Ti AMP! Extremeを加えた3製品で、3DMark Fire Strike Ultra(3,840×2,160ドット)のスコアと、消費電力(Graphics Test 1実行中)を比較してみた。
・テスト環境
CPU IntelCore i7-6700K
マザーボード Z170搭載ATXマザーボード
メモリ DDR4-2133 8GB×2
ストレージ OCZ Vector 180 480GB
電源ユニット 玄人志向KRPW-TI700W/94+
OS 日本マイクロソフトWindows 10 Pro 64bit
グラフィックスドライバGeForce Game Ready Driver 368.39
室温 27.0±0.5℃
それではベンチマーク結果を見ていこう。
GeForce GTX 1080 AMP ExtremeはGeForce GTX 980 Ti AMP! Extremeに約1.2倍差をつけて圧倒。GeForce GTX 1070 AMP Editionも前世代のウルトラハイエンド製品に約3%差に迫るスコアを記録した。
消費電力では、GeForce GTX 1080 AMP Extremeが314W。GeForce GTX 1070 AMP Editionは261Wを記録。GeForce GTX 980 Ti AMP! Extremeよりそれぞれ約70Wと約120Wも低い電力を記録している。
これらの結果から、ベンチマークスコアを消費電力で割った「1Wあたりのベンチマークスコア」を比較したものが以下のグラフだ。
GeForce GTX 980 Ti AMP! Extremeが1Wあたり約12というスコアなのに対し、Pascal世代の2製品は1Wあたり17~18程度。電力対性能比ではPascal世代のGPUが約1.4倍の差をつけているということになる。
オーバークロックモデル同士の比較であっても、Pascal世代がMaxwell世代のGPUを大きく上回る電力効率を実現していることには変わりない。
「Power Target」の調整で電力効率は4割アップ!OC版GTX 1080/1070の美味しい部分を引き出すテクニック
さて、いよいよ今回の本題、Power Targetを調整して電力効率を向上させるテクニックとその効果のほどをチェックしていこう。
Power Targetとは、NVIDIA製のGPUが備える自動オーバークロック機能であるGPU Boost動作におけるリミッターとして機能する数値のひとつ。
動作クロックを引き上げてパフォーマンスを高めるGPU Boostには、「温度」と「消費電力」という2つのリミッターが設けられており、GPUや基板にダメージを与えてしまう条件でGPU Boostが作動するのを防いでいる。Power Targetは消費電力のリミッターとなる数値で、ビデオカードのVBIOSに記録された基準の消費電力に対して、パーセンテージで設定を行う。
今回テストするGeForce GTX 1080 AMP Extremeのようなオーバークロックモデルでは、GPU Boostをより積極的に活用して最大限のパフォーマンスを得るため、強力なGPUクーラーを搭載することで「温度」のリミッターを緩和。さらに、VBIOSの消費電力をリファレンスモデルより高い値に設定することで「消費電力」のリミッターも緩和している。
これにより、発熱と消費電力が増加するオーバークロックモデルでも、温度や消費電力のリミッターに引っかかることなくGPU Boostが機能するという訳だ。
今回のテクニックはこの仕様を利用して、Power Targetを引き下げることであえて消費電力のリミッターを有効化し、GPU Boostによるオーバークロックを制限して電力効率の改善を図るというもの。Power Targetの設定は、ZOTAC謹製のGPUユーティリティ「FireStorm」を使用する。
実際に行う設定は、標準では100%に設定されているPower Targetを引き下げるというもの。GPUクロックや電圧の設定には一切触れない。
この簡単なチューニングで、GeForce GTX 1080 AMP Extremeの動作をどこまで改善できるのか。Power Targetを設定可能な最小値である50%から、通常値の100%までの間で変化させ、3DMark Fire Strike Ultraのスコアとピーク電力を測定した結果をまとめた。
グラフをみると、Power Targetを低い数値に設定するごとにピーク電力が大きく低下しており、最小設定である50%時にはGeForce GTX 1080 AMP Extremeの消費電力は200W以下にまで低下している。
大幅に低下したピーク電力に対し、3DMarkのベンチマークスコアの低下は非常に緩やかであり、Power Target 50%時でもGeForce GTX 1080 AMP Extremeのスコアは4,967を記録。これは100%時9割に相当し、前世代のGeForce GTX 980 Ti AMP! Extremeを超えるスコアである。
上のグラフは、GeForce GTX 1080 AMP Extremeが記録したベンチマークスコアをピーク電力で割った「1Wあたりのベンチマークスコア」をまとめたもの。Power Target 100%時には1Wあたり「約17.7」だったスコアが、50%時には「約25.9」にまで向上しており、電力効率の差は最大で1.46倍に達する。
「Power Targetを引き下げるだけ」のテクニックが、Pascal世代のオーバークロックモデルにおいて、ピーク電力と電力効率を大幅に改善できることがお分かりいただけただろう。
GeForce GTX 1070 AMP Editionで同様の調整を行った際の結果を以下のグラフにまとめた。GeForce GTX 1080 AMP Extreme時と同じく、Power Targetを調整することで電力効率が大きく向上していることが確認できる。
Power Targetの調整による電力効率の改善と消費電力の削減は、GPUの発熱を低下させる効果もある。GPUの発熱が低下すれば、GPUクーラーはより低いファン回転数で十分な冷却が可能となり、静音性の向上が期待できる。
以下のグラフは3DMark Fire Strike Ultra実行中のファン回転数とGPU温度をグラフ化したものだ。
ZOTACのオーバークロックモデルが備えるGPUクーラー「IceStorm」の冷却性能は強力であるため、Power Targetを調整しない状態でもベンチマーク中にファンを停止するほどの余裕がある。
どちらのカードも元々の静音性は高いのだが、Power Target 50%に絞ることで、セミファンレス機能によってファンが停止する時間はより長くなり、ファンの動作中も回転数は1,000rpmを下回った。ここまで低い回転数なら、ビデオカードの動作ノイズはほとんど気にならないほど小さい。
GPUの電力と発熱を削減するPower Targetの調整は、静音性の向上という面でも有効なテクニックなのである。
安定性を損なわず簡単に高い電力効率を得られるPower Targetチューニング
簡単な設定で大きな効果が得られるPower Targetの調整は、GPU Boostの動作にリミッターを掛けるというだけのものであるため、GPUクロックや電圧を調整する「ダウンクロック」のように安定性を損なうリスクがないというメリットがある。
今回テストに用いたZOTAC製ビデオカードは、オーバークロック性能を引き出すため、高性能なGPUクーラー「IceStorm」と高品質な基板を備えている。電力効率を追求したいという観点でオーバークロックモデルを避けていたユーザーでも、Power Targetの調整ひとつで電力効率をここまで引き出せるなら、ハードウェア面で魅力の大きいオーバークロックモデルを選ぶメリットは大きい。
Power Targetを調整するテクニックを駆使するなら、Pascal世代のオーバークロックモデルは、状況に応じて性能志向と電力効率志向を任意で切り替えられる、実に魅力的なビデオカードと言えるだろう。
[制作協力:ZOTAC]