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オートデスクの専門家が語る「モバイルワークステーション」活用法、Quadro搭載のハイエンドノートPCはどう使われるのか?
text by 石井英男
2017年8月10日 11:33
昨今、すっかり人気製品となった「ゲーミングノートPC」だが、同じく高性能なノートPCとして存在するのが、ワークステーション向けGPUを搭載した「モバイルワークステーション」だ。
そして、この「モバイルワークステーション」は、ゲーミングノートPCで人気メーカーとなったMSIがここ数年、注力しているジャンルでもある。同社では、「ゲーミングノートPCで培った様々なノウハウを投入し、性能だけでなく、機能や使い勝手などの点でも特徴のある製品になっている」と説明しており、ゲーミングノートPCや超小型PC、バックパックPCなど、数多い同社のラインナップの一つになっているという。
とはいうものの、「モバイルワークステーション」がどういう場面で使われるのか、イメージできない読者も多いだろう。
そこで今回、同社のモバイルワークステーションを活用している利用者にインタビュー、「選択のポイント」を聞いてみた。
お話をお伺いしたのは、3D CADソフトの雄「AutoCAD」をはじめ、様々な著名ソフトを扱っているオートデスクでテクニカルスペシャリストを務める佐々木 秀成氏と、MSIの製品担当者、中原 衆望氏だ。
なぜ「モバイルワークステーション」なのか?性能は当然、重要なのは「動くこと」
――まずは、佐々木さんの普段のお仕事について教えてください。
[佐々木氏]:私の仕事は、オートデスクの自動車向けソフトウェア「Alias SpeedForm」や「VRED」のプリセールスがメインになります。これらは、自動車の意匠や外観を素早く、美しく作るためのソフトウェアなのですが、これらをお客様にご提案して、場合によってはお客さまの質問にお答えし「このソフトウェアだったら、うちでやりたい仕事ができるね」と確信を持っていただく、というのが仕事の内容になります。
もう1つは、ジェネレーティブデザイン(注:コンピュータそのものがデザインを提案する仕組みのこと)やAIを使ったコードの最適化にも私は興味を持っていまして、そういった分野のデモンストレーターなどもやっております。
――そうした最先端のソフトウェアを活用するお仕事ですと、PCに対するハードウェアの要求も高くなると思うのですが、PCを選ぶときにはどのような点を重視されるのでしょうか?
[佐々木氏]:まず、前提条件として「ちゃんとした性能が出ること」が当然の条件になりますね。お客様の前でちゃんとしたデモができないようではしょうがないので。
その上で、重視しているのが「出張先でちゃんと安定して使えること」ですね。私のような立場…………、具体的には「デザイナーの言葉と、最先端の技術に通じていて、なおかつ動ける」っていう人間は、会社の中でもあまりいないので、どうしても出張が多くなるので。
PCは重くても別に構わないんです。一番怖いのは、行った先でディスプレイが表示されないとか、キーボードがへこんだまま返ってこないとか、最悪、OSすら起動しなくなったみたいなトラブルです。別の観点で見ると、小規模な展示会などに出展する際、高性能なノートPCがあると、デスクトップPCを送り込まずに済むんですよね。デスクトップPCを送るとなると、送付や組付けのトラブルなども想定しないといけないですが、モバイルワークステーションのような製品であれば、極端な話、当日背負って持っていけばいいわけで。
そして、そうした条件の次に出てくるのが「大きさ」ですね。最近は、HMDや各種変換ケーブルなど、他に持ち歩くものも多くなってきているので、小さい方がありがたい、というのはやはりあります。
それから、意外と重要だと思っているのが、キータイプの音とかファンの排気音ですね。展示会ではいいんですが、会社の役員さんを前にしたプレゼンテーションでは、キータイプの音がうるさいとデモの印象を損ねてしまいますし、どうしてもプレゼンテーションから意識が離れていってしまう、と感じます。
最後に、出力ポートの多さです。いまだにDVIを使っている会社さんもありますし、逆にUSB Type-Cしか駄目というところまでいろいろあります。エンジニアとしては、どんな環境でも対応できるように、変換アダプタや変換ケーブルを持ち歩いたりするのですが、出力ポートが充実していると、お客様先で接続を1回外したりなんてことをせずにスムーズに始められますね。
オートデスクの「VRED」も十分動作「重量が軽くていい」(!?)
――MSIのモバイルワークステーション「WE72 7RJ」を使われている、とお伺いしましたが、いかがでしょうか?
[佐々木氏]:音が静かでとてもいいですね。バッテリーの持ちもいいし、ポートも充実していて、結構気に入って使っています。
ちなみに私、ハイエンドゲーミングノートPC「GT83VR Titan SLI」も使っているんですが、やはり「WE72 7RJ」はすごく重量が軽くていいな、とも思っています(注:GT83VR Titan SLIは5.5kg、WE72 7RJは2.7kg)。
私が使っている「VRED」は、本当に実写みたいな綺麗なグラフィクスをリアルタイムでぐるぐる回して見ることができるんですが、「それを実現するのに、GT83VRのような大げさなものが必要なの?」って思われちゃうと、スタートラインとしてはマイナスなので、そういう意味でも「このサイズでこの性能」というのもありがたいです。
WE72 7RJが搭載するQuadro M2200であれば、VREDも十分に動きます。
あとは画面ですね。
VREDは、輝度レンジが高いところ、要するにHDRとかの域も計算していて、ちゃんと描写するのですが、大人数だからといってその場にあるプロジェクターで映してしまうと全然綺麗さが伝わらないんですよね。だからよく「この画面を見てください」なんてことをやるんですが、そうしたときはディスプレイの発色の良さがありがたいです。
ただ、キーボードの配置がちょっと気になりました。デリートキーやバックスペースキーなどの位置ですね。
――そのほかの点ではいかがでしょうか?
[佐々木氏]:そのほかの点だと、手を置くところが熱くならないのがいいですね。使っているうちにパームレストが熱くなってくるノートPC、というのは結構あると思うんですが、直感的にデザインを描いたりするタイプなので、パッて手を置いたときに、熱いとダメなんですね。「使っていると熱くなってきて、ファンが回って、それでも冷えなくて………………」という製品だと、熱いし音が出るし、ちょっと避けたいです。
[中原氏]:そう言っていただけると、「してやったり」感がありますね(笑。MSIでは、モデルごとに最適な冷却システムを設計しているのですが、パームレストやキーボードの温度については、すべて第三者機関で測っていただき、競合する他社製品より4℃か5℃くらい低い結果を出しました。それから、右上にCooler Boostというボタンがあるんですけれども、それを押すと、強制冷却が行われ、さらに最大5℃下げることができます。
[佐々木氏]:Cooler Boostも結構私は使っていて、例えば、「会議室で数人相手にプレゼンテーションをしている」場面だと、Cooler Boostをオンにすると音が気になってしまいますが、「10人くらいいる部屋で議論中」という場面だと、特に気にならないというか、耳に入らないので、「きびきび動かそう」という意図でオンにします。
気に入っているのは、これがハードウェアスイッチになっている点ですね。とっさの判断を求められたときに、「じゃあタスクバーを右クリックして、そこからポップアップしたメニューをさらに右クリック、オプションを開いてCooler Boostを実行する………」とかだと、まず使わないでしょうね。
個人的には、こうしたハードウェアスイッチをもっと増やしていただけると、非常にいいなと。例えば、ディスプレイ出力を「複製」の状態でプレゼンテーションしている際、お客様から別の資料をご覧になりたいという希望があったとすると、「資料を出すためには1回デスクトップを見せなきゃいけないけど、デスクトップがごちゃごちゃしているので見せたくない」ということが起きたりします。ディスプレイ出力も、Windowsの機能で選ぶというより、ハードウェアスイッチで出力をオフにするとか。そういった機能がついているとありがたいです。
あとは「かっこうよさ」ですね。
私の上司も「“オートデスクは、かっこよくていいものを作っている”というイメージを大切にしたいし、そのためにも、道具としてのPCのかっこよさは重要」と言っておりますし、サポート担当者で、MSIの赤いゲーミングノートPCが気に入ったので、社内で使っている人もいます。そこまでのスペックは、その人の仕事には必要ないのですが、それを使って仕事をしたいということで。私もデザイナーでもありますし、お客様もそうなので、尖ったものを持ちたいというのがありますね。
「ゲーミングノートPCで十分な品質を実現できたから、モバイルワークステーションに」
――MSIのモバイルワークステーションは、ゲーミングノートPCをベースにしていると思いますが、違いは何でしょうか?
[中原氏]:最大の違いは「搭載GPUが異なる」というところですね。ゲーミングノートPCでは、GeForceシリーズを搭載していますが、モバイルワークステーションでは、Quadroシリーズが搭載されています。
また、セキュリティにも配慮しており、BIOSやHDDのセキュリティ保護のためにTPM 2.0を搭載しています。また、今回のWE72-7RJにはないですが、ハイスペック薄型軽量タイプのWS63シリーズではタッチパッド部分に指紋認証リーダーも搭載しています。そのほか、OSがWindows 10 Proになっているのも違いで、当たり前ですが「ビジネス」を意識した設計になっています。保証期間も、ゲーミングノートPCは2年ですが、モバイルワークステーションは3年です。また、今後の話になりますが、法人用のサポートプログラムも用意する予定です。
ただ、それ以外については「モバイルワークステーションだから」といって大きく変えている個所はありません。逆に言うと、「ゲーミングノートPCでそれだけの品質を実現できたから、モバイルワークステーションに参入した」ということをアピールしたいです。
我々が皆さんに体験していただきたいのは、あくまでも「安定したパフォーマンス」です。それが実現できないのであれば、MSIとして、これは自分たちの製品とは言えない、と。
ちなみに、それを実現するために、特にこだわっているのが、ゲーミングノートPCも含めてですが、メモリの品質です。
MSI製品に採用されているメモリは、メモリメーカーの品質管理過程を通過した後、「そのメーカー刻印が押されたもの」しか使っていません。メモリメーカーさんが、品質によってグレード分けしてメモリやSSDを出荷しているのは周知のことと思いますが、やはり「そのメーカーの刻印が押されたもの」は確実な品質があります。だから、我々は、特にメモリとSSDについては、そうした基準にこだわります。
他社さんでも、ハイエンドモデルではもちろんそうした信頼性の高いメモリを使っていると思いますが、非常に安いモデルでは、恐らくそういうメモリを使っていないはずです。
――なるほど、ちなみに佐々木さんから何かご要望はありますか?
[佐々木氏]:さきほどのキーボードの配置ぐらいですね。あと、必要なハードウェアスイッチがあれば、私的には一番仕事がしやすいマシンになります。他のスペックや機能はもう十分満たしてますので。そうそう、USBポートが側面にありますが、そこから伸びるケーブルが邪魔になることがあるので、上のほう、ディスプレイの側面にUSBポートがあったほうがいいかもしれないです。
[中原氏]:USBポートをディスプレイ側に搭載するのは、斬新なアイデアだと思います(笑。のちほど、エンジニアに伝えておきますね。また、我々の認定サポート店第1号がパソコンショップ アークさんなのですが、テクニカル面が非常に強く、標準の日本語キーボードを英語キーボードへの交換サービスも行っています。これは、有料サービスではありますが、選べる、というところを大事にしたいです。
――最後にモバイルワークステーションの購入を検討されている読者の方へのメッセージをお願いします。
[佐々木氏]:やっぱりビジネスを不安にさせないためには、いい道具を持つことに尽きると思います。そのとき、自分が一番信頼できる相棒であれば、その人の一番いいパフォーマンスを引き出せますし、世の中にはいろんなものがあるので、いろんなものを触って体験して、自分にはこれがいいというものを見つけるのがいいと思います。たぶん、いくつか見たら、MSIを選ぶと思います。
[中原氏]:MSIって波乱万丈な会社経営をしているんですが、製品ラインナップも落ち着きまして、製品の品質も向上し、信頼性も上がりました。今後も、引き続き、佐々木さん含め、様々な方と色々な協業をしながら、お互いにWin-Winになる形で進めていけたらいいなと思ってます。そして、モバイルワークステーションを購入する際に、MSIがその選択肢の一つになればと思っています。みなさま、よろしくお願いいたします。
[提供:MSI / 取材協力:オートデスク]