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24時間ド安定なマザーを開発できたわけ、BIOSTARが語るマイニングマザーボードのポイント

実はRyzen用Mini-ITXマザーで一番乗りを達成、今後のトレンドはGaMiner? text by 石川ひさよし

BIOSTARはベーシックなモデルから特殊形状のマイニング向けまで様々なマザーボードを手がけている。
BIOSTAR台北本社。漢字では映泰と表記し、「映」は光るモノの意味、「泰」は中国の有名な山である泰山からとっているとのこと。

 90年代から2000年代初頭にかけて多くのメーカーが参入したマザーボード業界。気がつけば店頭で購入できるコンシューマー向け製品のメーカーとなると、ほんの数社しか残っていない。

 そんな中、「あれ!そう言えばすごく息が長いよね」というのが、一昨年あたりまでのBIOSTARのポジションではないだろうか。

 しかし、直近ではAMD Ryzen向けで他社に先駆け最初にMini-ITXマザーボードを投入したり、マイニングマザーボードで大きなシェアを獲得したりと、存在感を増している。

 そんな気になるメーカー「BIOSTAR」の台湾本社を訪れ、マザーボードを設計する上でのこだわりをうかがってきた。

マザーボードを作り続けて32年、実は歴史の長いマザーボードメーカー

 BIOSTARの本社は、台湾の台北駅からMRT(台北地下鉄)に乗って南に数10分、新北市内に拠点を構えている。今回、話をうかがったのは、セールス部門の副社長であるVincent Lin氏、そして北米マーケティング&セールス部門マネージャーのJesse Chen氏だ。

BIOSTARのSales VP、Vincent Lin氏
BIOSTARのMarketing & Sales Division Sales Manager、Jesse Chen氏。現在、北米を担当しているが日本市場についても明るい

――:BIOSTARと言えば、日本市場でも古くから参入されていましたが、設立されたのはいつごろのでしょうか。

BIOSTARのロゴは三角形(トライアングル)は、それぞれの角がBIOSTAR、エンドユーザー、Customers(代理店)の協力関係や利益バランスを意味しているとのこと
BIOSTARのロゴマーク。

[BIOSTAR]:BIOSTARは32年前、1986年に創立しました。

 最初10年ほどは世界の大手PCメーカーのマザーボードを生産する、いわゆるOEM中心に活動していましたので、自作PCユーザーでこの頃を知る方はあまりいらっしゃらないかもしれません。しかし、日本でも聞いたことのあるPCメーカーのマザーボードを製造しておりました。

 1996年以降になり、それまで10年間で得た技術、信頼性をもって自社ブランドでの展開をはじめました。日本市場でマザーボードを販売しはじめたのもその頃です。

 古くから自作PCを楽しんでいる方は、その頃のことを覚えてらっしゃるのではないでしょうか。

自社ファームで日夜研究、ド安定なマイニング用マザーボードを作るためのポイント

――:それでは、話題のマイニング用マザーボードからお聞きします。まず、マイニング向けマザーボードはどのような経緯でリリースされたのでしょうか。

マイニング用マザーボードの「TB250-BTC D+」のサンプル機

[BIOSTAR]:我々は仮想通貨が登場して早い段階から注目しておりました。2012年にはASICやマイニング専用ボード「BTC-25GH」を世界で初めて展開しております。まだ当時はDDR3メモリの時代で、チップセットはIntel B85の頃でした。

 今では「Crypto Mining」シリーズマザーボードとして、数多くの製品を展開しております。とくに仮想通貨の高騰が激しかった一昨年~昨年は生産が間に合わないほど注文をいただき、一部では中古品にプレミアが付くほどの勢いでした。

 最近になって他社からもマイニングマザーボードがリリースされはじめましたが、弊社のモデルを参考にしたのかな?といった製品を多く見かけるのではないでしょうか。

――:どうしてこの分野で他社を出し抜くことができたのでしょうか。

マイニングリグの構築には、マザーボードやビデオカードのハードウェアだけでなく、ソフトウェアを含めた様々なノウハウが必要とのこと。

[BIOSTAR]:早くから注目していたこともありますし、実際に社内で採掘を行い、日々レートをチェックし、常に仮想通貨のトレンドを追っていたというのもあります。

 このフロアにも小規模な採掘施設を設けており、別の施設にはマイニングファームを備えています。そこで実験を行いつつ経験を蓄えているのです。

 例えば通常のPCでは、新しいドライバが登場したら速やかに適用するのが一般的ですが、新しいドライバにすることでマイニング用途では安定性が悪くなったり、パフォーマンスが低下したりと、いろいろと問題が出てくることがあります。そうしたソフトウェア面も含めてノウハウを蓄積しています。


インタビューを行なった本社の一角にある採掘施設。マイニングのテストのため、この部屋のみ独立した電力を引いており、採掘を行なっている。取材時は肌寒いくらいの気温だったが、室内はかなりの暑さだった。

マイニング向けマザーボードは超高耐久パーツの塊今後のトレンドはGaming + Miningの「GaMiner」?

――:マイニングマザーボードと一般向けマザーボードはどのように違うのでしょうか。

部品の品質は産業向けマザーボード並み。バックパネルのI/Oも必要最小限
電源のレイアウトもマイニング向けマザーボードでは異なる

[BIOSTAR]:一般向けマザーボードは、負荷がかかると言っても1日8時間程度使用を想定して設計されています。

 一方、マイニング用マザーボードはまる1日24時間、1ヶ月……ノンストップで常に高負荷をかけ続けても安定していることが求められます。

 マイニングリグ1台で8基のGPUを搭載し、その消費電はも1,300W以上かかります。ファームではこれが数百数千と稼働します。こうした環境を想定したマザーボードでなければなりません。

 マイニング向けマザーボードには、一般向けマザーボードよりもさらに耐久性が高い部品を採用しています。耐久性への要求は、ほとんど産業向けマザーボードと同じレベルになります。

 この安定性・耐久性を軸にマザーボードを開発するのですが、ここで最初の10年間に培ったOEM向けマザーボードや産業向けマザーボードの製造ノウハウが生かされているのです。

ビデオカードの端子後部を固定するラッチも搭載していない。これはマイニングで使用する際に、本当に必要となる部分にのみコストをかける設計思想でデザインされているためだ。こうした部分を徹底することで高コストパフォーマンスな製品が生まれる。

 レイアウトでは、多数の拡張カードスロットを搭載する必要があるため、専用設計になります。マイニングやブロックチェーン向けのケースに収める特殊形状のモデルなどは、ビデオカード用の電源を一度マザーボード側に取り込み、そこから配線する仕組みになるものもあります。

 ほか、一般向けマザーボードは、縦置きでケースに収めることが一般的ですが、マイニングマザーボードはリグを用いて平置きで運用することが一般的です。そのため、重いビデオカードを搭載する際の補強金具や固定具は不要です。そうした部分にも設計思想の違いがあります。

 ここで一つ製品をご紹介したいのですが、こちらのマイニングシステムは、マザーボード、ビデオカード、ケース、すべてBIOSTARが設計・製造したものになります。


ほとんどのPCパーツがBIOSTAR製品で作られたマイニングシステムもある。

――:マイニングと言うと、パーツ単位で購入し、ユーザーが組み立てていくのが一般的ですが、なぜシステムを展開しようと考えたのでしょうか。

ビデオカードの固定方法も独特。

[BIOSTAR]:マイニングはノウハウが重要です。先にお話しましたソフトウェアについても同様ですが、パーツ単位で購入していくと、システムを構築して実際にマイニングを開始するまでに1週間程度かかることが一般的です。

 マイニングを始めようという方が、すべて自作PC上級者というわけではありません。このシステムであれば購入して、上級者ではなくても、速やかにマイニングを開始することができるわけです。

 冷却についても最適化しており、いろいろと検証した結果、ファンの回転数は4,000rpm以上に設定しています。これでカバーを付けた状態でも問題なく24時間稼働が可能です。

3基並んだファンは軸が大きい高回転仕様。4,000rpm以上で設定されていると言う。
本体後部側、ビデオカードの後ろにもファンが並んでいる。

――:マイニングの今後についてはどのような見通しでしょうか。

[BIOSTAR]:一時期の熱狂は過ぎ、やや落ち着きを見せていますが、今後も通貨としての存在感は引き続き示していくのではないでしょうか。

Gaming+Mining=GaMinerを提唱

 これからは新しいジャンルとして、Gaming+Miningの「GaMiner」を提唱します。ゲーマーはすでにハイエンドGPUをおもちですから、それをマイニングで活用してみては、というわけです。普段はゲームを楽しみ、空き時間にマイニングをするといった提案です。

 実はこうした動きは2017年ごろから出始めております。BTC PROシリーズはこうしたGaMinerに最適なモデルです。

 もちろん、ゲーマーは基本的に普段ビデオカード1枚で運用しているでしょうし、ビデオカード自体も今現在高価で複数枚搭載しにくい状況です。しかし、ビデオカードは価格が落ち着き入手しやすくなった際に追加すれば良いと思いますし、その時のためにマイニングにも対応したマザーボードを選んでおくのもよいのではないでしょうか。

 マイニングマザーボードは非常に耐久性が高いので、マイニングに使用せずとも、安定性が重視される用途に向けたマザーボードとしても良い選択肢になるはずです。常時稼働の環境には特に相性が良いと思いますよ。

他社に先駆けた製品が投入できる開発スピードがウリAMD X370搭載Mini-ITXマザーを他社より速く投入できたわけ

――:それでは一般向けマザーボードについてお聞きしたいと思います。BIOSTARの一般向けマザーボードはここ数年、どのように変化してきましたか。

ゲーミングとOCのジャンルをカバーするRACINGシリーズ。こちらはタワー型ケースで重量級ビデオカードを搭載してもスロットが歪まないよう金属製のスロットが採用されている。またイルミネーションLED用の端子を備えるなど、コンシューマーのトレンドを取り込んだものになっている。

[BIOSTAR]:BIOSTARでは、「T-series」というオーバークロック向けマザーボードを2000年から展開しておりました。そのT-seriesを経て、今現在はオーバークロック向けに「RACING」シリーズ、オーディオ向けには「Hi-Fi」シリーズといったマザーボードを展開しております。

 少しニッチなジャンルですが、日本市場で人気のMini-ITXにも力を入れています。特にRyzen用のMini-ITXマザーボードはいち早く市場に投入することができました。

――:AMD Ryzen向けのMini-ITXマザーボードは印象的でしたね。なぜあのように早い段階で製品を展開できたのでしょうか。

AMD Ryzen向けMini-ITXマザーボード。AMD X370/B350用のものは他社よりもいち早く投入され話題を呼んだ。

[BIOSTAR]:AMDからの協力があったことも確かですが、我々はコンパクトな会社ですので、速やかに意思決定ができることも強みです。これはマイニング向けマザーボードでも同様ですね。

 一般的に、マザーボードの開発は半年程度かけて行なうものです。製品の企画を立ち上げ、社内の様々な部門と会議を行って申請を通し、はじめて設計に入れます。その後も実際に製造した製品に問題が無いか検証も必要になりますし、マーケティング上の調整なども必要になります。最終的に製品がユーザーの手元届くまでかなりの時間が必要になるのです。

 しかし、我々はその半分、3ヶ月程度で製品化まで実現することができます。製造や検証の時間以外の部分を限りなく短くできる点は大きなアドバンテージになっています。

――:Mini-ITXマザーボードは設計の難易度も高いと思われますがいかがでしょうか。

DDR4メモリスロット周辺の回路パターン。複雑な配線になっているが、こうしたものも技術の積み重ねがあるから実現できる部分だ。

[BIOSTAR]:まず、OEMの時代に培った設計技術があります。OEMのお客さんは回路設計や品質にとてもこだわります。BIOSTARが自社ブランドマザーボードを展開できたのも、OEMで培ったBIOSとハードウェア技術が大きいです。

 その上で、その頃からマザーボードの設計・開発に携わっている熟練エンジニアも抱えております。そうしたベースがあって、素速くニーズを捉え、信頼性の高いマザーボードを速やかに展開することができるのです。

 Mini-ITXマザーボードの設計も、こうした技術やノウハウの積み重ねの結果があるからこそ設計できたと言えます。

――:少し個別の製品についてお聞きします。BIOSTARのマザーボードを見てまず目につくのが小ぶりなヒートシンクかと思います。オーバークロックを掲げるRACINGマザーボードでも、やや小ぶりに思えるのですが、これはポリシーなのでしょうか。


とくに自信を見せるのがVRM周辺の設計。高効率回路で発熱を抑え、小ぶりのヒートシンクは質実剛健な設計とされる

BIOSTARのRACINGシリーズマザーボードの特徴。ぱっと見でBIOSTAR製品だとわかるように製品パッケージはレースを連想させるデザインで統一されている。

[BIOSTAR]:通常のオーバークロックであれば問題ありません。RACINGシリーズで特に大事にしているのは電力の変換効率で、ここは90%以上を実現しております。ここで発熱を抑えられるため、小型のVRMヒートシンクでも十分に冷やせるのです。

 もちろん、チャンバーによる耐久性テストも実施しておりますし、CPUクーラーがトップフローでもサイドフローでも、CPU直上にエアフローがない水冷であっても問題ありません。

 他社のヒートシンクが大きいのは、そこが目立つからで、デコレーションという意味あいが強いのではないでしょうか。

――:目立つという点では、そこを大きくしないのはもったいないのではないでしょうか?

[BIOSTAR]:PCはマザーボードが主役というわけではありません。PCというシステム全体で考えれば、マザーボードだけが特別目立つものである必要はないでしょう。

 我々のマザーボードは、ブラックPCBを採用していますが、加えてRGB LEDやRGB LEDストリップ用の端子を備えています。それを利用すればよいと考えています。


AIO向けでビデオカードも搭載できるマザーボードを見せていただいた。薄型筐体にビデオカードを収めるため、PCIeスロットは基板側面に搭載されており、こうした特殊なマザーボードの設計も得意としている。

OEMで培った確かな信頼と品質、BIOSTARは「質実剛健」がウリ

――:最後に日本市場について伺います。BIOSTARは日本市場をどのように見ていますか。

[BIOSTAR]:日本市場は成熟市場でして、トップエンドはASUSやMSI、GIGABYTE、ASRockがしのぎを削っています。我々の市場はその一つ下、ハイエンド~メインストリームになります。

 一方、マイニング分野では、電気代とのバランスもありますが、それでも潜在的にゲーミングPCニーズが高い日本市場では先程紹介したGaMinerがマッチしていると思います。そうしたユーザーには、本格的なマイニングマザーボードよりも、通常のマザーボードのフォームファクタでマイニング用途にも発展できるBTC Proシリーズがオススメできると思います。

BIOSTARが狙うのはひょうたん型の市場ニーズの下の丸みの部分。右の図のように日本市場のデマンドとは少し相反するが、しっかりと捉えていきたいとのこと

――:日本のユーザーに向けてアピールやメッセージをいただけますか。

[BIOSTAR]:BIOSTARは32年間、コツコツとマザーボード業界でがんばってきました。今では様々な製品を展開するにいたっております。日本はアジアの先端マーケットです。日本のユーザーに安心できる製品をお届けするとともに、これまで以上に積極的に新製品を開発・投入してまいります。

 マイニング分野につきましては、今、チャートが乱高下しています。しかし2018年も引き続き仮想通貨が注目される年になると思われます。

 現在、日本市場ではマザーボードのみで展開していますが、もしかしたらリグ、システム製品も展開するかもしれません。マイニング関連以外にも、耐久性や安定性に関するノウハウを活かしたゲーミングマザーボードなども積極的に展開していくので、ご期待いただければと思います。

 今後も我々は安心と信頼をお届け出来るブランドとしてがんばってまいります。

――:ありがとうございます。

[制作協力:BIOSTAR]