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古代祐三×マインドウェア市川幹人対談 第2回 メガドライブ時代の裏話も続々!

 この夏にBEEP2+Soundsレーベルから発売された「古代祐三 Early Collection BOX」。本企画は、同作の発売を記念してゲーム音楽作曲家、古代祐三氏の活動初期のエピソードを対談形式でお届けする。対談のお相手は、古代氏と二人三脚でゲームの開発を行った、マインドウェア社長・市川幹人氏。第2回目は、古代氏が市川氏の会社で仕事を引き受けた時の話題が中心だ(第1回目はこちらから)。

古代祐三氏
80年代から現在にいたるまでコンピュータゲーム音楽に大きな影響を与え続ける作曲家、ゲームプロデューサー。株式会社エインシャント代表取締役社長。代表作は「イース」、「ベアナックル」、「アクトレイザー」、「湾岸ミッドナイト」など
市川幹人氏
有限会社マインドウェア代表取締役。1987年にM.N.M Softwareとして創業後、PC-98シリーズ向けに「ジャンプバグ」などを発売。2017年10月には、アーケードの名作「平安京エイリアン」をリメイク&復刻し、リリースしている

「飛翔鮫」が作られていれば、楽曲担当は間違いなく古代氏に!?

――:(Vol.1で古代氏が通った地元のゲームセンターにアタリの「スターウォーズ」があったという話を受けて)当時のM.N.Mソフトウェア(市川氏の会社)で「スター・ウォーズ アタック・オン・ザ・デス・スター」(発売:ビクター音楽産業)を制作した時も、すぐに話が進んだのでしょうか?

M.N.Mソフトウェアが開発し、ビクター音楽産業から発売された一人称視点のワイヤーフレームシューティングゲーム「スター・ウォーズ アタック・オン・ザ・デス・スター」

[市川氏]:あのときは、古代さんにサンプルを見せた瞬間、「やりましょう」という返事がありました。やるしかない! という感じでした。

――:見た目的には、アタリ版「スターウォーズ」に、かなり寄せているのかと思ったのですが……。

[市川氏]:いえ、寄せてはいません。というか、ベクタースキャンで「スターウォーズ」のクライマックスシーンを作ると、ほぼ同じになります。誰が手がけても「スターウォーズ」のあのシーンを作れば近いものになると思います。それ以上はもう、説明しようが無いという感じですね。

――:X68000版「スター・ウォーズ アタック・オン・ザ・デス・スター」を起動すると、酒場のテーマ曲が流れますよね。アーケード版ではネームエントリーの曲でしたが、それがここで聞けてしまうとは! と思いました。

[市川氏]:あれは、たまたまです。何か、外した感じの曲が1つ欲しいと思ったので。私が古代さんにお願いしている楽曲、すべてジャンルが違いますよね。

――:そうですね。今回のCDBOXに収録されているタイトルでも、先に挙げた「THE CURSE OF MARS」のほかに、M.N.Mソフトウェアが開発し古代さんが音楽を担当してTAKERUで販売されたアクションRPG「アルガーナ」、音楽をエインシャントが担当しM.N.Mソフトウェアが発売したPC-98シリーズ向けのRPG「ゲイジ」など、多岐に渡りますね。

[市川氏]:そこが古代さんの非常に大きな特徴で、ゲームの幅がもの凄く広いんです。ゲームコンポーザの中で一番と思うくらい。

[古代氏]:昔は遊ぶ時間がたくさんあったのと、発売されるゲームもそれほど数がありませんでしたし。

[市川氏]:他にも、何でも一度はちょっとつまんでみよう、というところも、僕が古代さんと仕事をしやすかった要因かと思います。

――:メガドライブに「スラップファイト」も移植されていますが、シューティングもお好きなのでしょうか?

[古代氏]:はい。シューティングは何でも好きでしたね。

[市川氏]:「スラップファイト」は、あの当時のゲームとしてはグラフィックが凄い綺麗でした。

[古代氏]:綺麗でしたね。

横スクロール型のアクションRPG「アルガーナ」。音楽を、古代氏が担当している
クォータービュー視点で進められる、シミュレーションとパズル要素が強いRPG「ゲイジ」。楽曲を、エインシャントが担当
「グラディウス」と同じ、選択式パワーアップを採用したシューティングゲーム「スラップファイト」。メガドライブ版は「スラップファイトMD」というタイトル

[市川氏]:その後は「究極タイガー」や「飛翔鮫」が稼働し、種が芽吹いた感じがしましたね。今となっては残念ですが、「飛翔鮫」(の移植版)を作って欲しいとも言われていたんですよ。

[古代氏]:それは、なぜ実現しなかったんです?

[市川氏]:忙しくてダメでした。「ダッシュ野郎」の移植は完成したのですが、その後に「飛翔鮫」が良いと言ったところ「スターウォーズ」のほうがアメリカで売れると思うと反論され、その後は「スターウォーズ」「マジカルショット」「スライス」と進めてきたら、どこに時間あるのかという話になり、スケジュール的に無理ですと。そのうち、東亜プランが傾いてきてしまい……。もし「飛翔鮫」を手がけていたら、楽曲はきっと古代さんが担当したと思うので、メガドライブユーザーみんながハッピーになったと思います。

[古代氏]:うん、確かに。

――:結局「飛翔鮫」は、FM TOWNSとX68000シリーズでしか発売されていませんよね。

[市川氏]:その後、KANEKOから「究極タイガー」と「TATSUJIN」を作らないかとオファーをもらったんです。このとき、これら3本を発売すると公約したので、作らないわけにもいかず……。

――:「達人王」も含めて4本ですね。マニュアルの端を切り取って4つ送ると箱がもらえると書いてありましたので。

[市川氏]:そうでした。箱がもらえるという、その約束をしていたので作らないといけなかったんです。KANEKOの役員の方からは「権利もあげるので、M.N.Mソフトウェアで全部お願いします」という感じのことを言われ、そんな適当な展開で良いのかと思いました(笑)。そんなことがあったのですが、何はともあれ「スラップファイト」は最高の出来になりました。

――:オリジナルより出来が良いという声も聞かれます。

[市川氏]:実際、メガドライブ用のアレンジ版が“あそこまでやらなくても”というくらいの出来映えでした。ただ、大問題としてはネームエントリの曲が入っていないんですよね。完成前に僕が病気で倒れてバタバタになり、どのバージョンがマスターとして採用されたのかが本人・関係者含め誰も分からないんですよ。それ以降、いつビルドしたのかがタイトルに出るようになりました。

[古代氏]:なるほど。そんなことがあったんですね。

マインドウェア時代も、古代氏と市川氏の二人三脚は続く

――:その後、市川さんが病から復帰すると会社もマインドウェアとして再出発し、手がけたPC-98版の「ジャンプバグ」では古代さんの名前が出ています。

[市川氏]:正しいかどうかを、古代さんに監修してもらいました。

――:「ジャンプバグ」の基板は、純正もコピーも違いがあってないようなものかと……。

[市川氏]:そのために基板を4枚購入して、そこからROMの内容を吸い出し、音を鳴らすプログラムを組み、どれも同じように鳴るかのチェックをしました。

飛び跳ねる自機“バグ”を操作し、ゴールを目指す「ジャンプバグ」。PC-98版のサウンド監修を古代氏が行った

――:コピー基板でも、回路は共通でした?

[市川氏]:コピーライト表記だけ書き換えられて、それで終わりという感じでした。

――:基板は「ギャラクシアン」のコピーで、プログラムは?

[市川氏]:ハンドアセンブルですね。搭載されているROMのうち、00で埋まっているエリアも多いです。

[古代氏]:ということは、グラフィックデータはどこに格納されているんです?

[市川氏]:それは別にありました。256個分のBGが切ってあって、32個単位でバンク切り替えが出来るようになっています。プログラムが最初はたいした命令を使っていないんですが、後半になると非常に凝った作りになっているんです。これは、Z80を覚えながら組んでいるなと(笑)。

――:確か「ジャンピューター」の作者ですよね。

[市川氏]:そうですね。

――:古代さんは、当時「ジャンプバグ」は好きだったんですか?

[古代氏]:はい、大好きでした。

――:今思うと、夢のあるゲームですよね。よく考えれば、なぜ車がジャンプするのだろうかと。

[市川氏]:「スーパーマリオブラザーズ」などに見られる、お金をたくさん回収すると1UPするという仕組み、あれと同じルールを先に採用していますよね。潜在的に数多くのゲームに影響を与えていると思います。

[古代氏]:確かに、もの凄く先を行ってましたね。

――:ピラミッドステージなど、バリエーションが色々あって楽しかったですよね。

[市川氏]:あのステージはアーケード基板がハードとして縦スクロールの機能をもってなくて、原作自体8ドットスクロールなんです。

――:そのマインドウェアでは、2016年にSteamで「宇宙最大の地底最大の作戦」を発売しましたが、楽曲担当は古代さんですよね。どのような経緯だったのでしょうか?

[市川氏]:オリジナルは、雑誌「I/O」にて有田さんという方が発表した「地底最大の作戦」ですが、スマイルブームからDSi/3DS用にダウンロード販売されているプチコン上に移植されていまして、それが原作に忠実な移植だったのでPC上で改良していたんです。そのうちに凝っていってしまい、ここまで来ると製品化できそうという感じになり、オリジナル版の作者である有田隆也氏に許可を取り、グラフィックを「ゼビウス」などの絵を描いたMr.ドットマンと呼ばれる小野浩氏にお願いしました。となると、音楽は大先輩の古代さんしかない、ということになりまして頼んだという経緯です。

――:お二人が携わった作品リストを見ると、20年ぶりくらいなんですか?

[市川氏]:そうです。古代さんが作ったものは世界一なので、僕が古代さんに注文を出したことは、ほぼないんですよ。

[古代氏]:というか、彼の目の前で作りますので(笑)。

[市川氏]:1時間かからなかったくらいですよね?

[古代氏]:そうですね。いろいろと意見を聞きながら作業しましたし。

――:PCゲーム以外では、例えばメガドラの「ベア・ナックルII」はエインシャントとM.N.Mソフトウェアでの開発でしたよね。

セガから発売されたベルトスクロールアクション「ベア・ナックル」の続編「ベア・ナックルII」。開発全般を、エインシャントが行っている

[市川氏]:そうです。当社はサウンドドライバを担当しました。

[古代氏]:私が企画して、エインシャントで作りました。

[市川氏]:古代さんと一緒にゲームセンター“ラッキー”に遊びに行き、そこにあった“某近未来ベルトスクロールゲーム”を見て、こんな感じにしましょうと。

[古代氏]:(笑)。

[市川氏]:他に、「GG忍」もやりましたよね。

[古代氏]:あれもドライバ作成してもらってますよね。

――:市川さんは、結構セガと仕事していたんですね。

[市川氏]:古代さんがセガに紹介してくれて、行くようになりました。

[古代氏]:懐かしいですね。色々思い出してきました。

[市川氏]:断ったんですが、実は「バーチャレーシング」をメガドライブへ移植するオファーも来ていました。

[Vol.3(最終回)へ続く]