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シンプルな電源にこだわるFSP、独自ICが可能にする高効率かつ小型な電源設計とは

トレンドを先取りしたIC制御のPC電源、安全検査設備も併設するFSP本社を見学してきた text by 石井英男

 COMPUTEX TAIPEI 2019の開催に合わせ、台湾の電源メーカーFSPの本社スタッフにインタビューを行なった。

 日本では高コストパフォーマンスモデルが人気であったり、BTO PCでの採用例も多いので、名前を知っているユーザーも多いかと思うが、改めてFSPがどのようなメーカーなのかを確認しつつ、現在のPC電源のトレンドや今後の進化の方向など、本社スタッフに質問をぶつけてみた。

 なお、COMPUTEX TAIPEI 2019で展示されていた新製品に関してはブースレポートをお届けしているので、そちらも合わせて確認してもらいたい。

FSPの台湾本社。桃園市の亀山工業区にあり、約200人が働いている
FSPの新社屋。研究開発部門や製品検査設備などはこちらにあり、約150人が働いているとのこと
COMPUTEX TAIPEI 2019のブースではオープン型ケースや新型電源が複数展示されていた、近年は小型電源に力をいれているとのこと

実は世界で初めてATX電源を販売したメーカーPC電源の分野では老舗のFSP

FSPはIntelと共同で世界初のATX電源を開発・販売したメーカー
リテールマーケティング&セールス部門シニアマネージャーのJoey Cheng氏
リテールマーケティング&セールス部門シニアマーケティングスーパーバイザーのElla Chiu氏

――:FSPは、電源メーカーとして世界でもトップクラスの歴史と実績を誇りますが、その創業の歴史を教えてください。

[FSP]:FSPは1993年に創業しました。会社立ち上げ直後からIntelと共同でATX電源の開発を行ない、世界で初めてATX電源を発売したメーカーとなりました。

当時、Intelから打診を受けてもATX電源の開発に興味を示さないメーカーもありましたが、弊社は依頼を受けた際に未来を感じ、リソースを注ぎました。この判断が正しかったことは、ATX電源が世の中に広く広まり、FSPが会社として大きく成長したことからも分かっていただけると思います。

――:ATX電源が世の中に登場したときからFSPは開発を続けていることになりますが、先行していた分のアドバンテージは大きいのでしょうか。

[FSP]:長く開発を行なっている分、多くのノウハウを得られているという点では大きなアドバンテージがあると言えます。新たな規格や規制などにもいち早く対応できますし、コストを抑えつつ高品質な電源を製造すると言った部分でもアドバンテージがあります。

また、PC電源の開発で得たノウハウを活用し、現在では工業用や医療用の電源も販売しており、総合電源メーカーとして成長しています。もちろん工業用や医療用で得たノウハウをPC電源にもフィードバックしています。

――:PC電源ユニットの世界シェアは現在どのくらいなのでしょうか?

[FSP]:PC用電源ユニットの世界シェアではトップ5に入っています。

――:日本ではオウルテックが代理店となって製品を販売していますが、どのようなきっかけでスタートしたのでしょうか。

[FSP]:最初、日本ではOEM/ODM中心のビジネスを展開していました。自社ブランド製品の販売も行ないたいと考えていたのですが、自社ブランド製品をどう販売するのか、ルートの確保などが難しい状況でした。

そこで、つながりがあったオウルテックさんにFSPブランドの製品を日本でも展開したいと相談したところ、国内販売を引き受けてもらえることになり、現在に至ります。

オウルテックさんは、アフターサービスもしっかりしており、力のある会社だと思います。今後もパートナーとしてこの関係を継続していきたいと思っています。

――:FSPの電源ユニットは、BTO PCでの採用が増えているようですが、理由などはあるのでしょうか

[FSP]:一番の理由は、トラブルが少なく、安定して動くからだと思います。不良率が低いことを評価されることは多いですね。また、生産規模も大きいので、大口需要にも対応できることも評価されている部分です。

自社内に国際基準の安全規格検証施設を設置、開発スピードをアップ

各国の安全規格の認証が行なえる部屋には、認証機関の合格証が飾られていた。
安全規格の検証設備の一部
人の指を模した検査用治具を使用し、人が触れた際に問題がないかといった検査も行なわれる

――:電源の開発に関してお聞きしたいのですが、現在どのような体制でおこなっているのでしょうか。

[FSP]:電源の開発は大きく分けて二つのステップに分けて行なっています。まず、最初のステップは基本設計で、2カ所の開発センターで行なっています。

2ステップ目は検査や改良で、開発センターで作られた製品を台北本社側にある開発部署に送り、量産化するためにブラッシュアップしたり、規格や安全基準的に問題ないかなどをチェックします。

――:社内の検証設備なども見学させてもらいましたが、耐久性をテストする設備だけでなく、安全規格を検証する機器も用意されていました。こうした部分も開発に影響するのでしょうか。

[FSP]:通常、国際規格など安全規格のチェックは専門の外部施設に依頼することが多いのですが、FSPではULやTUVといった各国の安全規格の認証試験が行なえる試験室を自社で所有しており、正式な認証機関としても認められています。

こうした設備を保有することで、製品に問題が見付かった際に素早く対応することが可能です。設備がなければ、その分認証機関とのやり取りの時間を待つことになるので、製品の開発スピードに直結する部分なのです。

また、安全基準の認証機関として認められることで、新たな安全基準や法律の改定などの情報をいち早く手に入れることができるので、開発が早くスタートできるだけでなく、より安全で信頼性の高い製品を提供できます。こうした部分はFSPの大きな強みです。

シンプルなものほど壊れにくい部品100個分の機能を持つ独自ICを開発することで基板をシンプルに

グローバルビジネスユニットアドバンスドスペシャリストのVic Sung氏
RAIDER IIの内部、エアフローを確保しやすいシンプルかつ合理的な設計
品質を落とさず部品数を削減を可能にするという「MIA IC」。100個のパーツに相当する機能を持ち、シンプルな基板デザインを可能にする。

――:製品レビューなどを見ると、FSP製電源の内部構造はシンプルな設計のモデルが多いようですが、それには理由があるのでしょうか。

[FSP]:シンプルな設計は部品数を抑えることができるので、不良率や故障率なども大きく下がります。これはコストダウンのためではなく、信頼性や耐久性を高めるために意識的に行なっていることです。

シンプルなものはやはり壊れにくいので、製品は品質を落とすことなくなるべくシンプルに設計することがFSP製電源のコンセプトです。

また、シンプルな設計を実現するため、自社で多機能な制御用ICを開発しています。これを積極的に利用することで、部品数を抑えつつ高品質な電源の製造を可能にしています。

――:ICの話が出ましたが、これは特殊なものなのでしょうか

[FSP]:弊社ではMIA IC(Multiple Intelligence Ability IC)と呼ぶ自社開発のICを使用しています。ICを電源に使用しているメーカーは弊社以外にもありますが、自社で開発し特許まで取得しているメーカーはかなり少ないと思います。

MIA ICは多機能タイプのICで、他メーカーであれば3種類のICが必要になるところを一つですむよう機能を盛り込んだモデルです。最新の6600シリーズであれば、電子パーツ100個に相当する機能を1チップで実現しています。

電源は内部構造をただシンプルにしたのでは品質が落ちてしまいますが、こうしたICを使用することで、機能を損なわず高品質でシンプルな設計の電源を実現しています。

――:電源基板の設計もMIA ICに最適化してデザインしているのでしょうか

[FSP]:MIA ICに合わせ基板は最適化してデザインしています。汎用のICはPC電源専用にデザインされているわけではないので、ムダになる部分があります。その点、MIA ICはPC電源用に設計しているので、基板設計もPC電源に最適化したムダのないレイアウトが可能です。

優秀な電源基板を設計できるメーカーはありますが、ICまで開発し、それに合わせ最適な基板デザインまでできるメーカーはかなり限られます。信頼性が高いシンプルな設計が可能な点は、FSPが持つアドバンテージと言えるでしょう。

――:MIA ICがもっとも効果を発揮するのはどのような電源なのでしょうか

[FSP]:80PLUS SilverからPlutinumまでの電源はMIA ICの効果が出やすいと言えます。他社が同等の製品を製造しようとした場合、複数の汎用ICを搭載することになり、その分コストがかかります。MIA ICであればこうした部分のコストも抑えられるので、ユーザーに高効率でよい電源を他社よりリーズナブルに提供することが可能です。

また、MIA ICを活用することで電源の小型化も可能になるので、そうした部分でも活用されています。


水冷・空冷両対応電源の「Hydro PTM+」シリーズ
外観も社内のデザインチームが行なっているとのこと

――:電源の外観にもこだわりなどはあるのでしょうか。

[FSP]:目立ちにくい部分ではありますが、こだわりを持ってデザインしています。たとえば、水冷対応電源を例に挙げると、基板設計などを行なうチームと、外観をデザインするチームで協業し、実際にエアフローがよくなるように意識しつつ、見た目のイメージも冷えることが伝わるようにデザインしています。

この製品は性能面でもデザイン面でもなかなかよい評価を得たので、今後も機能と見た目のよさを両立したデザインのモデルを開発していきます。

基板や機能を設計するチームを持っている電源メーカーは多いと思いますが、外観を専門でデザインするチームも社内に持っているメーカーは限られます。OEMで製造する場合などは、製造メーカーが持っているデザインの中から選ぶことになったりもしますしね。

PC電源は大型化と小型化の二極化が進行FSPの電源設計は未来のトレンドを先取り?

650WのSFX電源「DAGGER PRO 650W」
電源の奥行きは10cm、コンパクトかつ大容量がPC用ではトレンド
FSPは産業向けの電源も手掛ける、こちらも面積あたりの出力容量が重視されているとのこと
産業向けの小型電源をPCでも使用可能にしたモデル

――:現在、PC用の電源市場のトレンドはどのようになっているのでしょうか

[FSP]:オフィスで使うような一般向けPCでは、250Wや300Wといった、それほど出力が大きくない電源ユニットが一番売れています。しかし、その市場は今後シュリンクしていくと考えています。

PC全体の市場はこれから伸びるとは考えていませんが、その中でも成長している分野が二つあります。それが、ゲーミングPCとクリエイターPCです。こちらは500~750Wの電源が主流です。

中でもクリエイターPCは傾向が二極化しており、卓上に置けるようなコンパクトな製品と、ワークステーションのような大型の製品に市場が分かれています。コンパクトな製品では、SFX電源のような小型かつ大出力の電源が求められ、大型の製品では、大出力と高効率が求められます。PC電源はクリエイター向けに限らず、この傾向が進むと見ています。

また、もう一つの有望分野として見ているのが、IoTおよびAIoTの分野。エッジコンピューティングの進展により、一般向けのPCと産業用PCの境がなくなっていくのではないかと予想しています。電源の規格なども混ざっていくかもしれません。われわれは産業用電源にも強いので、一般消費者にも産業用電源を購入できる環境を整えていきたいと考えています。

――:今回のCOMPUTEX TAIPEIのブースでは、650WのSFX電源ユニットが注目されていました。日本は高性能ビデオカードを搭載できるMini-ITX対応の小型PCケースが人気ですが、これはそうしたニーズにこたえるためのモデルなのでしょうか。

[FSP]:クリエイターPCもですが、ゲーミングPCでも小型で大出力電源に対する需要は増えているので、そうしたニーズに合わせた製品です。

小型電源は面積的に搭載できる部品数に制約があり、大出力化が難しいジャンルではあります。しかし、弊社独自開発のMIA ICがあれば、部品数を抑えつつ電源を設計できるので、大出力かつ小型な電源の開発が可能です。

――:ICを積極的に電源に採用するというのは、今後のトレンドになるのでしょうか

[FSP]:小型かつ大出力の電源が求められる傾向は今後も続くと思われるので、ICをいかに活用するかは重要なポイントになるはずです。小型化するにはICを使うしかありませんし、この部分のノウハウが信頼性を得たり、市場でシェアを得られるかといった部分に影響してくるでしょう。

電源の効率を上げるためには、スイッチング周波数を上げていく必要がありますが、そのためにはICの性能が重要です。ICの性能をさらに上げれば、より小さく、高効率の製品を作ることができるので、自社で高性能なICを開発できることはかなりの強みになるはずです。

今後はより単位面積あたりの出力が重要になるとも考えています。デスクトップPCがなくなることはないと考えていますが、より小さく、より大出力にという製品が主流になっていくはずです。今回COMPUTEXで展示したSFX電源は650Wですが、将来的には700Wと800Wとより大容量のSFX電源も開発したいと思っています。

――:小型大出力化が進むのであれば、FSPの電源は未来のトレンドを先取りした進化の先端にいると言えるのでしょうか

[FSP]:はい、そのとおりです。FSPは、今後も独自ICを中心に電源を開発していきます。すでに産業用電源では、PC向けよりも小さいサイズで、2,000Wクラスの出力が求められていたりもしますし、電源効率を向上させつつ大出力化も実現するMIA ICをさらに進化させていきたいと考えています。

よい電源を選ぶポイントは評判と実装パーツのよさレビューや口コミの評判も重要な判断材料

――:これから電源ユニット購入するとしたら、どのようなポイントをユーザーは見るべきでしょう

[FSP]:電源ユニットを選ぶポイントは二つあります。

一つは、メディアのレビュー記事やショップスタッフの紹介、売れ行きのランキングなどを参考にすることです。掲示板など口コミの情報や評判なども重要な判断材料になるでしょう。メーカーサイトやパッケージに記載された情報や見た目などからは分からない情報を得ることができ、評判のよいモデルは傾向として高品質な製品が多いと言えます。

もう一つは効率がよい電源を選ぶことです。これはパッケージ記載されている80PLUS認証などからも確認できますね。コストを抑えつつ安心な製品を選びたいのであれば、80PLUS Bronze以上が一つの指標です。また、使われている部品がしっかりしているメーカーを選ぶことも重要です。もちろん弊社も使用している部品の品質にはこだわっていますし、安心して使ってもらえる電源を販売しています。

これらの条件を満たすモデルから、自分の予算に応じて選ぶのがよいと思いますね。

――:搭載パーツに日本メーカー製コンデンサの採用をウリにしている電源ユニットも多いですが、日本メーカー製コンデンサは優れているのでしょうか

[FSP]:寿命のテストなどを行なうと、日本メーカー製コンデンサは良好なテスト結果となることが多く、われわれも電源には日本メーカー製コンデンサを積極的に採用しています。

――:最後に日本の読者へのコメントをお願いします。

[FSP]:われわれのミッションは、環境に優しい製品を作って、人の生活を豊かにしたいということです。それを達成するために、価値のある製品を作り続け、ベストのサービスと品質を提供していくということを、読者のみなさんには理解していただきたいと思います。

そういう信念にもとづいて、われわれは製品を作っていますので、これからもぜひFSPを応援していただきたいと思います。

――:ありがとうございました。

【FSPの会社紹介動画】

耐久テストや安全性を検査する施設を開発現場に併設、FSP本社を見学

 インタビューと合わせ、FSP本社内にある検証施設や安全基準を検査する設備を見てきたので、ここで紹介しよう。

 これらはオフィスエリアに隣接する形で設けられており、検査結果を即開発に反映することができる。社内にこうした設備を設けることで、開発スピードをかなり早めることができるとのことだ。

新社屋にある製品検査室。さまざまな検査設備が並んでいる
伝導試験を行なうための設備
輻射試験室の入り口
輻射試験室の中。左にあるアンテナで右のテーブルに置かれた検査対象製品から輻射される電磁波を検出する
輻射試験は、部屋の外から制御して行なう。アンテナが自動的に前後に動き、さまざまな角度から輻射試験が可能
輻射試験の結果。赤い線が基準であり、それを下回っていれば合格だが、実際の結果(青い線)は非常に優秀だ
耐圧試験を行なうための設備
左から、EFT試験を行なうための設備、インパルス試験を行なうための設備、静電破壊試験を行なうための設備
自然熱対流試験を行なうための設備
バーンインテストを行なうための設備
このように電源ユニットのバーンインテストが行なわれる
騒音試験を行なうための無響室
無響室の内部。騒音レベルは8dBだという
加速試験を行なうための設備
安全規格を満たしているか、さまざまな検証を行なう機器
動作電圧を変更してのテストも行なわれる
検査室の配電盤。検証用の電源はノイズなどの影響を受けないよう、社屋のほかの電源とは独立した系統として配電されている。
安全性を満たしているかチェックするための器機も多く用意されていた
ドイツの安全規格であるTUVの合格証
ノルウェーの安全規格であるNemkoの合格証
アメリカの安全規格であるULの合格証
FSPの研究開発部門。パーティションに区切られている
社内のいたるところに植物が置かれえているのも印象的だった
社内の空中庭園、このほかにも空中庭園はいくつか設営されていた

[製作協力:FSP]