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Ryzen 9 3900Xと「Radeon RX 5700 XT EVOKE OC」でクリエイティブ環境を変えろ!

写真&動画編集、3DCG作成で検証 text by 加藤勝明

AMD製の最新GPU「Radeon RX 5700 XT」にMSI独自設計のクーラーを組み合わせた「Radeon RX 5700 XT EVOKE OC」。PCゲームでの活用はもちろん、クリエイターの創作意欲を文字どおりevoke(呼び起こす)製品だ。実売価格は58,000円前後

 今やSNSやYouTubeで気軽に写真や動画を公開する時代。世界に向かって作品を発表する方もいれば、仲間や身内とだけ大切な記憶を共有するという方もいるだろう。いずれにせよ、写真編集や動画編集はこれまでになく多くの方にとって身近なものになっている。スマホでもそれなりの作品が作れるようになったが、より趣向を凝らした作品を作るならPCでの作業は欠かせない。

 プロ、アマ問わず、快適なクリエイティブ系作業においてはマシンパワーの確保が鍵だ。処理速度が速ければ速いほど、短時間でアウトプットしやすくなるし、もっと複雑な技法や表現にも挑戦しやすくなる。7月にAMDがリリースした第3世代Ryzen、とくに上位のRyzen 9はクリエイティブな作業をする人には革命的なCPUと言える。12コア24スレッドCPUは、とくにCGや動画編集系では圧倒的なパワーを発揮する。

 そして、今のクリエイティブ系アプリではGPUパワーも無視できない。GPUパワーでCPUを適切に補うことで、さらに快適な作業環境が生まれるのだ。CPUがAMDならGPUもAMD、つまりRadeonファミリーから選びたくなるもの。問題はどのRadeonを選択するかだが、現在のRadeonはHBM2メモリを16GB搭載したRadeon VIIを筆頭に、Radeon RX 5700 XTおよび5700、そして1世代前のVega 64/56、その下にPolaris世代のRX 590~560と続く。数値的なスペックで一番“強い”のはハイエンドに君臨するRadeon VIIであるが、GPUコアの設計ではRDNAアーキテクチャを採用した“Navi”ことRX 5700 XTおよび5700が一番新しい。

 今回はMSIから8月下旬に発売されたばかりの、RX 5700 XTのオリジナルクーラー搭載モデル「Radeon RX 5700 XT EVOKE OC」をテストする機会を得た。いつもの筆者ならゲームであれこれテストするところだが、今回は目先を変え、クリエイティブ用途でのRX 5700 XTの有用性について検証していきたい。

RX 5700 XTをクリエイティブな作業に

 RX 5700シリーズで使われているRDNAアーキテクチャの強みは、これまで使われていたGCNアーキテクチャに比べ、レイテンシを抑え、さらにメモリ帯域幅を有効に使える点にある。さらにプロセスルールも7nmにシュリンクしたことも手伝って、ワットパフォーマンスも向上させている。

 RDNAアーキテクチャはどちらかと言えばゲーミングを強く意識した設計であり、非ゲーム的な使われ方であればGCN世代の最後発であるRadeon VII(Vega20)が“理論上は”最強と言ってよい。だがRadeon VIIは生産数が少ないので入手性が悪く、かつリファレンスデザインの製品しか選べないためより高い冷却性能を持ったカードが欲しい人には向いていない。何より実売9万円~10万円という価格がネックとなる。実売5万円台で手に入るRX 5700 XTのほうが好適だ。やや下の価格帯にはVega 64や56が処分価格で流通しているが基本設計の古さに難が残る。

 RX 5700 XTは初めてPCI Express 4.0に対応したGPUでもある。第3世代RyzenもPCI Express 4.0対応なので、これと組み合わせることでRX 5700 XTのスペックをフルに引き出すことができる。ただマザーにもPCI Express 4.0に対応したX570チップセットが必要だ。

 PCI Express 4.0のメリットはCPU-GPU間の帯域が従来の2倍になるというものだが、今のところゲームではとくにメリットはない。一方、動画編集(とくに4Kより上)でGPU支援を使う場合、CPU-GPUに多量のデータ転送が発生する。そういったシチュエーションでPCI Express 4.0が輝く可能性もある、程度に捉えておこう。

RX 5700 XTと第3世代Ryzenを組み合わせるなら、マザーも最新のX570チップセットを搭載したものがベスト。USBまわりの強化も魅力だが、何よりPCI Express 4.0対応になるのが強い。今回の検証では、ビデオカードと同じMSIのMPG X570 GAMING PRO CARBON WIFIを使った。CPU、GPU、チップセットとも新顔という状況では、マザーボードとビデオカードも同一ブランドにすることで、少しでもトラブルを回避するようにしたい

「MSI Radeon RX 5700 XT EVOKE OC」を観察する

 テストの前にMSIの「Radeon RX 5700 XT EVOKE OC」を細部まで見てみよう。最近のビデオカードは平面構成を利用したメカっぽいテイストのモデルが目立ち、上位モデルともなればRGB LEDで自己主張する製品が多いが、このRadeon RX 5700 XT EVOKE OCはファンが二つ付いたボックスにカードが入っているようにも見える。クラシカルだが未来感も感じさせる、一度見たら忘れられないデザインだ。

搭載されているファンは従来設計よりも15%静圧をアップさせた“TORX FAN 3.0”を採用。GPU温度が60℃未満の状況ではファンが停止する準ファンレス仕様となっている
補助電源は8ピン+6ピン。リファレンス仕様と共通だ
これまでバックプレートは基板の裏に板が貼り付いているようなデザインが多かったが、本機ではクーラーとバックプレートが一体化している。カード長は254mmとあまり長くないが、3スロットを専有するので厚みには注意
映像出力系はHDMI1系統にDisplayPort3系統というスタンダードなもの。カードの厚みの大半はヒートシンクとファンが占めているが、カードの前と後ろ部分のグリルのデザインも凝っている
「GPU-Z」で情報を取得してみた。ここに表記されているコアクロックはGPU-Z側が誤検知している。正しくはベース1,690MHz、ゲーミング1,835MHz、ブーストクロック1,945MHzとなる

最新Radeonは安価な旧世代Radeonと差が出るのか?

 前述のとおり、今回はクリエイティブ系アプリの処理性能におけるパフォーマンスを比較してみる。比較対象としてRX 5700 XTのリファレンスカードと、RX 590のOC版カードを準備した。RX 590はPolaris世代のミドルレンジGPUだが、安価なものだと2万円台前半で流通しており、そこそこのグラフィックス性能を備えている。CPUにRyzen 9 3900Xをチョイスしたとき、とりあえず絵が出ればいいやと考えている場合に選ばれる可能性あるGPUだ。つまり今回は、安さに釣られてRX 590を使った場合と、MSIのRadeon RX 5700 XT EVOKE OCを使った場合とで、クリエイティブな処理の速度はどう違ってくるのかチェックしたい。

【検証環境】

CPU: AMD Ryzen 9 3900X(12C16T、最大4.6GHz)
マザーボード: MSI MPG X570 GAMING PRO CARBON WIFI(AMD X570)
メモリ: G.Skill F4-3200C16D-16GTZRX(CPU定格で運用、8GB×2)
ビデオカード: MSI Radeon RX 5700 XT EVOKE OC、Radeon RX 5700 XTリファレンスカード、Radeon RX 590搭載カード(8GB、OC)
ストレージ: Western Digital WD Black NVMe WDS100T2X0C(M.2 NVMe SSD、1TB)
CPUクーラー: Corsair H110i
OS: Windows 10 Pro 64bit(1903)

写真編集では処理速度よりもレスポンス向上がすごい

 まずは写真編集から検証してみよう。写真編集と言えばAdobeの「Photoshop CC」というド定番アプリがあり、GPUの演算力を利用した処理がいくつか組み込まれている(Photoshop グラフィックプロセッサー(GPU)カードに関するよくある質問)。ただどんな処理でもGPUが効くわけではなく、効く機能はかなり限定されている。

 今回はGPUに対応した機能の一つ「チルトシフト」フィルタを適用する時間を計測してみた。14,738×3,930ドットのパノラマ写真を読み出し、チルトシフトフィルタを高品質でかける時間を計測した(3回計測した中央値で比較)。仮想メモリなどの機能はデフォルト設定のままにしている。

「Photoshop CC」でGPUアクセラレーションの有効な「チルトシフト」フィルタを適用する時間を計測した
「Photoshop CC」の処理時間

 比較用にGPUアクセラレーションを無効化した状態(Ryzen 9 3900Xと表記)でも計測したが、確かにCPUだけでやったときに比べRadeonを使うと半分程度の時間で終了する。ただRadeon RX 5700 XT EVOKE OCが特別速いわけではなく、RX 590でも十分なスピードが得られる。そもそもPhotoshop CCはCPU処理が大半を占めるので、GPUのメリットはあまりないのだ……。

タスクマネージャーでチルトシフトフィルタ適用中のGPUの状態をチェック。Computeエンジンへの負荷はきわめて軽微なことが分かった

 ではデジカメユーザーに人気の「Lightroom Classic CC」はどうだろうか? 100枚のRAW画像(6,000×4,000ドット、DNG形式)にレンズ補正などを施し、最高画質のJPEGに書き出す時間を計測する。

「Lightroom Classic CC」にもGPUアクセラレーションに関する項目が環境設定内に用意されている
「Lightroom Classic CC」におけるRAW→JPEG書き出し時間

 Lightroom Classic CCにもGPUアクセラレーションが実装されているが、JPEG書き出し程度では誤差程度の差異しか得られない……それもそのはずで、Photoshop CCやLightroom Classic CCにおけるGPUアクセラレーションはフィルタ等の処理を高速化すると言うよりも、リアルタイムでプレビューするようなUIの処理に多く使われているからだ(Lightroom Classic CCのGPU活用範囲については、ここを参照のこと:GPU のトラブルシューティングおよび FAQ)。

現像処理中のGPUの活動状況。Photoshop CCや後述する動画編集やCG系と異なり、現像中のGPUはシェーダーが少し働いているだけだった

 下の3本の動画は、Lightroom Classic CCの現像モジュール上で色温度を変更する「段階フィルター」を適用したときのデスクトップの模様をRadeonの録画機能「ReLive」で録画したものだ(ディスプレイの解像度は4K)。段階フィルター中央のボタンを操作することで移動や回転が可能だが、CPUだけだとマウス操作と見た目の反映にかなりの遅れが認められる。RX 590だとCPUよりも素早く反応するが、回転させたときにまだワンテンポ遅れる。だがRadeon RX 5700 XT EVOKE OCだとマウスを操作した直後に効果が現われる。ほぼリアルタイムに近い処理になるのだ。クリエイティブな処理において、GPUパワーが効く一例と言えるだろう。

【Lightroom Classic CC「段階フィルター」のCPUによる処理】
【Lightroom Classic CC「段階フィルター」のRadeon RX 590による処理】
【Lightroom Classic CC「段階フィルター」のMSI Radeon RX 5700 XT EVOKE OCによる処理】

 上からGPUアクセラレーションなし(CPUのみ)、RX 590、Radeon RX 5700 XT EVOKE OCで段階フィルターの位置や角度を調整してみたときのレスポンス。RX 590でも結構速いが、Radeon RX 5700 XT EVOKE OCにするともっとキビキビと操作できるようになる。

8K動画編集ではRX 5700 XTでないと……

 次は動画編集を試してみよう。まずは「Premiere Pro CC」上で準備した4K動画(再生時間3分半程度)を、「Media Encoder CC」を利用してH.264またはH.265のMP4形式に書き出す時間を比較する。ビットレートはH.264がVBR平均80Mbps、H.265がVBR平均25Mbps、どちらも1パスでエンコードした。Premiere Pro CCの場合もGPUアクセラレーションは「Mercury Playback Engine」という形で実装されている。このエンジンを無効化し、CPUだけで処理させたときの時間と対比させてみた。

「Premiere Pro CC」で4K動画を作成し、それを1本の4K動画として書き出した
「Media Encoder CC」を使った4K動画書き出し時間

 まずMedia Encoder CC(Premiere Pro CC)のエンコード処理では、GPUのアクセラレーションがないと動画のエンコード処理がやたらと重くなる。だがアクセラレーションの効果は常にあるわけではなく、H.265ではRX 590でもRX 5700 XTでも結果はほとんど変わらない(上のグラフでも誤差程度と言える)。だがH.264だとRX 590よりRadeon RX 5700 XT EVOKE OCのほうが1分以上差を付けている。約3分半の動画で1分なのだから、もっと長い動画であればそれなりに差が付いてくる。

 H.265で差が付かない理由は、タスクマネージャーを開いてGPUの働き方をチェックすれば分かる。

H.264エンコード中(左)はRX 5700 XT内に3基あるComputeエンジンのうち1基が高負荷で稼働するのに対し、H.265(右)では断続的に弱い負荷しかかからない。H.265のエンコーダの処理は、GPUアクセラレーションをあまり活用できていないようだ

 続いては製品版の「DaVinci Resolve Studio 16」で検証してみる。8K RED素材をインポートし、三つのノードを重ねた簡単なプロジェクトを作成した。最終出力の尺は6秒程度の短いものだが、8K動画ともなるとVRAMに多量のデータが流れ込む。これを4KのMP4形式に書き出す時間を計測した。ビットレートは8,000kbpsとなっている。

8K RED動画に対しこんな感じで3ノードから構成されるカラー調整&合成処理を追加した
DaVinci ResolveもGPUアクセラレーションが利用できる。図のようにマニュアルで処理に使うGPUを選択することができるが、今回はAutoで選択させた
「Media Encoder CC」を使った4K動画書き出し時間

 まず今回用意した8K動画のプロジェクトはRX 5700 XTでは正しく読み込めたが、RX 590ではどう頑張っても途中でアプリが応答を停止してしまい、処理を続けることはできなかった。原因の切り分けまではできなかったが、今回の検証のように旧世代のRX 590では難しいこともあるようだ。ちなみにDaVinciの場合GPUアクセラレーションを完全に無効化することはできなかったので、今回はCPUのみの処理時間は計測していない。

 ただ実際DaVinci Resolve Studio 16で8K動画を開いてみると、Radeon RX 5700 XT EVOKE OCに搭載された8GBのVRAMはあっという間に消費されてしまう。PCI Express 4.0の帯域は8K動画編集に最適だが、RX 5700 XTではまだVRAMが足りないと言えるだろう。

「DaVinci Resolve Studio 16」でH.264エンコードしたときのGPUの使われ方。8GBあるVRAMのほとんどが消費されている点に注目したい

3DクリエイターならRX 5700 XTを選べ

 最後にCG作成分野、とくにレンダリング時間の短縮についても検証しておきたい。CGのレンダリングと言えばコア数の多いCPUが効くことはよく知られているが、GPUの演算性能をレンダリングに利用することもできる。

 そこで手始めに「LuxMark v3.1」を試してみる。「LuxBall」と「Hotel Lobby」のシーンそれぞれをレンダリングし、最後に表示されるスコアを比較する。今回のテスト環境ではCPUのレンダリングは試せなかった。

GPU(OpenCL)を利用したレンダラー「LuxRender」をベースにしたベンチマーク「LuxMark v3.1」
「LuxMark v3.1」のレンダリング性能比較。スコアが高いほど高性能

 シーンによりパフォーマンスは変わるようで、シンプルなLuxBallではRX 590よりもRX 5700 XTのほうがよいスコアが出ることが示された。

 もっと実践的なCG作成ソフトでの例として「blender v2.8」のレンダリング速度を比較しよう。blender公式ブログからDLできる「pavilion_barcelone」、「barbershop_interior」の二つシーンファイルを使用する。どちらのシーンもGPUレンダリング(Cyclesレンダラー)に適した設定とCPUレンダリングに適した設定のものが用意されているので、ビデオカードを使う場合は前者、Ryzen 9 3900Xだけ使う場合は後者のシーンファイルを使用した。

「blender v2.8」のレンダリングはGPUで処理することもできる
「blender v2.8」のレンダリング時間

 これまでのベンチマークでは、CPUだけで実効させると超絶遅くなるがGPUだと高速というパターンだったが、blenderの場合はCPUだけのほうが早く処理が終わることもある。ただ負荷が非常に重いbarbershop_interiorはRX 5700 XTを利用するほうが高速だった。どちらのシーンでもRX 590は使うとデメリットでしかない、という点もおもしろい。CGのレンダリングをGPUで高速化したいなら、中途半端なGPUはムダなのだ。

blenderでレンダリング中のGPUの使われ方。Computeエンジン1に連続的ではないが強い負荷がかかっている

リファレンスよりも断然冷える

 Radeon RX 5700 XT EVOKE OCは、RX 590に対しては性能で圧倒していたが、RX 5700 XTリファレンスカードと対比すると大差ないことに気が付いただろうか? クリエイティブ系アプリではゲームのようにフル回転で貼り付くようなシチュエーションは少ないので、クロックが少々高くても性能に差が付きにくいのかもしれない。

 だがRadeon RX 5700 XT EVOKE OCの真の魅力は、単純なパフォーマンスよりもクーラーの冷却性能にある。下のグラフは、blenderのレンダリングをさせているときのGPU温度推移を「HWiNFO」を利用して追跡したものだ。室温は約29℃である。

レンダリング処理中のGPU温度

 RX 5700 XTリファレンスカードはレンダリング開始直後は温度が低いものの、1分半程度でRadeon RX 5700 XT EVOKE OCを追い抜き、5分後には75℃近辺に到達する。これに対しRadeon RX 5700 XT EVOKE OCは最初こそ高い(準ファンレス仕様のため)ものの、温度は64℃辺りで頭打ちになる。高負荷をかけるとファンノイズもそれなりに聞こえるようになるが、ガッツリ冷えるので使っていて安心感がある。長時間エンコードやレンダリングで放置するなら、冷却性能の高いRadeon RX 5700 XT EVOKE OCはとても頼もしい。

クリエイティブな用途にRadeon RX 5700 XT EVOKE OCはよい選択

 第3世代Ryzenはゲームにもクリエイティブな用途にも強い。処理が高速というだけでなく、これまでCPUだけで十数万円していたものが7万円台の領域に下がってきたのだから、人気が高いのも当然である。だがRadeon RX 5700 XTがもたらすパワーも捨て難い。

 今回は検証していないが、ゲーム分野でもRX 5700 XTは抜群の費用対効果を発揮してくれる。とくにクーラーが強力なRadeon RX 5700 XT EVOKE OCは、長時間ゲームや編集作業をするユーザーには最高のチョイスとなるだろう。

[制作協力:MSI]

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