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1.6kgのノートPCにクリエイター仕様がここまで入る時代。「MSI Prestige 15」、極上の使用感
4K/Adobe RGB液晶、外部GPU、6コアCPUを持ち歩く text by マルオマサト
2020年3月30日 00:01
このところ、動画や写真の編集、CG作成、DTMなどを意識した“クリエイター向け”のノートPCが注目を集めている。プロフェッショナルだけではなく、プロを目指して学ぶ方、趣味として楽しむ方、YouTubeやInstagramをビジネスで活かしたい方など、今やクリエイティブへのニーズはさまざまなレベルで存在しており、これに応えるPCが求められているわけだ。
クリエイター向けノートPCは高性能CPUや外部GPUが必要という点でゲーミングノートPCとの共通項が多いものの、ゲーミングノートにおける高速液晶よりも高解像度液晶が求められること、攻撃的でハデな外観よりも落ち着いた上質感ある外観が求められる点、Thunderboltインターフェースの必要性などが異なる。これは、クリエイターにMacBook Proが支持されていることからも分かるだろう。
今回紹介するMSIのPrestige 15は、15.6型液晶ディスプレイを搭載したクリエイター向けのノートPCだ。厚さ15.9mm、重量約1.6kg(ともに公称値)という可搬性の高いスタイリッシュなボディながら、6コアCPU、大容量メモリ、PCI Express SSD、NVIDIA GPU(GeForce GTX1650 with Max-Q Design)などハイスペックを搭載。さらに色再現性の高い高精細4K液晶ディスプレイやThunderbolt 3ポートを搭載するなど、クリエイティブの道具としての魅力をしっかり備えているのが特徴だ。
3種類のラインナップのうち、4Kディスプレイ搭載のミドルモデル(Prestige-15-A10SC-025JP)に相当する評価機を入手したので、性能や使い勝手を検証しよう。
洗練されたデザインの薄型軽量ボディ
薄型軽量のフォルムと品のある洗練されたデザインが印象的だ。画面の外側のベゼルが狭い狭額縁デザインを採用しており、見た目の印象のよさとともに底面積の削減にも貢献している。
ボディは表面にサンドブラスト加工を施した「カーボングレー」と呼ばれるダークグレーで統一しつつ、エッジをダイヤモンドカットし、ブルーにキラキラと光らせている。落ち着きがありながらさりげなく個性を主張する見事な演出だ。
ボディサイズは、356.8×233.7×15.9mm、重量は1.6kg(いずれも公称値、突起部のぞく)。15.6型の大画面、6コアCPU、さらにNVIDIAのディスクリートGPUを搭載しているノートPCとしては最軽量クラスを実現している。評価機の実測重量は1,726gと公称値より少し重かった。
バッテリ駆動時間は公称で約16時間。バッテリレポートコマンドで容量を見ると設計容量が約80Whとなっており、通常のモバイルノートPCの1.5~2倍ほどの大容量を搭載していることが分かる。
6コア12スレッドのパワフルなCPUを搭載
CPUは、Core i7-10710Uを搭載している。Intel最新のモバイル向け第10世代Coreプロセッサで、6コア12スレッドで最大で4.7GHz動作するパワフルなCPUだ。
第10世代Coreプロセッサには内蔵GPU重視の「Ice Lake」とマルチスレッド性能重視の「Comet Lake」の2種類あるが、本製品は後者を採用している。クリエイティブ向けのアプリケーションはCPUのマルチスレッド性能が処理のスピードや使用感のよさに直結することが多いだけに、理にかなった選択だ。
Core i7-10710Uはモバイル向けのCPUのため、標準のTDPは15Wと低く設定されている。もっとも、近年のIntel CPUについては、実際にどれだけのパフォーマンスが発揮できるかはTurbo Boost Technology 2.0の電力リミット設定やボディの放熱設計によるところが大きく、設定や設計しだいでは、大型ノートPCに搭載されているTDP 45WのH付き型番のプロセッサ(Core i7-9750Hなど)並みの性能を発揮できる。
それでは本機はどうだろうか。HWiNFO 64で電力設定を確認してみると、持続的な電力リミットを示す「PL1」は45W、一時的な電力リミットを示す「PL2」は64Wと表示された。このPL1の45Wという数字は、据え置き型ノートPC向け(H型番のプロセッサ)のTDPであり、実際にCore i7-9750Hなどを搭載したゲーミングノートPCやクリエイターノートPCではPL1を45Wとしている製品が多い。
冷却性能については、Prestige 15では、高性能なCPUとGPUを長時間安定して動作させるため、2基のファンとヒートパイプを活用した冷却システム「CoolerBoost 3」を導入している。6コア12スレッドのCore i7-9750Hに近い性能を発揮できると期待できるが、実際のところは後ほど検証しよう。
32GBの大容量メモリを搭載、ストレージは増設サービスも
メモリは32GBを標準で搭載している。必要なメモリサイズは使い方によっても異なるが、最近は写真素材も動画素材も高解像度大容量になってきている。アドビ システムズのクリエイティブツールの推奨メモリサイズも年々増加しており、Adobe Lightroom Classic CCは12GB、Adobe Premiere Pro CCの4K編集では32GBが推奨されている。
5年前ならば16GBでもよかったが、今ならばやはり32GB以上欲しいと考えるクリエイターが多いと思われる。クリエイターPCを名乗りながら16GBという製品も多いだけに、32GBを搭載している本製品のアドバンテージは大きい。
素材、制作物ともに高解像度になっているだけにストレージもできるだけ高速大容量が望ましい。PCI Express SSDを採用する本製品はその点でも親和性がよい。評価機構成の512GBというのは、外付けストレージと一緒に運用する前提でもクリエイティブ向けとしてはギリギリ及第点クラスと感じるが、ラインナップには1TB SSDを搭載する上位モデル(Prestige-15-A10SC-066JP)も用意されているので必要に応じて選択したい。
また、標準状態で空きのM.2スロットが1基残されており、「MSI公認サポート店」での増設サービスに対応しているのは強み。512GBで運用し、足りないと感じたら増設サービスを受けるというのも手だろう。
クリエイティブに強いNVIDIA GPUを搭載
NVIDIAのGeForce GTX 1650 with Max-Q Design(GDDR5 4GB)を採用している。クリエイティブツールの多くは、NVIDIA GPUのアクセラレーションに対応しているので、プレビューや拡大縮小表示、フィルタなどを高速に処理できる。CPU内蔵GPUがメインメモリを共有するのに対し、独立して4GBのグラフィックスメモリを搭載していることもアドバンテージだ。
NVIDIAはクリエイティブに最適化したStudioドライバを配布するなど2019年以降はとくにクリエイティブへの取り組みを強めており、クリエイティブツールのベンダーにGPUのさらなる有効活用も促している。NVIDIA GPUの恩恵を受ける場面は今後増えてくることが予想されるが、そういう点でも心強いところだ。
なお、「Max-Q Design」を冠するGeForceは、電力効率を基準に電力リミットが設定されているため、ノーマルバージョンの同名GPUよりも性能は少し劣るが、その分放熱がしやすい特徴がある。高性能GPUを薄型ノートPCへ搭載するべく最適化された仕様、と覚えておこう。
Wi-Fi 6、Thunderbolt 3など先進機能を装備
通信機能は、Wi-Fi 6対応の無線LANとBluetooth 5.0を標準装備。Wi-Fi 6は無線LANの最新規格(IEEE802.11ax)で、通信速度の理論値が高い、複数のデバイスが混在する環境、同時に通信を行なうような環境で速度を発揮できる仕組を採用しており、実用上のメリットが大きい。
標準装備のインターフェースは、Thunderbolt 3(Type-C)が2基、USB 3.2 Gen.2(Type-A)が2基、さらにHDMI出力、microSDカードスロット、ヘッドホン/マイク兼用端子などを揃える。
Thunderbolt 3はUSB Power Delivery対応、多機能アダプタも同梱
Thunderbolt 3は、USB Power Delivery(USB PD)に対応しており、充電端子も兼ねている。純正品以外は動作保証がないため自己責任にはなるが、規格上は市販されているUSB PD対応の充電器などを利用することもできる。ただ、付属のACアダプタのように90Wの電力供給ができる製品の数はごく少ない。
試しに他社製の65W仕様のACアダプタを利用してみたところ、電力供給自体は行なわれていて、PCMark 10に関しては、終了までバッテリ残量が減ることなく動作できたが、逆にバッテリ残量が増えることもなかった。付属のACアダプタは90W仕様のため、65Wでは少し足りないのかもしれないが、いざというときには純正品以外の(USB PD対応)ACアダプタも使えるのは強みだ。
いざというときに汎用のUSB PD機器が使えるのは大きなアドバンテージ。とくに本製品のようなハイスペック製品ではこれまであまり例がないだけに、そうとうに価値がある。USB PDの仕様範囲内(最大100W)に収められたのは、Core i7-10710U、GeForce GTX1650 with Max-Q Designといった高性能かつ電力効率に優れたパーツで構成しているからこそと言える。
また、Thunderbolt 3に挿して使える多機能アダプタを標準で同梱。有線LAN、SDメモリーカード/microSDカード、USB 3.0(Type-A)が利用できる。これだけあればほとんどの用途はカバーできるだろう。
色再現性に優れたAdobeRGBカバー率100%の美麗な液晶ディスプレイ
クリエイターPCでは液晶ディスプレイも重要な要素の一つ。本製品の液晶ディスプレイは、印刷業界の標準であるAdobeRGB 100%の広色域に対応するだけでなく、⊿E<2という高度な色再現性を誇る。色再現性については、Portrait Displays提供の「CalMAN VERIFIED」によるカラーキャリブレーション検証済み。出版、印刷などにかかわるプロフェッショナルの利用にも耐えるレベルで正確に色を表示できる。
表示解像度は3,840×2,160ドットに対応しており、近くで見てもドット感のない精細な表示だ。表面はノングレア仕様のため外光や照明の映り込みがしにくく、長時間の作業でも目が疲れにくい。視野角についてはとくに記載がないが、上下左右とも視野角は広く、IPS系のパネルを利用していると思われる。
打ちやすいキーボード、セキュリティ機能も搭載
6列アイソレーションタイプのキーボードを搭載している。テンキーは搭載していないためゆったりとした配置で、主要キーのキーピッチは実測で縦横ともに約19mmを確保しており、細長いキーも最小限だ。ただ、Enterキーの右側にキーを配置している点は好みが分かれるところだろう。
キーストロークは、1.5mmを確保している。スイッチの感触も反発が強過ぎず良好で、長文入力もストレスなくできる。バックライトを搭載しているため、暗い場所でもスマートに利用できる。
キーボードの手前にはクリックボタン一体型の高精度タッチパッドを搭載。OS標準のジェスチャー機能が利用できる。パッド内の左上部分にはWindows Hello対応の指紋センサーを装備しており、一度指紋を登録しておけば、ロックされた状態から指で触れるだけでログインができる。なお、画面の上には、ビデオチャットができるWebカメラとマイクを装備している。
パフォーマンスや使い勝手が切り換えられる「Creator Center」
Prestige 15には独自ユーティリティ「Creator Center」がプリインストールされている。CPUなどの使用率を表示するハードウェアモニタ機能、バッテリユーティリティに加えて、独自のユーザーシナリオが用意されており、用途に合わせて切り換えることが可能。画面の表示モードやCPUの動作モード、ファンの動作モードなどを指定することが可能となっている。
試してみたところ「高性能」と「バランス」ではかなり性能面で違いが見られたため、ベンチマークテストでは両方のシナリオを実行してみた。
高性能モードではHプロセッサ並みのパフォーマンス
ベンチマークテストの結果を見よう。評価機のスペックは、CPUがCore i7-10710U、メモリが32GB、グラフィックス機能がNVIDIA GeForce GTX1650 with Max-Q Design、ストレージは512GB SSD(Western Digital PC SN520、PCI Express 3.0x2/NVMe)、OSがWindows 10 Pro 64bit版という内容。本機に関しては、Creator Centerで選べるユーザーシナリオ「高性能」と「バランス」両方でテストを行なっている。また比較対象として、筆者が2017年末に購入したノートPCで計測したスコアも掲載する。
まずは定番ベンチマークのスコアを見よう。CINEBENCH R15/R20のスコアを見るとユーザーシナリオの高性能とバランスではかなり違いがあることが分かる。高性能モードのスコアはTDP 45WのHプロセッサ並。Core i7-9750H搭載機の中でもよいほうのスコアが出ている。一方、バランスモードのスコアは、4コア8スレッドのTDP15Wのモバイル向けCPU、Core i7-8565U辺りを搭載した製品と同レベルにとどまり、4コア8スレッドの旧世代Hプロセッサ搭載モデルに及ばなかった。
このことから、高性能モードは電力リミットを高く引き上げてCPUのフルパフォーマンスを発揮させているのに対し、バランスモードではモバイルPC向けの電力リミットを忠実に守っていると考えられる。また、高負荷が長く続くCINEBENCH R20でも高性能モードでしっかりとよいスコアが出ていることから、フルパフォーマンス状態でも冷却性能の面では不安がないことが分かる。
なお、PL1/PL2の表示ができるHWiNFOではPL1が45W、PL2が64Wと表示されており、これは高性能モードの状態を示していたものと考えられる。モードを変えてもHWiNFOの表示内容は変わらなかった。
ほかのテストでもモードによって違いがはっきり出ている。3DMarkのFire Strike/Sky DiverのPhysicsなど、CPUの性能がダイレクトに反映されやすい項目ではとくに差が大きい。
もっとも、バランスモードはマイナス面だけではない。バッテリ駆動時間や静音性では明らかにメリットがある。PCMark 10のバッテリテストでは、高性能モードでは4時間弱であるのに対し、バランスモードでは7時間以上の駆動ができている。高性能モードでは高負荷時にはそれなりに大きな音がするが、バランスモードでは高負荷時でも意識しないと分からないレベルの動作音だ。外出先でビジネス中心の作業時はバランスモード、家でクリエイティブをしたいときは高性能モードなど、使い分けるとよいだろう。
Adobe Creative Cloudでも旧世代からのアドバンテージが歴然
クリエイター向けPCということで、Adobe Creative Cloudを使っていくつか実践的なテストも行なってみた。
Adobe Lightroom Classic CCでは、ソニーのα7RIIIのRAWデータ(4,240万画素)を100枚使用。カタログに読み込んで1:1プレビューを作成するまでの時間と、そのデータに現像パラメータのプリセットを適用して長辺3,000ドットのJPEGファイル書き出す時間を計測した。いずれも高性能モードでは旧世代PCの半分以下の時間で終えている。
Adobe Photoshop CCでは、α7RIIIのRAWデータ5枚を読み出し、スマートシャープや虹彩ぼかしフィルタなど、GPUアクセラレーションが効くフィルタを中心に五つのフィルタをかけて解像度変換してのJPEG出力した後に、オリジナルをPSDファイルとして保存するバッチ処理を実行した。こちらも高性能モードでは旧世代から4割ほど高速化している。
Adobe Premiere Pro CCでは7枚の4Kビデオクリップをトランジションエフェクトでつなぎ、BGMを追加したプロジェクトをH.264、H.265でそれぞれMP4ファイルに書き出した時間を計測した。これもいずれも旧世代PCよりも大幅に速く終えている。
少しおもしろいのは、CINEBENCHのCPUスコアでは旧世代PCのほうが、Prestigeのバランスモードよりも上だったのに、Adobe Creative Cloudの実践的なテストではPrestigeのバランスモードのほうが速い。シングルスレッド性能やストレージの差か、あるいはメモリサイズが影響した可能性もありそうだ。いずれにしても、Prestige 15のクリエイティブ適性の高さは疑いがないところだ。
3/31 17:46更新 Lightroom Classic CC、Photoshop CC、Premiere Pro CCのグラフに関して、設定項目の「高性能」「バランス」の記載に誤りがあったため修正いたしました。
クリエイターのニーズに応える高性能にプラスαの付加価値をプラスした魅力たっぷりの1台
6コアCPU、32GBメモリ、PCI Expressストレージ(増設も可能)、NVIDIA GPU、15.6型の広色域高色再現性ディスプレイ、Thunderbolt 3など、本製品の仕様はクリエイターの道具として申し分のない内容だ。これだけでもクリエイターのニーズをしっかり把握した完成度の高い製品と感じる。
本製品はそれに加えて、公称重量約1.6kgの可搬性の高いボディを実現し、性能と省電力性のバランスに優れたComet Lake世代のCPUとMax-Q DesignのGPU、有機ELではない広色域液晶ディスプレイといった高性能かつ電力効率に優れたパーツで固めることで、USB Power Deliveryで運用できる範囲内に消費電力を抑えている。
そして、Creator Centerユーティリティでユーザーシナリオを切り換えることで、ハイパフォーマンスなクリエイティブマシンとしても、静音・ロングバッテリ・高レスポンスのビジネスマシンとしても使うことができるのも本製品ならではの特徴と言え、独自の付加価値をしっかりと上乗せしている。
こうした付加価値は、クリエイティブの可能性を大きく広げる。スタジオでのテザー撮影用のPCとしても最適だし、泊まりの出張に持っていって現地でそのまま作業して納品するようなことも本製品があれば可能だ。これからクリエイティブに挑戦したい方、すでにクリエイターとして活躍している方はもちろん、クリエイターでなくとも可搬性の高い高性能なPCを必要としている方まで、幅広いユーザーにお勧めできる製品と言えるだろう。
[制作協力:MSI]