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Western Digital設立から50年、20TB超の時代へと突き進むHDDの過去・現在・未来
大容量化/高速化が続くHDDのこれから text by 北川達也
2020年3月31日 12:30
ストレージの源流が脈付くWestern Digitalの歩み
HDD/SSDの総合ストレージメーカーとしてトップメーカーの一角をになうWestern Digital。1956年に登場した世界初のHDD「IBM 350」の流れを継承する同社の歩みは、ストレージの進化の歴史でもある。
今から50年前の1970年にその前身が誕生、1971年に現在の名称となったWestern Digitalは、1976年にストレージ事業に参入。
HDDコントローラの事業で成功した同社は、1986年にその後20年以上使われ続けることになるHDDのインターフェース規格「IDE」の規格策定をほかのメーカーと共同で行なった。1988年にはHDD事業に参入し、1991年の「WD Caviar」シリーズの大ヒットによりHDDのトップブランドの一角に加わる。
同年には当時のIBMが、世界初のMR(磁気抵抗)ヘッドを搭載したHDDを出荷している。MRヘッドはその後GMRヘッド(1997年)、TMRヘッド(2004年)と進化し、現在でもHDDの記憶容量拡大と高速化を支える技術として多大な貢献を行なっている。
2000年代に入ると、M&AによるHDD業界の再編が始まるが、HDDの祖とも言えるIBMはこの後、日立のHDD事業と統合されてHGSTとなり、さらにWestern Digitalに買収されている。
Ultra ATA/100やSerial ATAなどの最新インターフェース規格が登場する中、Western Digitalは対応HDDを迅速に投入。さらに、コンシューマ向けHDDでは唯一の10,000rpmの超高速HDD「WD Raptor」をリリース。
そして他社に先駆けて行なった「用途ごとに最適化した製品展開」と「用途をユーザーに分かりやすく提示する」ブランディングを開始する。すなわち、現在も引き続き行われているBlue(=デスクトップPC向け)、Red(=NAS向け)、Black(=ゲーマー、クリエイター向け)などといった“色分けによる製品展開”である。用途展開の一例としては、2012年にNAS向けの高信頼性HDD「WD Red」が大ヒット。この取り組みによって、着実にユーザーの信頼を勝ち取りシェアを拡大し、後のSSDの製品展開にも受け継がれている。
HDD事業のトップメーカーとして圧倒的な存在感を見せる一方で、2016年にはNANDメモリのトップメーカーの一角であるSanDiskを買収し、SSD事業も強化。製品の対象ユーザーの範囲はコンシューマからデータセンターまで、製品のジャンルとしては内蔵・外付けを問わず、HDDからSSD、メモリーカードまでと、ストレージに関する非常に広い製品カテゴリーをカバーするに至っている。
現在のWestern Digitalに連なる系譜の中で、技術的なブレイクスルーはたびたび訪れている。近年の例で言うと、HDD内部に一般的な空気の代わりにヘリウムを充填し、空気抵抗の軽減によってプラッタ枚数の増加や精度の向上を実現した技術の確立などが挙げられる。このヘリウム充填技術は、神奈川県にあるWestern Digitalの藤沢事業所で開発された日本発のテクノロジーだ。
2020年には、次世代記録技術の「エネルギーアシスト磁気記録」を採用した20TBのHDDの発売を予定(すでにサンプル出荷済み)。引き続き、Western Digitalはストレージ業界のリーダーとして市場を牽引するだろう。
HDDの大容量化、高速化は止まらない!!アシスト磁気記録の実用化で記憶容量拡大を加速するHDD
現在のストレージ環境は、OSやアプリケーションの起動など速度を必要とされる用途向けのSSDを頂点に階層化が進み、HDDは用途ごとに分担されたデータ保存用に特化してきている。
たとえばWestern DigitalのHDDの場合、NAS向けの「WD Red」と「WD Red Pro」、監視カメラ向けの「WD Purple」、デスクトップ向けのハイエンド向けの「WD Black」、メインストリーム向けの「WD Blue」といった具合だ。ほかにもエンタープライズ向けには「Ultrastar DC」が展開されている。
また、近年では、クラウドサービスの普及や動画コンテンツの拡大、IoT機器の増加とAIの普及などによって、企業、個人の両方で、扱うデータが爆発的な増加を続けている。
SSDの普及によってHDDの将来性に疑問を持つ人も少なからずいるかもしれないが、このような背景を考慮すると、「より安価に、より確実に、より大容量に」という方向性で、今後もHDDの進化は続いていくだろう。
たとえば、前述したヘリウム充填技術の登場により、HDDの容量の天井を一つ突破して大台を超えてきている。さらに続いていく次世代技術の実用化によって、HDDの大容量化はさらに加速する期待感がある。この先の展開はどうなるだろうか。
直近のものとしては、Western Digitalはすでにエネルギーアシスト磁気記録技術を用いた20TBのニアライン向けHDD「Ultrastar DC HC650 SMR 20TB HDD」のサンプル出荷を開始しており、2025年には40TB超えというロードマップを描く。
次世代技術を採用したHDDは、ニアライン向けからスタートし、徐々にコンシューマ向けにも展開されることになるのが通例なので、このような技術を搭載したHDDが身近になる時代もそう遠くないかもしれない。
また、コンシューマ向けHDDは、いわゆる「瓦記録」方式として知られる「SMR(Shingled Magnetic Recording)」技術を採用したHDDが主流となるとみられている。
当初は従来の「CMR(Conventional Magnetic Recording)」技術に比べて速度やそれにともなう使い勝手といった面でデメリットが取りざたされることもあった。しかし現在の製品では、キャッシュ技術の強化により、弱点とされていたランダムライト性能も改善されており、むしろ大容量化のメリットの面がプラスとなっている。
SSDとHDDは、今後もPCストレージの「両輪」として、お互いの役割と求められる性能の違いを明確にしながら、引き続き進化を続けていくことだろう。
[制作協力:Western Digital]