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Western Digital設立から50年、20TB超の時代へと突き進むHDDの過去・現在・未来

大容量化/高速化が続くHDDのこれから text by 北川達也

ストレージの源流が脈付くWestern Digitalの歩み

 HDD/SSDの総合ストレージメーカーとしてトップメーカーの一角をになうWestern Digital。1956年に登場した世界初のHDD「IBM 350」の流れを継承する同社の歩みは、ストレージの進化の歴史でもある。

 今から50年前の1970年にその前身が誕生、1971年に現在の名称となったWestern Digitalは、1976年にストレージ事業に参入。

 HDDコントローラの事業で成功した同社は、1986年にその後20年以上使われ続けることになるHDDのインターフェース規格「IDE」の規格策定をほかのメーカーと共同で行なった。1988年にはHDD事業に参入し、1991年の「WD Caviar」シリーズの大ヒットによりHDDのトップブランドの一角に加わる。

1991年、「WD Caviar」発売。これが大ヒットした結果、WDDは一躍HDDのトップブランドとして自作PCユーザーに広く知れ渡る
Intel 430FXからIntel製チップセットでのIDEインターフェースサポートが始まった。SCSI HDDと同等以上の性能を低コストでできるBusMaster IDEの登場で、HDDの主流は徐々にIDE HDDへ。写真は後継のIntel 430HX搭載マザーボード

 同年には当時のIBMが、世界初のMR(磁気抵抗)ヘッドを搭載したHDDを出荷している。MRヘッドはその後GMRヘッド(1997年)、TMRヘッド(2004年)と進化し、現在でもHDDの記憶容量拡大と高速化を支える技術として多大な貢献を行なっている。

 2000年代に入ると、M&AによるHDD業界の再編が始まるが、HDDの祖とも言えるIBMはこの後、日立のHDD事業と統合されてHGSTとなり、さらにWestern Digitalに買収されている。

自作PCマニア層に人気となったエンタープライズ向けHDDの爆速モデル「WD Raptor」。写真は、後に発売された内部が見える透明カバーモデル「WD Raptor X」
マザーボードのSerial ATA搭載が一般化したことで、2000年代前半にはSerial ATA HDDの普及が始まった
WD初の1TB HDD「WD Caviar GP」は、大容量に加え、省電力性「GreenPower」をうたう。「IntelliPower」による省電力を優先した回転速度の最適化、「IntelliSeek」によるシーク最適化などを採用
10,000rpmの高速HDDの新モデル「VelociRaptor」。本体は2.5インチドライブに放熱用のフレーム「IcePack」を組み合わせたことで、外観は3.5インチドライブと同等のサイズに

 Ultra ATA/100やSerial ATAなどの最新インターフェース規格が登場する中、Western Digitalは対応HDDを迅速に投入。さらに、コンシューマ向けHDDでは唯一の10,000rpmの超高速HDD「WD Raptor」をリリース。

 そして他社に先駆けて行なった「用途ごとに最適化した製品展開」と「用途をユーザーに分かりやすく提示する」ブランディングを開始する。すなわち、現在も引き続き行われているBlue(=デスクトップPC向け)、Red(=NAS向け)、Black(=ゲーマー、クリエイター向け)などといった“色分けによる製品展開”である。用途展開の一例としては、2012年にNAS向けの高信頼性HDD「WD Red」が大ヒット。この取り組みによって、着実にユーザーの信頼を勝ち取りシェアを拡大し、後のSSDの製品展開にも受け継がれている。

NASの登場から10年、NASのためにチューンされたHDDが誕生。24時間365日稼働を見据えた製品で、現在では自作PC市場でも信頼性重視の定番モデルとして人気
当時非常に人気だった個人向けHDDのWD Greenは、Western Digitalのカラー展開の牽引役だった。現在はWD Blueにブランド統合されたが、その名称はSSDに引き継がれている
ハイエンド志向のWD Blackには、SSD+HDDのデュアルドライブ仕様という異色の製品「WD Black2」も(2013年)。PCに取り付けるとSSDとして認識され、専用ユーティリティをインストールするとHDD部分が認識される

 HDD事業のトップメーカーとして圧倒的な存在感を見せる一方で、2016年にはNANDメモリのトップメーカーの一角であるSanDiskを買収し、SSD事業も強化。製品の対象ユーザーの範囲はコンシューマからデータセンターまで、製品のジャンルとしては内蔵・外付けを問わず、HDDからSSD、メモリーカードまでと、ストレージに関する非常に広い製品カテゴリーをカバーするに至っている。

ゲーミングPC向けM.2 NVMe SSD「WD_Black SN750 NVMe SSD」。SSDに関しては、機会を改めて詳しく掘り下げていくが、色分けによる用途別展開はSSDでも行われている

 現在のWestern Digitalに連なる系譜の中で、技術的なブレイクスルーはたびたび訪れている。近年の例で言うと、HDD内部に一般的な空気の代わりにヘリウムを充填し、空気抵抗の軽減によってプラッタ枚数の増加や精度の向上を実現した技術の確立などが挙げられる。このヘリウム充填技術は、神奈川県にあるWestern Digitalの藤沢事業所で開発された日本発のテクノロジーだ。

 2020年には、次世代記録技術の「エネルギーアシスト磁気記録」を採用した20TBのHDDの発売を予定(すでにサンプル出荷済み)。引き続き、Western Digitalはストレージ業界のリーダーとして市場を牽引するだろう。

世界初の10TB HDD「Ultrastar Archive Ha10」。2009年からの5年の間に容量は5倍。ヘリウム充填は最大容量のHDDにとって大きなブレイクスルーとなった
Western Digitalの藤沢事業所。旧HGSTの施設を継承し、HDDの研究開発と試作を行なう、技術の中核拠点である
HDDの進化は、もちろん速度の進化の歴史でもある。僚誌「DOS/V POWER REPORT」で行なった、1998年発売のCaviar 28400、初代Raptor、現在のWD Blueのベンチ結果がこちら。時の流れが見える……

HDDの大容量化、高速化は止まらない!!アシスト磁気記録の実用化で記憶容量拡大を加速するHDD

 現在のストレージ環境は、OSやアプリケーションの起動など速度を必要とされる用途向けのSSDを頂点に階層化が進み、HDDは用途ごとに分担されたデータ保存用に特化してきている。

 たとえばWestern DigitalのHDDの場合、NAS向けの「WD Red」と「WD Red Pro」、監視カメラ向けの「WD Purple」、デスクトップ向けのハイエンド向けの「WD Black」、メインストリーム向けの「WD Blue」といった具合だ。ほかにもエンタープライズ向けには「Ultrastar DC」が展開されている。

最大8ベイまでのNASに向けたHDD「WD Red」には、上位モデルとして、より規模の大きいNAS(最大24台ベイ)用としては「WD Red Pro」がある
GreenもBlueも自作PCユーザーにはとてもなじみ深いブランドだっただけに、統合のインパクトは大。Greenの名前はその後SSDで復活する
Blackを冠する製品の特徴は「パフォーマンス」。現在のWD Blackは、ヘビーゲーマーやプロクリエイター向けの高速HDDとして展開中
24時間365日使用向けという点でWD Redに似た点も少なくないが、映像データの断片化を防ぐという独特のファームウェアを搭載する
Western Digital最高峰のHDD、WD Gold。WD Redの信頼性と速度をさらに高めたWDブランドのデータセンター向け製品だが、アキバでのショップや通販でも購入可能

 また、近年では、クラウドサービスの普及や動画コンテンツの拡大、IoT機器の増加とAIの普及などによって、企業、個人の両方で、扱うデータが爆発的な増加を続けている。

 SSDの普及によってHDDの将来性に疑問を持つ人も少なからずいるかもしれないが、このような背景を考慮すると、「より安価に、より確実に、より大容量に」という方向性で、今後もHDDの進化は続いていくだろう。

 たとえば、前述したヘリウム充填技術の登場により、HDDの容量の天井を一つ突破して大台を超えてきている。さらに続いていく次世代技術の実用化によって、HDDの大容量化はさらに加速する期待感がある。この先の展開はどうなるだろうか。

初のヘリウム充填HDD「Ultrastar He6」。現在では、主に10TBを超えるHDDでヘリウム充填が用いられている

 直近のものとしては、Western Digitalはすでにエネルギーアシスト磁気記録技術を用いた20TBのニアライン向けHDD「Ultrastar DC HC650 SMR 20TB HDD」のサンプル出荷を開始しており、2025年には40TB超えというロードマップを描く。

 次世代技術を採用したHDDは、ニアライン向けからスタートし、徐々にコンシューマ向けにも展開されることになるのが通例なので、このような技術を搭載したHDDが身近になる時代もそう遠くないかもしれない。

データセンター向けのハイエンドHDD「Ultrastar DC HC650 SMR 20TB HDD」。HDDの大容量化を加速する技術として注目されている次世代のHDDの記録技術、エネルギーアシスト磁気記録を採用したWD初の製品となる

 また、コンシューマ向けHDDは、いわゆる「瓦記録」方式として知られる「SMR(Shingled Magnetic Recording)」技術を採用したHDDが主流となるとみられている。

 当初は従来の「CMR(Conventional Magnetic Recording)」技術に比べて速度やそれにともなう使い勝手といった面でデメリットが取りざたされることもあった。しかし現在の製品では、キャッシュ技術の強化により、弱点とされていたランダムライト性能も改善されており、むしろ大容量化のメリットの面がプラスとなっている。

SMRでは、従来技術で必要だったガードバンドと呼ばれるトラック間のデータの保護領域をなくし、データの一部を隣接トラックに重ね書きすることで記録密度を高めている。速度面での不利が生じるが、高速にアクセスできるキャッシュ領域を使ってこれをカバーしている

 SSDとHDDは、今後もPCストレージの「両輪」として、お互いの役割と求められる性能の違いを明確にしながら、引き続き進化を続けていくことだろう。

Western Digital HDDの歴史 1956~2010
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[制作協力:Western Digital]