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会社のPCに自宅から安全・簡単アクセス、NTTの「シン・テレワークシステム」を試してみた
高セキュリティなリモート環境を手軽に、標準的なノートPCでも快適操作 text by 日沼諭史
2020年6月24日 06:05
在宅勤務をはじめとするテレワークが広がっている今、会社支給のノートPCやデスクトップPCを自宅に持ち込んで、オフィスと同じように仕事をこなしている人もいるだろう。
しかし、その一方で、規則から会社のPCを外に持ち出せず、テレワークが難しい状況にあったり、テレワークにうまくなじめない人もいるのではないだろうか。
たとえば、自宅で仕事をしてはいるものの、私物のPCを無理矢理使っていて、会社のPCとの使い勝手の違いから効率良く仕事ができなかったり……、あるいは仕事に必要なデータが会社のPCにしかないことに気付いて、仕方なく出勤する羽目になったり……、なんてこともあるかもしれない。
会社側としても、従業員に効率良く、安全に仕事をしてもらうために、しっかり体制を整えてテレワークを導入したいと考えているはず。ただ、会社側のシステムがそれに追いつけなかったり、テレワークのために設備投資をする余裕がなかったりもする。厚生労働省や自治体などがテレワーク化にかかる費用を助成する取り組みも行なっているが、手間のかかる手続きが必要で、即座に給付されるわけでもない。
そうした状況のなかで、2020年4月からNTT東日本などが「シン・テレワークシステム」の実証実験を開始している。これは、まさにシステム的・セキュリティ的・金銭的にテレワーク移行が困難だった企業に最適なサービス。会社にあるPCと従業員が使う自宅PCをセキュアにつなげるもので、簡単に言えばリモートデスクトップを可能にするものだ。
無料で誰でも、セキュリティに配慮しながら使えるという「シン・テレワークシステム」。一体どんなサービスなのか、実際にインストールして試してみた。
自宅から社内PCのデスクトップに簡単アクセス、手軽かつセキュアなリモート接続サービスVPNなど社内ネットワークの構築不要で導入OK
シン・テレワークシステムは、NTT東日本や独立行政法人情報処理推進機構(IPA)などが共同で提供する「リモートデスクトップ型のテレワークシステム」。
会員登録も契約も必要なければ利用料金もかからず、インターネットに接続可能な回線とWindows環境さえあれば、企業・個人が自由に利用できるサービスとなっている。
実証実験という位置付けであり、今のところは2020年10月31日までの期間限定(現在、期間の延長が検討されている)で提供される見込みだが、現状ではテレワークが難しいと考えていた企業は試す価値がありそうだ。
利用したい企業・個人が用意しなければいけないのは、主に会社側に置いているPC(Windows)と、従業員が自宅などで使っているPC(Windows)、このサービスを利用するための専用ソフトウェアとインターネット回線の4つ。
残念ながらmacOSには対応していないが、WindowsについてはWindows XP~Windows 10、もしくはWindows Server 2003~Windows 2019と幅広くカバーしており、動作保証はないがWindows 95/98やWindows NT/2000などでも使える場合があるようだ。当然だが、セキュリティを考慮するならマイクロソフトの延長サポートが終了していないWindow 8.1以降を使うべきだろう。
通常、社外から社内の個別のPCのデスクトップにアクセスするためには、VPNなどでセキュリティを確保し、PC同士を接続できるよう社内ネットワークを設定したうえで、リモートデスクトップのソフトウェアを双方(社内PCと社外PC)に用意しなければならなかった。
リモートデスクトップの機能はWindows 10 Proが標準で備えており、他にも無償・有償で利用できるソフトウェアがいくつかあるため、最も手間・コストがかかる部分は「セキュリティを確保できる社内ネットワークの設定」と言える。
シン・テレワークシステムは、その「セキュリティを確保できる社内ネットワークの設定」を全くのノーコストで実現できる機能をもっている。インターネット上に独自に用意したVPN接続の「大規模分散型中継システム」を経由してリモートPCにアクセスする仕組みで、さらにリモートデスクトップの機能をも内包したソフトウェア・サービスとなっている。
つまりシン・テレワークシステムさえあれば、手軽に社外から社内の自分のPCのデスクトップにセキュアにアクセスして(しかも今なら無料)、必要な仕事やデータ操作ができる、ということなのだ。
自宅PCは低スペックでも問題なし、快適さは接続先の会社PCと回線次第
自宅から社内PCにアクセスできるようにして、テレワークへスムーズに移行可能なのは重要なメリットだが、もう1つリモートデスクトップのメリットとなるのが、「クライアント(自宅PC)側に高いスペックが必ずしも求められない」こと。
リモート側の社内PCでの処理は、当然ながらその社内PCが担うため、手元の自宅PCのスペックに関係なく、普段業務に使っていた社内PCの性能をほぼそのまま使うことができる。
実際、一般的なノートPCで自宅側PCは問題ないのか、今回シン・テレワークシステムを試すにあたって選んだクライアント側のPC(自宅PC)は、割安なミドルクラスといった性能の「eX.computer N1430J」シリーズだ。
TSUKUMOが販売するノートPCで、価格は税抜き94,800円から。標準構成時のスペックは、CPUがIntel Core i5-10210U(4コア/8スレッド・1.60GHz/ブースト時最大4.2GHz)、メモリが8GB、SSDはNVMe接続M.2の256GBで、ディスプレイは14インチのフルHD(1,920×1,080ドット)といった仕様になっている。重量は970gで厚さは1.65mmと薄型軽量なのも特徴だ。
このモデルはOSの種類や日本マイクロソフトのOfficeの有無など、ソフトウェア面のみ注文時にカスタムできる。標準ではOSがWindows 10 Homeとなっているが、Windows 10 Proへの変更も注文時に行えるので、業務に使用する場合は用途に合わせ適切なものを選ぶと良いだろう。
なお、メモリやストレージの増設はできないが、シン・テレワークシステムではサーバーPC側(社内PC側)で処理するため、クライアントPC側の性能はOSが快適に動くレベルであれば問題ないだろう。
自宅PCの性能の影響は受けにくいとはいえ、リモート操作時の快適性に影響が出る部分もある。それがディスプレイ周りの仕様で、ディスプレイのサイズや解像度は、できるだけ大きい方が接続先となるサーバー側のデスクトップが見やすくなるし、操作もしやすくなる。PCを選ぶ際にここだけは意識したいところ。
また、ネットワーク回線の速度や安定性は操作のスムーズさに影響してくるので、高速かつ安定して通信できる無線LAN、もしくは有線LANを使いたい。
そういう意味では、今回試す「N1430J」シリーズは、大きめの14インチディスプレイで、解像度もフルHDと必要十分。有線LANは内蔵していないが、それに匹敵する通信速度を叩き出す超高速なWi-Fi 6(IEEE802.11ax)に対応しているので問題ない……というか、むしろ十分以上の性能がある。あとは自宅のWi-Fiルーターやインターネット回線のパフォーマンス次第だ。
シン・テレワークシステムの導入は至って簡単ダウンロードしてウィザードに沿ってインストールするだけ
シン・テレワークシステムの導入は簡単だ。社内PCと自宅PCのそれぞれで、無償の専用ソフトをダウンロードし、社内PCの方を「サーバー」として、自宅PCの方を「クライアント」としてインストールする。
デフォルトのセキュリティ設定ではパスワードのみによるログインとなり、初期設定もそのパスワード設定以外はほとんど必要ない。具体的なインストール・設定手順は以下の通りだ。
シン・テレワークシステムはWindows 10 Proが快適ストレスのない高速なレスポンス、普段通りの操作感をリモートで
シン・テレワークシステムでリモートデスクトップを利用する際、サーバー側となる社内PCがWindows 10 Proなどのリモートデスクトップ機能を標準で備えているPCか、そうではないWindows HomeなどをインストールしたPCかで大きく操作性が変わる。おすすめは快適な操作が可能なWindows 10 Proだ。
社内PCがWindows 10 Pro以上であれば、ログオン動作はWindows標準のリモートデスクトップ機能に準じる。シン・テレワークシステムのセキュリティ設定で指定した方法(パスワード入力など)でログインした後、Windowsのログオンパスワードを入力してデスクトップにアクセスする形になるわけだ。デスクトップ画面表示に劣化はなく、回線状況が良ければ操作時の遅延はかなり少ない。
また、社内PCのディスプレイ解像度にかかわらず、現在操作している自宅PCの解像度に合わせて表示されるため、今回のeX.computer noteからアクセスした場合、eX.computer noteの解像度に合わせてデスクトップが表示される。自宅PCがマルチディスプレイ環境なら、リモートデスクトップの表示も自動でマルチディスプレイに対応した形で表示されるので、利便性を高めるための自由度も高い。
社内PCと自宅PCの間では、クリップボードを介したファイル・テキスト・イメージのコピー&ペーストも可能だ。リモートデスクトップ上から自宅PCのドライブに直接的にアクセスできるドライブ共有の機能もあるので、ローカルからリモート、リモートからローカルへの作業にもシームレスに移行できる。
対して、社内PCがWindows Homeの場合は、シン・テレワークシステムがもつ独自のリモートデスクトップ機能を利用することになり、いくつかの制約が出てくる。
画面表示には画質の劣化が感じられ、文字の輪郭などがわずかにぼやける。データの転送手法や圧縮率はカスタマイズできるものの、くっきりとした表示にはならない。
しかし、デフォルトの十分に実用的な見栄えの画質設定であれば、操作に対するレスポンスはかなり高速。マウスをクリックしてリモート側の画面が反応するまでのタイムラグは0.1秒もなさそうだ。
画面の描画速度の問題からウィンドウの移動やスクロールは滑らかとは言えないものの、レスポンス自体は良く、きびきびと反応してくれる。
キーボードからの文字入力についても違和感はない。社内PCにインストールしているIMEが利用できるので、業務で使っているいつものIME、いつもの変換辞書で効率よく入力していける。
WordやExcel、PowerPointのようなオフィスアプリケーションの操作にも特に支障はなく、資料の作成・編集でストレスを感じることは(社内PCのスペックさえ十分なら)まずないだろう。
画質の劣化があるので、写真や動画の編集には必ずしも向いているとは言えないが、自宅PCが非力な場合、それでも社内PCの処理性能に頼って作業できることには意味があるだろう。トータルでの生産性は上がるはずだ。
業務効率を考えるなら社内PCはWindows 10 Proであることが理想でありおすすめだが、表示のぼやけが気にならないのであれば必須というほどでもない。
Windows 10 Homeであってもクリップボードを介したテキストのコピー&ペーストは相互に行えるので、最低限の利便性は確保されている。
社内PCがWindows 10 Homeだった場合の対策快適に操作するには画面解像度とディスプレイ枚数を揃えよう
サーバー側となる社内PCがWindows 10 Homeの場合、表示が若干ぼやけるといった制約は前述の通りだが、もう一つ注意しておきたいところがある。それは、社内PCと自宅PCとでディスプレイ解像度/ディスプレイ枚数が異なると、表示が見にくくなったり、操作しにくくなる場合があることだ。
社内PCの方が解像度が高いと、自宅PC側ではデスクトップ全体をスクロールしながら操作するか、本来の解像度より縮小させて(一段と表示がぼやけたような状態で)利用することになる。このまま操作するのはかなりのストレスとなるので、こういったケースでは社内PCの解像度をクライアント側に合わせてみてほしい。そうすることで操作時の快適性は大きく変わる。
また、社内PCがマルチディスプレイ環境だったりすると、その複数画面分のデスクトップが1画面としてまとめて表示される形になる。このため、自宅のPC側では大きなデスクトップ画面をスクロールさせながら使うか、やはり大幅に縮小表示しなければならなくなる。
この場合も基本的な対応は同じで、自宅PC側の環境に社内PC側の設定を合わせると快適になる。自宅PCがディスプレイ1画面なのであれば、社内PC側も1画面だけにし、解像度を自宅PC側に合わせるといった感じだ。社内PCで複数ディスプレイを接続して使用している場合、ディスプレイは1台を残して電源をオフにし、映像ケーブルも抜いておく方が良いかもしれない。
充実のセキュリティ。マイナンバーカードでのログインもOK
デスクトップ操作が普段通りできるだけでなく、ログインについてもさまざまな手法が用意されているのがシン・テレワークシステムの特徴だ。
単純なパスワードのみによるログインの他に、ユーザー名とパスワードの組み合わせによるログイン、Active Directoryが稼働している外部の認証サーバーを利用したログインも可能。PKI認証などの証明書を利用したログインも可能で、たとえばマイナンバーカードとPC用カードリーダーを使ってログイン管理を行うこともできる。
それ以外にも、指定したメールアドレスにメール送信する二要素認証・ワンタイムパスワードの方式、自宅PCのMacアドレスを元にしたアクセス制限も可能で、これらを複数組み合わせて最大限にセキュアなログインを実現できるようになっている。
これだけ充実していれば、企業としてもセキュリティに対する不安を取り除けるはず。セキュリティ面でテレワークの導入が難しかったところでも利用できそうだ。
「シン・テレワークシステム」は1万人以上が同時使用中でも快適動作テレワークを素早く導入したい企業に
今回、数時間ほど続けて利用してみたところでは、急激なレスポンスの低下や(社内PCがWindows 10 Homeの場合の)画質の大幅な劣化も見られず、快適に利用できた。
記事執筆時点で、おおよそ3万7,000台のPCでサーバーソフトが稼働し、うち1万5,000人ほどのクライアントがリアルタイムで利用していたようだが、そんな状況でも問題なく動作し続けていたので、インフラ的にはかなりのキャパシティがあるように思える。
これが10万人、20万人と利用者が増えていったときにどうなるかはわからないが、会社にしかないデータ・リソースが必要というだけでテレワークを諦めたり、出社したりするよりは、シン・テレワークシステムを利用したほうがよほど生産性を高められるのではないだろうか。
eX.computer noteシリーズのような標準的なPCを従業員に支給して簡単な設定をするだけで、テレワーク環境がほぼ整ってしまうこのツール。これまでさまざまな事情からテレワークに対応できなかった企業や、今まさに導入に向けて検討している企業に、ぜひ活用してほしい。
[制作協力:TSUKUMO]