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"ハイフレームレートでゲームならIntel”は本当か?Core i9とRyzen 9のゲームパフォーマンスを比べてみた

知っておきたいハイエンドCPUの特性 text by 浅倉吉行

Ryzen 9とCore i9をGeForce RTX 3080を使って比較してみた

 現在自作PC向けのCPUでは、AMD Ryzenが人気を集めており、マルチスレッド性能などで高いパフォーマンスを発揮している。数年前であれば、ジャンルを問わず性能ならIntelのCoreシリーズといった風潮だったが、空気感が変わりつつあるのが昨今の状況だ。

 自作PC市場ではAMD Ryzenが好調ではあるのだが、全ての面でRyzenが優勢というわけでは無い。ゲーミング性能、とりわけハイフレームレート環境ではIntel CPUが有利という話は根強く聞かれる。その一方で、現行のRyzen 3000シリーズはゲームでも十分速いという声もある。今回のレビューでは、ゲーミング性能にスポットを当てて、両社の比較を行ってみた。

 なお、AMDは次世代のRyzen 5000シリーズを11/5日に全世界で発売すると発表したのに対し、Intelは2021年の第1四半期に第11世代のCoreプロセッサを投入することを告知しており、今後の競争も激化することが予想される。

 今回紹介するCPUの特性などが次世代CPUにそのまま引き継がれるのか、全く違う状況になるのかは実際にテストしてみないと見えてこない部分ではあるが、2020年10月末の時点において、現行モデルのAMDとIntelのCPUにどんな特性があるのがといった一例として参考にしてもらいたい。

「Ryzen 9 3950X」vs「Core i9-10850K」メインストリーム最上級モデルのゲーミング性能をテスト

 今回のテストでは、AMDの第3世代Ryzen最上位モデル「Ryzen 9 3950X」と、デスクトップ向け第10世代Coreプロセッサの最上級ブランドを冠する「Core i9-10850K」を比較する。両CPUと組み合わせるビデオカードには、NVIDIAのハイエンドGPU「GeForce RTX 3080」を搭載する「ASUS TUF-RTX3080-10G-GAMING」を用意した。

 AMD Ryzen 9 3950X(16コア)の実売価格は税込79,800円前後で、現在値下がり傾向。Intel Core i9-10850K(10コア)は税込で55,980円前後となっている。

 今回Core i9-10850Kを選んだのは、最上位のCore i9-10900Kから動作クロック100~200MHz程度低くなるものの、ゲームにおいては差が非常に小さい割に6千前後も価格差があるため、より購入しやすいモデルとして選択した。

 Core i9-10850Kに価格を合わせるのであれば、Ryzen 9 3900X(12コア/税込55,980円前後)が釣り合っているものの、内部コア(CCX)の構成の関係上Ryzen 9 3900XはRyzen 9 3950Xよりゲーム用途に不向きな面が有り、RyzenとCoreでどちらがゲーム向けに有利なのかを見る上では適さない部分があるので、今回は最上位のRyzen 9 3950Xを使用している。

 Core i9-10850KがRyzen 9 3950Xにゲームパフォーマンスで上回るのであれば、当然、上位のCore i9-10900KもRyzen 9 3950Xを上回ることになる。

AMD Ryzen 9 3950X。第3世代Ryzenの頂点に位置する16コア32スレッドCPU。
Intel Core i9-10850K。最上位のCore i9-10900Kに匹敵する性能を誇る10コア20スレッドCPU。

 その他の機材については、以下の表に記載したPCパーツを使用している。

 なお、ビデオカードのGeForce RTX 3080は、バスインターフェイスにPCIe 4.0 x16 (32GB/s)を採用しているが、これをスペック通り利用できるのはRyzen 9 3950Xのみで、Core i9-10850KではPCIe 3.0 x16 (16GB/s)での接続となっている。環境面から見ると、AMD環境はPCI Xpress x16スロットがGen 4対応なのに対し、Intel環境はGen 3対応。Gen 4対応のRTX 3080の性能をIntel環境でどこまで引き出せるのか、といった部分も見てもらいたい。

ASUS TUF-RTX3080-10G-GAMING。NVIDIAの新世代GPU「GeForce RTX 3080」を搭載するハイエンドビデオカードだ。
PCIe 4.0をサポートするRyzen 9 3950Xと組み合わせた場合。Bus Interfaceの表記を見るとPCIe 4.0 x16で接続されていることがわかる。
PCIe 4.0非対応のCore i9-10850Kとの組み合わせでは、Bus InterfaceがPCIe 3.0 x16接続となっている。

CGレンダリングベンチマークではAMD優位、ゲームベンチマークではIntel優位

 ゲームでのパフォーマンスをチェックする前に、ベンチマークテストを使って両CPUの性能をチェックしておこう。

 まず実行したのは、3DCGレンダリングテストの「CINEBENCH R20」。CPUの処理性能を測定するこのベンチマークテストにおいて、全CPUコアを使用する「CPU」テストのスコアで「9,138」を記録したRyzen 9 3950Xが、「6,206」を記録したCore i9-10850Kに約1.5倍の大差をつけている。CPUコア数が性能に影響するこうした用途では特にAMDが有利だ。

 シングルスレッド性能を測定する「CPU(Single Core)」のスコアは、Ryzen 9 3950Xが「523」で、Core i9-10850Kが「524」という差のない結果となっており、総じてRyzen 9 3950Xの優秀さが光る結果となっている。

CINEBENCH R20の実行結果
Ryzen 9 3950Xのスコア。マルチスレッドは「9,138」で、シングルスレッドは「523」。
Core i9-10850Kのスコア。マルチスレッドは「6,206」で、シングルスレッドは「524」。

 続けて、3Dベンチマークテスト「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」の結果を紹介しよう。描画設定を「最高品質」に設定し、画面解像度を「フルHD(1,920×1,080ドット)」と「4K(3,840×2,160ドット)」にした場合のスコアを取得した。

 フルHDでのスコアは、Ryzen 9 3950Xが「20,161」で、Core i9-10850Kが「23,551」。約17%の差をつけてCore i9-10850KがRyzen 9 3950Xを上回っている。

 一方、4KでのスコアはRyzen 9 3950Xが「14,299」で、Core i9-10850Kのスコアは「14,984」。こちらもCore i9-10850KがRyzen 9 3950Xを上回っているが、その差は約5%に縮小している。

画面解像度「フルHD(1,920×1,080ドット)」、描画設定「最高品質」
Ryzen 9 3950Xのスコアは「20,161」。
Core i9-10850Kのスコアは「23,551」。
画面解像度「4K(3,840×2,160ドット)」、描画設定「最高品質」
Ryzen 9 3950Xのスコアは「14,299」。
Core i9-10850Kのスコアは「14,984」。

 ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークでは、GPU負荷の低いフルHD時にCPUの違いがスコアに反映された。これは多くのゲームで見られる傾向で、よりGPU負荷が低く、フレームレートが高くなる条件ほど、CPUのゲーミング性能の差がパフォーマンスに反映されやすい。

 この結果は、近年登場している280Hzや360Hz対応といった高リフレッシュレート・ゲーミングモニターの表示性能を活用しようとする際、CPU性能がより重要になるということだ。今回のテストでは、フルHD解像度のゲーミングモニターを使うことを想定して、より高いフレームレートを出そうとした時にCPUの差がどれだけ現れるのかをチェックしていく。

ハイフレームレートターゲットでゲーム性能を比較

 それでは本題のゲーミング性能の比較に入ろう。ゲームで60fpsをターゲットするのであれば、AMD・IntelともにCPUの性能がGPUに対してオーバースペックとなるケースが多い。

 ただし、280Hzや360Hz対応といったハイフレームレートのゲーミングモニターを使いこなそうとすると、かなりのCPU性能が要求され、ハイエンドCPUはこうした環境で真価を発揮する。ゲームで高フレームレートを狙った際に、AMD・IntelどちらのCPUが良いのか、また、どの程度の差になるのかといった部分を見てもらいたい。

フォートナイト

 フォートナイトでは、描画設定を「中」をベースに3D解像度を「100%」に設定し、リプレイデータを用いた同一シーンでフレームレートを測定した。グラフィックスAPIは「DirectX 12」。

 Ryzen 9 3950Xが平均262fpsを記録したのに対し、Core i9-10850Kはこれを約17%上回る平均305fpsを記録している。最大フレームレートと最小フレームレートもCore i9-10850Kの方が13~19%高い数値となっている。

画面解像度「フルHD(1,920×1,080ドット)」、描画設定「中」、3D解像度「100%」、API「DirectX 12」

VALORANT

 VALORANTでは、各描画設定を「高」に設定して、練習場で同じコースを周回したさいのフレームレートを測定した。

 平均フレームレートは、Ryzen 9 3950Xが419fpsであったのに対し、Core i9-10850Kはそれを約26%上回る529fpsを記録した。

 Core i9-10850Kのアドバンテージは大きいものの、ここまで高リフレッシュレートなゲーミングモニターは市場に存在していないため過剰なものと思えるかもしれない。だが、グラフィックスAPIにDirectX 11を用いるVALORANTでは、シチュエーション次第でCPUのボトルネックが生じる場合があり、両CPUとも最小フレームレートが200fps台となっているのはそれだ。混戦時などでもより高いフレームレートを維持するという点で、Core i9-10850Kが優位であることは間違いない。

画面解像度「フルHD(1,920×1,080ドット)」、描画設定「高」。

レインボーシックス シージ

 レインボーシックス シージでは、描画設定「最高」をベースにレンダリングのスケーリングを「100」に設定し、ベンチマークモードを実行した。グラフィックスAPIは「Vulkan」。

 CPUのボトルネック軽減が期待できるグラフィックスAPIのVulkanを利用した場合でも、Ryzen 9 3950XとCore i9-10850Kの間には約7%のフレームレート差がついている。もっとも、この差は最小フレームレートが360fpsを超える動作でついたものであり、どちらも現在最速のゲーミングモニターの表示性能をフル活用できるパフォーマンスを発揮しているという点では、差のない結果であるとも言える。

画面解像度「フルHD(1,920×1,080ドット)」、描画設定「最高」、レンダリングのスケーリング「100%」、API「Vulkan」。

Horizon Zero Dawn

 Horizon Zero Dawnでは、描画設定「最高」でベンチマークモードを実行した。

 平均フレームレートは、Ryzen 9 3950Xが138fpsであるのに対し、Core i9-10850Kは151fpsで約9%高い数値となっている。これまでに紹介したゲームほど高いフレームレートでの比較では無いが、比較的GPU負荷の高いグラフィックス重視のタイトルかつ100fps台でもこの程度の差がつくこともある。

画面解像度「フルHD(1,920×1,080ドット)」、描画設定「最高」。

Microsoft Flight Simulator

 Microsoft Flight Simulatorでは、描画設定を最高の「ULTRA」に設定してフレームレートを測定した。測定を実施したのは、羽田空港から関西国際空港までAIに飛行させるルートで、離陸から3分間のフレームレートを取得している。

 Microsoft Flight Simulatorは、マルチコアへの最適化が十分とは言えないため、CPUのボトルネックが顕著なタイトルである。このため、平均フレームレートはRyzen 9 3950Xで42.8fps、Core i9-10850Kは47.1fpsとなっており、両CPUの間には約10%の差がついている。

 どちらも30fpsを超えるプレイアブルなフレームレートを記録している点に変わりはないが、Microsoft Flight SimulatorはよりCPUのボトルネックが厳しくなるシチュエーションも存在するので、ベストを目指すなら両CPUの間についた10%の差は無視できないものだろう。

画面解像度「フルHD(1,920×1,080ドット)」、描画設定「ULTRA」。

ハイフレームレートでゲームを遊ぶならIntel Coreシリーズが今は有利

280Hz表示対応のゲーミングモニター「ASUS TUF GAMING VG2790M」。
高性能ゲーミングモニターを活かすなら、フレームレートをしっかり引き出せるCPU/GPUが必要になる。2020年10月末現在では、ハイフレームレート環境にはIntel Core i9が適している。

 現状、ゲーミング用途でアドバンテージを持っているのはIntelの第10世代Coreプロセッサだ。次世代CPUではまた違う結果となるかもしれないが、2020年10月時点で見れば、高フレームレートでのプレイを望むゲーマーにとって、第10世代Coreプロセッサの方がより良い選択肢となり得る。

 60fps/最高画質といったあたりがターゲットなのであれば、AMD RyzenでもIntel Coreでも好みのものを選んで問題は無い。ただし、280Hzや360Hz対応のゲーミングモニターなどの性能をフルに使いたいといった用途では、Intel Coreが優位になる状況が多い。自分が求める性能の環境に合わせ、より良いCPUを選択する手がかりとして今回の結果を役立てて欲しい。

 なお、AMDが11月に投入するRyzen 5000シリーズはゲーミング性能の向上をアピールしており、Intelとの差をどこまで覆すことができるのか、場合によっては超えることができるのかといった面も注目されている。また、Intelも第11世代Coreプロセッサ「Rocket Lake」を準備しており、性能向上が期待されている。

 ゲーム用途でも次世代CPUがより高性能となるのは間違いないと思われるが、コストパフォーマンス優先で値下がりした旧型CPUを狙う手もある。自作PCユーザーとしては今後の両社の性能競争に期待しつつ、新旧CPUを含めユーザー側の選択肢が増えることにも期待したい。