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Intelユーザー歓喜!?PCIe 3.0環境でもPCIe 4.0 SSD級の性能が出る「WD_BLACK AN1500」を試す

リード実測6GB/s超の拡張カード型SSDで今秋のAAAゲームをプレイ! text by 芹澤正芳

PCI Express 3.0環境でも限界突破できるSSD

 今、個人向け高速SSDの最高速レベルの製品は、PCI Express 4.0 x4接続に対応したM.2タイプがほとんど。裏を返せばその速度を活かすには、第3世代以降のRyzenとX570/B550チップセットの組み合わせ、つまりAMDプラットフォームを使用した場合に限られる、というわけである。

 Z490マザーボードの一部には、対応CPUが登場すればPCI Express 4.0を利用できることをうたっている製品はあるものの、現時点では肝心のCPUが販売されていない(2021年第1四半期登場予定)。今は最高峰のNVMe SSDのピーク性能が本来の性能を発揮しきれず頭打ちになる、というのはIntel派には残念なところだ。

WD_BLACK AN1500 NVMe SSD Add-in-Card

 そんな状況も考慮したウエスタンデジタルは、PCI Express 3.0製品ながら従来の壁である3,500MB/sを突破する製品を投入してきた。それが、カード型のSSD「WD_BLACK AN1500 NVMe SSD Add-in-Card」だ。インターフェースはPCI Express 3.0、容量は1TB、2TB、4TBをラインナップする。

 WD_BLACK AN1500はPCI Express 3.0だが、カードの形状からも分かるに、レーン数が「x8」接続となっている。PCI Express 3.0 x8のデータ転送速度の理論値はPCI Express 4.0 x4(=M.2接続のSSDで一般的なレーン数)と同等だ。そのため、データ転送速度はシーケンシャルリードが6,500MB/s、シーケンシャルリードが4,100MB/sとPCI Express 4.0 x4接続のSSDに引けを取らない性能を実現している。

PCI Expressのデータ転送速度
PCI Expressの世代リンクレーン数転送速度(理論値)
PCI Express 3.0x4約4GB/s
PCI Express 3.0x8約8GB/s
PCI Express 4.0x4約8GB/s

 これこそがWD_BLACK AN1500最大のメリットで、現状ではPCI Express 3.0までのサポートであるIntelプラットフォームでも超高速SSD環境を手にできる。また、最新のZ490チップセットはもちろん、Z390/Z270/Z170など旧世代チップセットでもその速度を享受できる。

PCI Express 4.0製品に匹敵する性能、ただし使い方には注意も必要

 まずは、基本スペックを見てみよう。

WD_BLACK AN1500の公称スペックと実売価格
容量1TB2TB4TB
インターフェースPCI Express 3.0 x8
シーケンシャルリード6,500MB/秒
シーケンシャルライト4,100MB/秒
保証期間5年
実売価格28,000円前後56,000円前後105,000円前後

 PCI Express 3.0世代ながら、そのスペックは現役最速クラス。保証期間も5年と安心の長さだ。もちろん本機からのブートも可能となっている。

 ただし、PCI Express 3.0 x8接続ゆえの注意点もある。まず、PCI Express 3.0 x8接続するためには、レーン分割に対応したZシリーズのチップセット(Z490/Z390/Z370/Z270/Z170/Z97)が必要であること。H/Bシリーズのチップセットはレーン分割に対応しないので、3.0 x8接続はできない(3.0 x4またはx1接続ならできるが、それでは本来の速度は出ない)。さらに、Zシリーズでも、ミドルレンジ~エントリークラスのマザーボードでは製品の棲み分けやコストカットの意味でレーン分割機能をサポートしていないモデルがある。手持ちの環境へと導入を考えているなら、PCI Expressスロットの仕様は確認しておきたい。

 また、レーン分割を行なうと、PCI Express 3.0 x16スロットが2本あるマザーボードの場合は両スロットともにPCI Express 3.0 x8接続になる。そのため、PCI Express 3.0 x16接続のビデオカードは帯域が狭くなるため、パフォーマンスに影響が出る可能性が考えられる。本稿後半ではその辺りを検証する。

速さの秘訣はRAID 0!高速NVMe SSD×2搭載でも熱対策は万全

カバーを外したところ。2枚のNVMe SSDが搭載されている

 ガッチリした金属カバーの内側を見てみよう。シーケンシャルリード6,500MB/sの秘密は実はシンプルで、カード内に2枚のNVMe SSDを搭載し、RAID 0(ストライピング)を構成することで実現しているのだ。今回使用した1TB版には、組み込み/OEM向けと思われる「PC SN730 NVMe SSD」という型番の500GB版が2枚搭載されていた(仕様はWD_BLACK SN750に近い)。この2枚のSSDがRAIDコントローラであるインテリジェントNVMeスイッチ「Marvell 88NR2241」によってRAID 0を構成しているという仕組だ。

 このスイッチおよびSSDには厚手の放熱用シリコンパッドが貼られており、さらにカバー全体がヒートシンクになっているため、高い冷却性が確保されている。負荷の高い作業が続いても、これなら熱対策としては安心だろう。

エンタープライズクラスのRAIDコントローラ、Marvell 88NR2241が搭載されている
裏面も金属プレートで覆われている。放熱効果の高そうな外装だ
ブラケットにはスリットを設け、放熱性を高めている。ファンは搭載されていない

 また、ゲーマー向けをうたうSSDらしく上部にはRGB LEDを搭載。対応アプリの「Dashboard」にて発光パターンや色をコントロール可能なのほか、各種マザーボードの発光コントロール機能と連動させることもできる。

上部から後方にかけてRGB LEDが内蔵されている
Dashboardで発光コントロールが可能だ

PCIe 3.0世代のM.2 SSDを確実に上回るRAID 0+x8接続ならではの実力

 それでは本題の性能チェックに移ろう。定番のベンチはもちろん、“超高速なゲームプレイを体験できる”としている製品なので、2020年後半に登場した注目のAAAタイトルの起動とロード時間も合わせて測定する。比較するのは、同社のPCI Express 3.0世代のハイエンドNVMe SSD「WD_BLACK SN750 NVMe SSD」の1TB版(公称シーケンシャルリード3,430MB/s、シーケンシャルライト3,000MB/s)と、定番Serial ATA SSD「WD Blue 3D NAND SATA」の1TB版(公称シーケンシャルリード560MB/s、シーケンシャルライト530MB/s)だ。Windows 10はテストする3台のSSDにはインストールせず、システム起動用SSD(PCI Express 3.0接続のM.2 SSD)を別途用意した。そのほかのテスト環境は以下のとおり。

テスト環境
CPUIntel Core i7-10700K(8コア16スレッド)
マザーボードMSI MPG Z490 GAMING CARBON WIFI(Intel Z490)
メモリMicron Crucial Ballistix RGB BL2K8G36C16U4BL
(DDR4-3600 8GB×2、※DDR4-2933で動作)
ビデオカードNVIDIA GeForce RTX 2080 SUPER Founders Edition
OSWindows 10 Pro 64bit版

 まずは最大データ転送速度を見る「CrystalDiskMark 7.0.0h」から。WD_BLACK AN1500のシーケンシャルリードは公称値に迫る6,000MB/s超えで、一般的なPCI Express 3.0 x4接続のSSDには出せない速度を叩き出す。さらに注目したいのはランダムリードとライトだ。どちらもPCI Express 4.0 x4接続のSSDと同等クラス、ライト性能に関してはそれ以上と言える速度を出している。この結果からも実アプリでのレスポンスのよさが想像できる。

CrystalDiskMarkの計測結果

 それを裏付けるのが実アプリベースの動作テストを行なうベンチマーク「PCMark 10 Storage(Full System Drive Benchmark)」の結果だ。今回テストした3モデルでトップを記録。2位のWD_BLACK SN750を大きく上回っており、実アプリの起動や処理でも高い性能を持っていることが分かる。

PCMark 10 Storage(Full System Drive Benchmark)の計測結果

 ここからは実ゲームの起動とロード時間をチェックする。ストップウォッチを使った手動での測定になるため、すべて3回試行し、その平均値を掲載している。

 まずは、10月29日に発売されたオープンワールドアクションの「ウォッチドッグス レギオン」から。UBISOFT CONNECTのプレイボタンを押してからタイトル画面が表示されるまでを“起動”、キャンペーンの「続ける」を押してからプレイ画面になるまでを“ロード”、ゲーム内のロンドン・ブリッジからセーフハウスへの高速移動を“ファストトラベル”とした。ロードとファストトラベルは誤差の範囲だが、起動時間はWD_BLACK AN1500がほかの2製品よりも約6秒も高速と実力を発揮した。

ウォッチドッグス レギオンの各操作実行時間の計測結果

 10月10日発売の同じくオープンワールドアクションの「アサシン クリード ヴァルハラ」は、UBISOFT CONNECTのプレイボタンを押してからタイトル画面が表示されるまでを“起動”、タイトル画面で「続ける」を押してからプレイ画面になるまでを“ロード”、ゲーム内のデュロリポンテのシンクロポイントからレイヴンソープの野営地への高速移動を“ファストトラベル”とした。起動に関してはWD Blue 3D NANDよりは高速という結果。

アサシンクリード ヴァルハラの各操作実行時間の計測結果

 次は10月13日発売のFPS「コール オブ デューティ ブラックオプス コールド・ウォー」を試す。こちらは、Battle.netのプレイボタンを押してからタイトル画面が出るまでを“起動”、キャンペーンモードの再開を押してプレイ画面になるまでを“ロード”とした。これもSerial ATA接続のWD Blue 3D NANDよりは起動がわずかに高速という結果だ。

コール オブ デューティ ブラックオプス コールド・ウォーの各操作実行時間の計測結果

 では、超美麗のフライトシミュレータ「Microsoft Flight Simulator」はどうだろうか。Steamのプレイボタンをおしてからメニュー画面が出るまでを“起動”、羽田空港から千歳空港までを設定し、FLYボタンを押してからプレイ画面になるまでを“フライト開始”とした。このゲームでは起動もフライト開始もWD_BLACK AN1500の圧勝だ。WD_BLACK SN750よりも約10%ほど高速と強さを発揮した。

Microsoft Flight Simulatorの各操作実行時間の計測結果

 このほか、「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク」のローディングタイムも試す。ここでもWD_BLACK AN1500がトップを獲得した。ゲーム側でも環境に影響されずにロード時間を短くする努力をしているわけで、ゲームによって効果が異なるのは当然ではあるが、WD_BLACK AN1500は確実に“速い”ことは見て取れる。

ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク-ローディングタイムの計測結果

 WD_BLACK AN1500は速いだけではなく、大型ヒートシンクを搭載できるというカード型のメリットを活かした冷却性能の高さも魅力だ。TxBENCHでシーケンシャルライト(データサイズ32GB)を5分間連続して実行したときの温度を測定したが、最大でも59℃とNVMe SSDを2枚搭載しているとは思えない冷却力を示した。これなら、長時間でも安心して使えると言ってよいだろう。

シーケンシャルライト5分間連続実行時の温度推移

 最後に、WD_BLACK AN1500を使用することによるビデオカード性能への影響を見てみよう。今回の検証環境では本機をマザーボードの2本目のPCI Express 3.0 x16スロットに搭載している。そのため、レーン分割が行なわれ、ビデオカードを装着している1本目のPCI Express 3.0 x16スロットと2本目のPCI Express 3.0 x16スロットはともにPCI Express 3.0 x8動作になる。前述のとおりビデオカード側の帯域が狭まる。そこで、WD_BLACK AN1500とM.2スロットに接続するためレーン分割に影響のないWD_BLACK SN750でゲームのフレームレートを測定した。

 ウォッチドッグス レギオンのベンチマーク機能でフレームレートを測定すると、WD_BLACK AN1500使用時は若干、最小と平均フレームレートが下がっている。同じく、アサシンクリード ヴァルハラのベンチマーク機能でも試してみたが同じ傾向だ。画質設定をいろいろ変更して試して見たが、どれもWD_BLACK AN1500が平均フレームレートが1~3フレームレート下がる傾向。影響自体は見られるのだが、気にするほどではないと言ってしまってよい結果だろう。

ウォッチドッグス レギオンのフレームレート計測結果
アサシンクリード ヴァルハラのフレームレート計測結果

 このようにゲームで数fpsの低下が生じるが、ゲームのロードの高速化のみならずWindows全般の動作やSSD上のデータの使用(動画や写真の閲覧編集など)でのレスポンス向上が期待できるため、ストレージ高速化はトータルでのメリットが大きい。PCI Express 3.0世代かつレーン分割が可能なマザーボードを使用しているなら、導入の価値は十分あるだろう。また、軽いゲームほどビデオカードを接続するPCI Expressの帯域の影響は受けにくい、古めのGPUはPCI Expressの帯域をそれほど使わない、という傾向もあるため、チョイ古PCの強化にも有効そうだ。

 補足として、WD_BLACK AN1500をPCI Express 3.0 x4接続した場合のCrystalDiskMark 7.0.0hの結果も紹介しておく。インターフェースの壁にぶつかり、シーケンシャルリードは3,500MB/s程度しか出ていない。その一方でランダムリートとライトは3,000MB/sオーバーと十分高速だ。最高速度を求めなければ、割り切ってPCI Express 3.0 x4接続で使うのも手と言えるだろう。3.0 x4接続ならば、対応するマザーボードは多いからだ。

WD_BLACK AN1500をPCI Express 3.0 x4接続した場合のCrystalDiskMarkの計測結果。ピーク性能は頭打ちになるが、ランダムリード/ライト性能はSN750を上回る

 久しぶりに登場したカード型のハイエンドSSD。PCI Expressスロットに挿すだけで使える手軽さ、PCI Express 3.0に対応していればちょっと古い環境でもその速度を活かせるのが大きな強み。この冬はAAA級のゲームが数多く登場する。最近のゲームは容量が増加傾向にあるだけに、高速なSSDの追加を考えているなら、ぜひともチェックしてほしい。

[制作協力:テックウインド]