特集、その他
実は、Rocket Lakeは扱いやすい子なんです。Core i7-11700KをハイコスパのB560マザーと組み合わせる
準ハイエンドCPUに絶妙のバランスでマッチするMSIの2万円マザー「MAG B560 TOMAHAWK WIFI」 by 芹澤 正芳
2021年4月26日 00:01
3月末のRocket Lakeこと第11世代Intel Coreプロセッサーの発売から一月ほど経った。ハイエンドモデルCore i9-11900Kの発熱の大きさに注目が集まった結果、Rocket Lake自体がハードルの高いCPUと見られている風潮を感じる。筆者からするとこれはもったいない話。同じRocket LakeでもCore i7以下のグレードは消費電力、発熱が抑えられており、最新世代CPUとして魅力的な性能も兼ね備えているのだ。
ここでは、その優等生の代表格であるCore i7-11700Kを厳選した装備と安定動作で2万円強という、ほどよい価格を実現したMSIのB560マザー「MAG B560 TOMAHAWK WIFI」と組み合わせた使用感をレポートしたい。
「MAG B560 TOMAHAWK WIFI」が採用するIntel B560チップセットは最上位のIntel Z590に比べ、CPUのオーバークロック、PCI Expressのレーン分割、RAIDなどには非対応だが、第11世代Coreプロセッサーの大きなメリットの一つであるPCI Express 4.0にはバッチリ対応可能なので、CPUを定格で運用したい人、マルチGPUや特殊なストレージ構成を必要としない人なら“これで十分”と言える十分な機能を備えている。また、前世代のB460チップセットと異なり、メモリのOC(CPUの定格以上での動作)はサポートと、高クロック動作のメモリと組み合わせやすくなっている。
MSIの「MAG B560 TOMAHAWK WIFI」は、そのB560チップセットを搭載するマザーボードの一つ。同社のマザーボードの中ではエントリー~ミドルレンジとなる“MAG”ブランドの製品だが、B560マザーの中で最上位に位置し、12+2+1フェーズの強力な電源回路、それを冷やす大型のヒートシンクを搭載する。今回は、8コア16スレッドのCore i7-11700Kと組み合わせることで、“扱いやすさ”と“性能”のバランス感を確認してみたい。
ミドルクラスでも15フェーズの強力な電源回路に大型ヒートシンクを搭載
それではMAG B560 TOMAHAWK WIFIを詳しく見ていこう。まず注目したいのは電源まわりだ。廉価版チップセットのB560ではあるが、サポートCPUにはもちろん第11世代最上位のCore i9-11900Kも入っているわけで、電源回路は12+2+1フェーズとかなり強力だ。1フェーズあたりのMOSFETはSinopower Semiconductorの「SM4337」と「SM4503」で、MSIのミドルレンジマザーでよく見られる実績のある組み合わせだ。フェーズを制御するデジタルPWMコントローラはルネサスの「RAA229001」。
電源回路の冷却のため、ミドルレンジマザーながらハイエンドCPUをフルスピードで動かせるように設計されていると言う大型のヒートシンクを搭載。7W/mkという高い熱伝導率を持つサーマルパッドと組み合わせ、高い冷却性を確保している。
実際に動作の安定性と冷却力をテストしてみよう。テストの使用したパーツは以下のとおり。CINEBENCH R23を10分動作させたときのCore i7-11700Kの動作クロック(Core #0)とVRMの温度をチェックした。VRMの温度は、ハードウェア情報を表示できるアプリ「HWiNFO64」で「MOS」という項目の温度を追った結果だ。
CPU | Intel Core i7-11700K(8コア16スレッド) |
メモリ | Micron Crucial Ballistix RGB BL2K8G36C16U4BL (PC4-28800 DDR4 SDRAM 8GB×2)※PC4-23400で動作 |
ビデオカード | MSI GeForce RTX 3070 VENTUS 2X OC(NVIDIA GeForce RTX 3070) |
SSD | Micron Crucial P5 CT1000P5SSD8JP[M.2(PCI Express 3.0 x4)、1TB] |
CPUクーラー | 28cmクラスラジエータ簡易水冷クーラー |
電源ユニット | NZXT E Series E850 NP-1PM-E850A(850W、80PLUS Gold) |
OS | Windows 10 Pro 64bit版 |
最近のMSIマザーボードは、使用するCPUクーラーに合わせたPowerLimit設定をUEFIメニューに用意している。MAG B560 TOMAHAWK WIFIも同様で、CPU付属のクーラーを想定した「Boxed Cooler(PL1:125W)」、大型の空冷クーラーを想定した「Tower Air Cooler(PL1:255W)、水冷クーラーを想定した「Water Cooler(PL1:255W)」の3種類が用意されている。
PL1とはLong Duration Power Limit(長期間電力制限)のことで、長時間高負荷が続いた場合にかかる電力制限のこと。MEG Z590 ACEなど、同社のより上位グレードのマザーでは、Water CoolerのPL1は4096Wに設定され、“事実上のPL1無制限”になっているが、MAG B560 TOMAHAWK WIFIでは電源回路の規模などを考慮してか、最大255Wまでとなっている。Core i9-11900Kを使うなら、第4のブースト機能「Adaptive Boost Technology」をフルに活かす高いPL1設定(無制限など)が求められるが、それに比べるとだいぶ“マイルド”な設定だ。しかし、ABTを搭載しないCore i7-11700Kを使うには、ムダがなくちょうどよい。
それでは、実際に「Boxed Cooler(PL1:125W)」と「Water Cooler(PL1:255W)」、二つの設定でテストしてみよう。
Water Cooler(PL1:255W)設定では、ほぼ全コア4.6GHzで安定動作。ブレても1MHz程度だ。Core i7-11700Kの性能を十分引き出せている。VRMの温度も最大で61.5℃と心配のいらないレベルだ。今回はベンチ台を使ったバラック組みで、CPUクーラーも水冷と電源回路周辺を冷やす要素はほとんどない。エアフローのあるPCケースに組み込んだ場合は、もう少し下がる可能性もある。
Boxed Cooler(PL1:125W)設定では、1分を過ぎた辺りから電力制限がかかり全コア4.3GHzまで落ちた。その後は4.2GHzから4.3GHzで動作。3分すぎからたまに4.6GHzまで上がっているが、CINEBENCH R23の負荷が下がった一瞬だけだ。CPUの動作クロックが下がっているため、VRMへの負荷も減って最大56℃にとどまった。空冷など、CPUクーラー回りのコストを下げたい場合などには、こちらの運用もありだろう。
ちなみに、Water Cooler(PL1:255W)設定とBoxed Cooler(PL1:125W)設定では、CINEBENCH R23のマルチコアのスコアは約7%変わる。長時間の動画エンコードといった作業では、それなりに時間差は出てくるだろう。
また、B560チップセットはCPUのOCには対応しないが、メモリのOCはサポートしている。そのためMAG B560 TOMAHAWK WIFIはDDR4-5066という超高クロック動作のメモリにも対応する。Webサイトでは、対応メモリのリストも公開されているので、高クロックメモリを組み合わせたい場合はチェックしておくとよいだろう。
2.5G LANにWi-Fi 6Eとインターフェースは充実
インターフェース類をチェックしよう。バックパネルのUSBは、USB 3.2 Gen 2x2(Type-C)が1ポート、USB 3.2 Gen 1が4ポート、USB 2.0が4ポートだ。映像出力はDisplayPort 1.4とHDMI 2.0b(第10世代CPU使用時は1.4)を搭載。PCケースのUSBポート用として、USBピンヘッダで、USB 3.2 Gen2 Type-Cが1ポート分、USB 3.2 Gen 1が2ポート分、USB 2.0が4ポート分が用意されている。バックパネルはカバーが一体になったタイプで組み込み時に取り回しがよい。
ネットワーク機能は、有線LANがRealtek RTL8125Bの2.5G LAN。無線はIntel AX210によるWi-Fi 6E(IEEE802.11ax)対応だ。5GHz(160MHz)で最大2.4Gbpsの通信が可能となっている。Bluetooth 5.2もサポート。
ストレージは、Serial ATA 3.0を4ポート、M.2を3スロット搭載している。CPUに一番近い1番目のM.2スロットはPCI Express 4.0接続専用で第11世代Coreプロセッサー搭載時のみ使用可能、2番目はPCI Express 3.0とSerial ATA 3.0両対応、3番目はPCI Express 3.0接続とIntel Optane Memoryに対応と、スロットによって対応するSSDが異なる点には注意。
1番目と番目のM.2スロットには「M.2 Shield Frozr」と名付けられたM.2 SSD用ヒートシンクを搭載する。実際にSamsungのPCI Express 4.0 x4対応NVMe SSD「SSD 980 PRO」の1TB版で、M.2 Shield Frozrの有無でどれほど温度が変わるのか試して見た。
SSD 980 PROはシーケンシャルリードで最大7,000MB/sと現役最速クラスのハイエンドSSD。テストはTxBENCHでシーケンシャルライト(QD32)を5分間実行した際の温度をHWiNFO64で測定している。
M.2 Shield Frozrがない状態では2分過ぎに93℃に達してサーマルスロットリングが発生し、書き込み速度低下が見られた。一方でM.2 Shield Frozrを装着した状態では、温度上昇は緩やかで最大で77℃。こちらはサーマルスロットリングは発生しなかった。
“ゲーミング”らしい装備も一通り装備
サウンドにはRealtekの「ALC897 Codec」を搭載。オーディオ回路は基板から分離してノイズを抑えた「Audio Boost」仕様だ。CPU側のPCI PCI Express x16スロット(第11世代Coreプロセッサー使用時はPCI Express 4.0に対応)は金属補強が付いた高耐久の「PCI-E Steel Armor」仕様で、大型のビデオカードも取り付けも安心だ。
チップセットクーラーにはRGB LEDが内蔵され、RGB LEDとアドレサブルRGB LEDコネクタも二つずつあり、ドレスアップも楽しめる。一方で、光るの不要という人向けにLEDを一括でOFFにできるスイッチを用意しており、どちらのニーズにも最小限の手間で対応できるのは便利。
また、MSIのマザーボードでは統合ユーティリティとして「Dragon Center」が用意されていたが、「MSI Center」へと一新された。シンプルなインターフェースで、必要な機能を選んでインストールする方式になっているのが特徴だ。
準ハイエンドCPUとの組み合わせにも向いた完成度とバランスの高さが魅力
Intel 500シリーズ世代のマザーボードは、機能の充実に加えて昨今のPCパーツ類の値上がり傾向も加わって、全体的に高付加価値&高価格化傾向にある。また、Core i9-11900K/KFはIntel CPU最高峰の性能と引き換えに、発熱面からユーザーを選ぶ、とがった仕様。このあたりを考えると、実売5万円台後半の8コア16スレッドの準ハイエンドCPUと、これを動かすのに必要十分な仕様を揃えたB560チップセットのマザーという組み合わせは、扱い安くコスパも高い。11900Kの評価を聞いてハードルの高さを感じていた方であっても、別物と考えて検討してよいくらいだ。
MAG B560 TOMAHAWK WIFIにはCPUのPowerLimit無制限の設定は用意されていないが、無制限設定が活きるAdaptive Boost Technologyという強烈なブースト機能があるのは、Core i9-11900K/KFのみ。Adaptive Boost Technologyはもちろん、Thermal Velocity Boost TechnologyもないCore i7-11700Kや、4万円ちょっとで手に入るi7-11700Fなどを使うなら、B560搭載マザーの中でも強力な電源回路があり、機能・装備類も充実し、実売価格も2万円台前半という手を出しやすい設定となっている本機は、まさに“ちょうどいい”パートナーと言えるだろう。
[制作協力:MSI]