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ATXケースはここまで進化した! Lian Li脅威のメカニズム「Odyssey X」は何と三形態に“変形”するぞ!!

実力、使い勝手は本格派。長く使えるケースが欲しいあなたにも text by 竹内 亮介

Lian Liのハイエンド大型タワーケース。実売価格は56,000円前後

 内部構造を柔軟に変更できるPCケースが少しずつ増えてきている。こうしたモデルは自分のアイディアを形にしやすいし、パーツをとっかえひっかえしても問題が起きにくいので長く付き合える。今回紹介するLian Liの「Odyssey X」は内部構造変更可能タイプの最高峰の一つと言える存在だ。

 そんなOdyssey Xの構造や自由度の高さを、実際にパーツを組み込みながら検証していこう。PCケースとしてはかなり大型なので、水冷用のラジエータやポンプ、リザーブタンクなどを内蔵しても十分な余裕があり、後述するように冷却性能もかなり高い。

内部は広く、アルミパネルがデザインのアクセントに

 Odyssey Xでは、スチール製のフレームに、分割されたアルミ製の前面パネルや天板、強化ガラスとアルミを組み合わせた側板などの外装をはめ込むという独特のスタイルを採用する。サンドブラスト加工が施された外装部分のアルミはデザインや質感に優れており、大型のPCケースらしい存在感に一役買っている。

2枚のパネルの装着位置を変更することで、前面に大きな吸気口を作れる
フロントポートにはUSB 3.0ポートとType-Cを装備

 奥行きは57.55cm、高さは55.85cmと、最近のPCケースの中ではかなり大型だ。また外装を外してフレームの内部を計測すると、奥行きは52cm前後、高さは50cm前後だった。内部の構造物は電源ユニットカバーくらいしかない上、シャドーベイはマザーボードベースの裏側にあるため、メインパーツを組み込むエリアには干渉しない。

 いわば仕切りのない大きな箱のような状態であり、広々としたスペースでゆったりと組み込み作業が行なえる。短辺が24.4cmの一般的なATXマザーボードを固定した状態でも、前面スペースとの隙間は実測値で25cm前後確保しており、水冷ラジエータや大型のビデオカードを組み込んでも、干渉することはまずない。

前面に28cmクラスの水冷ラジエータとファンを付けたときの状況だ。けして小さいサイズではないはずなのに、ラジエータやファンが小さく見える

 なお、標準状態ではケースファンは付属しない。こうした大型高級PCケースは多数のLEDファンやLEDテープを利用してイルミネーションを強化するなどして、カスタマイズするユーザーが多い。また、本格水冷マシンのベースとされることもある。コダワリのファンや冷却パーツを付けるなら標準ファンは不要という判断だろう。その意味では、製品コンセプトに沿っていると言える。

組み込むパーツに合わせて三つのモードを選択可能

 最大の特徴は、内部構造や設置方向を変更することで、三つのモードにトランスフォームすることだ。まず箱から出した状態だと、バックパネルを背面側に向けた状態でマザーボードを組み込む。電源ユニットも、一般的なPCケースと同じように下部に固定する。「ダイナミックモード」と名付けられたこのスタンダードな構成では、前面が広く空いており、前面と前面に近い右側面に、それぞれ36cmクラスまでの水冷ラジエータが取り付け可能だ。

「ダイナミックモード」で各パーツを組み込んだところ。前面のスペースはかなり広く、ここに大型ラジエータやリザーブタンクなどを組み込める

 Odyssey Xでは、マザーボードベースの一部とバックパネル部分が外せるようになっている。天板も取り外し可能な構造になっており、取り外したマザーボードベースを右に90°回転させてバックパネル部分を上向きにして設置すると、マザーボードのバックパネルを上向きにして設置する倒立配置「ダイナミック-R(ローテート)モード」になる。

 この状態だと、前面と底面に大型のファンやラジエータが組み込めるようになる。とくに底面にファンやラジエータを組み込むことで、底面から天板方向へまっすぐのエアフローを作れるため、冷却性能を強化したいときにオススメの構造となる。

マザーボードベースの一部を外してマザーボードの取り付け方向を変更した「ダイナミック-Rモード」。底面に大型ファンやラジエータを組み込んで、下から上に一直線に流れるエアフローを作れる

 ダイナミック-Rモードでは、方向を変えて組み込んだマザーボードベースによって右側面のファンスペースが隠れてしまい利用できなくなる。ただし、電源ユニットが底面から背面上部に移動するため、底面に大型ファンやラジエータを取り付けられるようになる。取り付け可能な組み合わせは、前面28cmクラス+底面48cmクラス、前面36cmクラス+底面36cmクラスまでとなる。

 もう一つ、内部構造はダイナミック-Rモードに変更した状態で、本体を左に90°回転させると、今度は「パフォーマンスモード」になる。このモードで利用する場合は、ダイナミック/-Rモードで底面に固定していたスタンドも一旦取り外して移動する。内部構造はダイナミック-Rモードと同じだが、このモードではダイナミック/-Rモードの前面パネルを利用しないため、メッシュ構造の前面からたっぷりと外気を取り込める。

内部はダイナミック-Rモードのまま、シャーシを左に90°回転させた「パフォーマンスモード」。ダイナミック/-Rモード時の底面が、前面になる。前面や天板に大型のラジエータや本格水冷用パーツを組み込み可能

 側板は中央部を山状に折り曲げた状態で取り付けるため、側面にも通気口が作られ、エアフローはさらに強化される。広く開放された前面スペースを活用し、長くて大きなサイズのリザーブータンクやポンプを利用できるようになることも合わせると、本格水冷への適性はさらに高まる。

側板は、中央部をやや折り曲げた状態で取り付ける

パーツの干渉は心配する必要なし、ケーブル整理もラク

 ここからは、実際にパーツを組み込んだときの状況を検証していこう。前述したとおりフレームはかなり大型で、内部に構造物はほとんどない。あらかじめ前面パネルや天板、側板などを外しておけば、マザーボードやビデオカードの組み込みで苦労する場面はない。

 ダイナミックモードでマザーボードを組み込むと、天板とマザーボード上辺の隙間は約4cmだった。サイズのCPUクーラー「MUGEN5 Rev.B」を取り付けた状態でも、EPS12V電源ケーブルは問題なく挿せる。

ダイナミックモードでは、天板とマザーボード短辺の隙間は約4cm
天板のアルミパネルを外すと、メッシュ構造のフレームが見える。このフレームも着脱可能だ

 また天板は着脱できる構造なので、狭いと感じるなら外してしまうのもよいだろう。この状態なら、各種ケーブルの着脱や整理は非常に楽に行なえる。

 ただ大型ケースなので、ケーブルが短いタイプだと引き回しに苦労しそうだ。今回はSea Sonic Electronicsの電源ユニット「FOCUS Platinum FOCUS-PX-750」を組み込んでおり、EPS12V電源ケーブルの長さは実測値で70cmだった。この長さだと、ケーブルを引き回したり挿したりといった部分では問題なかったが、あまり余裕はなかった。

 また検証のため14cm角ファンを天板の背面近くに取り付けたところ、EPS12V電源ケーブルのコネクタと14cm角ファンのフレームが、微妙に干渉しそうになった。こうした状況があるため、天板にはラジエータは付けられないとしているのかもしれないが、12cm角ファンならこうした干渉は発生しない。ラジエータやファンが多少マザーボードの上にかぶってしまうことが予想できるが、それでも24cmクラスまでなら取り付けはできそうな印象だった。

 一方、マザーボードベースを回転させてダイナミック-Rモードにすると、前面とマザーボード短辺の隙間は約8.5cmだった。前面にはラジエータやファンを取り付けるため、このスペースをすべて利用できるわけではない。しかしダイナミックモードよりは自由度が高くなり、ケーブルを挿したり整理したりといった作業も楽になる。

 マザーボードベースの裏側には、3基の3.5/2.5インチベイ用のトレイがゆったりと並べられている。トレイ間のスペースや、ドライブに挿すケーブル用のスペースも広く取られているので、こちらも組み込みに苦労することはない。

マザーボードベースでケーブルをざっくりと整理した状態。シャドーベイのトレイは上部に3基並ぶ。
各ケーブルを流れに沿ってまとめ、面ファスナーできゅっと締めるだけで簡単に整理できる

 Odyssey Xは右側板も強化ガラス製なので、マザーボードベース裏面もしっかりと見えてしまう。しかし電源ケーブルなどを整理するためのスペースはかなり広く、整理用の面ファスナーもある。こうした工夫もあるので、マザーボード裏面のケーブルはまとめやすく、乱雑になってしまいそうな印象は受けない。

水冷CPUクーラーなら空冷に比べ14℃も低下

 今回は、一般的なPCケースに近いダイナミックモードでパーツを組み込み、検証を行なった。実際に組み込んだパーツは、下記のとおりだ。ハイエンドではないが、高性能で発熱の大きなCPUやビデオカードを組み合わせており、PCケースの冷却性能を測る上では十分なスペックと考える。

【検証環境】
CPUAMD Ryzen 9 5900X(12コア24スレッド)
マザーボードMSI MPG X570 GAMING PRO CARBON WIFI(AMD X570)
メモリCFD販売 W4U3200CM-8G
(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2)
SSDWestern Digital WD_BLACK SN850 NVMe SSD
WDS100T1X0E-00AFY0[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
ビデオカードGIGA-BYTE GeForce RTX 3070 EAGLE OC 8G
(NVIDIA GeForce RTX 3070)
電源Sea Sonic Electronics FOCUS Platinum FOCUS-PX-750(750W、80PLUS Platinum)
空冷CPUクーラーサイズ MUGEN5 Rev.B(サイドフロー、12cm角)
水冷CPUクーラーNZXT Kraken Z63(簡易水冷型、28cmクラス)
室温25.6℃
OSWindows 10 Pro 64bit版

 まずはサイズのCPUクーラー「MUGEN5 Rev.B」を取り付けて、空冷CPUクーラーを利用したときの温度を計測した。アイドル時の条件はOS起動10分後、高負荷時はOCCT 7.3.2のPOWER SUPPLYテストを10分間実行したときの最大値として検証を行なった(温度計測にはHWMonitor 1.44を使用)。前述のとおりOdyssey Xには標準のケースファンがないので、前面に2基の14cm角ファン、天板にも1基の14cm角ファンを追加している。

Odyssey Xには標準ではケースファンが付属しない。エアフロ―のことを考えると、2、3基程度ケースファンを追加するのがオススメだ。写真はLian Liのケースファン、「UNI Fan AL120」

 高負荷状態ではCPU温度が79℃、GPU温度は75℃という結果だ。今までテストしてきたPCケースと比べると、GPU温度は低いがCPU温度はそんなに低いわけでもない。Odyssey Xのように大型のPCケースでは、前面ファンが取り込む外気はCPUクーラーやビデオカード周辺に行き渡りにくい。そのために、こうした結果になったことが予想される。

空冷クーラー搭載時のCPU温度とGPU温度
動作クロックなどの状況はこちらだ。消費電力や動作クロックには大きな変動はなく、安定している

 簡易水冷型CPUクーラーでも同じ検証を行なった。組み合わせたのは、28cmクラスのラジエータと14cm角ファンを2基を組み合わせるNZXTの簡易水冷型CPUクーラー「Kraken Z63」だ。ラジエータとファンは前面吸気方向で固定し、14cm角ファンを天板に2基取り付けている。

 この場合、CPU温度は高負荷時でも65℃に抑えられており、空冷時と比べると14℃も低い。前面はメッシュ構造で、前面パネルまわりには広いスリットを設けていることもあり、前面ファンがラジエータをしっかり冷却できたということだろう。GPUは75℃で空冷時と変わらず優秀だ。

こちらは簡易水冷クーラー搭載時のCPU温度とGPU温度。空冷時に比べるとCPU温度は大きく低下した
消費電力や動作クロックはこちらも安定している

創造性の限界にチャレンジ

 最近の高性能PCパーツは一段と発熱が大きくなっており、その性能を100%引き出すためには冷却性能の高いパーツを組み合わせる必要がある。本格水冷用のシステムなどを含め、そうしたパーツはどうしてもサイズが大きくなるため、PCケースにもある程度の広さが必要になる。その意味ではOdyssey Xはうってつけの製品だと言えるだろう。

ギミックや構造はド派手だが、LEDなどの飛び道具要素はサクッと省かれ意外にシンプルOdyssey X。RGB LED内蔵の簡易水冷クーラーやケーブルなどで飾るのもいいだろう。写真はLian Liの簡易水冷クーラー「Galahad AIO 240 RGB」とRGB LED内蔵のATXケーブル「Strimer Plus」

 本格水冷にチャレンジして、簡易水冷クーラーでは利用できない超大型のラジエータを搭載し、CPUやGPUをまとめて冷却できるシステムを構築するもよし。配線の美しさは際立つが難易度の高いハードパイプ配管も、Odyssey Xクラスのサイズ感なら余裕を持って行なえるだろう。

 最近の一般的なATX対応PCケースと比べるとかなり大きめで、価格も高いOdyssey Xだが、そうしたケースだからこそ作れるPCというものはある。PCのパフォーマンスの可能性や創造性にチャレンジし、美しくも高性能なPCを作りたいというユーザーにお勧めしたい、優れたPCケースだ。

[制作協力:ディラック]