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マザーボード上の“歯車”が回るっ!遊び心も実用度も満点のASRock「Z590Taichi」、安くなったCore i9-11900Kを使ってテスト!

ABTも安心の電源にThunderbolt 4装備、OCからゲーミングまで全部入りの高コスパ!! text by 石川 ひさよし

ASRock「Z590 Taichi」。実売価格は50,000円前後

 現在のASRockマザーボードラインナップの中でも人気の“Taichi”シリーズのモデルは、エンスー向けの超ハイエンドに続く、最新仕様の高付加価値モデル。今なお人気の“光るマザー”への反動からか、落ち着いたデザインもウケている。ここではそんなTaichiのIntel Z590チップセット搭載モデル「Z590 Taichi」を紹介する。

今回はABTのテストを行なうため、CPUには第11世代Coreプロセッサーの最上位であるCore i9-11900Kを用意。8コア16スレッド、TDP 125Wのパワフルな製品だ。春の登場時から1万円近く値を下げており、コスパの面から再評価され始めている

やっぱりASRockはやってくれる! 今度のマザーは歯車が回るぞ!!

 そもそも“Taichi”とはなんぞや? という話だが、古代中国で宇宙の根源を表わす概念だそうだ。銀河の渦のようなマークや太極図がそのイメージだが、現在のASRock Taichiでは歯車がアイコンになっている。

Taichiのトレードマークである歯車のデザイン。今回は光るだけでなく……!!

 カラーリングはモノトーンで、最近のTaichiはブラックが占める面積が増えてよりシックな雰囲気に。それでいて目を引くデザインでありLEDイルミネーションも搭載しているが、ハデハデ、イケイケなイメージのマザーとは一線を画している。ASRockは大手マザーボードメーカーの中ではインパクトあるカラーを好む傾向にあるが、その中にあってTaichiは「大人向け」を感じさせる存在となっている。

マザーのおよそ半面を覆うほどのSSD+チップセットのヒートシンク。モノトーンのシックな仕上げだ

 最近のTaichiがとくに落ち着いたイメージであるのは、大面積のヒートシンク&カバーにあるかもしれない。コンデンサや各種チップをうまく隠しているところは見た目をスッキリとさせている。それでいてよくヒートシンク部分を見れば、細かな造形を加えており、決して手を抜いたものではないと分かる。それにZ590 Taichiでは、 トレードマークである歯車にモーターが仕込まれており回転をする 。一見今風のシックなボードに、意表を突く形で遊び心を盛り込んできたところは、市場にも自作ファンにも媚びないASRockの孤高の精神の表れと言える。

 “Taichiってもともとシンプル志向のマザーだったよね……”と思う方もいらっしゃるかもしれない。しかし、歯車を回すためにモーターまで仕込むこだわりぶりを見てしまうと「TaichとはASRockがTaichと銘打ったものなのだ」と感ぜずにはいられない。もうそれでよい。それくらい、動く歯車のインパクトは強烈だ。サイドクリアケースを用意してお迎えしようではないか。

バックパネルカバーの歯車。裏にはモーターが組み込まれており、回転ギミックが!
チップセットヒートシンクにも歯車。回転しないがLEDは搭載している
LED発光は歯車デザインを活かすキツすぎないもの

 歯車のギミックに圧倒されて即導入してしまうところだったが、ここからはテクニカルライターの本分に戻って製品の仕様を評価してゆく。本機は拡張性も高く、最新インターフェースへの対応も含めて、かなりの充実度を誇る。拡張スロットはPCI Express x16スロット×3(レーン分割は4.0 x16/-/3.0 x4、または4.0 x8/4.0 x8/3.0 x4 ※第11世代Core使用時)、PCI Express 3.0 x1×1。M.2スロットはPCI Express 4.0 x4または3.0 x4対応(CPU直結)×1、PCI Express 3.0x4/Serial ATA 3.0対応×2(うち1本は22110サイズにも対応)。詳細は後述するが、USB関連も非常に充実している。

拡張スロット数、M.2スロット数はこのクラスのマザーとしては標準的

ハイエンドの“高品質”を手の届く価格帯で展開

 Taichiは“高性能”を求める(普通の)ハイエンドユーザー向けだ。OC向けの設計を取り入れているがOCに特化しているわけではなく、ゲーミング向けの機能を取り入れているがゲーミングマザーほど特化しているわけではない。ハイエンドに求められるスペックをバランスよく備える、というのがその特徴。“全部入り”と言ってしまえば全部入りではあるのだが、超高価格帯の“全部入りのウルトラハイエンド”ほど突き抜けた製品とは少し立ち位置が異なっている。

 ますは電源回路。8+8ピン電源端子にDrMOSを採用した14フェーズ回路で構成されている。ハイエンドマザーとしては14フェーズは十分に豊富であるが、Intel Z590マザーボード全体を見渡せば20フェーズなどより多いものもある。

CPUソケット左に8フェーズ、左上角にPWMコントローラ、上に6フェーズをレイアウト。上側6フェーズのうち右寄り2フェーズはMOSFETの形が異なる

 第11世代CoreではAdaptive Boost Technology(ABT)機能が追加され、全コア使用時でもブースト状態(高クロック)となり、より強力な電源回路が求められるようになったことがその理由。ただし、よほどの高OCを目指すのでもない限り14フェーズあれば十分だろう。フェーズが増えれば負荷分散による発熱抑制効果も得られるものの、多ければ多いほど効果は増すが価格も上昇し、製品価格への影響も大きくなる。ゆえに、このバランスが“手が届く価格帯のハイエンドマザーボード”であるZ590 Taichiならでは、ということと言える。

 部品構成だが、PWMコントローラはRenesas(Intersil)「ISL69269」、MOSFETにはIntersil「ISL99390」をメインに採用している。90A対応のSmart Power Stage(DrMOS)で、12フェーズ合計1080Aまで対応する。残る2フェーズはIntersilの別のMOSFETを採用している。チョークコイルも90A対応のものを採用しているとのこと。このようにVRMを構成する部品はどれも大電流に対応したものだ。

PWMコントローラチップ(写真左)とMOSFET(写真右)

 ヒートシンクはアルミブロックをCPUソケットから見て左側と上側に分けて搭載し、二つをヒートパイプでつないでいる。CPUソケット左側ヒートシンク内には小径ファンも仕込まれているので冷却は十分だろう。しかしZ590 Taichiはこれにとどまらない。さらに冷やしたいという場合のために、CPUソケット上側ヒートシンクに装着する3cm角ファンとステイ、別途4cm角ファンを装着するためのステイが付属する。

ヒートシンク内にファンを搭載。2ピースのヒートシンクはヒートパイプによって結ばれている
3cm径ファンを追加搭載。4cm径ファン用ステイも付属する

 ここでCore i9-11900K(CPU定格ではPL1が125W、PL2が250W)を用いてABTを有効化した際のVRM温度を見てみよう。負荷として用いたのはOCCT v9.0.5のCPUで、CPUの定格(Default)とABT有効時(ABTon)それぞれ約15分間実行中を計測した。

OCCT実行中15分間のVRM温度の推移

 VRM温度はCPUの定格で最大54℃、ABT有効時で最大55℃。その差はわずかに1℃。温度推移を見てみると、スタート時点は異なるが時間経過とともに温度が上昇していく。ABT有効時のほうがやや序盤の温度上昇が急に見えるものの、VRMヒートシンクに小径ファンが温度に応じて回転するため最終的には通常と変わらぬ温度に落ち着くようだ。ヒートシンク設計、VRM回路設計、加えて小径ファンの搭載により、このようにVRM温度は安定している。

 ノイズという点で小径ファンの搭載を嫌う方もいるが、Z590 Taichiをベンチマークした印象としてはそこまで気になるノイズではなかった。ハイエンド構成のPCであればそのほかのパーツのノイズに紛れてしまうだろう。小径ファンを搭載していることが温度面で安心材料になっている。

 パフォーマンステスト結果も見ていこう。設定は、もっとも安全運転のCPU標準設定(ABTもOFF)、マザーボードのデフォルト設定(PL1 4,096W)、この設定でABTをONにした設定、さらにDual Tau BoostをONに設定した状態、の4段階。テストにはPCMark 10 Extendedを使用した。グラフ中の“Extended”は総合スコア、“Esentials”はWebブラウジングやストレージなどの基本性能、“Productivity”はオフィスアプリ性能、“Digital Content Creation”は写真/動画の処理性能、“Gaming”はゲーミング性能で3DMarkのFireStrikeと同レベルのテストを行なう。

PCMark 10 Extendedの計測結果

 ABTの影響が少ないEssentialsのスコア変動はほとんどないが、それ以外の項目は順調にスコアアップが見られる。Power Limitの設定がモノを言ってくるので、Core i9-11900Kを使うのであれば、強力な電源回路(とそれを支えられる冷却機構)を持つマザーボードと、大型(28cmクラス以上)のラジエータを持つ強力な水冷クーラーを用意しておきたい。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-11900K(8コア16スレッド)
メモリPC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2
ビデオカードASRock AMD Radeon RX 6800 XT Taichi X 16G OC
(AMD Radeon RX 6800 XT)
SSDM.2 NVMe SSD(PCI Express 4.0 x4、1TB)
CPUクーラー36cmクラスラジエータ搭載簡易水冷
電源1,000W(80PLUS Platinum)
OSWindows 10 Pro 64bit版
室温28℃

インターフェースやオプションはゲーミング用途をカバー

 インターフェース類の仕様は、いわゆるゲーミングPCのスペックを十分にカバーしている。ネットワークは有線LANが2系統あり2.5GbE&1GbE、無線LANがWi-Fi 6E。1GbEについてはIntel I219-V。2.5GbEとWi-Fi 6EはKiller製チップを採用し、両方接続し帯域の割り振りなど最適化を行なえる「Killer DoubleShot Pro」も利用可能だ。そして1GbEの追加搭載は予備という点で心強い。

 オーディオチップもハイエンドマザーボードでは定番のRealtek ALC1220チップを採用する。それだけではない。WIMA製オーディオコンデンサを組み合わせ、ソフトウェアのNahimic Audioをバンドル、ESS ES9218 SABRE DACチップを搭載し最大60Ωまでのヘッドホンに対応する。

Killerの有線2.5GbE&無線Wi-Fi 6Eを搭載。
Realtek ALC1220にESS ES9218やWIMAコンデンサを加えている

 そしてZ590 Taichiの特別なスペックと言えるのがThunderbolt 4を搭載しているところだ。Thunderbolt 4はクリエイティブ用途でニーズが高い40Gbpsの高速インターフェースだが、一方でUSB4としても利用可能だ。USBの最新規格をいち早く実装しているという点でもハイエンドニーズを満たしてくれる。また、USB PD(最大27W:9W×3Aまたは5V×3A)にも対応している。これを利用する際は組み合わせる電源出力に余裕を持たせる必要があるものの、スマートホンやタブレット、モバイルディスプレイといった機器に電力供給が可能になるので利便性が向上する。

バックパネルにThunderbolt 4×2を搭載。チップはJHL8540でコードネーム「Maple Ridge」世代

 このほかゲーミング向けのスペックとして、「グラフィックカードホルダー」が付属する。長さが30cm超級のビデオカードも今やめずらしくないが、そうした長さのあるカードの後方を支えるホルダーだ。ビデオカードから見てマザーボード寄り、つまりビデオカードの底面にあたる部分はスロットによって支えられているが、その先は宙に浮いた状態で、カードの自重によっては歪みが生じる。スロットは電気信号の接点でありここに過度の負担がかかることは好ましくない。グラフィックカードホルダーはこの歪みを軽減する効果を狙ったものだ。これで三点支持になる。柱で支えるサポートステイを加えれば理想的な四点支持にもなるので、安心、安定を求める際は参考にしてほしい。

グラフィックカードホルダーがビデオカード後方を支えてカードの歪みを抑える

あらゆる用途にしっくりくる、お買い得感もある準高級モデル

 Intel Z590チップセット搭載マザーボードのフラグシップ製品の価格は8~10万円という傾向にある中、Z590 Taichiの実売価格は50,000円前後。各社がハイエンドの中では価格を抑えたモデルを投入している激戦区の一つであるゾーンにある。この価格帯では、最上位機種譲りの機能に加えてコスパも重要。予算の中でもっとも機能が充実した製品を選びたいだろう。Z590 Taichiのスペックを振り返ると、お値段以上のお得感がある。

 そしてZ590 Taichiは安定性を求める方、OCやゲームに限らずPCでいろいろなことをしてみたい方に適しているだろう。安定性十分のVRM設計や小径ファン、豊富なインターフェースと足回りは万全。Thunderbolt 4のようにクリエイティブ用途にも適した装備もある。そう考えたとき、OCに特化したりゲームゲームしたりし過ぎないTaichiのコンセプトがちょうどよいのである。

[制作協力:ASRock]