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ゲーミングはもちろん全方位的にパワフルにこなす全部乗せハイエンドマザー「Z690 Taichi」の実力
ASRock看板シリーズ第19弾。“動く歯車”は健在。動画でも見せます text by 石川 ひさよし
2021年12月21日 00:00
ASRockからAlder Lakeこと第12世代Coreプロセッサーに対応するIntel Z690チップセット搭載マザーボード「Z690 Taichi」が登場した。ASRockの一般一般用途やゲーミング向けのマザーと言えば、Taichi、PG、Steel Legendという“3本の柱”があるのだが、その中でもTaichiはハイエンド向けカテゴリーに属する。本モデルでは、16コアへと増強されたAlder Lakeの性能を最大まで引き出せる、パワフルな製品に仕上げられている。
動く“歯車”にブラック&ゴールドのインパクトあふれるデザイン
歴代“Taichi”シリーズはASRockのハイエンドモデルの一つ。ゲーミングも含むオールラウンダーな性格付けがなされており、クリエイティブニーズもカバーできる。電源回路もハイエンドクラスのCPUの利用を意識して余裕を持たせた設計であることに加え、インターフェースではクリエイターには必須のThunderbolt 3の上位規格であるThunderbolt 4ポート搭載や、ネットワークに冗長性を持たせる2系統有線LAN+無線LANといった構成で、汎用性と信頼性の高さも魅力だ。
それでは、最新のZ690 Taichiをまずはデザインから見ていこう。Taichiは当初「太極」をモチーフとしていたが、シリーズを重ねるなかでそのトレードマークは歯車へと変わってきた。本機もゴールドの歯車をVRMヒートシンク部とチップセットヒートシンク部にあしらっている。最近のTaichiの歯車と言えば、前世代Z590 Taichiでついに回転するギミックを取り込み、これはZ690 Taichiでも継承されている。
VRMヒートシンクは2ピース構造で、二つのブロックはヒートパイプによって結ばれている。CPUソケット左側のヒートシンク内に小径ファンを内蔵しており、CPUソケット上側のヒートシンクは、必要に応じて同梱の追加用ファンを取り付ける。パーツ構成や運用プランに合わせて追加ファンの利用可否をユーザーが選べる。
チップセットヒートシンクは意外にコンパクトで、歯車の装飾のほかLEDを搭載している。ちなみに金色のパイプが見えるがこれは装飾であり、ヒートパイプではなかった。このチップセットヒートシンクにはさらにM.2ヒートシンクが覆いかぶさる構造。ストレージ用のM.2スロットは3基あり、ヒートシンクも三つに分かれている。チップセットヒートシンクにかぶさる中段のM.2ヒートシンクはとくに大型だ。
LEDギミックはチップセットヒートシンク部分とボード背面にある。発光色やパターンは同社の“Polychrome RGB Sync”で制御できる。外部LED機器を接続するLEDヘッダはRGB対応の4ピンが1基、アドレサブルLED対応の3ピンが3基。4ピン2基、3ピン2基という製品が比較的多いが、アドレサブルLED対応の3ピンを多めに積んだのは昨今のトレンドに合わせたものだろう。
20フェーズ電源回路に105A SPSの組み合わせ
CPU電源回路を見ていこう。まずCPU電源端子はEPS12Vを2系統備えて余裕を持たせている。電源回路は20フェーズで、PWMコントローラがルネサス「RAA229131」、MOSFETがルネサス「RAA220105」という組み合わせだ。RAA229131は他社製品で20フェーズのダイレクト駆動をうたうモデルもあることから、Z690 Taichiでもダイレクト駆動を採用していると思われる。また、RAA220105は105A対応をうたうSmart Power Stageだ。この下流、チョークに関しても90A対応品の採用をうたっている。瞬発的に大電力を求める第12世代Coreに最適化された電源回路設計と言えるだろう。
このレビューに先立って同社Chris Lee氏にインタビューを行なう機会を得たのだが、この中で「最適化という点では基板内部にも重要なポイントがある」とのことだった。Z690 Taichiはサーバーグレードの8層PCBを採用しており、品質が高く積層数も比較的多い。ただ、ほかを見渡せばさらに多層のPCBを用いるモデルもある。とはいえ多層になればなるほど高価になるのは想像のとおり。8層というレイヤー数は比較的余裕を持ちつつも過剰ではない、価格的にも高くなり過ぎない選択と言えるだろう。
そしてもう一つ重要なのが2オンス銅箔層の採用だ。2オンス銅箔層はより高速化した信号を安定化させることに加え、熱の分散、エネルギー効率の向上といったメリットがある。このほかにも社外秘、「見えない部分」の最適化がなされているとのこと。ASRockの回路設計技術によって、多機能モデルながら他社の同等グレードよりも価格を抑えたモデルを実現しているというわけだ。
メモリに関してはDDR5を採用している。Z690 Taichiはハイエンドモデルでありパフォーマンスを求めるモデルであるから当然だ。DDR5なのでSMT(表面実装)を採用しているのはもちろん、メモリスロットには補強のためのカバーが付き、裏面を見ると両端と中央の3カ所を貫通させハンダ固定している。また、DDR5に関してはメモリモジュール上にPMICを搭載している都合、マザーボードの電源を遮断した状態で着脱すべきとされているが、ASRockは「トラブルフリー プロテクション」をうたう保護回路を設け、DDR4までと同様の取り扱いを可能にしている。
SMT採用という点ではPCI Express 5.0 x16スロットも同様だ。カバー付きで、やはり両端とプラス1点の計3カ所をハンダ固定している。Z690 Taichiは3本のx16sロットを搭載しており、3番目スロットはPCI Express 4.0 x4レーン固定だが、1、2番スロットはカード1枚搭載時でPCI Express 5.0 x16レーン動作、マルチGPUでの2枚挿し時はPCI Express 5.0 x8+x8レーン動作をサポートしている。拡張スロットとしてはほかにPCI Express 3.0 x1スロットも利用可能だ。
TB4にGen2x2、Killer NICの贅沢仕様
インターフェースでは、前述のThunderbolt 4×2ポートに加え、フロントのUSB Type-Cには20GbpsのUSB 3.2 Gen2x2を備えている。また、ネットワークは2.5GbEおよびWi-Fi 6EにKillerチップを採用し、この二つを同時利用することでトラフィックを最適化し高速化する「Killer Doubleshot Pro」が利用可能だ。1GbEのIntel I219Vも搭載しているので、万が一のトラブル(ドライバに起因する障害や故障など)の際にも代替が効く。
そして本機のユニークな機能としては「Independent SATA & USB Port」が挙げられる。基板上には通常のSerial ATA 3.0ポートのほかにIndependent SATA用ポートが、オンボードのUSBピンヘッダとは別にIndependent USB Port用のUSB Type-Aが、それぞれ搭載されている。説明によれば、BIOSから同機能をONにすることで、このIndependent SATA & USB Portからのみしか起動できないようになり、ほかのSerial ATA 3.0ポートやUSBは利用不可になるとのことだ
どのようなシチュエーションで使うのかと言うと、マルウェアやランサムウェアに感染した状況を想定しているようだ。駆除を行なう際、駆除に必要なソフトウェアをダウンロードするためにとりあえず起動させたい、といった用途に利用できる。
UEFIのIndependent SATA & USBという項目には、Independent SATA & USB Portを含むすべてが利用可能になる“Normal Mode”、Independent SATA & USB Portのみが利用可能になる“Independent Mode”、Independent SATA & USB Portが利用不可の“Disable Independent Ports”が用意されている。トラブルが疑われる状況に陥った際は、まず“Independent Mode”を選んでIndependent SATA & USB PortにつないだドライブにOSを導入して緊急用の環境を用意。続いて“Disable Independent Ports”に切り換えて現状確認を進めれば、万が一感染していたとしてもIndependent SATA & USBのドライブ(およびそこにインストールしたOS)に影響が及ばない。万が一感染した場合は“Independent Mode”で復旧を試みる、といった手順が考えられる。“Normal Mode”はより多くのSerial ATAドライブを使いたい場合や、OCなどでボード上にUSB Type-Aコネクタがあると便利といった場合に使う、ノーマルと言いつつもやや特殊な用途向けか。
オーディオ回路はRealtek ALC1220コーデックチップを採用し、ESSのSABRE9218 DACチップ、WIMA製オーディオコンデンサを搭載している。ソフトウェアのNahimicもバンドルしており、オンボードオーディオとしては充実した設計だ。コーデックチップでは、最近Realtek ALC4080を採用するモデルが増えているが、以前から高S/Nのハイエンドタイプとして人気のALC1220を継続して採用しているところもIntel Z690マザーボードとして差別化になっていると言えるだろう。
そのほかにもASRock独自の機能やバンドルが豊富だ。たとえば、「Lightning Gaming Ports」は有線キーボード・マウス用USBコネクタ。それぞれ個別の回路が割り当てられておりトラフィックの影響を受けないスムーズな入力が可能と言う。「ASRock Auto Driver Installer」はドライバのインストールを自動的に開始する機能で、UEFIでこれを有効にすると、OS導入後の起動時に表示される通知に従って操作することでドライバのインストールがスムーズに行なえる。
このほかにも、ハイエンドビデオカードの重量を支える追加パーツ「ASRock Graphics Card Holder」、無線キーボード・マウスのドングル用のUSBコネクタとしてバックパネルから切り離した別ブラケット/USB 2.0ピンヘッダを用意して機器間のノイズの影響を抑える効果を狙った「Wireless Dongle USB Bracket」なども装備する。
第12世代Coreの性能を引き出しつつVRMの温度上昇も内蔵ファンが抑える
今回は、Core i9-12900Kと36cmラジエータ搭載の簡易水冷CPUクーラー、DDR5メモリモジュールを含む評価キットを使用して実際にテストすることができた。SSDはPCI Express 4.0 x4接続のM.2 SSD、ビデオカードはNVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Editionをそれぞれ使用し、PowerLimit設定は実質無制限(4,096W)とした。
それではベンチマークアプリを使用した各テストのスコアを順に見てみよう。
電源回路部の挙動はCINEBENCH R23のMulti Coreテスト10分間実行時のログから見てみる。グラフはVRM温度(MOSFETに内蔵された温度センサーの値)と、CPUパッケージの消費電力(マザーボード上のセンサーの値)を示している。
CPUパッケージ電力の値のとおり、CPU自体はピークで250W弱の電力を要求しているようだ。一方VRMの温度は時間とともに上昇していくが定格動作時は10分経過後も60℃を超えず、最大58.5℃という結果だった。筆者が試したIntel Z690マザーボードはまだそこまで多くはないが、本機の比較的温度上昇は緩やかな印象だ。これはVRMヒートシンクにファンを搭載しているところも大きいだろう。
“全部入り”だからこそ幅広いハイエンドニーズにマッチする
12月初頭時点の実売価格は80,000円前後。Z690 Taichiはコストパフォーマンスを求める性格ではないが、そこはASRockの製品だけあって機能的に同クラスの製品群の中で比較をすれば価格メリットを訴求できる製品に仕上がっている。
ハイエンドセグメントの製品を求めるユーザーには、PCを組むならとにかく最新で高性能なものがいいという人、ゲーミングやクリエイティブのように使用目的がはっきりしていてかつその目的のために求める性能が高いという人が多い。Z690 Taichiは高負荷時の温度グラフが示すとおり、ハイエンド構成でも安定かつVRM温度を抑えられており、一方でインターフェースも全部入りの仕様であるため幅広いハイエンドニーズをカバーできる。Z690 Taichiはハイエンドニーズに対するオールラウンダーとASRockがいうのはこうしたスペックにあると言えるだろう。