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ゲームなら「Core i7-12700K」がベスト? K付きAlder Lakeの3モデルを比較

約5万円のPコア×8モデルの実力とは text by 瀬文茶

 昨年11月に発売されたAlder Lake-Sこと第12世代Core プロセッサー初期モデルのうち、まだ購入していなかった中位モデル「Core i7-12700K」を購入してみました。

 Core i9-12900KとCore i5-12600Kという強い個性を持った製品の陰に隠れ、あまり注目されていなかったCore i7-12700Kですが、5万円前後で購入できる今なら面白い存在なのではないかと思い買ってみた次第です。

 今回は、Core i7-12700Kがどの程度の実力を備えたCPUであるのか、Core i9-12900KやCore i5-12600Kとの比較を通して確認します。ハイエンドGPU「GeForce RTX 3080 Ti」を使ったゲーミングシーンでの比較や、電力リミットチューニング時の比較も行っておりますので、Alder Lake-S初期モデルの力関係をあらためて確認してみましょう。

約5万円で買える8+4コア20スレッドCPU「Core i7-12700K」

 まずは、Core i7-12700KというCPUのスペックを確認しておきましょう。

 Core i7-12700Kは、開発コードネームAlder Lake-Sこと第12世代Intel Coreプロセッサーのひとつで、8コア16スレッドのPコア(Performanceコア)と、4コア4スレッドのEコア(Efficientコア)のハイブリッド構成により、12コア20スレッドを実現したCPUです。

Alder Lake-Sの12コア20スレッドCPU「Core i7-12700K」。
Core i7-12700KのCPU-Z実行画面。

 Alder Lake-SベースのCPUとしては、Core i9-12900KやCore i5-12600Kとともに最初期に発売された製品のひとつであるCore i7-12700Kは、上位モデルであるCore i9-12900Kと同じく8基のPコアを備える一方、Eコアは下位モデルのCore i5-12600Kと同じ4コアに削減されています。

 11月の発売当初は6万円弱で販売されていたCore i7-12700Kですが、現在では5万円を割る価格で販売するショップもあらわれており、発売当初よりコストパフォーマンスが向上しています。上位と下位に強烈な個性を持った製品があるため注目されていない感のあるCore i7-12700Kですが、このコストパフォーマンス向上と8基のPコアを備えているという点に筆者は興味をひかれました。

Core i7-12700Kを含むK付きAlder Lake-Sの3モデルを比較電力リミットを125Wと65Wに絞ったした際のテストも

 今回のテストでは、Core i7-12700Kのほかに、Core i9-12900KとCore i5-12600Kも用意して、Alder Lake-S初期3モデルのパフォーマンスを比較します。

 各CPUは、DDR4メモリに対応したIntel Z690チップセット搭載マザーボード「ASUS TUF GAMING Z690-PLUS D4」に搭載してテストを行います。なお、今回のテストにさいして、編集部から「GeForce RTX 3080 Ti Founders Edition」をお借りできたので、これを用いて各CPUのゲームにおけるパフォーマンスも確認します。

Alder Lake-Sの初期3モデル、Core i5-12600K、Core i7-12700K、Core i9-12900Kを比較。
GeForce RTX 3080 Ti Founders Edition。

 また、今回のテストでは、Core i9-12900Kのテストでも試した「電力リミットチューニング」を行ったさいのパフォーマンスも測定します。

 マザーボードの「ASUS TUF GAMING Z690-PLUS D4」は、どのCPUでもデフォルトの電力リミットは無制限の「Unlimited」になっていますが、これを「125W」と「65W」に絞ると、性能がどのように変化するのかを確かめます。Core i7-12700Kの実力を探るという主目的からは逸れますが、「上位と下位の電力リミットを同じ数値に設定するとどうなるのか」、「電力リミットチューニングはゲームでも効果があるのか」などの観点から結果を比較してもらえればと思います。

グレード順にスコアが並ぶ「CINEBENCH R23」

 定番のCPUベンチマークテスト「CINEBENCH R23」では、マルチスレッド性能を測定するMulti Core」と、シングルスレッド性能を測定する「Single Core」を実行しました。

 Multi Coreでは、当然ながら最上位のCore i9-12900Kがトップスコアを記録しており、Core i7-12700Kは2番手に位置しています。125W時のCore i5-12600Kを除き、電力リミットを絞ると各CPUのスコアは低下していますが、スコアの順位については変動せず、もっとも低電力な65W時でもCore i9-12900Kがトップで、Core i7-12700Kは2番手のままです。

 一方、Single CoreでもトップはCore i9-12900Kで、Core i7-12700Kはそれに次ぐ2番手に位置しています。これについては、各CPUの最大動作クロックの仕様を考えれば妥当な結果と言えるでしょう。また、各CPUは電力リミットの違いによる影響を受けていないことが伺えます。

 ワットチェッカーを使って測定した、Multi Core実行中の「システムの消費電力」をまとめたものが以下のグラフです。

 テスト中の平均消費電力は、Core i9-12900Kの約309.3Wが最大で、Core i7-12700Kは約245.4Wで2番手に位置しています。もっとも平均消費電力が低かったのは、約183.6Wを記録したCore i5-12600Kでした。

 電力リミットを絞った場合、125W時のCore i5-12600KはUnlimited時と変わらない電力を消費していますが、それ以外の条件では明らかな消費電力低下が確認でき、65W時にはシステムの消費電力が135W前後で横並びになっています。

モニタリングデータからCINEBENCH R23 Multi Core実行中の動作を分析

 CINEBENCH R23でMulti Coreを実行中のモニタリングデータを「HWiNFO64 Pro」で取得しておいたので、そのデータからベンチマークを実行中にCPUがどのように動作しているのかを分析してみましょう。

 まずは、ベンチマーク中のCPU消費電力をグラフにまとめました。CPU消費電力として扱ったパラメーターは「CPU Package Power」で、これは電力リミットの動作基準として用いられるものです。

 これを見ると、標準のUnlimited動作での消費電力は、Core i9-12900Kが210W前後、Core i7-12700Kは160W前後、Core i5-12600Kは110W前後となっており、電力リミットを絞ると設定値に応じてCPU消費電力が低下することが確認できます。

 また、Core i5-12600Kが125W時にスコアや消費電力が下がらなかった理由は、電力リミットに到達していなかったからであるということも理解できます。今回は計測していませんが、Single Coreで電力リミット設定がスコアに影響しなかったのも同様の理由です。

 次のグラフは、ベンチマーク実行中のCPU温度をまとめたものです。計測したパラメーターは温度リミットの基準に用いられる「CPU Package」温度です。

 Unlimited動作時の平均CPU温度は、Core i9-12900Kが約73.9℃、Core i7-12700Kは約63.5℃、Core i5-12600Kは約53.2℃となっており、消費電力(≒発熱量)の大きい順に高い温度を記録しています。しかし、電力リミットを絞ると順位は逆転しており、平均CPU温度がもっとも低いのはCore i9-12900Kとなっています。

 電力リミットを絞ると上位モデルの方がCPU温度が低くなる主な理由は、発熱源であるコアが分散していることと、1コアあたりの発熱量が低いためであると考えられます。

 電力リミットが作動して総発熱量が同程度になる状況では、コア数が多いほど1コアが消費できる電力(≒発熱量)は小さくなりますし、発熱源であるコアが分散するほど熱が集中するホットスポットが緩和され、低いCPU温度が測定されるというわけです。

 CPUクロックの測定結果をまとめた以下のグラフでも、電力リミットが作動する状況ではCore i9-12900Kがもっとも低いクロックで動作しており、1コアあたりの消費電力と発熱が低くなっているであろうことがうかがえます。

 それでもCore i9-12900Kが比較製品中最高の性能を発揮できるのは、より多くのCPUコアを電力効率の高い低クロック域で動作させていることと、CINEBENCH R23のMulti Coreがコア当たりの性能ではなく、全CPUコアの総力で処理を実行するテストであるためです。

コア数が効く、「TMPGEnc Video Mastering Works 7」でx265エンコードテスト

 動画エンコードソフト「TMPGEnc Video Mastering Works 7」では、約3分の4K60p動画をソフトウェアエンコーダーの「x265」でH.265形式の4K60p動画にエンコードしてみました。

 最速タイムはCore i9-12900Kの7分08秒で、Core i7-12700Kは65秒遅れの8分13秒で2番手に位置しています。Unlimited動作でのCore i7-12700Kのエンコード速度は、Core i5-12600Kを24%上回り、Core i9-12900Kを13%下回るという結果でした。

 電力リミットを絞るとタイムは遅くなっていますが、CINEBENCH R23のMulti Coreよりも性能の低下は小さいようです。

 消費電力の測定結果をみてみると、Unlimited動作時の平均消費電力がCINEBENCH R23のMulti Coreのときよりもやや低くなっています。

 これは、全てのCPUコアが常にフル稼働状態となるCINEBENCH R23と違い、x265エンコードではCPU使用率が処理の状況に応じて80~100%程度の範囲で変動するためです。CPUコア性能がボトルネックになる場面が多くなるほどCPU使用率は100%に近づくため、下位モデルや65W動作中は最大消費電力と平均消費電力の差が小さくなっています。

タイトルによって結果が分かれたゲームテスト、CPUの使われ方はタイトル次第

ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークでは、フルHD(1,920×1,080ドット)と4K(3,840×2,160ドット)の最高品質設定でテストを実行しました。

 フルHDでのCore i7-12700Kは「29,861」というスコアを記録しており、これは「28,103」だったCore i5-12600Kを約6%上回り、「31,012」を記録したCore i9-12900Kを約4%下回るものです。

 一方、4KでCore i7-12700Kが記録したスコアは「16,722」でした。このスコアは、Core i5-12600Kを約1%上回り、Core i9-12900Kを約1%下回るものではありますが、ほぼ横並びと言ってもいいほどの僅差です。フルHDに比べGPU負荷がはるかに高い条件で、ほとんどのシーンでGPUがボトルネックになっているので不思議な結果ではありません。

 このベンチマークテストでは、電力リミットを絞ってもスコアはほとんど変化しませんでした。

 ワットチェッカーで測定した「システムの消費電力」では、CPU毎に消費電力の差はみられるものの、電力リミットの違いによる消費電力の差は確認できません。なお、平均消費電力の数値自体は、GPU負荷の高い4K動作時の方が大きなものとなっています。

 HWiNFO64 Proで取得した「CPUの消費電力」をみると、もっとも高い数値を記録したCore i9-12900Kであっても、平均消費電力が65Wをほぼ下回っています。

 つまり、ほとんどのシーンで電力リミットは作動していないので、スコアやシステムの消費電力に影響を及ぼさなかったという訳です。もし、電力リミットを35Wなどに設定してればスコアやシステムの消費電力に少なからず変化が現れたことでしょう。

Apex Legends

Apex Legends

 バトルロイヤルFPSの「Apex Legends」では、フレームレート上限を最大(300fps)まで解放した上で、グラフィック設定を可能な限り高く設定し、フルHDと4Kで平均フレームレートを測定しました。

 フルHDでは280fps前後、4Kでは160fps弱で各CPUの結果は横並びになっています。条件によって多少数値にバラツキはあるものの、CPUや電力リミットの違いが明確に反映されたと言えるような結果はみられません。

 システムの平均消費電力に関しては、Core i5-12600Kがもっとも低く、Core i7-12700K、Core i9-12900Kの順で高い数値を記録しています。

Forza Horizon 5

Forza Horizon 5

 オープンワールドレースゲーム「Forza Horizon 5」では、グラフィック設定を最高の「エクストリーム」に設定して、フルHDと4Kでゲーム内ベンチマークモードを実行してみました。

 Core i7-12700Kは、フルHDで平均122fps、4Kで平均84fpsを記録しており、これはCore i9-12900KやCore i5-12600Kとほぼ同等の結果です。

 電力リミットを絞ってもCore i7-12700KやCore i9-12900Kの平均フレームレートに変化はみられませんが、フルHDで65Wまで絞ったCore i5-12600Kについては、120fps前後から113fpsまでフレームレートが低下しています。

 システムの平均消費電力をみてみると、やはりCore i5-12600Kから上位モデルになるほど消費電力が上昇しています。

 電力リミットの違いによる消費電力の変化については、フレームレートの低下がみられた65W時のCore i5-12600Kで多少の低下がみられますが、同条件ではCore i7-12700KやCore i9-12900Kの消費電力もやや低くなっています。フレームレートに影響こそ及ぼしていないものの、この条件ではCore i7-12700K以上のCPUでも電力リミットが作動しているものと思われます。

Cyberpunk 2077

Cyberpunk 2077

 オープンワールドRPGの「Cyberpunk 2077」では、グラフィック設定を「レイトレーシング:ウルトラ」に設定して、フルHDと4Kでの平均フレームレートを測定しました。

 フルHDでCore i7-12700Kが記録した平均フレームレートは「88.6fps」で、これは「84.5fps」だったCore i5-12600Kを約5%上回り、「90.6fps」だったCore i9-12900Kを2%下回る数値です。一方、G4KではGPUがボトルネックとなるためほぼ横並びの結果となっています。

 電力リミットを絞った場合、125Wでは大きな変化はみられませんが、65WではCore i7-12700Kが最上位のCorei 9-12900Kを逆転するという面白い結果が発生しています。

 フレームレートの測定に用いたFrameViewのデータによれば、この時のCPU消費電力はどちらも上限の65Wに達している一方、全CPUコアの平均クロックはCore i7-12700Kが3.66GHzであるのに対し、Core i9-12900Kは3.47GHzまで低下しています。Unlimited時はどちらも4.46GHz前後で動作しているので、このクロックの低下が逆転につながったようです。

 ちなみに、Core i5-12600Kは平均クロックは65W時でも約4.1GHzを維持しており3製品中もっとも高い数値ですが、それでもCore i7-12700K以上のCPUに及ばないところをみると、CPUコア数の差が効いていると理解できます。

 Cyberpunk 2077のようにマルチスレッドへの最適化が進んだゲームでは、「コア数」と「コア当たりの性能」の両方が求められます。CINEBENCH R23のように、動作クロックが低くてもコア数の差で下位モデルを上回れるというほど単純にはいかないので、電力リミットチューニングを行うのであればこういうケースがあることを覚えておきましょう。

Microsoft Flight Simulator

Microsoft Flight Simulator

 「Microsoft Flight Simulator」では、グラフィック設定を最高の「ウルトラ」に設定して、フルHDと4Kで平均フレームレートを測定しました。テストでは、「エアバス A320neo」で関西国際空港に向けて羽田空港の34Lを離陸してから3分間のフレームレートを測定しています。なお、グラフィックスAPIについてはDirectX 11に設定しました。

 フルHDでCore i7-12700Kが記録した平均フレームレートは「58.2fps」で、これはCore i5-12600Kの「54.9fps」を約6%上回り、Core i9-12900Kの「60.8fps」を約4%下回るものです。GPU負荷が高い4Kでは、すべてのCPUが50fps前後で横並びとなっており、フルHDほどCPUの違いによる差は明確ではなくなっています。

 フルHDと4Kのどちらも、電力リミットを絞ってもフレームレートはほとんど変化していません。

 システムの消費電力については、Core i5-12600Kがもっとも低く、Core i7-12700K、Core i9-12900Kの順で消費電力が高くなっています。それはフレームレート差がついたフルHDだけでなく、4Kでも同様です。

長く使うつもりでゲーミングPCを構築するならオススメの「Core i7-12700K」

 Alder Lake-S初期3モデルの比較を通して、チューニング無しでも空冷クーラーで運用できそうな発熱と消費電力や、Core i5-12600Kより明らかに高いマルチスレッド性能など、Core i7-12700Kの良い部分も見えてきました。ただ、ゲームでの比較で際立ったCore i5-12600Kのコストパフォーマンスのように、これら3モデルの中でCore i7-12700Kをベストな選択肢にできるほど尖った長所は見いだせなかったというのが正直なところです。

 とはいえ、個人的にはゲーミングPCのCPUとしてCore i7-12700Kを選ぶのは悪い選択ではないと考えています。現状でもCore i5-12600K同等以上の性能を発揮しますし、今後サイバーパンク2077のようにマルチスレッド性能を求めるゲームが登場した時、コア数の差が有利に働くこともあるでしょう。GPUを乗り換えながら長く使っていくつもりでゲーミングPCを構築するのであれば、Core i7-12700Kには下位モデルとの価格差以上の価値があるでしょう。