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DDR4環境でも高性能な「Core i5-12600K」、AMD/Intelの従来モデルと比較してみた
4万円前後のCPUならこれがベスト?格上CPUに挑戦してみた text by 瀬文茶
2021年11月26日 00:01
2021年11月4日、Alder Lake-Sこと第12世代Core プロセッサーが発売されました。注目を集めているのは最上位のCore i9-12900Kですが、今回筆者が購入したのは「Core i5-12600K」。往年の名CPUであるCore i7-2600Kを彷彿とさせる型番と、4万円を切る慎ましやかな価格設定に光るものを感じ、気が付けば買っていたという次第です。
世間的には「ゲーミング用途では悪くない選択肢」との評価を得ている様子のCore i5-12600Kですが、肝心のCPUとしての実力はどの程度のものなのかという点に注目し、手持ちのCPUである「Core i7-11700K」と「Ryzen 7 5800X」を相手にベンチマークテストで比較を行ってみることにしました。
4万円割れの10コア16スレッドCPU「Core i5-12600K」
テスト結果をご紹介する前に、Core i5-12600KというCPUについて改めて確認しておきましょう。
Core i5-12600Kは、開発コードネームAlder Lake-Sこと第12世代Intel Coreプロセッサーのひとつで、6コア12スレッドのPコア(Performanceコア)と、4コア4スレッドのEコア(Efficientコア)のハイブリッド構成により10コア16スレッドを実現したCPUです。
他のAlder Lake-S製品同様、16レーンのPCIe 5.0や、DDR5/DDR4両対応メモリコントローラがCPUに統合されており、型番末尾の「K」が示す通りオーバークロックに対応しています。従来のTDPに変わる電力指標のPBP(Processor Base Power)は125Wで、ブースト動作時の最大消費電力の指標であるMTP(Maximum Turbo Power)は150Wとされています。
Core i5-12600Kの実売価格は税込み39,000円前後と、4万円以下の価格で販売されています。ちなみに、今回比較することになるCore i7-11700KとRyzen 7 5800Xは5万円前後の価格帯に存在する製品なので、CPUだけならCore i5-12600Kは両CPUよりも安く入手することができます。
「DDR4」環境でCore i7-11700K/Ryzen 7 5800Xと性能比較新世代CPUの実力はいかに
Core i5-12600Kのために用意したのは、DDR4メモリに対応するIntel Z690マザーボード「ASUS TUF GAMING Z690-PLUS D4」です。このマザーボードではAlder Lake-Sで新採用されたDDR5メモリを利用できませんが、比較を行うCPUと同じDDR4-3200メモリを利用できるので、今回は全てのCPUで使うメモリを統一してテストを行います。
DDR5メモリを用いない真の理由は、筆者がDDR5メモリと対応マザーボードを買い損ねたからなのですが、高価で入手難が続くDDR5メモリより、安価で入手性のよいDDR4メモリの方が、コストパフォーマンスに強みを持つCore i5-12600Kにはマッチするでしょう。なんにせよ、今回は「各CPUが使用するメモリに優劣はない」という点にも注目頂ければと思います。
各CPU毎のテスト環境は以下の表のとおりです。
CPUの動作設定については、各マザーボードの標準設定を使用しているため、Core i5-12600KとCore i7-11700Kは電力リミットであるPL1とPL2が「Unlimited」、すなわち無制限となっています。この設定には一家言をお持ちの方も多いでしょうが、今回は実際に使用される可能性が高い「マザーボードの標準設定」を優先しています。
一方、仮想化ベースのセキュリティ(VBS)については、今回用意したCPUのうちCore i5-12600K以外の2製品は標準で有効にならないため、そちらに合わせる形でCore i5-12600Kでも無効にしています。
ベンチマークで各CPUのパフォーマンスを比較CINEBENCH R23/TMPGEnc Video Mastering Works 7/Blenderでテスト
ここからは、ベンチマークテストを使って、Core i5-12600KとCore i7-11700K、Ryzen 7 5800Xのパフォーマンスを比較していきます。
今回は、お馴染みのCPUベンチマークテスト「CINEBENCH R23」のほか、動画変換ソフトTMPGEnc Video Mastering Works 7での「x265エンコードテスト」や、3DCGソフトBlender公式のベンチマークテスト「Blender Benchmark」を実行しました。
CINEBENCH R23
CINEBENCH R23では、CPUが備える全コア全スレッドでレンダリングを行う「Multi Core」と、1スレッドのみでレンダリングを行う「Single Core」を実行しました。
Core i5-12600KはMulti CoreとSingle Coreの両方で、比較製品中最高のスコアを記録しました。Multi CoreではCore i7-11700Kを約18%、Ryzen 7 5800Xを約14%上回り、Single Coreでは両CPUを20%前後も上回っています。
TMPGEnc Video Mastering Works 7(x265エンコード)
TMPGEnc Video Mastering Works 7での動画エンコードテストでは、約3分(10,790フレーム)の4K60p動画を、ソフトウェアエンコーダーの「x265」で、H.265形式の4K60p動画にエンコードしました。
Core i5-12600Kは、ここでも最速となる10分6秒でエンコードを完了しています。この時のフレームレートである17.8fpsは、Core i7-11700Kの16.3fpsを約10%、Ryzen 7 5800Xの16.7fpsを約6%上回っています。
Blender Benchmark
Blender Benchmarkでは、標準で用意されている6シーンのレンダリングを実行して、その合計時間とシーン毎のレンダリング時間をグラフにしました。
Core i5-12600Kは、合計レンダリング時間でRyzen 7 5800Xより1秒だけ速いタイムを記録して最速となっています。2分近い差をつけたCore i7-11700Kを上回っているのは明らかですが、Ryzen 7 5800Xとはかなりいい勝負と言えるでしょう。
なお、Core i5-12600KとRyzen 7 5800Xをシーン毎に比較すると、Core i5-12600Kは4勝1敗1引き分けで勝ち越しているものの、もっとも時間のかかる「Victor」での54秒の遅れが響き、合計レンダリング時間で1秒差にまで迫られたことが分かります。
Core i5-12600Kのワットパフォーマンスはいかほど?消費電力と電力効率をチェック
パフォーマンス比較では優勢だったCore i5-12600Kですが、それは電力リミット無制限で動作した結果。ベンチマークテスト中の消費電力はどうなっているのでしょうか。
というわけで、CINEBENCH R23(Multi Core)とx265エンコード実行中の消費電力を、ラトックシステムのワットチェッカー「RS-BTWATTCH2」で測定。両テスト中の平均消費電力と最大消費電力をまとめたものと、消費電力の推移をテスト毎にグラフ化してみました。
電力リミット無制限のCore i5-12600Kがさぞ大きな電力を消費しているのかと思いきや、結果は真逆。もっとも消費電力が低かったのはCore i5-12600Kで、その平均消費電力は150.9~159.7W。189.3~203.6WだったRyzen 7 5800Xや、231.8~284.5WのCore i7-11700Kより明確に低い数値となっています。
Core i5-12600Kの驚異的なワットパフォーマンス
パフォーマンス比較で優勢で、消費電力はもっとも低いというCore i5-12600K。その電力効率がどれほどのものなのかを確かめるべく、ベンチマークで記録したスコアを平均消費電力で割ることで求めた「1ワットあたりのパフォーマンス」を比較してみました。
CINEBENCH R23(Multi Core)での1Wあたりのスコアでは、「109.7」を記録したCore i5-12600Kが、「64.0」のCore i7-11700Kを72%、「75.7」のRyzen 7 5800Xを約45%も上回っています。
Core i5-12600Kの圧倒的なワットパフォーマンスはx265エンコードでも変わらず、Core i7-11700Kの「0.057fps」を約107%、Ryzen 7 5800Xの「0.088fps」を約34%、それぞれ大幅に上回る「0.118fps」を記録しています。電力リミットが無制限であっても、Core i5-12600Kは優れた電力効率を実現したCPUであると言えるでしょう。
モニタリングソフトで測定した「CPU消費電力」
システムの消費電力では他のCPUを圧倒する省電力性を示したCore i5-12600Kですが、CPU自体はどの程度の電力を消費しているのでしょうか。モニタリングソフトの「HWiNFO64 Pro」を使ってCPU消費電力を測定してみました。なお、測定したのは電力リミット用のパラメータで、Intel CPUでは「CPU Package Power」、AMD CPUは「CPU PPT」です。
Core i5-12600Kの平均CPU消費電力は98.9~108.7Wで、最大消費電力は111.2Wでした。電力リミットによる制限を受けない最大ブースト動作中であるにも関わらず、その消費電力はMTPの150Wはおろか、PBPの125Wにも満たない数値となっています。
一方、Core i7-11700KについてはCINEBENCH R23で平均165.1W、x265エンコードでは平均202.1Wを消費しており、特にAVX-512を最大ブースト動作で活用するx265エンコードでは最大233.0Wの電力を消費しています。電力リミット(CPU PPT)によって最大消費電力が142Wに制限されているRyzen 7 5800Xは、平均で129.4~141.0W、最大141.9~142Wという、電力リミットを最大限に活用して動作していることが伺えます。
Core i5-12600Kは冷やしやすいCPUなのか?ベンチマークテスト中のCPU温度を比較
テスト中、各CPUがどの程度の温度で動作しているのかを「HWiNFO64 Pro」で測定してみました。測定したのは温度リミット用のパラメータで、Intel CPUは「CPU Package」、AMD CPUは「CPU(Tctl)」です。
なお、今回のテストでは室温約24℃の環境で、全てのCPUに240mmオールインワン水冷「ASUS TUF GAMING LC 240 ARGB」を搭載。冷却ファンをフルスピードの約2,000rpmで動作させています。
Core i5-12600KのCPU温度は、平均で53.3~55.8℃、最高59℃となっており、温度リミットの100℃までには40℃以上もの余裕が確保できています。この温度リミットまでのマージンは比較製品中最大で、今回テストした中ではCore i5-12600Kがもっとも冷却が容易なCPUであると言えるでしょう。
一方、もっとも消費電力≒発熱が大きいCore i7-11700Kの温度は比較製品中2番手で、もっとも温度が高いCPUはRyzen 7 5800Xでした。Ryzen 7 5800Xは温度リミットが90℃と他よりも10℃低いこともあり、冷却が難しいのはRyzen 7 5800Xであると言えます。
チップレットアーキテクチャによってCPUコアとIO機能を別のシリコンダイに分離しているRyzen 7 5800Xは、面積の小さなCPUダイ(CCD)から100Wを超える発熱が生じるため、その熱密度の高さゆえに冷却が難しいCPUとなっています。ただし、これはブースト動作中のCPU温度ですので、ベースクロックを維持できなくなるほどの深刻なサーマルスロットリングが生じるまでには大きな余裕があります。水冷クーラーなどある程度冷却性能に優れたCPUクーラーを使用している環境で問題になることはほぼないでしょう。
ゲーミングだけじゃないCore i5-12600Kの実力DDR4メモリとの組み合わせでも従来製品を上回る性能と電力効率を発揮
DDR5メモリ環境が人気となっているAlder Lake-Sですが、Core i5-12600KはDDR4メモリと組み合わせて使用しても、より高値で販売されている従来の格上CPU相手に互角以上のパフォーマンスを発揮し、それでいて消費電力は比較製品よりも低いという素晴らしい電力効率をみせてくれました。
あらゆる場面で今回比較したCPUを上回れるとまでは言えませんが、少なくともCore i5-12600Kが販売されている4万円弱の価格帯において、ベストなCPUであることは間違いないでしょう。
DDR5メモリの入手難や、比較的高価なIntel Z690マザーボードなど、Alder Lake-S導入へのハードルを感じる要素はいくつかあります。今回の結果を見る限りDDR4メモリ環境でも高い性能は発揮できており、Core i5クラスのCPUであればDDR4版マザーボードと組み合わせることで、導入コストを抑えつつ性能的にも優秀な環境を構築できます。
「Core i5-12600K」は、ゲーマーだけにメリットがあるCPUではなく、Windows 11を機にPCの新調を検討している多くの方にとってベストな選択肢のひとつです。価格、性能、電力効率のバランスに優れたCPUを求めているなら、Core i5-12600KとDDR4版マザーボードを候補に加えることをおすすめします。