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Mini-ITXで空冷ハイエンドなら「Torrent Nano」、Fractal Designの冷える小型ケース

ハイエンドビデオカードの熱も籠らないMini-ITXケース text by 坂本はじめ

 Fractal Designの新作ケース「Torrent Nano」は、同社がエアフローを追求して設計されたフルタワーケース「Torrent」の特徴を継承しつつ、小型化したMini-ITX専用ケースだ。Torrent譲りの通気性の高いシャーシに、180mmの大口径ファンを標準搭載したTorrent Nanoは、高性能であると同時に高発熱でもあるハイエンド構成への高い適正が期待できる。

 今回はTorrent Nanoの特徴を写真で紹介しつつ、実際にGeForce RTX 3090を組み込んだ際のパフォーマンスや動作温度をテストした。コンパクトなハイエンドマシンの構築を狙うユーザー注目の新作ケース「Torrent Nano」の実力をチェックしてみよう。

4種類のバリエーションが展開されるTorrent Nano今回は黒で統一された「Torrent Nano Black TG Dark Tint」をテスト

 Fractal DesignのTorrent Nanoは、エアフロー特化ケース「Torrent」のデザインを継承したMini-ITX専用のキューブ型ケースだ。筐体サイズは222×374×417mm(幅×高さ×奥行)。

 Torrent Nanoには4種類のバリエーションモデルが用意されており、本体カラーやサイドパネルのスモーク具合、搭載ケースファンのRGB LEDイルミネーション対応の有無が異なる。今回テストするのは、カラーリングを黒で統一した「Torrent Nano Black TG Dark Tint」だ。

 Torrent Nano Black TG Dark Tintは、外装から内装まで黒一色で統一されたシャーシの両サイドに、ダークスモーク仕様の強化ガラスパネルを採用。Torrent譲りの通気性に優れた設計のフロントグリルの奥には、180mm角の大口径ファンが標準搭載されており、前面から吸気した空気が背面へと抜けるエアフローを実現している。

前面。通気性を重視したTorrent譲りのフロントグリルの奥に180mmファンが覗いている。
背面。フロントファンが取り込んだ空気をスムーズに排気するため、多くの通気口が設けられている。
左側面。主要パーツの搭載スペースとなる左側面には、ダークスモーク仕様の強化ガラスパネルを装備している。
右側面。配線スペースとなる右側面にもダークスモーク仕様の強化ガラスパネルを装備。
天面。通気口は設けられておらず、滑らかなマットブラックカラーの樹脂製カバーを装備している。
底面。ファン搭載も可能な通気口が設けられており、全面を覆うダストフィルターを装備している。

フロントパネルインターフェイス

 Torrent Nanoのフロントパネルインターフェイスは、天面のフロント側に配置されている。

 搭載インターフェイスは、USB 3.2 Gen 2 Type-C(1基)、USB 3.2 Gen1 Type-A(2基)、マイク端子、ヘッドホン端子、電源スイッチ、リセットスイッチ。各インターフェイス用の内部接続端子は以下の通り。

天面のフロント側に配置されたフロントパネルインターフェイス。
USB 3.2 Gen 2 Type-C(10Gbps)。
USB 3.2 Gen1 Type-A(5Gbps)。
音声入出力(マイク、ヘッドホン)。
電源スイッチ、リセットスイッチ、電源インジケーターLED。

エアフローを重視したTorrent Nanoの内装をチェックハイエンドビデオカードを収容可能なスペースを確保

 ここからは、サイドパネルなどを取り外してTorrent Nanoの内装をチェックしていこう。

 フルタワーケースのTorrentがそうであったように、主要パーツを搭載する左側面からストレージベイなどエアフローの妨げになる要素は排除されており、前面から背面へとスムーズに風が抜けるようデザインされている。ケース背面部の拡張スロットは3スロットで、最長335mmまでの拡張カードを搭載できる。

サイドパネルを取り外した左側面。エアフローを妨げるユニットは排除されている。
3スロットの拡張スロットが用意されており、標準の180mmファン搭載時は335mmまでの拡張カードを搭載できる。

 右側面は配線スペースとなっており、各所にケーブルマネージメント用のストラップが配置されている。シャーシと側面パネルの間には29mmの空間が設けられており、24ピン電源ケーブルやPCIe電源ケーブルを配線するのに十分なスペースが確保されている。

 また、マザーボード用のメンテナンスホール部分には、着脱可能な2.5インチSSD用ストレージベイが配置されており、2台のSSDを搭載できる。

右側面の内装。ケーブルマネージメントが多数用意されているほか、マザーボードのメンテナンスホール部分に2.5インチSSDを2台搭載可能なストレージベイを装備している。
2台の2.5インチSSDを搭載可能なストレージベイ。

 天板を取り外すと、電源ユニットを搭載するためのスペースにアクセスできる。Torrent Nanoには最大で200mmの電源ユニットを搭載できるスペースが用意されているが、プラグイン方式の電源ユニットを用いる場合や、配線スペースまで考慮するのであれば、180mm程度にとどめるのが良さそうだ。

 また、電源ユニット搭載スペースのケース左側面側にはLEDライティングバーが配置されている。このライティングバーにはアドレッサブルRGB LEDが組み込まれており、3ピンコネクタでマザーボードなどと接続することによってLEDイルミネーションを楽しむことができる。

天板を取り外すと電源ユニットを搭載するためのスペースにアクセスできる。
最大で200mmの電源ユニットを配置できるスペースが用意されているが、電源ユニットの仕様やストレージベイの配置によって利用可能な電源ユニットの最大長は変化する。
電源ユニット搭載スペースのケース左側面側にライティングバーを装備している。
ライティングバーは、アドレッサブルRGB LED用の3ピンコネクタを用いることで機能する。

 天板部分には着脱可能なストレージベイも用意されており、「3.5インチHDD+2.5インチSSD」または「2.5インチSSD×2台」を搭載できる。

 このストレージベイは取り付け位置が2か所用意されており、背面寄りに取り付けると3.5インチHDDを搭載できるようになる一方、電源ユニットのスペースは最大175mmに短くなり、ケーブルの取り回しまで考えると、プラグイン電源は150mm程度が限度となる。前面寄りに配置すると3.5インチHDDは搭載不可となる代わりに電源ユニットの搭載スペースは200mmとなるが、こちらもプラグイン電源を用いるのであれば電源長には25mm程の余裕を見た方が良いだろう。

表面に3.5インチHDDまたは2.5インチSSDを1台、裏面に2.5インチSSDを1台搭載できる。
3.5インチHDDが搭載可能な搭載ポジション。電源配置スペースは約175mmに制限される。配線スペースを考えると電源長は150mm以下にした方が良い。
フロント寄りに配置した場合、3.5インチHDDは搭載できない。電源配置スペースは約200mmが利用できるが、電源長は175mm以下にした方が良いだろう。

 Torrent Nanoには、ビデオカード用のサポートステイが同梱されている。シャーシに取り付ければ、ビデオカードの自重による変形を抑制することができる。

同梱されているビデオカード用のサポートステイ。
シャーシに取り付ければ、重量級のビデオカードを支える助けになる。

180mmファン1基でシンプルかつスムーズなエアフローを実現底面や背面へのファン追加や、フロントファンの交換も可能

 Torrent Nanoが標準で搭載するケースファンはフロントの180mmファンのみで、RGB LED対応モデルは「Prisma AL-18 ARGB PWM」、今回のモデルを含めそれ以外のバリエーションでは「Dynamic X2 GP-18 PWM」が搭載されている。いずれもPWM制御に対応しており、ファンスピードは300~1,200rpm。

フロントのファンステイ。標準で38mm厚の180mmファン「Dynamic X2 GP-18 PWM」を搭載している。
取り外したフロントパネル。着脱可能なダストフィルターが装備されている。

 Torrent Nanoは、この180mmファンでフロントからリアへと抜ける、シンプルでスムーズなエアフローを構築しているのだが、このファン構成はユーザーがカスタマイズできる。フロントファンは140mmまたは120mmファンに交換可能で、底面に2基の140mmまたは120mmファン、背面に120mmファンを1基追加できる。

フロントファンを2基の140mm/120mmファンに交換するためのブラケットが同梱されている。
別売りの140mmファンを2基搭載したところ。25mm厚ファンを取り付けた場合、搭載できる拡張カードの最大長は310mmに短縮される。

 底面に関しては、25mm厚ファンを搭載すると拡張スロットの一つが使えなくなるため、ビデオカードを搭載する場合は利用に制限が生じることもあるが、各所のファンステイには冷却ファンだけでなく、水冷ラジエーターを設置することもできる。

底面のファンステイ。2基の140mmファンまたは120mmファンを搭載できる。
底面のダストフィルターはフロントパネル側から抜き差しできる。
底面に別売りの140mmファンを2基搭載したところ。
底面にファンを取り付けると拡張スロットの一つが使用できなくなる。
背面のファンステイ。120mmファンや同サイズのラジエーターを1基搭載できる。
フロントファンのエアフローで換気するデザインなので排気ファンは必須ではない。

Torrent NanoはOC版GeForce RTX 3090の発熱を処理できるのかハイエンド級ゲーミングPCを構築して冷却性能をテスト

Torrent NanoにCore i5-12600KとGeForce RTX 3090を組み込んだ実験PC。
ケースファンは標準の180mmファン1基のみで、ファンの追加は行っていない。

 ここからは、実際にTorrent Nanoを使って組み立てた実験PCを使って、その換気能力がハイエンドパーツの発熱に耐えられるものであるのかを確認する。

 今回、Torrent Nanoに組み込んだのは、Alder Lake-Sベースの10コア16スレッドCPU「Core i5-12600K」と、ウルトラハイエンドGPUであるGeForce RTX 3090をオーバークロックして搭載したビデオカード「MSI GeForce RTX 3090 GAMING X TRIO 24G」。

 ケースファンの追加は行っていないので、標準構成である180mmファン1基のみで作り出すエアフローだけで、このような高発熱パーツから生じる熱をしっかり処理できるのかに注目しよう。

CPUクーラーにはNoctuaの90mmファン搭載サイドフロー「NH-U9S chromax.black」を使用した。
ケースの収容能力の限界に近いMSI GeForce RTX 3090 GAMING X TRIO 24Gを搭載したので、補助電源の配線にはやや苦労したが、それ以外はスムーズに組み込むことができた。
スムーズに組み立てができたのは、右側面の配線スペースが十分に確保されていたことも大きな理由だ。
電源ユニットにはFractal Design Ion+ 2 Platinum 860Wを使用した。奥行150mmの電源だが、ストレージベイを3.5インチHDDが搭載できるポジションにするとケーブルと軽く干渉する。
テストPCでは、ケースファンの動作はこのように設定している。

CPUベンチマーク「CINEBENCH R23」でCPU性能と動作温度をチェック

 CPUの3DCGレンダリング性能を計測するベンチマークソフト「CINEBENCH R23」を使って、CPUであるCore i5-12600Kがその実力を発揮できるのか確認してみた。

 まず、標準の最低実行時間=10分で実行したベンチマークスコアは、Multi Coreが「17,033」で、Single Coreは「1,825」。このベンチマークテストにおけるCore i5-12600Kとしては、フル性能を発揮していると言える数値であり、Torrent NanoとCPUクーラー「Noctua NH-U9S chromax.black」の組み合わせは、Core i5-12600Kの発熱をしっかり処理できているようだ。

 実際にどの程度CPUを冷やせているのかを確かめるべく、最低実行時間を30分に延長したMulti Coreテストを実施。テスト実行中のモニタリングデータから、CPUの温度や動作クロック、冷却ファンの動作状況をグラフ化してみた。

 CINEBENCH R23 Multi Coreテスト実行中のCPU温度は平均79.4℃、最高83.0℃だった。Pコアは約4.5GHz、Eコアは約3.4GHzで動作しており、それぞれ全コアがアクティブな状況における最大ブーストクロックであり、CPUが常にフルパワーで動作していたことを示している。

 このさい、ケースファンは平均376rpm、CPUファンは平均1,820rpmで動作している。ケースファンはかなりの低速で動作しているが、推移グラフ上でもCPU温度の上昇がしっかり抑えられていることから、スムーズな換気によってケース内温度の上昇をしっかり抑えられていることが伺える。

CPU/GPU温度
動作クロック
ファンスピード

ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークでスコアと動作状況をチェック

 ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークを4K解像度(3,840×2,160ドット)かつ最高品質設定で実行した際の結果が次のスクリーンショットだ。スコアは「16,975」で、最高評価の「非常に快適」を獲得している。

 つづいて、先ほどと同条件でベンチマークテストを約30分間ループ実行し、その際のモニタリングデータから各種グラフを作成した。なお、テスト時はフレームレート上限を解放しているので、スコア計測時と同様の動作となっている。

 テスト実行中のCPU温度は平均55.1℃、最高66.0℃。GPU温度は平均81.1℃、最高83.0℃だった。最大温度が100℃であるCPUが温度によって動作を制限されていないのは明らかで、GPUに関しては平均1,793MHzで動作しており、これはスペック上のブーストクロック1,785MHzを上回っていることから、かなりの好条件でブースト動作を維持できていることが伺える。

 このさい、ファンスピードは平均836rpmで動作している。ケースファンの最大スピードは1,200rpmなので更なる換気能力の上昇も可能だが、それなりの静粛性を維持できるこの速度でも、TGPが370Wに達するオーバークロック版GeForce RTX 3090性能を引き出せるのは優秀な結果であると言えよう。

CPU/GPU温度
動作クロック
ファンスピード

超高負荷が続くBattlefield 2042でも熱ダレせず常時ブーストクロックで動作

Battlefield 2042。

 バトルフィールドシリーズの「Battlefield 2042」をプレイして、フレームレートや動作温度などを確認してみた。テスト時の画面解像度は4Kで、グラフィックプリセットは「最高」にしている。

 フレームレートは多くの場面で90fps前後を記録しており、今回の実験用PCはBattlefield 2042を十分快適にプレイできるだけのパフォーマンスを発揮している。

 プレイ中のCPU温度は60~70℃程度で、GPU温度は80℃前後。GPUクロックについては1,800~1,900MHz程度で動作しており、ブーストクロックの1,785MHzを超える高クロック動作を維持できていた。実際のゲームでもハイエンドパーツを安定して冷やしながら運用できていることが分かる。

プレイ中のフレームレートは多くの場面で90fps前後を記録。プレイ中のCPU温度は60~70℃程度で、GPU温度は80℃前後。使用率がほぼ100%に張り付くGPUは、1,800~1,900MHz程度の高クロックで動作していた。

最新レースゲームのForza Horizon 5もGPUは冷却十分で常時ブースト動作

Forza Horizon 5。ベンチマークモードの実行結果は86fpsだった。

 オープンワールドレーシングの最新作「Forza Horizon 5」では、画面解像度を4K、グラフィックプリセットを「エクストリーム」に設定して、ベンチマークモードを複数回連続実行したときや、実際のプレイ中にGPUの温度やクロックを確認してみた。なお、同条件でベンチマークモードを実行した際の平均フレームレートは86fpsだった。

 プレイ中の動作温度は、CPUが60℃前後、GPUは80℃前後だった。GPU使用率はほぼほぼ100%に張り付いており、GPUクロックは1,900MHz前後を記録している。これだけの高クロック動作を維持できているのは、GPUが十分に冷却されているからに他ならない。

プレイ中の動作温度は60℃前後、GPUは80℃前後。GPUクロックは1,900MHz前後で動作しており、かなり高いブースト動作を維持できている。

ハイエンドパーツにも対応可能な冷却能力を備えたMini-ITXケースコンパクトで高性能なゲーミングPCを自作できるTorrent Nano

 エアフロー特化ケースであるTorrentのデザインを継承したTorrent Nanoは、180mmファンのスムーズなエアフローによって、高発熱なウルトラハイエンドGPUの性能をしっかり発揮することができた。コンパクトなゲーミングPCの自作を狙うユーザーにとって、この換気能力は魅力的なものだ。

 小型ケースの宿命として、底面ファンと3段目の拡張スロットや、電源ユニットとストレージベイのように、一部の機能には同時使用が不可能であったり制限が生じる場合もあるが、小型ケースの中では比較的組み立てやすく設計されてもいる。タワー型ケースよりも省スペースなPCの自作に挑戦してみたいユーザーにもおすすめだ。

[制作協力:Fractal Design]