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空冷最強のPCケース?Fractal Designのエアフロー特化型フルタワーケース「Torrent」
ハイエンドパーツががっつり冷える、オープンエアーケースを超える冷却性 text by 坂本はじめ
2021年10月25日 00:01
Fractal Designの新作フルタワーケース「Torrent」は、エアフローの最大化を目指して設計されたPCケースだ。標準で搭載する5基の大口径ファンと、多数の通気口を設けたシャーシの組み合わせによって強力な換気性能を実現している。
モダンなデザインと静粛性に優れたPCケースを世に送り出してきたFractal Designが、エアフローを最重視して本気でデザインするとどのように仕上がるのか、写真と冷却性能テストを通してチェックしてみよう。
全6種類のバリエーションが用意されるTorrent今回はグレーモデル「Torrent Grey TG Light Tint」を紹介
Fractal Design Torrentは、エアフロー特化仕様のケースとして、新たにFractal Designのラインナップに加えられたフルタワーケースだ。筐体サイズは232×530×544mm(幅×高さ×奥行)で、搭載可能なマザーボードのフォームファクターは、E-ATX、ATX、microATX、Mini-ITX、SSI-CEB、SSI-EEB。
Torrentには、本体のカラーリングやサイドパネル、標準で搭載するケースファンのRGB LED対応の有無により、7種類のバリエーションモデルが用意されている。今回紹介するのは、本体カラーがグレーの「Torrent Grey TG Light Tint (FD-C-TOR1A-02)」だ。
Torrent Grey TG Light Tintは、外装から内装に至るまでグレーで統一されたカラーリングを採用しており、ケース両側面には強化ガラスパネルを装備している。
両サイドの強化ガラスパネルはどちらもスモークガラスになっているのだが、スモークの濃さは左右で異なっている。Torrent Grey TG Light Tintの場合、左サイドパネルは透明度の高いライトスモーク仕様で、右サイドパネルは透明度の低いダークスモーク仕様となっている。
サイドパネルの組み合わせについては、バリエーションモデルごとに異なっており、中にはガラスパネルではなく金属パネル(ソリッドパネル)を採用している製品もあるので、購入前にパネルの組み合わせについても確認することをおすすめする。
フロントに180mmファン×2を備えるエアフロー特化型ケース内装をチェック
ここからは、Torrentの内装をチェックしていこう。
エアフロー特化型ケースであるTorrentでは、HDDや2.5インチSSDを搭載するためのストレージベイを配線スペースである右側面に配置することで、マザーボードやビデオカードなどを配置する左側面から風の流れを妨げる要素を排除している。
また、ケース底面からの効率的な吸気を実現するため、電源ユニットはケース天板側に配置する仕様となっており、電源ユニットの配置スペースには天板を外してアクセスする形をとっている。なお、電源ユニットを収容するスペースの左側面にはアドレッサブルRGB LEDを埋め込んだスリットが設けられており、マザーボードなどの3ピン端子と接続することでLEDイルミネーションが楽しめる。
拡張スロットについては、標準的な水平配置のスロットを7本備えている。スロットカバーには背面パネルと同じ6角形の通気口が設けられており、ここにも通気性とデザイン性の両立を図るFractal Designのこだわりが見てとれる。
ちなみに、Fractal Designから別途発売されている垂直配置用のライザーブラケット「Flex B-20」を用意すれば、Torrentでもビデオカードの垂直配置が可能となる。ただし、Flex B-20についてはPCI Express 3.0 x16までの対応となっているため、PCI Express 4.0対応ビデオカードを利用する場合には、マザーボード側でリンク速度をPCI Express 3.0に落とすなどの対応が必要となる。
複数の大口径ファンを標準搭載するTorrentのエアフロー設計
エアフロー特化型ケースであるTorrentは、複数の大口径ファンを標準搭載している。その内訳は、フロントに180mmファンを2基、ボトム(底面)に140mmファンを3基だ。これらはファンはいずれもケース内への吸気を行う方向で搭載されており、フロントとボトムから吸い込んだ空気をリア(背面)に押し出すというエアフロー設計となっている。
Fractal Designによれば、標準構成の時点で冷却効果を最大限に発揮できるよう構成されているというTorrentだが、ファン構成にカスタマイズの余地は用意されている。
フロントとボトムのファンステイは、120mmファンか140mmファンを3基、または180mmファンを2基まで搭載可能で、360mmや420mmサイズのラジエーターを取り付けることもできる。また、リアパネルにもファンステイが用意されており、120mmファンか140mmファンを1基搭載できる。
ケース外から空気を取り込むことが前提となるフロントとボトムにはダストフィルターが用意されている。これらのダストフィルターはフロントパネル側から着脱できるため、メンテナンス性も上々だ。
また、ケース右側面にはファンハブ「Nexus 9P Slim」が標準搭載されており、最大9基のファンに電力とPWM信号を分配して一括管理することができる。標準で搭載する5基のケースファンをまとめて管理できるNexus 9P Slimの存在は、Torrentでの自作PCをよりスマートなものにしてくれる。
エアフロー特化型ケースならRyzen 9 5950Xをファンレスクーラーで冷やせる?Torrentが実現するエアフローの冷却効果をチェック
ここからは、Torrentを使って実際にPCを組み立てて、エアフロー特化型ケースが実現する冷却効果がどれほどのものなのかを確認する。
Torrentに組み込んだのは、Ryzen 5000シリーズの最上位モデルにして16コア32スレッドCPUである「Ryzen 9 5950X」と、GeForce RTX 30シリーズ最上位GPU「GeForce RTX 3090」を搭載するビデオカード「MSI GeForce RTX 3090 GAMING X TRIO 24G」。いずれも非常に高い性能を発揮するプロセッサである一方、発熱も大きいことが知られる製品だ。
今回はさらに、CPUであるRyzen 9 5950XのCPUクーラーとして、Noctuaのファンレスクーラー「NH-P1」を搭載。ケースのエアフローによる風だけで16コア32スレッドCPUを冷却できるのか実験する。なお、各パーツをケースに収めずに「オープンエアー状態」で動作させた場合のデータを比較対象とする。
動画エンコード実行中のCPU温度をチェック、ケースに入れた方が20℃近く冷える!
まずは、CPU使用率が100%に達する4K動画のエンコードを30分間連続実行し、CPU温度や動作クロックがどのような値になるのか実験してみた。
動画エンコード実行中のCPU温度は、オープンエアー状態が最大90.4℃の平均88.0℃であったのに対し、Torrent組み込み時は最大73.8℃の平均68.9℃へと、20℃近い温度低下が記録された。
また、動画エンコード実行中のCPUクロックについても大きな差がついており、オープンエアー状態の平均CPUクロックが3,072MHzと、Ryzen 9 5950Xの定格クロックである3,400MHzを大きく割り込む一方で、Torrent組み込み時は平均3,703MHzを記録している。
Torrent組み込み時とオープンエアー状態でのモニタリングデータをそれぞれ確認してみると、オープンエアー状態では動画エンコード開始から10分程度でRyzen 9 5950Xの最大温度である90℃付近にまでCPU温度が上昇し、そこからはCPUクロックが3,000MHzを割り込むほどまでに低下している。これは、冷却不足によってサーマルスロットリングが生じた結果だ。
一方、Torrent組み込み時のモニタリングデータでは、動画エンコード開始から5分程度でCPU温度が70℃近くに達したあたりで温度の上昇は停止しており、以降はCPU温度もCPUクロックも安定した状態で推移している。これは、オープンエアー状態では全く放熱が間に合っていなかったRyzen 9 5950Xを、Torrentが作り出したエアフローによって常時ブースト動作が可能なまでに冷却できたという結果である。
FF14ベンチマーク実行中のCPU・GPU温度をチェック、GeForce RTX 3090フル稼働でも熱は籠らない
次に、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」を4K解像度(3,840×2,160ドット)かつ最高品質設定でループ実行し、最大で370Wの電力を消費するMSI GeForce RTX 3090 GAMING X TRIO 24Gを約30分間連続でフル稼働させた際の温度と動作クロックを確認してみた。
CPUの動作から確認すると、オープンエアー状態のCPU温度は最大91.4℃の平均86.4℃で、CPUクロックは最大4,613MHzの平均3,884MHz。対するTorrent組み込み時のCPU温度は最大82.6℃の平均66.0℃で、CPUクロックが最大4,697MHzの平均4,007MHzだった。Torrentに組み込むことで平均CPU温度は20℃も低下しているが、ここではどちらもブースト動作を維持できているため、平均CPUクロックの差は120MHz程度となっている。
一方、GPUの動作については、オープンエアー状態のGPU温度が最大76.2℃の平均74.4℃で、GPUクロックは最大2,025MHzの平均1,819MHz。対するTorrent組み込み時の温度は最大73.8℃の平均71.3℃で、GPUクロックは最大2,040MHzの平均1,829MHzだった。結果的にはTorrent組み込み時の方が低い温度で高クロック動作を実現しているが、CPUに比べるとその差は小さなものとなっている。
Torrent組み込み時とオープンエアー状態でのモニタリングデータをそれぞれ確認してみると、CPU温度については平均値などからもうかがえた通り、Torrentに収めることで明らかに温度が低下していることが見える一方、GPUの温度やクロックには明確な差が見られないことが分かる。
これは、CPUがファンレスクーラーを搭載している一方で、GPUのMSI GeForce RTX 3090 GAMING X TRIO 24Gには3基の冷却ファンを備えるGPUクーラーが搭載されており、Torrentのエアフローが無くともGPUクーラー自身が作り出す風によって冷却されていることの影響が大きいのだが、だからと言ってTorrentのエアフローが効果を発揮していない訳ではない。
オープンエアー状態でのGPUクーラーは、PCケースよりはるかに広大な空間の空気を使って冷却を行えるが、PCケースに組み込んだ場合はケース内の空気を使って冷却するため、ケース内温度の上昇に伴って冷却効率が低下することが多いのだが、Torrentは逆にオープンエアー状態より多少低い動作温度を実現している。
これが意味するところは、オープンエアー状態よりもGPUクーラー周辺温度を低く保っているということであり、Torrentのエアフローが実現する換気能力は、370W級のGPUをフル稼働させてもケース内温度を室温と同程度に保てるばかりか、その排熱を速やかにビデオカード付近から除去することによって、オープンエアー状態以上にGPUを冷やせる環境を作り出している。「Torrentは、オープンエアーよりも冷やせるPCケースである」と言っても過言ではないだろう。
驚異的な換気能力を実現したエアフロー特化型ケース「Torrent」
Fractal Designが作り出したエアフロー特化型ケース「Torrent」は、強力なエアフローによって驚異的な換気能力を実現したPCケースだ。Ryzen 9 5950Xにファンレスクーラーを搭載するという実験的な構成でのテストにおいても、想像を超えるほどのパフォーマンスを発揮してみせたTorrentは、冷却効果の高いエアフローを構築できるPCケースの最高峰であると言えよう。
一方で、エアフロー特化型ケースとはいうものの、他の要素がないがしろにされているという訳ではなく、Fractal Design製ケースらしく機能性とビジュアルに優れたPCケースとして完成されている。組み立てやすく、組み立てた後も運用しやすいTorrentは、Fractal Designの自作PCへの深い理解度が形となった製品だ。
今回は標準状態のTorrentが備える冷却能力を最大限に引き出した状態で使用したが、実際の運用ではPWM制御に対応したケースファンを任意でコントロールし、動作温度と騒音のバランスをユーザー自身が決定することもできる。ハイエンドパーツの性能を最大限に引き出すことを望む自作PCユーザーにとって、Torrentはベストな選択肢のひとつとなるだろう。
[制作協力:Fractal Design]