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約19GB/sの超高速ストレージをマザーボードだけで簡単構築、動画用の自作PCを組む
RAIDカード不要、Samsung SSD 980 PRO×4枚とZ690マザーで最速環境を text by 坂本はじめ
2022年9月6日 00:00
近年、4K以上の高解像度で動画を撮影できるカメラが増えつつあり、RAWやLOGといったカラーグレーディングまで行える本格的な映像作品づくりが個人でも行えるようになった。
ただし、非常に大きい4K RAWや8K RAWなどのファイルを扱うとなれば、CPUとGPUにワークステーション向けの高性能製品を搭載したり、RAIDカードで複数のHDDやSSDを束ねて高速なストレージを構築しなければならない……というイメージがあるのではないだろうか。
カメラも進化しているが、PCパーツも着々と進化しており、現在の最新PCパーツであれば一般ユーザー向けに販売されている製品だけで4K RAWを扱える動画編集PCを構築できる。
今回はその実例として、Samsung SSD 980 PROを4台搭載したIntel Z690ベースの自作PCで、RAIDカードなしでどこまでのストレージ性能を実現できるのかという点と、4K RAW動画を扱ったさいのパフォーマンスについてテストを行ってみた。
RAIDカードなしで4枚のPCIe 4.0 SSDを搭載できる最新鋭の自作PC最大40Gbpsを実現する最新インターフェイス「Thunderbolt 4」も搭載
今回テストするのは、Alder Lake-Sこと第12世代Coreの16コア24スレッドCPU「Core i9-12900K」を搭載したIntel Z690ベースの自作PCだ。
GPUには「GeForce RTX 3080」を搭載するほか、ストレージには、システム用としてSamsung SSD 980 PROの500GBモデルを1枚、データ用としてSamsung SSD 980 PROとSamsung SSD 980 PRO with Heatsinkの2TBモデルを合計4枚搭載している。
ストレージに採用したSamsung SSD 980 PROとSamsung SSD 980 PRO with Heatsinkは、インターフェイスにPCIe 4.0 x4を採用したM.2タイプのNVMe SSDで、7GB/s級のリード速度を実現した最速級のSSDだ。
今回のPCではRAIDカードは使用しておらず、マザーボードに採用した「ASUS ROG MAXIMUS Z690 HERO」がオンボードで備えるM.2スロットと付属のライザーカードのみで、合計5枚のM.2 SSDを搭載している。これによりシステム用の500GBモデルのみPCIe 3.0 x4接続となっているが、データ用の4枚は全てPCIe 4.0 x4でPCと接続されている。
Intel Z690チップセットでは、CPUとチップセット間を8レーンの「DMI 4.0」で接続されたことで128Gbps(≒16GB/s)という広帯域を実現しており、これを生かしてチップセット側で多数のPCIe 4.0を提供している。ASUS ROG MAXIMUS Z690 HEROが4枚ものSSDをPCIe 4.0 x4で接続できたのはこのためだ。
最新パーツで構築した今回のPCでは、USB4の上位互換規格にして、最大40Gbpsの速度を実現する「Thunderbolt 4」を備えている。
USB Type-C端子を採用するThunderbolt 4では、今後の登場が期待されるUSB4/Thunderbolt 4対応ポータブルSSDを最大の速度で利用できることはもちろん、USB 3.2 Gen 2など従来のUSBポータブルSSDを接続することも可能。
ポータブルSSDや外部メディアから撮影データを転送する機会の多い動画編集用PCにとって、今後の普及が見込まれる最新インターフェイスを備えていることの利点は大きい。今から動画編集用PCを自作するのであれば、Thunderbolt 4はぜひとも押さえておきたい要素のひとつだ。
WindowsのRAID機能で8TBのRAID 0ボリュームを構築ソフトウェアRAIDでも約19GB/sのピーク速度を実現可能
今回の自作PCではRAIDカードを使用していないため、データ用として搭載した4台の2TB SSDは全て個別のストレージとして認識されている。このままでも各SSDを別個に利用すること自体は可能だが、利便性と速度の向上を狙ってRAID 0ボリュームを構築してみることにした。
利用したのはWindowsが標準で備えるRAID機能で、4台の2TB SSDを使ってRAID 0に相当するストライプボリュームを作成した。作成されたボリュームは容量8TBのストレージとして認識され、単一のSSDと同じように利用できる。
定番のストレージベンチマークであるCrystalDiskMarkで、作成したストライプボリュームとSSD単体時のパフォーマンスを計測した結果が以下のスクリーンショット。
Samsung SSD 980 PROはSSD単体でもリード約7GB/s、ライト約5GB/sという速度を発揮しているが、4台で構築したストライプボリュームは、リード約19GB/s、ライト約17GB/sを記録した。
今回のPCでは4台中3台のSSDがIntel Z690チップセットに接続されているため、CPUとチップセット間のDMI 4.0 x8がボトルネックとなっているほか、ストライプボリュームがソフトウェアRAIDである事もあり、単体時の速度に台数を掛けたRAID 0の理論値には届かないものの、単体時の数倍の速度と8TBの容量を持つストレージを実現できた。
動画編集ソフトの実環境に近いパフォーマンスを計測できるベンチマークで性能テスト4K/8K動画編集の可否や表示可能フレームレートなどがわかる「Blackmagic Disk Speed Test」
CrystalDiskMarkでストライプボリュームが記録した速度は非常に優秀なものだったが、動画編集作業時に要求されるストレージ性能をCrystalDiskMarkの計測結果から推し測るのは難しい。
そこで、動画編集ソフト使用時のストレージパフォーマンスを計測するのに特化したベンチマークソフト「Blackmagic Disk Speed Test」で、ストライプボリュームとSSD単体のパフォーマンスを計測してみた。
テストでは100GBのファイルを読み書きしたさいのパフォーマンスを計測しており、SSD単体がリード約4,884MB/s、ライト約3,763MB/sを記録したのに対し、ストライプボリュームはリード約11,995MB/s、ライト約11,821MB/sを記録。どちらもCrystalDiskMarkのピーク速度に届かないものの、ここでもストライプボリュームがSSD単体時の2倍以上の速度を実現している。
Blackmagic Disk Speed Testでは、リード・ライト速度を計測できるほか、その速度が動画ファイルをどれだけのフレームレートで読み書きできるものなのかを計測している。テスト画面右下の「How Fast?」に表示されている数値が、各動画形式毎の対応フレームレートだ。
How Fast?の結果から、RAW形式の一つである「Blackmagic RAW」のリード性能(4K解像度以上)を抜粋したものが以下のグラフ。
ストライプボリュームが4K RAWで記録した2,995fpsという数値は、4K60fpsの動画を同時に49ストリーム以上読み出せる速度に相当するという意味で、8K60fpsでも30本以上、12K60fpsでも10本以上を同時に読み出せる能力があるということになる。実際に複数の動画を読み出そうとすればこの数値通りにはならない可能性があるが、ストライプボリュームの性能がRAW形式の動画を扱うのに十分なものであることが伺える。
そもそも、Samsung SSD 980 PROは単体でもBlackmagic RAWの4K60fpsであれば20本以上、8K60fpsでも10本以上を読み出せる能力を備えており、多数の映像ソースを同時に読み出す必要があるような編集作業にも対応できる速度を備えている。あえてRAIDボリュームを構築するメリットは単一の大容量ディスクとして扱える利便性のメリットが大きい。
4K RAWをPremiere ProとDaVinci Resolve 18で編集編集作業のボトルネックにならない最新SSDの圧倒的な転送速度
今回用意した自作PCが、4K RAWの動画編集作業でどの程度のパフォーマンスを発揮するのかを確かめるべく、「Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K」で撮影したBlackmagic RAW形式の4K RAWを用意した。
4K RAW撮影時の設定は、解像度が4K UHD(3,840×2,160ドット)で、フレームレートが60fps、ビットレートは「固定クオリティ(Q0)」。テスト用として約5分の動画を20本撮影したが、1本あたりのファイルサイズは80GB前後で、合計では1.5TB以上の記憶容量が必要だった。
Blackmagic RAWの編集作業をテストしたのは、動画編集ソフトの「Premiere Pro」と「DaVinci Resolve 18」。4K60fps動画を制作する設定の画面上に撮影した4K RAWを並べ、同時に映像ソースを読み出す必要がある条件でプレビュー再生を行ってみた。なお、プレビュー解像度はPremiere Proが「1/8」、DaVinci Resolve 18は「1/4」に設定している。
Premiere Proでは動画を4K RAWを8本並べてもプレビュー再生は比較的滑らかに再生することが可能だった一方、DaVinci Resolve 18でプレビューを滑らかに再生できたのは4本までで、6本や8本ではプレビュー映像のカクツキが目立つものの編集作業における操作性には大きな支障が無かった。
どちらの動画編集ソフトでも、プレビュー映像にコマ落ちやカクツキが生じるようになる理由はCPU性能の限界であり、8本の4K RAWを並べてプレビュー再生を行うと、Core i9-12900Kが備える16コア24スレッドのほぼ全てを使い切っていた。
ストレージ側の負荷を確認してみると、4K RAWを置いているSSDには最大で2GB/s近い読み出しが生じているが、ストライプボリューム自体の読み出し性能にはまだまだ余力がある状態であり、RAIDカードなしでもストレージ性能のボトルネックは発生せず、CPUの性能を限界まで引き出すことができた。
ちなみに、今回の自作PCで同時に扱うことのできた4~8本の4K RAW同時読み出しであれば、ストライプボリュームを構築せずとも、Samsung SSD 980 PRO単体でも必要十分な転送速度を実現することは可能だ。実際、ストライプボリュームを解除して同じようにテストした場合でも、SSDの性能がボトルネックになることは無かった。
ただ、先に紹介した通りBlackmagic RAW形式の4K RAW動画はファイルサイズが非常に大きく、編集用に4K RAWを保存するストレージとしては、Samsung SSD 980 PRO最大容量モデルの2TBでも十分な記憶容量があるとは言い難い。今回の自作PCにおけるストライプボリュームの構築は、速度以上に容量の面でのメリットが大きいと言えるだろう。
一般ユーザー向けのPCパーツでも4K RAW編集用のPCは簡単に構築可能最新世代のPCパーツを使えば少し前のワークステーションを超えるような性能も
4~8本の4K RAWを動画編集ソフト上で同時にプレビューできた今回の自作PCは、動画編集用PCとして4K RAWを扱える性能を備えていると言えるだろう。
今回は4本の2TB SSDを使った豪華なストレージ構成を採用したが、ストレージの速度的にはSamsung SSD 980 PRO単体でもCore i9-12900KクラスのCPUから性能を引き出すには十分なので、自分の作業内容に見合う記憶容量が確保できるのであれば、SSDの枚数や1枚当たりの容量を減らしても大丈夫だ。
ワークステーション向けのメニーコアCPUを用いれば、さらに強力な動画編集用PCを構築することは可能だが、より安く、自作PCの難易度も低い一般ユーザー向けのPCパーツだけでも、4K RAWを十分に扱える動画編集用PCは構築できる。これから高解像度の動画編集にチャレンジするユーザーや、動画編集用のPCのリプレースなどを検討しているユーザーは、最新世代のPCパーツで動画用PCを構築してみてはいかがだろうか。
[制作協力:Samsung]