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サメ肌ブレードで静音/静圧向上、セミファンレス/ワイドレンジ対応の万能ファン「SilverStone Shark Force 120」を試す
デイジーチェーン接続も可能な0~2,500rpm対応の高性能ファン text by 坂本はじめ
2022年9月20日 00:00
120mmファンである「Shark Force 120」シリーズは、サメ肌の流体力学特性に着想を得た独自設計のファンブレード「Shark Force」や、流体動圧軸受け(FDB)を搭載したSilverStoneの高性能ファンで、ファン本体からケーブルを着脱可能にするモジュラーケーブル設計も採用している。
今回はその中からRGB LEDを搭載した「Shark Force 120 ARGB」のテストを中心にその性能をチェックしてみよう。また、SilverStoneはこのモデルの他にも高性能ファンのラインナップ拡充を図っており、最新ファンに導入した新機軸についても合わせて確認していきたい。
エアフローと騒音を改善するShark Forceファンブレードを採用PWM制御で0~2,500rpmのワイドレンジをカバーする万能ファン
SilverStoneのShark Force 120シリーズは、同社がサメ肌に着想を得た独自設計のファンブレードを採用したケースファン「Shark Force」シリーズの120mmモデル。ファンの厚みは標準的な25mm厚で、今回メインで取り上げる「Shark Force 120 ARGB」はアドレッサブルRGB LEDイルミネーション機能を搭載している。
製品シリーズ名にもなっているShark Forceファンブレードは、サメ肌が持つ流体力学特性に着想を得てデザインされたパターンがブレードに刻まれている。SilverStoneによれば、このサメ肌パターンによってファンが作り出すエアフローや騒音を改善されるという。
Shark Force 120 ARGBのShark Forceファンブレードは半透明のポリカーボネート製で、軸受け周辺に配置されたRGB LEDのディフューザーを兼ねている。
Shark Force 120 ARGBに採用された機能の中でも、Shark Forceファンブレードと並ぶほど特徴的なのがモジュラーケーブル設計だ。
Shark Force 120 ARGBはファン部分とRGB LEDを機能させるため、それぞれ4ピンPWMファンケーブルと、3ピンARGB LEDケーブルの接続を必要とするのだが、これらのケーブルはモジュラーケーブル設計によって着脱可能となっている。
また、SilverStoneのモジュラーケーブル設計では、複数搭載すると複雑になりやすいファンとLEDの配線をスマート化すべく、近距離のファンをデイジーチェーン接続するための分岐ケーブルを採用。Shark Force 120 ARGBには、4ピンPWMファン用と3ピンARGB LED用の分岐ケーブルが同梱されている。
ファン本体の電力供給に4ピンPWMファンケーブルを用いるShark Force 120 ARGBは、PWM制御によってファンスピードのコントロールが可能で、回転数0~2,500rpmという完全停止から高速回転までのワイドレンジをカバーしている。これにより、設定次第では搭載したケースやクーラーのセミファンレス化を実現することもできる。
回転数以外のスペックは、風量が0~100CFM、静圧が0~4.66mmH2O、騒音値が0~41.2 dBAとなっている。ベアリングにFDB(流体圧軸受け)を採用した3相6極モーターを採用したことで、高トルクかつ静粛性と信頼性に優れた動作を実現するとされている。
通常タイプとなる黒モデルの「Shark Force 120」も紹介するが、こちらはアドレッサブルRGB LEDを搭載していない点以外はほぼShark Force 120 ARGBと共通のスペックとなっている。LEDイルミネーションが不要であったり、導入コストを抑えたい場合などはこちらを選ぶと良いだろう。
新型の標準ファンや薄型ファンにもモジュラーケーブル設計を展開するSilverStone
Shark Forceシリーズは160mmファンや徹甲弾ファンも登場
SilverStoneはモジュラーケーブル設計をShark Forceシリーズ以外でも積極的に展開しており、厚さを15.6mmにおさえた新設計の薄型ファン「Air Slimmer 120 ARGB」と「Air Slimmer 120」もケーブルが着脱可能となっている。
このほか、徹甲弾ファンの名で知られるAir Penetratorの最新モデル「Air Penetrator 120SK ARGB」にもShark Forceブレードやモジュラーケーブル設計が採用されており、新型ファンには積極的にモジュラーケーブル設計が取り入れられている。
また、Shark Forceシリーズは160mmモデルの「Shark Force 160 ARGB」と「Shark Force 160」が発表されており、こちらの製品も性能面で期待したいところだ。
最新の「Shark Force 120 ARGB」の性能や特性を旧型ファンと比較徹甲弾ファンとスタンダードファンを用意
ここからは、SilverStone独自の新機軸を詰め込んだ最新の高性能ファンであるShark Force 120 ARGBの性能や特性を、旧型ファンとの比較を通して確認する。
比較用として用意したのは、徹甲弾ファンの120mmモデル「Air Penetrator 120i」と、スタンダードな120mmファン「FN121-P」の2モデル。どちらも3ピンファンコネクタを採用しており、回転数が1,000rpm台前半という中速の120mmファンだ。
PWM制御のデューティー比と回転数の特性をチェック
まずは、PWM制御の設定値であるデューティー比(%)を段階的に変更して、Shark Force 120 ARGBのファンスピード(回転数)の変化を確認してみた。
なお、比較用のファン2製品についてはPWM制御に非対応であるため、フルスピード時の結果のみ測定した。
測定結果からは、スペック上では0~2,500rpmというワイドレンジをカバーするShark Force 120 ARGBが、ほぼスペック通りの回転数域をカバーしていることを確認できる。この結果でおさえておきたいポイントは、ファンを完全に停止させるにはデューティー比を0%にする必要があることと、10%刻みでも回転数が大きく変化していることだ。
Shark Force 120 ARGBをPWM制御によって停止させるためには、PWMのデューティー比を0%にしなければならず、10%や20%ではファンは停止しない。PWM制御に対応しているマザーボードであっても、デューティー比を0%に設定できない場合があるので、セミファンレス動作を期待するのであればマザーボードがPWM制御を0%に設定できるのかを確認しておく必要がある。
ちなみに、今回のテストに用いたASUS ROG STRIX Z690-F GAMING WIFIの場合、ケースファン用のコネクタは0%を設定できたが、CPUやAIO水冷コネクタは下限が20%だった。
今回のテストではデューティー比を10%刻みとそれなりに細かく変化させているが、60%以上では10%刻みでも回転数が300rpm以上変化している。これはワイドレンジをカバーするファンの宿命であり、細やかな制御にはデューティー比を1%刻みで調整する必要がある。
PWM制御のデューティー比と騒音値の特性をチェック
先のテストと並行して、PWM制御のデューティー比を段階的に変更したとき、騒音値がどのように変化するのかを計測した。騒音計は各ファンの吸気側、約50cm離れた位置に設置。計測時は測定対象以外の冷却ファンなどは全て停止している。
Shark Force 120 ARGBの騒音値は、ファンが停止した状態から約785rpmで動作するデューティー比50%まで「31.1dBA」で変化していない。これは50cm離れた位置に配置した騒音計ではファンの動作による騒音の変化を計測できなかったという結果であり、筆者の耳でもほぼ無音と感じられた。
デューティー比60%以上では10%刻みで大きく騒音が増加していき、2,500rpm弱で動作するデューティー比100%では50dBAを超える大きな騒音が発生した。ただ、ファンスピードの増加に伴って増大するのは風切り音であり、目立つような軸音は発生していなかった。
回転数が比較用ファンとほぼ同等の1,300rpmになるデューティー比70%時の騒音値は34.5dBAで、この数値はAir Penetrator 120iの33.8dBAよりやや大きく、FN121-Pの36.1dBAより小さい。Shark Force 120 ARGBとAir Penetrator 120iの間に大きな差は感じなかったが、FN121-Pはやや風切り音が大きく、僅かながら擦れるような軸音が混じっていた。このあたりはベアリングのクオリティの差などが効いている印象だ。
スモークテストでエアフローの特性をチェック
フォグマシンで作り出したスモークを各ファンで吸い出し、ファンが作り出すエアフローを可視化したものが以下の画像と動画だ。Shark Force 120 ARGBはフルスピードとデューティー比70%(約1,300rpm)でテストしている。
スモークによって可視化されたShark Force 120 ARGBのエアフローは、スタンダードファンのFN121-Pと同じく拡散するタイプであることが分かる。グリルによって直進性の高いエアフローを作り出すAir Penetrator 120iのような特異性は無いが、広い範囲に風を送ることが可能だ。
なお、写真ではファンが作り出すエアフローの形状は確認できるものの、風量や風速などは分かりにくい。一見するとShark Force 120 ARGBの100%時より70%時の方が「スモークが濃い=風量も多い」ように見えるかもしれないが、これはファンから離れて風が弱まる場所でスモークが滞留するためで、勢いの強い100%時はスモークが滞留できずに画面外に吹き飛ばされているため薄く見えるという訳だ。
写真をよく観察すると、70%時はスモークの細かい形状が写っているのに対し、100%時のスモークはのっぺりしていることに気づくだろう。この写真はシャッタースピード60分の1秒で撮影した動画から切り出したもので、100%時のスモークがのっぺりしているのはスモークの動きが速く被写体ブレを起こしているためだ。細かい形状が写っているスモークほど勢いを失っていることを意味しており、逆に吹き出し口から画面端までのっぺりしている100%時のスモークは、ファンが作り出すエアフローの強さを表している。
このように写真ではよく見ないと分からない風量や風速だが、これらは動画で確認すれば一目瞭然だ。以下に各ファンのスモークテストでの様子を比較する動画を用意したので、風の勢いの違いをぜひ確認してみてほしい。
オールインワン水冷クーラーに搭載して冷却性能を比較、同回転数では最新の「Shark Force 120」が優位
各ファンをオールインワン水冷クーラーに搭載したさいのパフォーマンスを比較する。
テストでは、SilverStoneの360mmオールインワン水冷クーラー「PF360-ARGB」に各ファンを3基ずつ搭載。16コア24スレッドCPUのCore i9-12900KでCINEBENCH R23のMulti Coreテスト(最低実行時間10分)を実行したさいのCPU温度を計測した。テスト機材の詳細は以下の通り。
CPU温度がもっとも低かったのはフルスピード設定のShark Force 120 ARGBの平均82.3℃(最大86℃)で、次点がPWM=70%設定のShark Force 120 ARGBが記録した平均83.4℃(最大89℃)だった。
比較用のファンと回転数が近いPWM=70%設定でも、Shark Force 120 ARGBはAir Penetrator 120iやFN121-Pより低いCPU温度を記録しており、オールインワン水冷クーラーでの利用に適した特性を備えていることが伺える。
Shark Force 120 ARGBのPWM=100%時とPWM=70%時で平均値の差がかなり小さいが、おそらくファン以外の要因によりこうした結果になったものと思われる。
チューニングの自由度も魅力な高性能ファン「Shark Force 120 ARGB」静粛性や冷却にこだわりたいユーザー向け
Shark Force 120シリーズは、完全停止から高速回転まで幅広い回転数域をカバーする120mmファンで、Shark Forceファンブレードとパワフルなモーターが作り出すエアフローは、オールインワン水冷クーラーと組み合わせた時のパフォーマンスにも優れている。
PWM制御のデューティー比の変化に対して回転数が大きく変化するため、マザーボードのオート制御任せで使うと回転数と動作音が過敏に変動してしまう恐れがあるが、手動でチューニングする場合の自由度は高い。うまくチューニングすれば、CPUやGPUの発熱量の変化にも柔軟に対応できるので、PCの静粛性や冷却にこだわりたいユーザーはより魅力を引き出せるファンだといえるだろう。
[制作協力:SilverStone]