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ポタ電はUPSの夢を見るか?【高橋敏也の改造バカ一台 その260】

DOS/V POWER REPORT 2023年夏号の記事を丸ごと掲載!

 夏である。夏と言えばUPS。国際的な貨物運送会社である「ユナイテッド・パーセル・サービス」じゃないほうのUPSである。PC野郎AチームにとってUPSとは「アンインタラプティブル・パワー・サプライ」、つまり「無停電電源装置」なのである。もちろん運送会社のほうのUPSさんにも日頃からお世話になっているわけだが。

 ではなぜ夏と言ったらUPSなのか?これは単純な話で、夏は停電が発生する機会が多いからだ。雷一発で停電。強風や豪雨で電気関係の施設にトラブルが出て停電。さらには計画停電や、過負荷が原因のブラックアウトなんてものも考えられる。別に夏=停電というわけではないのだが、夏は電気関係のトラブルが多い印象である。

 そして突発的に発生する停電から愛する自作PCを守ってくれる存在、それがUPS=無停電電源装置なのである。UPSの仕組はいたってシンプル、乱暴に言ってしまえば「バッテリを内蔵したテーブルタップ」である(本当に乱暴だ)。コンセントとPCの間にUPSを入れ、普段はコンセントからの電力を、いざ停電したら瞬間的に内蔵されたバッテリからの給電に切り換える。これでPCは電源遮断による破滅的なシャットダウンを避けることができる。

 保存前の作業データの消失やHDDクラッシュといった悪夢を見ないために、UPSはデータやシステムのバックアップと同じぐらい重要な存在なのだ。今回はそんなUPSにちょっと斜め上からアプローチし、最終的には「自作」してみたい。まさかUPSを自作する日が来ようとは……。

ポタ電というUPSの新たな選択肢

 PCのハードユーザーにとって必要不可欠、必須の神デバイスであるUPSだが、実は最近新たな選択肢が注目を集めている。それがポータブル電源、いわゆる「ポタ電」のUPS的な利用である。

 ポタ電の正体は乱暴に言ってしまうと「巨大なモバイルバッテリ」である(やっぱり乱暴だ)。要するにバッテリと制御基板を組み合わせ、AC電源とDC電源をさまざまなコネクタ形状で出力する。もちろん基板は充放電の制御に加え、過放電や熱異常の感知などトラブルへの対応も行なう。

改造バカ、実はUPSを結構買っています
一般向けに市販されているUPS(無停電電源装置)。これらは私が実際にメインマシンのまわりで使っているものだ
最近のUPSは充電用のUSBポートを装備しており使い勝手がいい
メインマシンで使用しているCyberPowerのCPJ1200。ACソケットが大量に用意されていて便利。イーサネット用のサージ保護なども用意されている
CPJ1200に内蔵されているバッテリは密閉タイプの鉛蓄電池。低価格で安全なのだが、このバッテリで容量は12V 8Ah、換算すると96Whと容量的には小さい。消費電力の大きいハイエンドPCが接続されていると、アッという間に空になる

 最近になってポタ電は大容量化が進み、キャンプなどのレジャーシーンで活躍するだけでなく災害時の非常用電源としても利用されている。ではなぜポタ電がUPSの選択肢となるのか? 実はポタ電の多くもUPS的な機能を持っているからなのだ。

 最初にも書いたが、UPSはコンセントから流れてくる電流をパススルーでPCに流し、コンセントの電源が切れると瞬時に内蔵バッテリからの給電に切り換える。UPS準拠の機能をうたうポタ電は、これとほぼ同じことができるのだ。コンセントにポタ電を接続し、PCをポタ電に接続して普段はパススルーで電力を使う。コンセントからの給電が切れたら瞬時にバッテリ給電に切り換える。

 ポタ電をUPS的に使用するメリットとデメリットを次にまとめてみた。

 たとえば私が使っているEcoFlowのDELTA 2というポタ電は、UPSと同等の機能を「EPS(Emergency Power Supply)」と呼称している。と言うのもパススルーからバッテリ給電への切り換え時間が30msと、一般的なUPS機能と比較した場合に多少長いからだ。私が普段から使っているUPS「CyberPower CPJ1200」の切り換え時間は10ms。このためDELTA 2のマニュアルには「データサーバーやワークステーションのような完全なUPS機能を必要とするデバイスには使用しないでください」と明記され、さらにUPS的な使い方をする場合は、十分に事前テストをするよう書いてある。

自慢のリン酸鉄リチウムイオンバッテリタイプのポタ電を投入
そしてポタ電の登場。私物のEcoFlow、DELTA 2である。本体重量約12kg、1,024Whのリン酸鉄リチウムイオンバッテリを内蔵し、定格1,500W出力、X-Boostという独自機能で最大1,900Wを出力する。公式サイトではPS5(消費電力を200Wと想定)が4.6時間動作するとしている

 確かにほかのポタ電でも「UPS」機能とうたっているものは少なく、「20ms未満の切り換えが必要な状況では使用しないで」と書かれている場合もある。DELTA 2は実際に私が自作PCに接続し、コンセントからの給電を切って動作を確認した。30msだと確かに長いような気はするし、機器によっては瞬電(瞬間停電)と認識されるかもしれない。

前面にUSB系の出力ポートと表示ディスプレイを配置
背面にACとDC(ソーラー)の充電ポートと、A Cの出力が用意されている
DELTA 2を選んだ理由の一つがこのエクストラバッテリ。これをDELTA 2と接続すると合計2,048Whのポタ電になる。容量がさほど必要ないときはDELTA 2単体を持ち運び、大容量が欲しいときはこのエクストラバッテリを追加する。柔軟な運用が可能になる

 PCというシステムは最低限、本体とモニタに給電されていれば使用できるが、突然の停電では瞬時にシステムが落ちてしまい、ユーザーはなすすべがない。そこでUPSが登場する。UPSの主な目的の一つは停電時にユーザーに正常なシャットダウンを行なう時間を与えること、もしくはツールと連動して自動的にPCを正常にシャットダウンすることにある。

 ポタ電だと自動的にシャットダウンとはいかなくても、ユーザーがシャットダウンする時間を稼ぐことはできる。もちろん事前にしっかりテストをした上での話だが。しかも製品にもよるが、バッテリ容量がUPSよりはるかに大きい。そのため、大容量ポタ電をUPSとして使う場合は、停電しても平気で1時間以上PCを使い続けられる。こういった点をに注目すると、UPSの選択肢にポタ電を入れる意味を分かってもらえると思う。

バッテリタイプに注目

電力まわりのテストにさらっとThreadripperマシンを出してくるのがたしなみです。
早速DELTA 2にミニマム環境なPCシステムを接続して動作させる。消費電力が大きなほうがテストになると思い、多少古いがわが家で一番電気食いのThreadripperマシンを使ってみた

 現在市販されている一般向けUPSはバッテリユニットとして密閉型鉛蓄電池を採用している。安定していて価格もお手頃な鉛蓄電池だが、リチウムイオンバッテリと比較するとサイズと重量のわりに容量が小さく寿命も短い。電気をためて出力するというならリチウムイオンバッテリのほうが高性能なのだ。しかし鉛蓄電池は何より安全性とコスパに優れ、長年使われてきた実績がある。この実績というのが大きなポイントだ。要するにバトルプルーフされているバッテリなのである。

この段階ではDELTA 2をコンセントにつないである
DELTA 2はパススルー状態で動作しているので、右上段の数字(インプット)、右下段の数字(アウトプット)が似たような数字になっている

 実は最近になってUPSでもリチウムイオンバッテリ搭載モデルが登場しつつある。それも実績のある有名メーカーがリリースしているのだから、安全性や安定性もしっかり確保されているのだろう。だが現時点では業務用の高価なモデルが主流のようだ。

稼働中のPCを接続したまま、DELTA 2の電源ケーブルをコンセントから抜く!

 あくまで個人的な考えではあるが、UPSのバッテリはリチウムイオンをやり過ごしてリン酸鉄リチウムイオンバッテリになるのではないかと思っている。実はポタ電の世界でもここ最近、内蔵するバッテリの代替わりが進みつつあり、リチウムイオンバッテリがリン酸鉄リチウムイオンバッテリに置き換わりつつある。大雑把に言うとリン酸鉄リチウムイオンバッテリのほうが安全性が高く寿命が長い。現時点ではコストが若干リチウムイオンバッテリより高いが、安全性と寿命を考えれば大きなデメリットとは言い難い。私がDELTA 2を選んだのも、リン酸鉄リチウムイオンバッテリを採用しているからだ。

右上段の数字(インプット)がゼロになったが、右下段の数字(アウトプット)は178Wのまま。UPS(EcoFlowではEPS機能と呼ぶ)的な機能が活きたわけだ。もちろんPCは何のトラブルもなく稼働し続けている

 ポタ電はヒット商品ということもあり、内蔵するバッテリの進化も目まぐるしい。すでに半固体電池を採用した製品も登場しているし、全固体電池の量産が進めばそれに置き換わっていくだろう。

 が、しかし。もしあなたがUPSを今、導入したいというなら迷わず既存の鉛蓄電池内蔵のものを選ぶべきだ。コスト、安全性、そして信頼性という観点からほかの選択肢はないと私は考える。もしあなたが今、ポタ電を導入したいというならリン酸鉄リチウムイオンバッテリの製品を選ぶべきだ。リチウムイオンバッテリ(主に三元系)搭載のポタ電が若干安かったとしても、今ならリン酸鉄リチウムイオンバッテリ一択だと私は考える。

巨大ポタ電兼UPSを自作する!

 本当は「ポタ電いいですね~UPS的な使い方もできますね~」だけで終わりたかったんですよ、私。でもね、そういう手抜きライト路線を許してくれないんですよ、ここの編集部。というわけでやってみました!ポタ電兼UPS的なものの自作を!

でか過ぎるので奥さんに隠れて買うのは非推奨
デカい!重い!大容量の真打ち登場!Redodoの12V 200Ahリン酸鉄リチウムイオンバッテリ!サイズ比較のためにドライバーを置いてみた
本体重量20.8kgだそうな。そりゃ頑丈な持ち手が必要になるわな。つーかこの持ち手がないと地獄のフタが開く。腰的に
充電器は安心の同メーカー製、急速充電可能な14.6V 40A リン酸鉄リチウムイオンバッテリ専用充電器を用意。充電ケーブルが太いんよ……
ディスプレイには基本情報がローテーションで表示される。見難くて申し訳ないが、これは「40.9Aで充電中」ということ

 まず用意したのは大容量なリン酸鉄リチウムイオンバッテリ、12.8Vで200Ahなヤツ! 重量は20kgと少し、Whに換算すると2,560Whの大容量!こいつのおかげで危うくギックリ腰を再発するところでしたわ!なお同時にリン酸鉄リチウムイオンバッテリ用の充電器、それも急速充電が可能な40A充電モデルも購入した。

まずは電源断でも使えるのかチェック
ポタ電としてバッテリを使用するなら、一般的なインバータがあればよい。これは以前別の目的で購入した1,000Wのインバータ。普通に大容量インバータを買うなら1,500Wを選んでおくといい
ACコンセントが3口USBポートが1基ある
早速今回のシステムで使ってみる。まったく問題なく動作した(充電器も接続されているが、もちろん充電はしていない)。ディスプレイには基本情報を表示

 バッテリ本体と充電器があれば、あとはバッテリから出力されるDC電源をAC電源に変換するインバータがあれば、一応ポタ電としては完成である。試しに以前、別の目的で購入した正弦波インバータを接続してみる。定格1,000W出力、瞬間2,000Wのユニットなのだが、まったく問題なく動作した。もちろんPCもモニタも正常に動作する。

 だが、バッテリ+充電器+インバータでは「ポタ電」でしかない。ここに「パススルー」と「UPS的な切り換え機能」を追加して初めて「大容量UPS的な何か」となるのである。だがしかし。普通のインバータはいくらでもあるが、パススルーと瞬間切り換え機能を持つインバータとなると話は別だ。はたしてそんなものあるのか……。

もう一発重いヤツを投入だ!
そして登場する腰クラッシャーパート2、LVYUANの「UPS 無停電電源装置 低周波 3KW 12Vインバータ 外部電源を接続可能 常時大容量 正弦波インバータ12V 3000W 最大 9000W DC12V(直流)AC100V(交流)変換 50HZ 60HZ / UPS 装置 / 80A 充電器 /太陽光発電 発電機 / 家庭用電源 AC コンセント×6 冷却ファン×2 リモコン機能 自動車 船 キッチンカー キャンピングカー 用品 停電の対策!」Amazonの製品名表記はどうしてサスペンスドラマのタイトル並みの長さなのか

 探しに探しました、パススルーと瞬間切り換え機能付きインバータ。そして見付けたのが明らかにオーバースペックな製品。正弦波定格3,000W、最大9,000W出力!UPS(パススルー)機能、バッテリ充電最大80A !はい、オーパーツならぬオーバースペックです。定格1,500W、最大2,000Wぐらいでよかったんだけどな……。大容量なインバータだけあって筐体のサイズも200Ahバッテリぐらいある。重量も約18kg、バッテリと合わせると約40kg。どうやら今回の連載は私の腰を殺しにかかってきている。

こちらはバッテリを接続するカバー付きの端子
AC出力が六つ用意されているが、ほかに配線を接続するAC出力が一つ別に用意されている

 しかも見付けたインバータは【日本語マニュアル付き】と書いてあるのに、付属していたのはミニマリストもビックリの簡素な英語マニュアルのみ。なにせ相手が大容量バッテリに大容量インバータ、しかも家庭用の100Vを接続して利用するのだ。慎重にじっくり設定を確認しながら接続作業を行なう。ちなみにバッテリとの接続時にはターミナルから火花が出るが私は気にしない派……。

完成! UPS的なポタ電的な何か……
もうね、2台合わせて約40 kg。これをひーこら言いながらあっちこっちに運んだのだ。撮影台の上に載せるなんてあなた……。インバータをコンセントに接続していない状態で無事起動!

 そして完成した重量約40kgの巨大な自作UPS的なポタ電。容量2,560Wのリン酸鉄リチウムイオンバッテリ、正弦波定格3,000W出力、瞬間最大出力9,000W、ACコンセント6口搭載……。正直これなら電子レンジはおろか、家庭用エアコンだって数時間は使えるだろう。PC?OCCT走らせても結構長時間保ちますよ……。ってオーバースペックと言うか、システム全体が巨大過ぎてUPSとして使うには、まず設置場所を確保しないといかんわ!

コンセントに接続していないのでディスプレイのSystem Stausが「Inverter Mode」になっている。Input ACも0Vだ。Output ACは110V 50Hzとなっている
これはインバータをコンセントに接続した状態。System Statusが「AC ON」に変化、InputACが 96V(低いのが少し気になる)となった。パススルーでPCは動いているし、CHGランプが点灯してバッテリへの充電も行なわれている。なんちゃって大容量UPSの完成である

 はい、最後にここだけの話。もしポタ電を欲するなら、ポタ電として売っている製品を買いましょう。もしあなたがUPSを導入したいなら、第一候補はUPSとして売っているUPS、ポタ電兼用ならUPS的な機能の付いているポタ電も候補にしてください。UPS的なポタ電を自作するメリットは「おもしろい」だけです、決してお勧めしません。

 ちなみに自作したUPS的なポタ電的な何かは、わが家の非常用電源となる予定です。もうここまで来たら太陽光発電パネルも常設で接続しちゃおうかな……

注意

大容量バッテリや大出力インバータを扱う際には感電などに十分注意してください。接続方法を間違ったり流れる電流に耐えられない配線を使用すると重大な事故となります。またネット通販で購入できるバッテリや充電器にはPSE認証マークを取得していないものも多く見受けられます。なかには充分な安全性が確保されていない製品もありますので、購入時には十分注意しましょう。

おまけ

小型ソーラーパネルを組み合わせるのがナウいんです!
最近の流行はポタ電に持ち運び可能なソーラーパネルで充電すること。ナウいヤングはみんなやってる。なので私もチャレンジ。ソーラーパネルはポタ電と同じEcoFlowの「220W両面受光型ソーラーパネル」
左のこの充電ケーブルでソーラーパネルをポタ電、DELTA 2に接続して充電する
当初、「日の陰ったベランダでも多少は発電するやろ」精神でやってみたが、まったく充電できなかった(号泣)。慌ててソーラーパネルを日向に移動、太陽のほうに向けてみる。パネルが多少影になっているのが悔やまれる
急いでDELTA 2に接続、はたして……
無事充電開始! 多少パネルに影がかかったものの、126Wを充電入力している。左の大きな数字は「後57分で満充電」という意味だ
ちなみにソーラーパネルのスタンドはパネルを入れていたケースを流用するという親切設計……なのだがスタンドへの固定にカラビナを使っているので多少やりづらい

[TEXT:高橋敏也]

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