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ポタ電はUPSの夢を見るか?【高橋敏也の改造バカ一台 その260】
DOS/V POWER REPORT 2023年夏号の記事を丸ごと掲載!
2024年1月15日 00:05
夏である。夏と言えばUPS。国際的な貨物運送会社である「ユナイテッド・パーセル・サービス」じゃないほうのUPSである。PC野郎AチームにとってUPSとは「アンインタラプティブル・パワー・サプライ」、つまり「無停電電源装置」なのである。もちろん運送会社のほうのUPSさんにも日頃からお世話になっているわけだが。
ではなぜ夏と言ったらUPSなのか?これは単純な話で、夏は停電が発生する機会が多いからだ。雷一発で停電。強風や豪雨で電気関係の施設にトラブルが出て停電。さらには計画停電や、過負荷が原因のブラックアウトなんてものも考えられる。別に夏=停電というわけではないのだが、夏は電気関係のトラブルが多い印象である。
そして突発的に発生する停電から愛する自作PCを守ってくれる存在、それがUPS=無停電電源装置なのである。UPSの仕組はいたってシンプル、乱暴に言ってしまえば「バッテリを内蔵したテーブルタップ」である(本当に乱暴だ)。コンセントとPCの間にUPSを入れ、普段はコンセントからの電力を、いざ停電したら瞬間的に内蔵されたバッテリからの給電に切り換える。これでPCは電源遮断による破滅的なシャットダウンを避けることができる。
保存前の作業データの消失やHDDクラッシュといった悪夢を見ないために、UPSはデータやシステムのバックアップと同じぐらい重要な存在なのだ。今回はそんなUPSにちょっと斜め上からアプローチし、最終的には「自作」してみたい。まさかUPSを自作する日が来ようとは……。
ポタ電というUPSの新たな選択肢
PCのハードユーザーにとって必要不可欠、必須の神デバイスであるUPSだが、実は最近新たな選択肢が注目を集めている。それがポータブル電源、いわゆる「ポタ電」のUPS的な利用である。
ポタ電の正体は乱暴に言ってしまうと「巨大なモバイルバッテリ」である(やっぱり乱暴だ)。要するにバッテリと制御基板を組み合わせ、AC電源とDC電源をさまざまなコネクタ形状で出力する。もちろん基板は充放電の制御に加え、過放電や熱異常の感知などトラブルへの対応も行なう。
最近になってポタ電は大容量化が進み、キャンプなどのレジャーシーンで活躍するだけでなく災害時の非常用電源としても利用されている。ではなぜポタ電がUPSの選択肢となるのか? 実はポタ電の多くもUPS的な機能を持っているからなのだ。
最初にも書いたが、UPSはコンセントから流れてくる電流をパススルーでPCに流し、コンセントの電源が切れると瞬時に内蔵バッテリからの給電に切り換える。UPS準拠の機能をうたうポタ電は、これとほぼ同じことができるのだ。コンセントにポタ電を接続し、PCをポタ電に接続して普段はパススルーで電力を使う。コンセントからの給電が切れたら瞬時にバッテリ給電に切り換える。
ポタ電をUPS的に使用するメリットとデメリットを次にまとめてみた。
たとえば私が使っているEcoFlowのDELTA 2というポタ電は、UPSと同等の機能を「EPS(Emergency Power Supply)」と呼称している。と言うのもパススルーからバッテリ給電への切り換え時間が30msと、一般的なUPS機能と比較した場合に多少長いからだ。私が普段から使っているUPS「CyberPower CPJ1200」の切り換え時間は10ms。このためDELTA 2のマニュアルには「データサーバーやワークステーションのような完全なUPS機能を必要とするデバイスには使用しないでください」と明記され、さらにUPS的な使い方をする場合は、十分に事前テストをするよう書いてある。
確かにほかのポタ電でも「UPS」機能とうたっているものは少なく、「20ms未満の切り換えが必要な状況では使用しないで」と書かれている場合もある。DELTA 2は実際に私が自作PCに接続し、コンセントからの給電を切って動作を確認した。30msだと確かに長いような気はするし、機器によっては瞬電(瞬間停電)と認識されるかもしれない。
PCというシステムは最低限、本体とモニタに給電されていれば使用できるが、突然の停電では瞬時にシステムが落ちてしまい、ユーザーはなすすべがない。そこでUPSが登場する。UPSの主な目的の一つは停電時にユーザーに正常なシャットダウンを行なう時間を与えること、もしくはツールと連動して自動的にPCを正常にシャットダウンすることにある。
ポタ電だと自動的にシャットダウンとはいかなくても、ユーザーがシャットダウンする時間を稼ぐことはできる。もちろん事前にしっかりテストをした上での話だが。しかも製品にもよるが、バッテリ容量がUPSよりはるかに大きい。そのため、大容量ポタ電をUPSとして使う場合は、停電しても平気で1時間以上PCを使い続けられる。こういった点をに注目すると、UPSの選択肢にポタ電を入れる意味を分かってもらえると思う。
バッテリタイプに注目
現在市販されている一般向けUPSはバッテリユニットとして密閉型鉛蓄電池を採用している。安定していて価格もお手頃な鉛蓄電池だが、リチウムイオンバッテリと比較するとサイズと重量のわりに容量が小さく寿命も短い。電気をためて出力するというならリチウムイオンバッテリのほうが高性能なのだ。しかし鉛蓄電池は何より安全性とコスパに優れ、長年使われてきた実績がある。この実績というのが大きなポイントだ。要するにバトルプルーフされているバッテリなのである。
実は最近になってUPSでもリチウムイオンバッテリ搭載モデルが登場しつつある。それも実績のある有名メーカーがリリースしているのだから、安全性や安定性もしっかり確保されているのだろう。だが現時点では業務用の高価なモデルが主流のようだ。
あくまで個人的な考えではあるが、UPSのバッテリはリチウムイオンをやり過ごしてリン酸鉄リチウムイオンバッテリになるのではないかと思っている。実はポタ電の世界でもここ最近、内蔵するバッテリの代替わりが進みつつあり、リチウムイオンバッテリがリン酸鉄リチウムイオンバッテリに置き換わりつつある。大雑把に言うとリン酸鉄リチウムイオンバッテリのほうが安全性が高く寿命が長い。現時点ではコストが若干リチウムイオンバッテリより高いが、安全性と寿命を考えれば大きなデメリットとは言い難い。私がDELTA 2を選んだのも、リン酸鉄リチウムイオンバッテリを採用しているからだ。
ポタ電はヒット商品ということもあり、内蔵するバッテリの進化も目まぐるしい。すでに半固体電池を採用した製品も登場しているし、全固体電池の量産が進めばそれに置き換わっていくだろう。
が、しかし。もしあなたがUPSを今、導入したいというなら迷わず既存の鉛蓄電池内蔵のものを選ぶべきだ。コスト、安全性、そして信頼性という観点からほかの選択肢はないと私は考える。もしあなたが今、ポタ電を導入したいというならリン酸鉄リチウムイオンバッテリの製品を選ぶべきだ。リチウムイオンバッテリ(主に三元系)搭載のポタ電が若干安かったとしても、今ならリン酸鉄リチウムイオンバッテリ一択だと私は考える。
巨大ポタ電兼UPSを自作する!
本当は「ポタ電いいですね~UPS的な使い方もできますね~」だけで終わりたかったんですよ、私。でもね、そういう手抜きライト路線を許してくれないんですよ、ここの編集部。というわけでやってみました!ポタ電兼UPS的なものの自作を!
まず用意したのは大容量なリン酸鉄リチウムイオンバッテリ、12.8Vで200Ahなヤツ! 重量は20kgと少し、Whに換算すると2,560Whの大容量!こいつのおかげで危うくギックリ腰を再発するところでしたわ!なお同時にリン酸鉄リチウムイオンバッテリ用の充電器、それも急速充電が可能な40A充電モデルも購入した。
バッテリ本体と充電器があれば、あとはバッテリから出力されるDC電源をAC電源に変換するインバータがあれば、一応ポタ電としては完成である。試しに以前、別の目的で購入した正弦波インバータを接続してみる。定格1,000W出力、瞬間2,000Wのユニットなのだが、まったく問題なく動作した。もちろんPCもモニタも正常に動作する。
だが、バッテリ+充電器+インバータでは「ポタ電」でしかない。ここに「パススルー」と「UPS的な切り換え機能」を追加して初めて「大容量UPS的な何か」となるのである。だがしかし。普通のインバータはいくらでもあるが、パススルーと瞬間切り換え機能を持つインバータとなると話は別だ。はたしてそんなものあるのか……。
探しに探しました、パススルーと瞬間切り換え機能付きインバータ。そして見付けたのが明らかにオーバースペックな製品。正弦波定格3,000W、最大9,000W出力!UPS(パススルー)機能、バッテリ充電最大80A !はい、オーパーツならぬオーバースペックです。定格1,500W、最大2,000Wぐらいでよかったんだけどな……。大容量なインバータだけあって筐体のサイズも200Ahバッテリぐらいある。重量も約18kg、バッテリと合わせると約40kg。どうやら今回の連載は私の腰を殺しにかかってきている。
しかも見付けたインバータは【日本語マニュアル付き】と書いてあるのに、付属していたのはミニマリストもビックリの簡素な英語マニュアルのみ。なにせ相手が大容量バッテリに大容量インバータ、しかも家庭用の100Vを接続して利用するのだ。慎重にじっくり設定を確認しながら接続作業を行なう。ちなみにバッテリとの接続時にはターミナルから火花が出るが私は気にしない派……。
そして完成した重量約40kgの巨大な自作UPS的なポタ電。容量2,560Wのリン酸鉄リチウムイオンバッテリ、正弦波定格3,000W出力、瞬間最大出力9,000W、ACコンセント6口搭載……。正直これなら電子レンジはおろか、家庭用エアコンだって数時間は使えるだろう。PC?OCCT走らせても結構長時間保ちますよ……。ってオーバースペックと言うか、システム全体が巨大過ぎてUPSとして使うには、まず設置場所を確保しないといかんわ!
はい、最後にここだけの話。もしポタ電を欲するなら、ポタ電として売っている製品を買いましょう。もしあなたがUPSを導入したいなら、第一候補はUPSとして売っているUPS、ポタ電兼用ならUPS的な機能の付いているポタ電も候補にしてください。UPS的なポタ電を自作するメリットは「おもしろい」だけです、決してお勧めしません。
ちなみに自作したUPS的なポタ電的な何かは、わが家の非常用電源となる予定です。もうここまで来たら太陽光発電パネルも常設で接続しちゃおうかな……
注意
大容量バッテリや大出力インバータを扱う際には感電などに十分注意してください。接続方法を間違ったり流れる電流に耐えられない配線を使用すると重大な事故となります。またネット通販で購入できるバッテリや充電器にはPSE認証マークを取得していないものも多く見受けられます。なかには充分な安全性が確保されていない製品もありますので、購入時には十分注意しましょう。
最終号「DOS/V POWER REPORT 2024年冬号」は絶賛発売中!
今回は、DOS/V POWER REPORT「2023年夏号」の記事をまるごと掲載しています。
なお、33年の長きにわたり刊行を続けてきたDOS/V POWER REPORTは、現在発売中の「2024年冬号」が最終号となります。年末恒例の「PCパーツ100選 2024」や「自作PC史&歴代パーツ名鑑」など、内容盛り沢山!是非ご覧ください!