特集、その他

【高橋敏也の改造バカ一台 その261】「ガンプラ? ダンプラ?いいえプラダンです」

DOS/V POWER REPORT 2023年秋号の記事を丸ごと掲載!

 PCケースは自作マシンにとって「顔」である。もちろん自作ユーザーの中には「PCケースなどという軟弱なものは不要!」と豪語し、オープンフレームやマザーボードの箱の上を活用する人も多いだろう。だがほとんどの場合はPCケースを楽しく選び、そこにパーツを組み込む。これがまあ普通の流れである。

 一部の自作強硬派もしくは自作過激派にとっては、そんなPCケースすらも「自作」の対象である。彼らは可能ならばマザボやメモリ、ストレージですら自作したいわけで、なかにはCPUを自作したい! という恐ろしい願望を持っている輩も少なくないのだ。比較的自作が容易なPCケースを見逃すはずがないのである。

 では原点に立ち戻り、自作マシンのPCケースの定義を考えてみよう。実はこれ、ごくごく単純な話なのだ。要するに「自作マシンのパーツをまとめて設置できればそれがPCケース」なのだ。したがってマザボ箱の上にマシンを組んで、マシンの下にあるマザボ箱を「PCケースです」と言い張ることも可!

 あるいは今とはなっては希少種となってしまったコンビニ袋にパーツをぶち込んで稼働させれば、それを「PCケースです」と言い張って可!(ただし周囲からはけげんな目で見られることになる)

 冗談はさておき、PCケースの自作は楽しい。私の場合は「こんな(笑)」人間なので、PCケースはもっぱら自作である。ふざけたものがほとんどだが、なかには実用的なものもごくまれに含まれている。というわけで今回は、素材にこだわって「実用に近い」PCケースを自作してみよう。

プラダンはPCケースの夢を見るか?

この子、プラダンって言うの。知ってた?
今回の主役、プラスチック段ボール、いわゆるプラダン。見たことはあっても名称を知らない人が多い気がする。今回は幅301mm、長さ450mm、厚さ5mmの10枚入りをネットで購入したが、2,880円だった。色はさまざまだが、今回使用したのは白の半透明

 実は以前からPCケースの自作に使ってみたかった素材がある。それがプラダン、すなわちプラスチック製段ボールである。通常、段ボールは紙を原料として製造されるが、プラダンはその原料をプラスチック(ポリプロピレン)に置き換えたものだ。素材がプラとなったことで防水性が得られ、さらには熱や薬品などにも強いと言う。また強度が確保され、耐衝撃性も高いのだそうだ。

 紙の段ボールと一緒なのは「軽くて丈夫、加工しやすい」などの点だろう。自作ユーザーからしてみると「表面に導電性がない(一部特殊なものを除く)」と言うのも両者に共通している。ぶっちゃけた話、マザボなどの基板を通電する際の置き場所に最適というわけだ。一方で「熱や薬品に強い」というのはプラダンならではの特長と言える。

材質はポリプロピレン、構造はまさに段ボール加工しやすい点などは紙製の段ボールと一緒だが、プラダンは耐水性があり表面強度も高い

 余談になるがちょっと驚いたのがこのプラダン、一体押し出し成型で製造されているのだ。何気にプラダンを見ていたときは「紙の段ボールと一緒でなみなみのシートを平面シートで挟んでいるのだろう」とか思っていた。しかしプラダンの断面をよく見てみると、確かに貼り合わせの構造にはなっていない。型からの押し出しで製造されているのだ。これなら強度が高いのも納得である。

 ガンプラ、もといプラダン。まさに自作マシン用のPCケースを自作するのにピッタリな素材である。

DeskMini先生、よろしくおねがいします
マシンのベースとなるのはみんな大好きASRockのDeskMini。B660ベースのものだが、マジで「困ったときのDeskMini頼み」である。もう一生ついて行ってもいいくらい。昔NUCに同じことを言っていたのは、よい子のみんなと改造バカの秘密だ
ネジを外してシャーシを引き出すだけでマザーボードにアクセスできる。これは以前組んだものなので、Noctuaの薄型トップフローCPUクーラーが取り付けてある
今回使用するのはマザボ、バックパネル、そしてスイッチやLEDが取り付けられたハーネス。簡単に取り外せるし、Mini-STXマザボのコンパクトさが光る(と言うよりありがたい)

四角い筐体じゃ当たり前過ぎない?

 プラダンでPCケースを自作するにあたり、まず引っ張り出したのが、わが家では「古のツール」となりつつあったサークルカッター。何かの目的で使おうとして10年以上前に購入し、仕組を確認しただけで死蔵していたものである。ちなみにメーカーはNT、今でもまったく同じ製品が同じ型番で販売されているを見てさすがだなあと思った。

必殺、サークルカッタァーーー!!!(10年前に同じ発言があったかも)
今回の影の主役、サークルカッター。何かに使おうとして10年以上前に購入したが、使った記憶がまったくない。今回が初使用みたいなものだ
サークルカッターはシンプルなツールである。左上の赤いカバー部分にカッターの刃を装着し、中央の突起を押さえて回す。カッターの刃が円を描いて対象物を切断する
より大きな円を切ることができる延長レールも一緒に買った「らしい」(まったく記憶にない)

 さてそのサークルカッター、その名のとおり円を切り取るカッターである。基本的には紙などの薄いものを切るツールだが、レールの先に取り付ける刃を調整すれば、今回用意した5mm厚のプラダンぐらいは切れるだろう、そう考えていた。

いつもなら大体この辺りでフラグが立つのですが
まずはサークルカッターのテストも兼ねて、とりあえずプラダンを切り出してみよう。ということでマザボをプラダンに載せて、だいたいのサイズ感を把握する
無事プラダンの切り出しに成功! しっかり円形だし、プラダンは想像以上にカットしやすいことが分かった
しかし適当に切ったため、どう見てもマザボより小さい円盤ができあがった。まあテストなんで気にしない

 早速試してみたところ、慣れないせいもあって切断面に乱れは生じたが見事にプラダンから円盤を切り出すことができた。よし、これで今回の目的はほぼ達成されたようなものだ。そう、今回の自作PCケースは円柱を薄く切り出したような形状、上から見ると円形に見える形状を目指していたのである。ほら、四角い筐体はなにかと扱いやすいけど、やっぱりそれだけじゃあ遊び心に欠けるからねえ……(と思ったメーカーが過去にありましてね……後日談参照)。

サークルカッターの延長レールを使って、大きな円盤を切り出してみた。うん、うまくカットできる! うん、だが今度はデカ過ぎたw
「ちゃんと測れよ!」ということで、マザボの対角の長さを測ったら約20cmだった。それに合わせてやや大きめの直径で切り出す。うん、ジャストフィットだ!

マシンのパーツは神頼みw

私くらいのレベルになるとこれがスイーツに見えてきます。
同じサイズの円盤を2枚切り出し……マザボを挟む! どこかでこんな雰囲気のお菓子を見たような気がするんだが……気のせいか
CPUクーラーピッタリに合わせると、高さは6cmくらいになる。だがCPUクーラーのファンに円盤を密着させると、通気口の確保など空調がめんどうだ。ならば高さをある程度確保したほうがいいだろう

 用意したプラダンのサイズとか、扱いやすさを考えると、自作マシンのパーツはコンパクトなほうがいい。Mini-ITXマザボでもいいのだが、プラダンのサイズ的にちょっと厳しいかもしれない。そんなときは改造バカの必殺技と言うか奥の手と言うか、神様と言うか……ASRock DeskMiniの出番である。

側板も円くせねば
というわけで側面の板を切り出す。マザボを挟み込む円盤が、CPUクーラーから十分離れる高さを確保。円周に合わせて切り出したプラダンを曲げてみる。粘りは強いものの、紙の段ボールと似たような特性だ
プラダンは導電しないのでマザボを直接円盤に固定してもいいのだが、熱の問題とかが気になるのでスペーサを使って浮かせる。
5mmの厚さがあるので、ちょうどよくスペーサが挿さる(ホットボンドで固定はした)

 Mini-ITXよりも一回り小さなMini-STXのマザボが内蔵されたDeskMini。ちなみにMini-ITXマザボは17cm角の正方形だが、Mini-STXは(規格的には)140mm× 147mmとなっている。このMini-STXマザボにCPU(+CPUクーラー)とメモリとM.2 NVNeタイプのSSDを搭載すれば、それでもう立派なマシンの完成だ。

前面と背面もキレイに仕上げる
側面パネルをホットボンドで円盤に接着し……
バックパネルはマザボ側に接着した。なにやらいい雰囲気になってきた
前面パネルからはマザボ前方のポートを出さなくてはならないし、スイッチとLEDも設けなくてはならない

 何よりDeskMiniのありがたいところは分解が恐ろしく容易で、いとも簡単にマザボとスイッチ類を筐体から取り外せる点。それをそのまま自作PCケースに入れてしまえば、アッという間にマシンが完成するのだ。ちなみにパーツの取り出しが簡単ということは、DeskMini本来の立ち位置、コンパクトベアボーンとして非常に組み立てやすいということでもある。

ポート用、そしてスイッチ用の穴をあけてから円盤に接着する
うまく固定することができたし、マザボ前方のポートにもアクセスできる。もう少していねいな工作をしたいが、世の中には締め切りという悪魔がいるのだ
背面の仕上がりも悪くない

 サークルカッターでプラダンを切り出して薄い円柱状の筐体を作成、そこにDeskMiniの中身を移植する。アッという間に自作PCケースを使った自作マシンの完成である。

おひつ型と言うには小さ過ぎるっ!家電ぽい極小円形PC完成!!

極小マシンにはやはりモバイルディスプレイがよく似合う。なお某知人から「お前の作るマシン、本当は動いてないだろ?」と疑われたので、一応証拠も入れておく(ディスプレイに別のマシンをつないだりはしていないっ!)

 そして作業の間で、紙の段ボールとの共通点がもう一つ見付かった。それは工夫しだいで5mm厚のプラダンであっても、フルタワーサイズのPCケースを自作できそうということである。段ボールを活用したイスなどの家具を見るが、あれは構造を工夫して十分な耐荷重を確保しているのである。それと同じことがプラダンでもできると思うのだ。

無謀にもDeskMini先生とサイズを比べてみる
本家DeskMiniとサイズ比較。プラダンマシンの天板は直径約21.5cm、一方DeskMiniは側面が約15.5cm角、プラダンマシンのほうが大きくなった。まあ四角いマザボを格納するケースは四角いほうが効率いいのは当たり前か

 今回、プラダンに手を出して本当によかった。近い将来、かなり凝ったPCケースの自作にチャレンジできそうだ。もちろんプラダンを活用して。

当初はDeskMiniのACアダプタも筐体内に入れてしまおうと思ったのだが、さらに大きくなるのでやめた。それが正解だったらしくACアダプタは外付けのほうが扱いやすい
高さにかなり余裕を持たせたので天板に通気口を設ける必要がなかった。ちなみに、ケースの高さはプラダンの厚みも含めて約8cm

後日談

 本連載を執筆中、たまたま私と同類の「PCマニア腐れボケジジイ」が来宅して、プラダンマシンを見た。彼はしばらく考えた後で「昔、ソニーというメーカーがVGX-TP1というPCを発売したわけだが」と言った。私は思わず「某レジェンド声優さんも愛用していたというVGX-TP1の話はやめて!」と叫んでしまいましたとさ。パクリじゃないよ、オマージュだよ……。

[TEXT:高橋敏也]

最終号「DOS/V POWER REPORT 2024年冬号」は絶賛発売中!

 今回は、DOS/V POWER REPORT「2023年秋号」の記事をまるごと掲載しています。

 なお、33年の長きにわたり刊行を続けてきたDOS/V POWER REPORTは、現在発売中の「2024年冬号」が最終号となります。年末恒例の「PCパーツ100選 2024」や「自作PC史&歴代パーツ名鑑」など、内容盛り沢山!是非ご覧ください!