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【高橋敏也の改造バカ一台 その261】「ガンプラ? ダンプラ?いいえプラダンです」
DOS/V POWER REPORT 2023年秋号の記事を丸ごと掲載!
2024年3月12日 07:05
PCケースは自作マシンにとって「顔」である。もちろん自作ユーザーの中には「PCケースなどという軟弱なものは不要!」と豪語し、オープンフレームやマザーボードの箱の上を活用する人も多いだろう。だがほとんどの場合はPCケースを楽しく選び、そこにパーツを組み込む。これがまあ普通の流れである。
一部の自作強硬派もしくは自作過激派にとっては、そんなPCケースすらも「自作」の対象である。彼らは可能ならばマザボやメモリ、ストレージですら自作したいわけで、なかにはCPUを自作したい! という恐ろしい願望を持っている輩も少なくないのだ。比較的自作が容易なPCケースを見逃すはずがないのである。
では原点に立ち戻り、自作マシンのPCケースの定義を考えてみよう。実はこれ、ごくごく単純な話なのだ。要するに「自作マシンのパーツをまとめて設置できればそれがPCケース」なのだ。したがってマザボ箱の上にマシンを組んで、マシンの下にあるマザボ箱を「PCケースです」と言い張ることも可!
あるいは今とはなっては希少種となってしまったコンビニ袋にパーツをぶち込んで稼働させれば、それを「PCケースです」と言い張って可!(ただし周囲からはけげんな目で見られることになる)
冗談はさておき、PCケースの自作は楽しい。私の場合は「こんな(笑)」人間なので、PCケースはもっぱら自作である。ふざけたものがほとんどだが、なかには実用的なものもごくまれに含まれている。というわけで今回は、素材にこだわって「実用に近い」PCケースを自作してみよう。
プラダンはPCケースの夢を見るか?
実は以前からPCケースの自作に使ってみたかった素材がある。それがプラダン、すなわちプラスチック製段ボールである。通常、段ボールは紙を原料として製造されるが、プラダンはその原料をプラスチック(ポリプロピレン)に置き換えたものだ。素材がプラとなったことで防水性が得られ、さらには熱や薬品などにも強いと言う。また強度が確保され、耐衝撃性も高いのだそうだ。
紙の段ボールと一緒なのは「軽くて丈夫、加工しやすい」などの点だろう。自作ユーザーからしてみると「表面に導電性がない(一部特殊なものを除く)」と言うのも両者に共通している。ぶっちゃけた話、マザボなどの基板を通電する際の置き場所に最適というわけだ。一方で「熱や薬品に強い」というのはプラダンならではの特長と言える。
余談になるがちょっと驚いたのがこのプラダン、一体押し出し成型で製造されているのだ。何気にプラダンを見ていたときは「紙の段ボールと一緒でなみなみのシートを平面シートで挟んでいるのだろう」とか思っていた。しかしプラダンの断面をよく見てみると、確かに貼り合わせの構造にはなっていない。型からの押し出しで製造されているのだ。これなら強度が高いのも納得である。
ガンプラ、もといプラダン。まさに自作マシン用のPCケースを自作するのにピッタリな素材である。
四角い筐体じゃ当たり前過ぎない?
プラダンでPCケースを自作するにあたり、まず引っ張り出したのが、わが家では「古のツール」となりつつあったサークルカッター。何かの目的で使おうとして10年以上前に購入し、仕組を確認しただけで死蔵していたものである。ちなみにメーカーはNT、今でもまったく同じ製品が同じ型番で販売されているを見てさすがだなあと思った。
さてそのサークルカッター、その名のとおり円を切り取るカッターである。基本的には紙などの薄いものを切るツールだが、レールの先に取り付ける刃を調整すれば、今回用意した5mm厚のプラダンぐらいは切れるだろう、そう考えていた。
早速試してみたところ、慣れないせいもあって切断面に乱れは生じたが見事にプラダンから円盤を切り出すことができた。よし、これで今回の目的はほぼ達成されたようなものだ。そう、今回の自作PCケースは円柱を薄く切り出したような形状、上から見ると円形に見える形状を目指していたのである。ほら、四角い筐体はなにかと扱いやすいけど、やっぱりそれだけじゃあ遊び心に欠けるからねえ……(と思ったメーカーが過去にありましてね……後日談参照)。
マシンのパーツは神頼みw
用意したプラダンのサイズとか、扱いやすさを考えると、自作マシンのパーツはコンパクトなほうがいい。Mini-ITXマザボでもいいのだが、プラダンのサイズ的にちょっと厳しいかもしれない。そんなときは改造バカの必殺技と言うか奥の手と言うか、神様と言うか……ASRock DeskMiniの出番である。
Mini-ITXよりも一回り小さなMini-STXのマザボが内蔵されたDeskMini。ちなみにMini-ITXマザボは17cm角の正方形だが、Mini-STXは(規格的には)140mm× 147mmとなっている。このMini-STXマザボにCPU(+CPUクーラー)とメモリとM.2 NVNeタイプのSSDを搭載すれば、それでもう立派なマシンの完成だ。
何よりDeskMiniのありがたいところは分解が恐ろしく容易で、いとも簡単にマザボとスイッチ類を筐体から取り外せる点。それをそのまま自作PCケースに入れてしまえば、アッという間にマシンが完成するのだ。ちなみにパーツの取り出しが簡単ということは、DeskMini本来の立ち位置、コンパクトベアボーンとして非常に組み立てやすいということでもある。
サークルカッターでプラダンを切り出して薄い円柱状の筐体を作成、そこにDeskMiniの中身を移植する。アッという間に自作PCケースを使った自作マシンの完成である。
おひつ型と言うには小さ過ぎるっ!家電ぽい極小円形PC完成!!
そして作業の間で、紙の段ボールとの共通点がもう一つ見付かった。それは工夫しだいで5mm厚のプラダンであっても、フルタワーサイズのPCケースを自作できそうということである。段ボールを活用したイスなどの家具を見るが、あれは構造を工夫して十分な耐荷重を確保しているのである。それと同じことがプラダンでもできると思うのだ。
今回、プラダンに手を出して本当によかった。近い将来、かなり凝ったPCケースの自作にチャレンジできそうだ。もちろんプラダンを活用して。
後日談
本連載を執筆中、たまたま私と同類の「PCマニア腐れボケジジイ」が来宅して、プラダンマシンを見た。彼はしばらく考えた後で「昔、ソニーというメーカーがVGX-TP1というPCを発売したわけだが」と言った。私は思わず「某レジェンド声優さんも愛用していたというVGX-TP1の話はやめて!」と叫んでしまいましたとさ。パクリじゃないよ、オマージュだよ……。
[TEXT:高橋敏也]
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