トピック

24年ぶりにIntel GPU搭載ビデオカードが帰ってきた! Intel CPU×Intel GPUで作る“ロマン”あふれるゲーミングPC

ASRock製最新ビデオカード&マザーボードにも注目 text by Windlass

ついに組めるようになった「ビデオカードまでIntel」のPC。インテルブルーを意識したブルー&ホワイトのカラーリングでまとめてみた。その実力やいかに?

 いきなりだが自作PCに求めるものはなんだろうか? パフォーマンス、サイズや静音性、LEDを駆使したデザイン性、ムービー/音楽のクオリティ追及など、目的の数だけ、ユーザーの数だけのロマンがある。そんな星の数ほどある中の一つに“メーカーを揃えたパーツでPCを組むロマン”という嗜みもある。

マザーボードメーカー製の主要PCパーツで固めるくらいだとおもしろみも少ないし、AMDで揃えるのは月並みか……そんな“メーカーを揃えたPCを作る”というロマンを夢想していた2022年の秋、CPUの最大手であるIntelのディスクリートGPU「Intel Arc Aシリーズ」を搭載したビデオカードがショップに並び始めたのを見てグっと来た。今なら、久しぶりに登場したIntel製GPUを使ったビデオカードが手に入るから「Intel CPU×Intel GPU×Intel チップセット」で揃えたPCが組める!

あれから24年。IntelのディスクリートGPUが帰ってきたぞ!

 本サイトの読者の皆さんならご存じ方も多いとは思うが、改めてIntel Arcについて説明しておこう。

 Intel Arcアーキテクチャーは、Inteが1998年2月に発売された「Intel 740」以来24年ぶりに発売したディスクリート型GPUだ。1998年に登場したIntel 740はかなりの期待を背に登場したのだが、さまざまな要因が重なってその歴史は早々に一旦終了してしまった……のだが、Intel 740のDNAは、チップセット内蔵GPUに引き継がれ、爆発的な成功を遂げる。これが現在のCPU内蔵GPUへと続いていくことになるので、こうして振り返ってみると、やはりエポックメイキング的な製品であったことは事実である。

NVIDIAでもAMDでもない第三極のGPU、Intel Arc Aシリーズ。日本国内では、ASRockを中心に搭載ビデオカードがリリースされている

 今回取り上げるIntel Arc A770は、日本では2022年11月にIntel ArcアーキテクチャーのフラッグシップモデルIntel Arc Aシリーズの上位モデルとして登場した。市場全体での位置付けで見ると、いわゆるアッパーミドルクラスを狙った製品で、一般的な2D/3D描画機能はもちろんのこと、近年のGPUのトレンドであるレイトレーシングやハードウェアエンコードエンジンなども搭載する。Intelとしては久々のディスクリートGPUながら、その機能は充実したものになっている。

 また、注目の大きな特徴として、AIを使用した超解像度技術「XeSS」をサポートしている点も見逃せない。高解像度でのゲームプレイにおけるフレームレート向上という大きな効果が得られる機能だ。

ASRockのIntel Arc A770 Phantom Gaming D 8GB OC。現時点でのArc Aシリーズの最上位モデルだ

 そんなArc搭載カードとして選んだのは、ASRock「Intel Arc A770 Phantom Gaming D 8GB OC」。GPUコアの動作クロックを、リファレンスの最大クロックが2,100MHzから2,200MHzへと100MHzオーバークロックした、いわゆる“ファクトリーOC”カード。高い処理能力を持つGPUを安定してOC駆動させるべく、大型のヒートシンクと3連ファンにで強力に冷却するタイプの製品だ。

3連ファンを備える大型カード。背面はバックプレートでおおわれており剛性感が高い

 その冷却能力へのこだわりはファンやヒートシンクだけでなく、熱伝導率が高い銅ベースの接地面、5本のヒートパイプ、高性能グリスやサーマルパッドなど様々な工夫を採用し、高い負荷が長時間続くこともあるゲームプレイ中でも確実に冷却できるようになっている。またアイドル時~低負荷時にはファンの回転を停止する“0dBサイレントクーリング”を採用するなど、現在のトレンドは抑えているところも好印象だ。

補助電源は8ピン×2。従来の電源が問題なく利用できる
ディスプレイ出力はHDMI×1、DisplayPort×3と一般的な仕様

 Intel Arc A770搭載カードとしては、Intel謹製の「Intel Arc A770 Limited Edition」というカードも登場しているが、こちらよりも4,000~5,000円ほど安いというのも購入時にはポイントになるだろう。

今回は第13世代Coreを中心に据えてパーツ類セレクト

 このビデオカードとタッグを組むCPUとマザーボードだが、最新の第13世代Intel Core プロセッサー、Z790チップセットを採用したマザーボードを用意した。

Intel Core i7-13700K

 まずCPUだが、今回はIntel Core i7-13700Kを使用する。PコアとEコアがそれぞれ8コアずつ搭載した16コア24スレッドのモデルで、前シリーズに比べEコアの数が増えたことでマルチスレッド性能がさらに向上。動作クロックも最大5.4GHzと高くゲーミングには最適な製品となっている。

 第13世代Core最上位のCore i9-13900Kの圧倒的な実力は各所で目にするところだが、消費電力や発熱の大きさの面に若干のハードルがある。1ランク下のCore i7-13700Kになると扱いやすさはぐっとアップする。また、市場全体での格付けとしてはアッパーミドルクラスのGPUに分類されるArc A770との“バランス”という点でもちょうどいいパートナーと言えるだろう。

ASRock Z790 Pro RS

 マザーボードは、“メーカーを揃える”という点も考慮して、ASRock製品をチョイス。この「Z790 Pro RS」は、数ある最新Z790チップセット搭載マザーボードの中では、コストパフォーマンスを重視した製品と位置付けられる。

 50A Dr.MOSによる14+1+1フェーズの電源回路は、Core i7クラスの上位CPUを利用するには十分な仕様。PCI-Express 5.0に対応した最新世代のPCI Express x16スロット、SSDヒートシンク搭載のスロットを含む4基のM.2スロット、安定性と速度に優れたDragon RTL8125BG 2.5G LANなどを搭載してトレンド機能を網羅。USBコネクタも、USB 3.2 Gen2×2 Type-Cを筆頭に合計17基と豊富かつ使い勝手のよい構成で搭載するなど、実用性は抜群だ。

Z790マザーとしてはお手頃価格帯の製品だが、機能・性能は必要にして十分。Gen 5のPCI Express x16スロット、ヒートシンク付きを含む4基のM.2スロットを搭載

 マザーボード価格は最近上昇傾向にあるが、本機は実売価格3万8,000円前後とコストパフォーマンスに優れる。初心者からベテランの方まで幅広く使える製品と言っていいだろう。

SSDにはIntelにゆかりのあるSolidigm P44 Proをチョイス

 また、Intelの系譜に連なるものということで、SSDにはIntelからスピンオフしたSolidigmの最新モデル「P44 Pro」を選んだ。シーケンシャルリード最大7,000MB/s、シーケンシャルライト最大6,500MB/sというPCI Express 4.0対応のM.2 SSDとしてはトップクラスの製品で、Core i7-13700K/Z790/A770にふさわしい仕様の製品と言えるだろう。

 このほか、発熱の大きめな最新CPUであることを考慮し、28cmクラスのラジエータを搭載した簡易水冷クーラー、DDR5メモリ、1,000W ATX電源などを用意。

 最後にルックス面でもワンアクセント。Intelのブランドイメージを意識して、ホワイトボディのPCケースにLEDライティングでブルーを強調したセッティングで最後の一押しを加えてみた。未来感のある、見た目もロマンあふれる仕上がりになったのではないだろうか?

完成したPCの内部。比較的コンパクトなPCケース、NZXT H5 FLOWと、28cmクラスラジエータの簡易水冷ですっきりと仕上げてみた

フルHD~WQHDゲーミングが堪能できる性能。XeSSにも期待大!

 それではこのIntel CPU + Intel GPUをベースにしたシステムがゲームやアプリケーションで快適に使えるかチェックしていこう

 CPUの性能を確認できる定番ベンチマークのCINEBENCH R23では、CPUが備える全コア全スレッドでレンダリングを行う「Multi Core」と、1スレッドのみでレンダリングを行う「Single Core」を実行した。マルチコアのスコアは29,620でシングルスコアは2,068で、CPU性能は十分に高いことがわかる。

CINEBENCH R23の計測結果

 次に、日常的に利用するアプリの使用感を比較できるPCMark 10 Extendedの結果を見ていこう。総合スコアは11,178で、内訳をみると、PCの基本性能を示す“Essentials”スコアは12,039、一般的なオフィス作業向けアプリでの性能を見る“Productivity”スコアは7,784、写真動画などのデジタルコンテンツ編集向け性能を示す“Digital Content Creation”スコアは17,876となった。いずれのジャンルにおいても、非常に快適に動作するスコアと言えるもので、ゲームやオフィス作業はもちろん、写真や動画などのクリエイティブな用途にも広く快適に利用できる総合力のPCに仕上がっている。

PCMark 10 Extendedの計測結果

 ここからは、Arcシリーズと相性がとくによいとされているゲームにおけるパフォーマンスを見てみよう。現状、Arcシリーズはこなれたゲームエンジンを使用したタイトルとの相性がよい傾向にあるので、以下のタイトルを試してみた。アッパーミドルクラスのGPUということを考慮して、解像度はフルHDとWQHDをそれぞれ試している。なお、本稿の執筆期間中に、Arcシリーズのドライバの最新βバージョン(バージョン 31.0.101.3975)の提供が始まっていたため、今回のテストはこのドライバを利用して実施している。

 まずは「ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ」の公式ベンチ。スコアは23,997および15,831で、いずれも「非常に快適」の判定だった。また平均フレームレートは163fps/106fpsと、MMORPGをプレイするには十分すぎる数値だった。

ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマークの計測結果

 次に、対戦型のアクションシューティングゲーム、「Apex Legends」でもテストをしてみた。テストは、ゲーム内の「射撃訓練場」にてさまざまなエフェクト効果を出すような一定の動作を行なう様子のフレームレートをCapFrameXにて計測する、というもの。結果は、フルHDで最大267.0fps/平均144fps、WQHD解像度では最大213.9fps/平均143.8fpsとかなり高い結果に。このパフォーマンスなら、WQHD解像度のゲーミング液晶との組み合わせで十分にガチンコ勝負が堪能できるはずだ。

Apex Legendsの計測結果

 お次は美麗映像が堪能できる重めのタイトル「アサシン クリード ヴァルハラ」。テストには内蔵のベンチマークモードを利用した。グラフィックス品質はいずれも「最高」設定でテストを実施したところ、平均フレームレートはフルHDで69fps、WQHDで53fpsとなった。対戦型のアクションシューティングゲームならもっと高いフレームレートがほしいところだが、じっくりシングルプレイを楽しむタイプの本作であれば、フレームレート的には必要十分でもある。WQHD時は快適プレイの目安である平均60fpsを若干下回るが、テスト映像を見る限りは影響は軽微。実際のプレイ中に多少のもたつきを感じるようなら、若干画質設定を下げるといいだろう。

アサシン クリード ヴァルハラの計測結果

 オンラインプレイも楽しいアクションRPG「モンスターハンターライズ」のテストも行なった。画質設定は「最高」で、フルHD時は最大184fps/平均148.5fps、WQHDでも最高116.0fps/平均106.0fpsと満足のいくもの。どちらの解像度でもスムーズな動作で“ひと狩り”楽しむことができるだろう。

モンスターハンターライズの計測結果

 最後に、Intel Arc最大の特徴でもディープラーニング/AIを使用したアップスケーリング機能、XeSSも体験してみよう。テストしたのは重量級のゲームでありXeSSに対応している名作「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」。ゲーム内蔵のベンチマーク機能を使い、解像度をWQHDとフルHD、画質設定「最高」をベースに、XeSSをオフ~超高品質の5種類で比較してみた。

シャドウ オブ ザ トゥームレイダーの計測結果(フルHD)
シャドウ オブ ザ トゥームレイダーの計測結果(WQHD)

 WQHD時の結果に注目してみてみると、XeSS「オフ」のときは平均が82fpsなのに対し、「パフォーマンス」設定では110fpsと、34%ほど向上が見られた。もともとかなりのフレームレートが出ているフルHDでもその実力は発揮され、「オフ」時で平均111fps、「パフォーマンス」では132fpsと18%ほど向上している。XeSSの画質設定としてはもっとも高い「超高品質」設定だと、WQHD時平均84fps、フルHD時平均109fps。プレイアビリティの向上という面をXeSSに期待するということであれば、XeSS設定は「バランス」もしくは「パフォーマンス」あがりが、ゲーム描写とフレームレートの両取りができてオイシイところと言えそうだ。

 これらの結果を見るに、やはりXessの効果は非常に高く、プレイしたいゲームがXeSSに対応している(あるいは対応予定がある)ということなら、Intel Ark A770を選択する十分な動機になるだろう。XeSSはゲーム側の対応が必要な機能なので、今後、対応タイトルがさらに広がっていくことに期待したい。

Core i7とA770でバランスのいいアッパーミドルPCが完成

  ゲームのベンチマーク結果を見てみると、実に今どきのミドルクラスの性能を持っていることがわかる。また、Core i7-13700Kと組み合わせも期待どおりのものだった。フルHDでのゲームプレイについては総じて快適、中~重量級のゲームを高解像度で遊びたい、軽量のeスポーツ系タイトルをリフレッシュレート144Hz以上のWQHD解像度のゲーミング液晶でプレイしたい、というときには多少画質設定をいじってやったほうがいい場合もあるがおおむね良好、と見てよいだろう。そしてIntel Arcの注目機能であるXeSSに対しても性能の向上が実感できるため、対応ゲームを遊んでいる場合には積極的に導入していくべきだろう。

ホワイト&ブルーでオールIntel感の増した仕上がりとなった今回の作例。この構成のPCがもっとイケてるようになるかどうかは、最適化・対応タイトル増がカギを握る

 ただしこのロマンあふれる“オールIntel Inside”なPC、現時点ですでにパーフェクトな仕上がりだ、とは言い切れない面も。Intel Arc最大のメリットであるXeSS対応のタイトルは、選考するライバルに比べると現時点では多くはない。GPU自体のゲームやクリエイティブアプリへの最適化の深化、ドライバの成熟度のさらなる向上など、まだまだ改善の余地は多いと思われるので、今後のドライバアップデートに期待したい。

 高騰が進んだビデオカードの中ではIntel Arc A770 Phantom Gaming D 8GB OCの価格はかなり善戦していると言ってもいいレベルではある。それでももう少し価格がこなれてくるようになれば、冷却性能などのカード自体の完成度の高さと、XeSSなどのArkの機能面の魅力との相乗効果で、ぐっとコストパフォーマンスが高くなり競争力も上がってきそうである。

 24年ぶりのディスクリートGPUであることを考えれば、「ロマン要素が高いだけでなく実用的である」という点は非常に明るいニュースであることは間違いない。2022~23年の年末年始には、これまで目にしてきた構成とは一風異なる、Intel CPU×Intel GPUのPCで楽しんでみるのもまた一興ではないだろうか。