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CPU/GPU以外にもPCケース内は熱源だらけ!ファン追加で酷暑のPC環境を改善する

SilverStoneのケースファンを追加して冷却効果を徹底調査 text by 芹澤 正芳

 PCパーツの高性能化はうれしい限りだが、それに伴って、消費電力や発熱も増大している。とくにハイエンドパーツはその傾向が顕著で、冷却については一層の備えが必要だ。CPUとビデオカードはもちろんのこと、足回りを支えるCPUのVRM(電源回路)やチップセット、性能向上が著しいSSDの発熱も増加。それだけに、PCケースには“効率よく冷たい空気を取り込み温まった空気をスムーズに排気する”ことが求められる。それを実現するには、どうするのがよいのか? 今回はSilverStoneのファン関連製品を利用して内部パーツの冷却強化を検討してみる。

“冷却重視ケース”と“静音性重視ケース”の傾向の違い

 まずは、ファンを追加する前にPCケースがデフォルト状態での冷却力をチェックしておこう。用意したのは、SilverStoneの冷却を重視する「SETA H1」(ExtendedATX)と静音性を重視する「KL07」(ATX)の2製品だ。組み込んだパーツは以下のとおり。

【検証環境】
CPU空冷環境時:Inel Core i5-13600K(14コア20スレッド)
水冷環境時:Inel Core i9-13900K(24コア32スレッド)
マザーボードASUSTeK ROG STRIX Z790-F GAMING WIFI(Intel Z790)
メモリDDR5-5600メモリ 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)
ストレージWestern Digital WD_BLACK SN850X NVMe WDS100T2X0E
[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
ビデオカードASUSTeK ROG Strix GeForce RTX 4080 16GB GDDR6X OC Edition
(NVIDIA GeForce RTX 4080)
CPUクーラー空冷環境時:Hydrogon D120 ARGB(サイドフロー、12cm角×2)
水冷環境時:VIDA 240 SLIM(簡易水冷、24cmクラス)
電源ASUSTeK TUF Gaming 1200W Gold
(1,200W、80PLUS Gold)

 SETA H1は、前面、天版、背面ともメッシュ構造を採用し、前面に16cm角の大型ファンを2基、背面に14cm角ファンを1基備える、最新の自作PC事情にマッチした“冷却重視”のExtendedATX対応ケースだ。前面と天版に36cmクラスの簡易水冷クーラーを取り付け可能、ビデオカードは39.4cmまで対応と拡張性も高い。前面にはARGBライトストリップを備え、左側面は強化ガラスと“映え”もしっかり意識されている。

SilverStoneの「SETA H1」。実売価格は2万8,000円前後
前面、天版、背面ともメッシュ構造
前面には16cm角の大型ファンを2基備える
背面には14cm角ファンを1基搭載
パーツを組み込んだところ。大型のケースだけにRTX 4080を搭載しても窮屈な感じではない

 一方のKL07は、吸音波状フォームを両側面、前面、天版の4カ所に貼り付けた静音性重視のATXケースだ。底面にある4カ所の支えも振動吸収素材を採用、吸気のためのスリットは側面にしかないなど、動作音、振動音対策に力を入れている。前面に吸気用の14cm角ファンを2基、背面に排気用の14cm角ファンを1基標準で搭載とエアフローもしっかりと確保。簡易水冷クーラーは前面に36cmクラス、天板に24cmクラスまで搭載可能だ。ビデオカードは最大38.8cmまでと大型カードも十分設置できる。

SilverStoneの「KL07」。実売価格は1万6,000円前後
両側面、前面、天版に防音材が貼られている
前面には14cm角ファンを2基搭載
背面には14cm角ファンを1基備えている
パーツを組み込んだところ。RTX 4080がギリギリ収まっている感じだ

 続けてそれぞれのPCケースの冷却力を確認する。テスト方法だが、ファンコントロールはマザーボードのUEFIにあるQ-FanのAuto設定を利用、3DMark StressTest(Time Spy)を10分間実行したときの各部の温度を「HWiNFO Pro」で計測している。基本性能のチェックという意味で、まずはCore i5-13600K+空冷CPUクーラーでの各部の温度をチェックしてみた。

テストに使用した空冷CPUクーラー、Hydrogon D120 ARGB。いわゆるツインタワー/デュアルファン仕様で大柄ではあるが、オフセット設計でメモリとの干渉を回避している
各部の温度(Core i5-13600K/空冷、平均)
各部の温度(Core i5-13600K/空冷、最大)

 冷却重視のSETA H1のほうが、PCパーツでもとくに発熱の大きいCPUとGPUがより冷えているのが分かる。とはいえ、KL07でも平均温度を見る限り、問題なく冷却力は確保できていると言ってよいだろう。その一方で、VRM、チップセット、SSDの温度はどちらのPCケースでもあまり変化がない。この部分をより冷やしたいと考えた場合はなんらかの対策が必要。手っ取り早いのはファンの追加だ。

Core i5+空冷クーラー環境にファンを追加

 ここからは、それぞれのケースにファンを追加して各部の温度がどこまで変わるか試していこう。用意したファンは14cm角ファンでアドレサブルRGB LEDも内蔵する「Shark Force 140 ARGB」と拡張スロット部分に12cm角ファンを装着できる「FDP02」だ。

 Shark Force 140 ARGBは、PWM対応で0~2,200rpmの間で回転数制御が可能な14cm角ファン。サメの皮からヒントを得たというファンブレードが特徴だ。動作音は0~38.3dBA、風量は0~120CFMだ。

SilverStoneの「Shark Force 140 ARGB」。実売価格は6,000円前後
着脱式のケーブルを採用。LEDが不要の場合はケーブルを接続しなければよいので、引き回すケーブルを減らせる

 FDP02は、3スロット厚の金具を拡張スロットに取り付け、ケースの外側に12cm角ファンを設置するというユニークな製品だ。電源は3ピンでスロットの金具部分からPCケース内部にケーブルを引き入れて、マザーボードのファンコネクタに接続する。PCケース背面からの排気力を高めるのがポイントだ。

 最近では4スロット厚のビデオカードが登場していることもあり、7スロット以上の拡張スロットを持つPCケースでの利用を条件としている。ケース内部にファンを追加する余地がない環境でも、さらにファンを追加して冷却を強化できるというのが最大の強みだ。

SilverStoneの「FDP02」。実売価格は5,000円前後
3スロット分の幅がある取り付け金具を拡張スロットに取り付け
ファンのケーブルをPCケース内部に引き入れてマザーボードのファンコネクタに接続
金具側のネジでファンを固定する
PCケースの背面側にファンを追加し、内部の排気力を向上できる

 実際にファンを追加していこう。どちらのPCケースともに、Shark Force 140 ARGBを天板に1基追加した状態、FDP02を背面に追加した状態、両方を追加した状態、の計3パターンをテストしている。テスト方法は上記と同じ。FDP02はファン回転数をフルで動作するように設定した。

Shark Force 140 ARGBはそれぞれのPCケースの天版に1基追加してテスト
FDP02はビデオカードの下側に装着される形だ
両方装着すると天版からと背面からの排気力が向上
各部の温度(Core i5-13600K/空冷、平均)
各部の温度(Core i5-13600K/空冷、最大)

 まず注目したいのは、冷却重視の「SETA H1」の結果だ。天板にファン、背面にFDP02を単体で追加したどちらの場合でも、VRM、チップセット、SSDの温度が下がっている。メッシュで空気が抜けやすい構造なので、ファンの追加が効きやすいのだろう。両方追加した場合は、CPU、GPUの温度も下がっており、かなりの冷却強化につながると言ってよい。

 静音性重視の「KL07」は、単体のファン追加では大きな効果は見られない。密閉度が高いので、ファン1基追加ではそれほど冷却強化につながらないようだ。しかし、両方に追加した場合は、排気する力が大きく伸びるようで、すべての温度がキッチリと下がっている。静音性と冷却力の両立はなかなか難しいというのが分かる結果だ。

Core i9+水冷クーラー環境にもファンを追加してみる

 ここまでは、空冷のCPUクーラーを使ってテストしてきたが、次は簡易水冷クーラーの環境でFDP02を追加した場合、各部の温度がどう変化するのかチェックしてみよう。前述の表にまとめた通り、CPUはCore i9-13900Kに、CPUクーラーはSilverStoneの24㎝ラジエータ搭載製品、VIDA 240 SLIMを使用している。

簡易水冷クーラーのSilverStone「VIDA 240 SLIM」。実売価格は1万6,000円前後
厚さがラジエータとファンの合計で38mmしかなく、マザーボードの電源部などほかのパーツと干渉しにくいのが特徴

 今回のPCケースはどちらも前面、背面ともファンが最初から装着されているため、簡易水冷クーラーは天板に設置した。ファンは排気方向で設置している。前面から吸気、背面のファンと簡易水冷クーラーのファンが排気となるエアフローだ。そこにFDP02を追加してさらに排気を強化する。

どちらのPCケースでも天板に設置してテストしている。FDP02も取り付けた場合は、前面から吸気、背面ファンと簡易水冷クーラー、FDP02で排気というエアフローになる
各部の温度(Core i9-13900K/水冷、平均)
各部の温度(Core i9-13900K/水冷、最大)

 CPUとGPUについては、ファン追加の有無よりも、静音と冷却重視のケースで簡易水冷クーラーを使った場合でも温度はかなり変わるのが分かるという結果だ。VRM、チップセット、SSDはFDP02を追加することで平均温度が下がっており、PCケース内部の熱を逃がすのに役立っているのが分かる。とくに簡易水冷クーラーではCPUソケット周辺のエアフローが弱くなるため、VRMの温度を下げるのに有効と言えそう。このテストのように前面も天板も背面もファンで埋まった状態でも拡張スロットさえ余裕があれば追加できるFPD02の意義が見える結果だ。

 なお、ラジエータファンを吸気の向き(=取り込んだ空気をラジエータに当てる)にしてもH1では大きな差は見られなかったものの、KL07ではCPUが8~9℃、VRMは3~4℃低下。こちらもFDP02追加後のほうが冷却効果は高い

ファンの追加は内部パーツの温度を下げるのに有効

 CPUはCPUクーラー、ビデオカードは装着されているヒートシンクやファンで冷却力はほぼ決定付けられるので、PCケースのファン追加でさらに冷やすのはなかなか難しいが、冷却をケース内のエアフローに頼るVRMやチップセット、SSDの温度低下には有効だ。とくに空冷のCPUクーラー使用時で、天板とFDP02の両方を追加した場合、各部の温度がかなり下がっている。最近のPCケースでは、前面に大型の吸気ファンが備わっている製品も多く、エアフローの強化には排気ファンの追加が効果的であることが分かる。

 使用中のケースがちょっと古めだったり静音重視タイプのものであれば、劇的な効果を狙うなら冷却重視のPCケースに乗り換えてしまうのが一番だが、それでは非常に大掛かりだ。手持ちの環境を活かしつつ、冷却力の底上げを狙うなら、ぜひともファンの追加を試してほしい。

【SilverStone FDP02の主な仕様】
型番SST-FDP02B
材質鋼、プラスチック
カラー
取り付け条件7つの拡張スロットと電源カバーを備えたタワーケース、8つの拡張スロットを備えたタワーケース
ファンベアリング油圧ベアリング
電源12V/3pin、
回転数1,500RPM
サイズ(W×D×H)127×124×66mm/300g、ファン : 120×120×25mm