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ハイエンドゲーミングノートを分解、クーラーと電源周りの良さが光る「MSI Vector GP68 HX 12Vシリーズ」
デスクトップPCがギュッと小さくなったような、コストをかけた小型化技術を見る! text by Windlass
2023年12月13日 00:00
ゲーミングノートと聞いて読者の方はどんなイメージを持つだろうか。若いユーザーであればメインPCというイメージがしっくりくるかと思うが、PC歴の長い人ほどゲームは遊べるけどデスクトップPCの代わりにはなりきれないイメージを持ってしまう人も多いのではないかと思う。
現在のゲーミングノートはかなり作り込まれており、デスクトップPCを小型化して搭載しているような、小さくてもパワフルなものになっている。実際の性能は、PC自体のサイズやフォームファクターの違いよりも、搭載されているパーツのグレードが重要だ。筆者もデスクトップPC歴が長く、どちらかというとデスクトップPCの方が性能が高いイメージを持ってしまうのだが、そういった固定概念を取り払おうというのが今回のレビューだ。ハイエンドゲーミングノートを分解して、どのあたりが凄いのかを見てみたい。
若いユーザーであれば、今自分が使っているゲーミングノートにどれだけの技術が詰め込まれているのか、昔からのPCユーザーであれば、昔のゲーミングノートを思い出しつつ、現在のモデルがどれだけ進化したのかを見て楽しんでもらえれば幸いだ。
16コア24スレッドCore i9 HXにGeForce RTX 4080 Laptop GPUを搭載ハイエンドゲーミングノート「MSI Vector GP68 HX 12Vシリーズ」
今回紹介するゲーミングノートは、MSIの「Vector GP68 HX 12Vシリーズ」。Intel Core i9-12900HXとNVIDIA GeForce RTX 4080 Laptop GPUが搭載された16インチのハイエンドゲーミングノートPCだ。
ハイエンドゲーミングPCと聞くと、辞典のような厚さに5kg近くあるのではないかという超重量級PCを想像してしまうのだが、実際に届いたPCは厚さ3cm弱/重さ2.7Kgと、想像よりコンパクトな印象で正直拍子抜けした。このサイズと重量であれば少し大型ではあるが持ち運びも可能で、外出先でも使える高性能なワークステーションとして活用することもできる。
今回使用しているモデル「Vector-GP68HX-12VH-2001JP」は、メモリはDDR5-4800 64GB(32GBx2)、SSDは1TB(PCIe 4.0)が搭載されていた。インターフェイスは、Thunderbolt 4 Type-C ×1、USB3.2 Gen2 Type-C(映像出力・USB PD対応)×1、USB3.2 Gen2 Type-C(映像出力対応)×1、USB3.2 Gen2 Type-A ×1、USB3.2 Gen1 Type-A ×1を備える。Thunderbolt 4などをサポートするのはハイエンドらしい。
映像出力用にHDMI端子も備えており、映像出力対応のインターフェイスと組み合わせてマルチディスプレイ環境を構築することも可能。ネットワーク機能も充実しており、2.5Gbpsの有線LAN、Wi-Fi 6E + Bluetooth 5.3を採用。高速なネットワーク環境を活用したり、無線接続のデバイスを活用したりできる。
ディスプレイは16インチ/2,560x1,600ドットの240Hz対応液晶。高解像度かつ高リフレッシュレートでゲームが楽しめる、ハイエンドゲーミングノートに相応しい仕様となっている。
キーボードはRGBバックライトを搭載。吸気は底面側から行う仕組みなので、ノートPCクーラーなどと組み合わせることで、より冷却性能を高めて使用することができるだろう。
MSI Vector GP68 HX 12V(Vector-GP68HX-12VH-2001JP/検証モデル) | |
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CPU | Core i9-12900HX(16コア/24スレッド) |
GPU | GeForce RTX 4080 Laptop GPU 12GB GDDR6 |
メモリ | DDR5-4800 64GB(32GB×2) |
ストレージ | M.2 NVMe SSD 1TB |
インターフェイス | Thunderbolt 4 Type-C ×1、USB3.2 Gen2 Type-C(映像出力、USB PD対応)×1、USB3.2 Gen2 Type-C(映像出力対応)×1、USB3.2 Gen2 Type-A ×1、USB3.2 Gen1 Type-A ×1、HDMI×1、オーディオコンボジャック ×1。 |
無線機能 | Wi-Fi 6E(11ax) + Bluetooth 5.3 |
ディスプレイ | 16インチ/2,560×1,600ドット |
OS | Windows 11 Home |
本体サイズ | 357×284×28.55mm |
本体重量 | 2.7kg |
製品本体国内保証 | 1年 |
実装パーツでビッシリな基板、超小型ハイエンドPC感満載の内部をチェック
それでは本製品を分解して内部を確認してみよう。なお、本機種に限らず、ノートPCを分解する行為は保証が受けられなくなるので注意が必要だ。今回はメーカーに特別な許可を得て分解している。
また、本機はSSDやメモリの増設も可能だが、ユーザー個人が行なうと改造にあたるため製品保証が失効してしまう。MSI公認サポート店で提供されているサービスを利用することで、製品保証を失わずにパーツのアップグレードや換装が行なえるので、SSDの増設やメモリのアップグレードなどを考えているユーザーはMSI公認サポート店に相談して欲しい。
コストがかかっても性能最優先なクーラーの作り込み、もはやアート
ゲーミングノートPCは、ゲームが快適に動作する上位のCPUやGPUを小型筐体に搭載するため、強力な冷却性能が求められる。冷却性能が悪ければ熱によって性能にリミッターがかかるため、搭載パーツの性能が全く発揮されないといった場合もあり、なるべく小型かつ高性能なクーラーを搭載することが高性能なゲーミングPCには求められる。
分厚いヒートシンクや大型ファンを搭載すればある程度簡単に熱の問題は解消できるが、本体サイズや重量とトレードオフになるので、ただ豪華にすればよいわけではない。エアフローや放熱面積、ヒートシンクの位置など、薄型かつ高性能なモデルを作るには熱設計に関する様々な技術力が要求され、最大効率となるよう組み合わせてクーラーが設計できる技術力が要求される。
MSI Vector GP68 HX 12V(Vector-GP68HX-12VH-2001JP)を分解すると、まず目を引くのが6本の銅製のヒートパイプだ。
ノートPC向けのCPUやGPUは超高効率なものや低電圧で動作するものが採用されることが多いので、デスクトップPC向けのCPUやGPUに比べれば発熱は抑えられている。しかし、性能も重視している本機の場合は、それでも大型のヒートシンクとファンが必要であることが見て取れる。また、ヒートパイプをうまく配置し、熱だまりが発生しないよう配慮されていることも分かる。
ヒートシンクは熱伝導率の高い銅とアルミパーツを組みわせたもので、CPUとGPUの近くに小型のファンをそれぞれ搭載している。システム全体に負荷がかかっても冷却能力の奪い合いになったりしない構造となっており、フィンも密度が高く、エアフローもしっかり考慮した位置に備えられている。
ハイエンドビデオカードのクーラーをさらに複雑にしたかのような構造で、ちょっとしたアート作品ともいえるような作り込みだ。
また、コンポーネントパーツとの接触面をみると、かなり複雑な凹凸が付けられているのがわかる。コストを抑えるのであれば、ヒートシンク側を平らにして、熱伝導シートなどで実装パーツの厚みの差を吸収してしまうのが低コストで対応する方法になるが、発熱するパーツから確実に熱を移動し、なおかつクーラーの体積を抑えつつ冷却性能を最大化するのであれば、各パーツに合わせた凹凸をつけたこのクーラーのような形状がベストだ。
デスクトップPC向けのハイエンドパーツでもここまでやるか?というレベルで、制約のあるなかで最大の冷却能力を発揮することを狙っているのが強くわかる部分で、冷却性能へのこだわりと姿勢がありありとわかる。
ノートPCの小型筐体でCPUとGPUをしっかり冷却し、デスクトップPCに負けない性能を発揮するには、一見すると過剰に見えるレベルの冷却機構が必要になる。この部分の性能次第でどこまでCPUとGPUの性能が引き出せるか決まる面もあるので、完成度が高いに越したことは無い。小型の筐体に搭載する分、より最先端かつ高度な技術力が求められるので、こういった部分にモデルやメーカーの差がでるともいえるだろう。
デスクトップに引けを取らない豪華な電源回路、ワークステーションに似た堅実な作り
CPUへの電源回路は9フェーズ構成で、発熱を抑えることのできる1パッケージの70A対応MOSFETを採用することでMTP157WのCore i9-12900HXの性能を活かしきる構成になっている。
GPUにはオン・セミコンダクター製のハイサイドとローサイドが1パッケージになっている50AのMOSFETを採用し高負荷時でも安定した動作を実現している。どちらも面積的な制約がある中、可能な限り高性能な構成となっており豪華だ。
ノートPCの基板は必要なコンポーネントを少ない面積の中に載せる必要があるため、少しでも発熱を減らす工夫が必要になる。合わせてノイズの対策なども行う必要があり、設計の難易度は高い。
MSI Vector GP68 HX 12V(Vector-GP68HX-12VH-2001JP)は、基板を見る限り、高品質な部品を数多く使い、丁寧にコンポーネントが取り付けられていることがわかる。制約が少ないデスクトップPC向けマザーボードやビデオカードのハイエンドモデルとは豪華さの方向性が多少異なるが、ワークステーション向けのマザーボードに似た手堅さや効率の良さを感じさせるものとなっており、シンプルで熱に強い設計であると同時に安定性も重視していることがわかる。
メモリはDDR5に対応したSO-DIMM形状が2スロットあり最大64GBまで対応している。ゲームだけでなく高解像度の動画編集やCG制作などのクリエイティブな用途で使うユーザーにも対応できる仕様だ。また、SSDに関してもNVMe対応のM.2スロットを2基備えているので、将来的な増設や換装でより高速なSSDへのステップアップも可能な仕様になっている。
メモリやSSDは基板に実装してしまった方がスペース的には有利だが、購入後に増設や換装ができなくなる。よりヘビーに使われる可能性も考慮し、アップグレードを想定した仕様は、ハイエンドモデルらしいと言えるのではないだろうか。
電力をCPUとGPUに効率的に割り振り最大限の性能を発揮ベンチマークは数値だけを見ればデスクトップPCに遜色ないスコア
搭載されているクーラーや基板の作り込みはかなりのレベルとなっているMSI Vector GP68 HX 12V(Vector-GP68HX-12VH-2001JP)だが、性能が伴わなければその価値も半減してしまう。16コア(8P+8E)24スレッドのCore i9-12900HXと、GeForce RTX 4080 Laptop GPU 12GB GDDR6(CUDAコア7,424/メモリバス192bit)がどこまでの性能を発揮できるのかも見てみよう。
初めにゲーミングPCの性能を総合的に計測できる定番のベンチマークソフト3D Markを利用し、DirectX 12の性能を見ることができる「Time Spy」でテストを行った。
総合スコアは18,344で、大多数のフルHD/WQHD解像度ゲームが快適に動作する性能を持っている。フルHDなら高画質/ハイフレームレート、WQHDなら高画質/安定したフレームレートが実現できるといったところだ。
Graphics scoreの19,666も、デスクトップ向けのGeForce RTX 4070と4070 Tiの間くらいといったスコアで、消費電力を抑えつつデスクトップ向けGPUの上位モデルに遜色ない性能が出ていると言えるだろう。
ディスプレイに16インチ/2,560×1,600ドット/240Hzといった高スペックのパネルを備えているので、この性能を使い切るというのもいいが、大型のゲーミングディスプレイを用意して大画面でゲームを遊ぶといった使い方にも対応できる。大画面になると粗も見えやすくなるが、迫力はアップする。MSI Vector GP68 HX 12V(Vector-GP68HX-12VH-2001JP)であれば高画質/高フレームレートでの描画が可能なのでゲームプレイは快適なはずだ。
続いてテストしたのは重量級のゲームタイトルであるサイバーパンク2077。
解像度はWQHD(2,560×1,440ドット)、画質設定はプリセットにある「レイトレーシング:ウルトラ」に設定。なお、「レイトレーシング:ウルトラ」の設定は、対応ビデオカードであればデフォルトでDLSS Super Resolutionが有効になる。この画質設定をベースにフレーム生成技術のDLSS Flame Generationの有効/無効を切り替えて2パターンで計測を行った。
DLSS Flame Generation有効時のスコアは、平均107.77fps、最大198.95fps、最低51.66fps。DLSS Flame Generation無効時のスコアは、平均80.04fps、最高98.69fps、最低47.81fps。
サイバーパンク2077は常に高いフレームレートが求められるような、いわゆる「競技系」のシューターゲームではないため、平均fpsが一定以上出ていれば快適に遊ぶことができる。どのあたりから快適に感じるかは個人差があるが、WQHD解像度/画質レイトレーシング:ウルトラ設定でDLSS Flame Generation無効時でも平均80fpsを超えてくるあたりは流石といった性能だ。
フレーム生成技術のDLSS Flame Generationを有効にすれば平均100fps以上出ており、高リフレッシュレート液晶の良さをより引き出して遊ぶこともできる。デスクトップPCでもこの性能を出すには上位の構成が必要となってくるので、MSI Vector GP68 HX 12V(Vector-GP68HX-12VH-2001JP)のゲーミングPC全体から見ても高レベルといえるだろう。
最後にCPU単体の性能を測るためにCinebench R23にて検証を行った。CPUスコアはマルチが22,063、シングルが1,819。是非お手元のPCのCPUでスコアを計測して比べてもらいたいのだが、最近のデスクトップPC向けCPUのアッパーミドルクラスの製品と遜色なく、かなり高性能なスコアとなっている。搭載クーラーが16コア(8P+8E)24スレッドCPUをしっかり冷却し、性能も最大限引き出していることがわかるスコアだ。
なお、テスト中に動作温度の確認してみたが、CPUは95℃あたり、GPUは85℃あたりをターゲットして動作していた。一瞬サーマルスロットリングが動作する場面もあったが、サーマルスロットリングが発生した後も温度が上昇していったり、性能がしばらく落ちたままになったりする挙動ではないので、冷却機能のレスポンスの良さも垣間見ることができた。
こうした挙動はネガティブにとられることもあるが、サーマルスロットリングが起きるほどCPUやGPUの性能を引出そうと動作していると見ることもでき、デスクトップPC向けのパーツ同様、設定枠の範囲内で最大の性能を発揮するパフォーマンス重視のモデルである言える。
メーカーが本気でハイエンドコンパクトゲーミングPCを作るとこうなる!PCメーカーの技術がギッシリ詰め込まれた「MSI Vector GP68 HX 12V」
最新のゲーミングPCの中を見てみると、コンパクトさを優先しつつも、CPUやGPUの性能をなるべく引き出すためにかなりの技術が投入されていることがわかる。クーラーの構造も基板のコンポーネントの実装やレイアウトも手が込んでおり、パフォーマンスもデスクトップPCに遜色ない。
Mini-ITXで小型ハイエンドPCを自作した人ならわかると思うが、ケース内の限られたスペースに搭載可能なサイズのクーラーやファン、ビデオカードなどを調べて最大限性能が発揮できる構成を考えるのはなかなか難しい。数値上は搭載できるパーツでもエアフローが悪くなってしまったり、ケーブリングに問題が出たりと、知識や経験が必要になる場合もある。
ユーザーはパーツの開発はできないので、こだわれるのは組み合わせまでになるが、PCメーカーであればパーツ自体の設計からこだわることができる。3cm未満の厚さの中でどれだけ性能や冷却性能を高めることができるのか、試行錯誤して開発されたのだろうと内部を見ていて親近感すら感じるほど。その作り込みはゲーミングノートというより、「究極にコンパクトになったゲーミングPC」をメーカーが目指して作り上げられた製品といった印象だ。
スペック面で不満が無いとなればあとは価格となるが、MSI Vector GP68 HX 12V(Vector-GP68HX-12VH-2001JP)の通常販売価格は379,800円。Core i9 HX・GeForce RTX 4080 Laptop GPU・64GBメモリ・1TB NVMe SSD・高リフレッシュレート液晶と、スペックで見れば割高感はない。デスクトップPCで同等の性能と品質を実現しようとすれば上位グレードのパーツが必要になるので、ゲーミングPC全体で見ても悪くない価格のはずだ。ちなみに、12月25日(月)まではMSI公式オンラインショップ「MSIストア」では割引価格の339,799円で販売されており、かなりお得感のある価格となっている。
MSI Vector GP68 HX 12V(Vector-GP68HX-12VH-2001JP)は性能面でも技術レベルの面でも魅力が多いので、こだわるユーザーには是非触れて楽しんでもらいたいモデルだ。