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14900Kを余裕でブン回せる超堅牢の電源回路にWi-Fi 7をプラス!MSI「MPG Z790 CARBON WIFI II」レビュー

スキのない仕様を揃える“リフレッシュ版”Z790搭載マザー text by 芹澤 正芳

 2023年10月および2024年1月にそれぞれ製品が発表・発売されたRaptor Lake Refreshこと第14世代のCoreプロセッサー。同時に新チップセットが発表されることはなかったが、その登場に合わせてより現代的な機能を取り入れた“リフレッシュ版”と言えるマザーボードが多数登場した。MSIの「MPG Z790 CARBON WIFI II」もその一つで、ハイエンド級の超堅牢な電源回路はそのままに、見た目、機能、使いやすさとも強化された。

 本稿では、ハードウェアの解説に加えて、Core i9-14900Kをパワーリミット無制限とMTPを定格の254Wで動作させたときの消費電力や電源回路(VRM)の温度、動作クロックの推移などを交えたテストの結果をお届けしよう。

MSIのZ790チップセット搭載マザーボード「MPG Z790 CARBON WIFI II」。実売価格は80,000円前後

ハイエンド並みの19+1+1フェーズと105A SPSの超堅牢電源

 MSIの「MPG Z790 CARBON WIFI」は、上位CPUを安心してフルパワーで運用できる大規模な電源回路を備えたアッパーミドルクラスのマザーボードとして、発売当初は品薄になるほど人気となったモデル。その強化版として登場したのが「MPG Z790 CARBON WIFI II」だ。

 「CARBON」シリーズの代名詞と言えるカーボンブラックを基調とした渋いカラーリングや19+1+1フェーズの電源回路と105A SPSを組み合わせたハイエンドクラス並みの大規模な電源回路を採用し、ワイヤレスネットワークがWi-Fi 6Eから最新規格のWi-Fi 7対応にアップデート。また、ワイヤレスのアンテナがワンタッチで取り付け可能になり、電源回路のヒートシンク部にあるドラゴンのLEDがよりハデになったのが大きな違いだ。

 大規模な電源回路だけに、ヒートパイプで連結された巨大な二つのヒートシンクを搭載。接地面には7W/mKと熱伝導率の高いサーマルパッドが取り付けられており、熱を効率よく伝えられるようになっている。サーバーグレードの8層基板に放熱効果を高める2オンス銅層を設けて、安定性をより高めているのも見どころだ。

電源回路はヒートパイプで連結された大型ヒートシンクを採用。熱伝導率の高いサーマルパッドが貼り付けられている
電源回路は19+1+1フェーズで105Aと大出力に対応したSmart Power Stageを組み合わせ、CPUへの安定した電力供給を実現する
Wi-Fiのアンテナは挿し込むだけで取り付け可能と前モデルよりも手軽になった
ドラゴンの周囲がハデに光るLEDを採用。ドレスアップ派は注目のポイント

最上位のCoreプロセッサーをゴリゴリ使える

 ここからは、Core i9-14900Kを使ってUEFIメニューでの注目機能や、実際に動作させたときの温度、クロック、消費電力などをチェックしていく。検証環境は以下のとおりだ。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-14900K(24コア32スレッド)
メモリDDR5-5600 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM16GB×2)
ビデオカードNVIDIA GeForce RTX 4080 SUPER Founders Edition
システムSSDM.2 NVMe SSD 2TB(PCI Express 4.0 x4)
CPUクーラー簡易水冷クーラー(36cmクラス)
電源1,000W(80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro(22H2)

 UEFIは、初回起動時にCPUクーラーに合わせてパワーリミットを選ぶ同社ではおなじみの仕組。簡易水冷向けのWater Cooler設定ではパワーリミットがPL1/PL2とも4,096Wと事実上の無制限に、大型空冷クーラー向けのTower Air Coolerは288W、リテールクーラー向けのBoxed CoolerではMTPの定格である253Wに設定される。OCメニューのCPU Cooler Tuningからいつでも変更できるほか、パワーリミットは手動で細かく設定も可能だ。

 自己責任とはなるが、簡単にOCチャレンジができる「P-Core Beyond 6GHz+」という機能も用意されている。最大6GHzのCore i9-14900Kをそれ以上のクロックで動作させられるというもの。設定上は6.3GHzまで用意されている。うまく動くかは、冷却力などさまざまな要因が絡むので難しいが、さらなる高みに挑戦したい人にはよいだろう。

UEFIの初回起動時はCPUクーラーに合わせたパワーリミットを選ぶ画面が表示される
Core i9-14900Kを6GHz以上での動作に挑戦できる「P-Core Beyond 6GHz+」。OCなので自己責任での利用になる

また、DDR5メモリはIntelのOC規格「XMP」とAMDのOC規格「EXPO」の両方に対応。シングルランクが2枚ならDDR5-7800までサポートしている。最大192GBまで搭載が可能だ。

メモリOC用のXMP、EXPOどちらのプロファイルも読み込み可能だった

 このほか、OSインストール後、ネットワークに接続されていると、自動的にマザーボードのドライバ類を自動的にインストールしてくれるユーティリティが起動する「MSI Driver Utility Installer」、ファンの回転数コントロールが可能な「Hardware Monitor」といった機能もある。

 個人的に便利だと思ったのが、マザーボードのResetピンヘッダーと取り付けられたボタンやバックパネルに用意されているSmart Buttonを押したときの動作を変更できること。標準ではリセットになっているが、Mystic Light(LEDのON/OFF)、Safe Boot(押しながら電源ONで工場出荷時の設定で起動)、Turbo Fan(すべてのファンが最大または標準で動作)を割り当てられる。

ドライバ類を自動的にインストールしてくれる「MSI Driver Utility Installer」。標準では有効化されている
OSインストール後、インターネットに接続されていれば、自動的に起動し、ドライバ類を手軽に導入できる
Hardware MonitorではUEFI上で取り付けられているファンの回転数を調整できる
画面右上の「S」をクリックするとリセットボタンとSmart Buttonに割り当てる機能を変更できる

 続いて、Core i9-14900Kを組み込んだ場合の挙動を追ってみよう。パワーリミットは無制限(Water Cooler設定)と定格253W(Boxed Cooler設定)の2種類でテスト。DDR5はDDR5-5600駆動、簡易水冷のファン設定はiCUEアプリで「最速」とした。「Cinebench 2024」のMulti Coreテスト、「サイバーパンク2077」(フルHD、画質“レイトレーシング:ウルトラ”、DLSS“バランス”)をそれぞれ10分間実行したときのCPU温度、VRM(電源回路)温度、Pコアの実行クロック、CPUの消費電力の目安となるCPU Package Powerおよびシステム全体の消費電力をチェックする。

 なお、各データの取得には「HWiNFO Pro」アプリを使用し、CPU温度は「CPU Package」、VRM温度は「MOS」、Pコアの実行クロックは「P-core 0 T1 Effective Clock」、CPU Package Powerは同じ名称の「CPU Package Power」という項目を追った結果だ。システム全体の消費電力はラトックシステムの電力計「REX-BTWATTCH1」を使用している。室温は22℃。

CPU温度の推移
VRM温度の推移

 Cinebench 2024はCPUの全コアに負荷をかける強烈なテストだ。CPU温度はパワーリミット無制限ではCPUが許容する限界の100℃にたびたび到達している。たまに大きく落ちているのは処理と処理に合間だ。定格の253Wなら70℃前後とかなり落ち着く。サイバーパンク2077は、Cinebench 2024で見られた“目一杯”の状態からかなり下がり、パワーリミット無制限で70℃前後、253Wだと平均58℃で推移していた。

 VRMの温度はCinebench 2024のパワーリミット無制限が一番高く最大68.5℃だ。それでも動作の安定性に影響が出るほどではなく、フルパワーでも余裕で運用できると言ってよい。そのほかは、最大でも50℃台、平均すると40℃台と余力たっぷり。19+1+1フェーズと巨大ヒートシンクの組み合わせの強さが分かる。

 Pコアの実行クロックを見ていこう。

Pコアのクロックの推移

 Cinebench 2024は、パワーリミット無制限だとほぼ5.5GHzと高いクロックで動作。フルパワーを安定して維持できている。253Wだと約5GHzでの動作まで下がる。サイバーパンク2077はゲームの状況によって細かく変化するが、パワーリミット無制限でも253Wでも平均するとほぼ3GHzとほとんど変わらなかった。

 次に消費電力関連をチェックする。CPU Package PowerはCPU単体の消費電力の目安だ。

CPU Package Powerの推移
システム全体の消費電力

 HWiNFO Proでの数値ではあるが、Cinebench 2024の無制限では最大で361Wに到達、平均で325Wと非常に高い。253Wでは、そこがリミットになるため最大で231W、平均で214Wと100W以上下がる。サイバーパンク2077は、動作クロックにあまり差はなかったものの消費電力ではパワーリミット無制限で平均183W、253Wでは平均149Wとそれなりに差が出た。ゲームプレイ中心の運用なら、パワーリミットは253W設定のほうがよさそうだ。

M.2は5本分も!拡張カード、ストレージともにPCI Express Gen 5対応はぬかりなし

 そのほかの部分もチェックしよう。PCI Express x16スロットは2基あるが、CPUに近いほうがGen 5対応。もう1基はGen 4でx4動作になる。PCI Express x1スロットも1基あるが、これはGen 3仕様だ。

CPUに近いx16スロットはGen 5対応だ
対応メモリはDDR5。中間の仕切り部分に金属を使って耐久性を高めている

 M.2スロットは5基と数多く用意されている。CPUソケットに近い2基はCPU直結で、1基はGen 5(x4)、でもう1基はGen 4(x4)。残りはチップセット経由の接続で、すべてGen 4(x4)対応だ。すべてのM.2スロットにヒートシンクが搭載されており、しかもサーマルパッドもすべて両面仕様。SSDに対しても強力な冷却環境を用意している。

M.2スロットは5基も用意されている。全スロットがヒートシンク搭載

 なお、CPUソケットに一番近いM.2スロットに、シーケンシャルリード7,000MB/s超のGen 4 SSDを取り付け、本機のヒートシンクを装着した状態にて5分間連続で書き込みを実行する高い負荷のテストを行ったが、温度は最大46℃と非常に低かった。Gen 4 SSD最速クラスの製品を安心して運用できる冷却性能と考えてよいだろう。

Gen 5対応のM.2スロットはCPUソケットから2番目。発熱を意識してかヒートシンクは厚めになっている
CPUに一番近いのはGen 4対応。ワンタッチでヒートシンクを取り外せるのが便利

 バックパネルのUSBは、USB 20Gbps(Type-C)が1ポート、USB 10Gbps(Type-C)が1ポート、USB 10Gbpsが6ポート、USB 5Gbpsが2ポートだ。内蔵GPU用の映像出力としてHDMIを搭載。PCケースのUSBポート用として、USBピンヘッダーで、USB 20Gbps Type-Cが1ポート分、USB 5Gbpsが2ポート分、USB 2.0が4ポート分、それぞれ用意されている。ネットワーク機能は、有線LANが2.5G LAN、無線LANはWi-Fi 7でBluetooth 5.4もサポート。

バックパネルカバーは一体型
オーディオコーデックは定番「Realtek ALC4080」。バックパネルにはS/P DIF出力も搭載

パワーリミット無制限と定格の253Wでベンチにどこまで差が出る?

 最後に、MPG Z790 CARBON WIFI IIでCore i9-14900Kを使用した際の性能をベンチマークテストでチェックしておこう。温度やクロックのテストと同じく、パワーリミットは無制限(UEFIのWater Cooler設定)と定格256W(同じくBoxed Cooler設定)の2種類でテストする。

 まずはCPUパワーを測る「Cinebench 2024」、PCの基本性能を測る「PCMark 10」、3D性能を測る「3DMark」を実行する。

Cinebench 2024の計測結果
PCMark 10の計測結果
3DMarkの計測結果

 パワーリミット無制限のほうがCinebench 2024のMulti Coreのスコアは約4%高くなるが、前述のとおり消費電力は100W以上もアップ。ワットパフォーマンスで考えれば、253W設定のほうがよいだろう。PCMark 10は、CPU負荷の高いDigital Content Creationではパワーリミット無制限のほうがスコアは約3%高くなるが、ほかは誤差レベルだ。3DMarkもほとんど差は出ていない。

 続いて実ゲームの性能もテストしておこう。「オーバーウォッチ2」、「スカル アンド ボーンズ」、「サイバーパンク2077」を用意した。オーバーウォッチ2はbotマッチ実行時のフレームレートをCapFrameXで計測、スカル アンド ボーンズ、サイバーパンク2077はゲーム内蔵のベンチマーク機能を使用した。

オーバーウォッチ2の計測結果
スカル アンド ボーンズの計測結果
サイバーパンク2077の計測結果

 オーバーウォッチ2、スカル アンド ボーンズのフルHD/WQHDは描画負荷がそれほど高くないため、CPUパワーが影響しやすく、パワーリミット無制限のほうがフレームレートは高く出ているが、それでも10fps程度とわずかな差だ。

 描画負荷が高くなるとGPUのほうが性能限界に達しやすく、サイバーパンク2077や前述の2タイトルの4K時は、CPUパワーによるフレームレートの差はほとんどなくなってしまう。そのため、ゲームなら253W設定にしたほうがCPU温度や消費電力の面でもよさそうだ。

CPUパワーをフルに引き出しても余裕のある作り

 24コア32スレッドのCore i9-14900Kをパワーリミット無制限でブン回すと消費電力はCPU単体で300Wを超える。MPG Z790 CARBON WIFI IIは、堅牢な電源回路によって高クロック動作を維持し続けられる余裕があるので、CPU性能を限界まで引き出したいというこだわり派にもオススメだ。

 また、M.2スロットは5基もあるので動画編集や大量のゲームインストールのために複数のSSDを搭載したいというニーズにも応えられる。Wi-Fiまわりも前モデルから強化されており、8万円以下で購入できるマザーボードとしてはトップクラスの充実度と言ってよいだろう。