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iPhoneで最高画質の4K動画を撮るならどんなSSDが良い?Crucial X9 Proで必要な性能を確認してみた

速度や消費電力、長時間撮影もできるのか高速SSDで検証 text by 坂本はじめ

 iPhone 15 ProとiPhone 15 Pro Max(以下iPhone 15 Proシリーズ)は、外付けSSDやUSBメモリを用いることで4K/60fpsのProRes動画を記録できる。本格的な映像制作に挑戦してみたいクリエイターにとってProResでの撮影は注目機能なのだが、Appleは必要要件を公開しているものの、具体的な対応製品の情報までは公開していない。確実に動作するかどうかはしっかりテストしてみなければ分からず、ストレージ選びに関しては若干難しい面があるのが現状だ。

 そこで、iPhone 15 ProシリーズのProRes 4K/60fps記録に必要な要件を満たしているCrucialの外付けSSD「X9 Pro」を用意し、要件を満たしているSSDはどのような挙動になるのか、逆に要件を満たしていない場合はどうなるのかを確認してみた。iPhone動画撮影用のSSDを購入予定のユーザーは、ぜひテストの結果を参照してもらいたい。

本体は40g未満、小型軽量かつ大容量な外付けSSD「Crucial X9 Pro」

 今回、iPhone 15 Proシリーズの4K/60fpsのProRes動画撮影の要件を満たすSSDとして用意したのは、CrucialのX9 Pro。動画撮影の要件は後述するので、まずは使用するSSDから確認していこう。

 X9 Proは、USB 3.2 Gen 2(10Gbps)に対応した外付けSSD。容量ラインアップは1TB/2TB/4TBの3種類で、最大転送速度はリード/ライトとも1,050MB/s。本体側と付属ケーブルのコネクタ形状はUSB Type-C。ファイルシステムはexFATでフォーマットされている。

Crucial X9 Pro。金属と樹脂を組み合わせた小型筐体を採用するUSB 3.2 Gen 2対応の外付けSSD。
本体のコネクタはUSB Type-Cで、USB Type-C to Cケーブルが付属。
本体サイズは65×50mmで、厚みも実測で10mmに抑えられている。
実測した重量は36.4g。外付けSSDの中でも小型軽量な製品だ。

 金属と樹脂を組み合わせた筐体のサイズは65×50mmで、厚みは実測で10mm弱。今回使用する2TBモデルの重量は実測36.4gであり、X9 Proは高スペックかつに小型軽量な外付けSSDであると言える。

 なお、X9 Proにはバリエーションモデルとして、出荷時のファイルシステムをmacOSやiOS向けの「APFS」でフォーマットした「X9 Pro for Mac」も用意されている。

 通常モデルのX9 Proも「APFS」でフォーマットすればMac用として利用可能で、逆に「X9 Pro for Mac」をexFATなどでフォーマットすればWindows PCなどでも利用できる。X9 ProとX9 Pro for Macで若干本体カラーが異なるので、色が好みの方を選ぶのも良いだろう。

X9 Pro for Mac。Apple製品向けとして出荷時にAPFSでフォーマットされているほか、本体の色も若干明るい。
X9 Pro(左)とX9 Pro for Mac(右)。フォーマットし直せばWindowsでもMacでも使えるので、色の好みで選ぶのも良いだろう。

ProRes 4K/60fps記録に使えるSSDは、4.5W以下で220MB/s以上のライト性能が必須要件を満たさないストレージが動作した場合は動画データがコマ落ちだらけに

 ProRes形式での4K/60fps記録に必要なストレージの要件だが、Appleが公開している内容をまとめたものが以下の表だ。iPhone 15 ProとiPhone 15 Pro Maxで全く同じ要件となっている。

 ProResはAppleがプロの映像制作の現場での使用を想定して開発したコーデック。データ量は大きくなるものの、撮影時の情報が可能な限り多く残された状態となっており、写真のRAWファイルのように撮影後に画質調整できる範囲が広いのが特徴。

 ProRes 4K/60fpsはかなりビットレートが高いため、外付けストレージには常に220MB/s以上の書き込み速度が要求される。同時に、iPhone 15 Proシリーズが備えるUSB Type-Cポートの給電能力が上限4.5W(5V/0.9A)であるため、外付けストレージの最大消費電力も4.5W以下でなければならない。

 そのほか、ファイルシステムが「exFAT」または「APFS」でフォーマットされている必要があるほか、AppleはUSB 3.2 Gen 2に相当する10Gbps以上の速度に対応したUSBケーブルでの接続を求めている。要件には記載されていないが、220MB/s以上の書き込み速度が求められることからも分かるように、ProRes 4K/60fps記録は容量の消費が激しい。30秒録画しただけでファイルサイズは6GBを超えるので、できればテラバイト級の記憶容量が欲しいところだ。

AppleはiPhone 15 ProシリーズでのProRes 4K/60fps記録に必要な要件を公開しているが、対応製品リストや推奨製品は特に示していないため、要件を満たす外付けストレージをユーザーが選択しなければならない。

 なお、AppleはiPhone 15 ProシリーズのProRes 4K/60fps記録についてこれらの要件を定めている一方、純正のカメラアプリ(iOS 17.5.1時点)ではUSB 3.2 Gen1(5Gbps)接続以上かつ最大消費電力4.5W以下の外付けストレージが接続されている場合、書き込み速度を問わずProRes 4K/60fps記録が有効にできてしまう。

 ただし、書き込み性能が220MB/sに満たない外付けストレージでProRes 4K/60fpsで撮影を行った場合、撮影完了後に「録画書き込みスピード不足」との警告が表示され、撮影した動画もコマ落ちが発生したものとなってしまう。

外付けストレージの書き込み性能が不足すると「撮影後」に警告が表示され、撮影したファイルにもコマ落ちが発生してしまう。

 動作時に必ず警告が出るのであれば分かりやすいのだが、一定の条件を満たしていると“とりあえず”動作してしまうというこの挙動は非常に厄介。さらに、短時間であれば速度低下などが起きずに正常に記録できるSSDがあったり、ある程度以上の録画時間が経過するとコマ落ちが発生するSSDがあったりなど、正常動作の見極めも難しい。速度が落ちる原因は、SSD内部のキャッシュの影響や動作温度上昇によるサーマルスロットリングなども絡み複雑で、この辺りがiPhone 15 Proシリーズ用にSSDを選ぶ際の難しさになっている。

 撮影場所に持って行ってエラーが出てしまっては元も子もないので、購入時に要求性能を満たすモデルを選ぶのはもちろん、事前に十分なテスト撮影を行って問題がでないかどうかは確認してから使おう。

iPhone 15 Proシリーズで使えるSSDの速度と消費電力を実測してみたとりあえず動作するUSBメモリの挙動も確認

 iPhone 15 Proシリーズで利用可能な外付けストレージの要件が確認できたところで、CrucialのX9 Proを実際にiPhone 15 Proで使うとどのような挙動をとるのか、速度や消費電力を確認してみよう。動作自体はするが、速度要件を満たせていないUSBメモリを用意したので、比較しながら確認していきたい。

 テストに用いるX9 Proは2TBモデルの「CT2000X9PROSSD9」で、USBメモリはUSB 3.2 Gen1(5Gbps)接続に対応した容量32GBの製品だ。

USB 3.2 Gen 2(10Gbps)対応のCrucial X9 Proと、USB 3.2 Gen1(5Gbps)対応のUSBメモリ。

 iPhoneに接続する前に、Windows PCに接続した際の速度を計測してみた。以下は「CrystalDiskMark」の結果だが、X9 Proがリード/ライトともに1,000MB/sを超えるシーケンシャルアクセス性能を発揮する一方、USB 3.2 Gen1(5Gbps)接続のUSBメモリはリード98MB/s弱、ライト24MB/s前後となった。

 CrystalDiskMarkはピーク性能を計測しているため、継続して220MB/sの書き込み性能を有していることを証明するものではないが、ピーク性能でも24MB/s程度の書き込み性能しか持たないUSBメモリについては、ProRes 4K/60fps記録の要件を満たす性能がないことは確実だ。

X9 Pro(2TB)モデル。
リード/ライトとも1,000MB/s以上を記録している。
容量32GBのUSBメモリ。
インターフェイスはUSB 3.2 Gen1(5Gbps)だが、ライトは24MB/s程度しかでていない。

 次に紹介するのは、iPhone上で動作するディスクベンチマーク「Disk Test by Magic Benchmark」。ProRes 4K/60fps記録のテストでも使用するiPhone 15 Proの128GBモデルに接続し、テストデータサイズを10GBに設定してテストを実行した。

 X9 Proはリード752MB/s、ライト827MB/sで、iPhone 15 Pro接続時でも220MB/s以上が期待できる書き込み性能を発揮した。一方、USBメモリはリード88MB/s、ライト13MB/sとなっている。

iPhone 15 ProにX9 Pro(2TB)を接続して計測。
Disk Test by Magic Benchmarkのライト速度は827MB/s。
iPhone 15 ProにUSBメモリを接続して計測。
Disk Test by Magic Benchmarkのライト速度は13MB/s。

思いのほか消費電力が低いX9 Pro、iPhone 15 ProシリーズでSSDが認識されない時は消費電力に注意

iPhone 15 Proにワットチェッカーを接続してX9 Proの消費電力を計測。

 iPhone 15 Proに接続して高負荷なディスクベンチマークを実行できた時点で、X9 Proの最大消費電力が4.5W未満であろうことが伺えるが、実際にどの程度の電力を消費しているのかワットチェッカーで確かめてみた。

 以下がDisk Test by Magic Benchmark実行中に計測した結果で、書き込みテスト実行中の消費電力が「1.84W」、読み出しテストの実行中の消費電力が「1.44W」だった。

ライトテストの実行中のX9 Pro。消費電力は1.84W。
リードテスト実行中のX9 Pro。消費電力1.44W。

 iPhone 15 Proの供給上限である4.5Wまでにはかなりの余裕がある。220MB/sを大きく超える速度で動作しているベンチマーク実行中の消費電力がこの程度ということは、ProRes 4K/60fps記録中もX9 ProがiPhone 15 Proの電力供給能力を超える心配はなさそうだ。

 一応、USBメモリの消費電力も計測してみたが、書き込み時も読み込み時も消費電力は0.62Wだった。速度は動画撮影の要件を満たしていないが、消費電力はかなり低い。消費電力が低いほどiPhone側への負担は小さいので、ProRes 4K/60fpsが録画できるスペックをもった低消費電力なUSBメモリが出てくることにも期待したい。

ライトテストの実行中のUSBメモリ。消費電力は0.62W。
リードテスト実行中のUSBメモリ。消費電力0.62W。

 なお、外付けSSDの場合、M.2 SSDなどを利用して自作したものの場合は消費電力が4.5Wを超えてしまうことが多い。4.5Wを超えると接続しても認識されないので、iPhone 15 ProシリーズにSSDを接続した際に何も反応がない時は、消費電力オーバーを疑った方が良いだろう。

実際にiPhone 15 ProでProRes 4K/60fps動画を撮影Premiere Proで正常に録画されているのかフレームドロップの有無を確認してみた

 それでは、実際にiPhone 15 Proに外付けストレージを接続してProRes 4K/60fps撮影を行った結果を紹介しよう。

 純正カメラアプリを使って約30秒間のProRes 4K/60fps撮影を行い、Adobeの動画編集ソフト「Premiere Pro」にファイルの情報を確認する機能があるので、これを利用して動画が正常に記録されたのかを確認してみた。

iPhone 15 Proに外付けストレージを接続してProRes 4K/60fps撮影をテストする。
iPhoneで動画を撮影する際に、より安定してして撮影を行うためのリグも販売されている。
リグはグリップを握って安定して撮影するためだけでなく、アタッチメントを使うことでSSDやカメラ用アクセサリーを固定できる。

 まずはX9 Proの結果だが、動画の平均フレームレートは59.97fpsで、ファイルサイズは6.17GB。コマ落ちなどの問題点も無く、ProRes 4K/60fps撮影が問題なく行えていることがわかった。

 また、室温25℃の環境で試した範囲では、動画撮影時にSSD本体は若干発熱があるものの、触れられないほど熱くなったりはしなかった。炎天下で使用したりしなければ熱が問題になることもないだろう。

X9 ProでProRes 4K/60fps撮影を行った動画を分析。
Premiere Proのファイル情報確認画面。
平均フレームレートは59.97fpsでコマ落ちは発生していない。動画のファイルサイズは約30秒で6.17GBに達した。
撮影時は若干発熱するが、SSD本体は触れられないほど熱くなったりはしない。

 USBメモリの方だが、平均フレームレートは7.85fpsで、ファイルサイズは837.67MBとX9 Proよりも大幅に小さい。X9 Proではコマ落ちなしで撮影できた一方、書き込み性能の足りないUSBメモリは記録できずに失われたフレームが大量に発生し、フレームレートとファイルサイズが大きく減少している。

 撮影前からある程度は想像していたが、カクつくというより止まるという方が適当なほど盛大なコマ落ちが発生しており、動画としては使えないレベルのものだった。当然、撮影後に「録画書き込みスピード不足」の警告も表示され、ProRes 4K/60fps撮影の性能要件を満たす外付けSSDを使うことが如何に重要なのかを体感することになった。

USBメモリでもProRes 4K/60fps撮影を行い分析。
Premiere Proで撮影動画の情報をみると、平均フレームレートは7.85fpsと盛大にコマ落ちが発生していることがわかる。正常に記録できていないため、ファイルサイズも837.67MBへと大きく減少。
撮影後には「録画書き込みスピード不足」の警告も。
Premiere Proによるコマ落ち情報(サムネイルは一部)、コマ落ちが発生しているとエラーとして表示される。

30分のProRes 4K/60fps連続撮影もX9 ProはエラーなしでOK

 X9 Proは約30秒間のProRes 4K/60fps撮影をコマ落ちなしで乗り切ることができたが、実際の撮影ではより長い動画を撮ることもあるだろう。そこでX9 Proで30分連続での撮影にも挑戦してみた。

 結果としては、ファイルサイズが372.09GBにも達する30分間の連続撮影であっても、X9 Proはコマ落ちを発生させることなくProRes 4K/60fps撮影を完了してみせた。これほどの長時間撮影になるとiPhone本体やSSDの温度上昇にも気を配る必要が出てくるが、室温25℃の屋内で撮影した今回は熱が問題になることも無く撮影を完遂している。

30分の長時間撮影でもX9 Proはコマ落ちを発生させることなく撮影を完遂。ファイルサイズは372.09GBに達した。

外付けSSDの性能を引き出すならPC内蔵SSDの速度も重要

 iPhone 15 ProとX9 Proで撮影したProRes 4K/60fps動画は非常にファイルサイズが大きいため、編集作業を行う前にPCの内蔵ストレージに移動しておきたい。

 X9 ProはPCのUSB 3.2 Gen 2対応ポートに接続することにより、最大で1,050MB/s前後の高速なデータ転送を実現可能な外付けSSDなのだが、PCの内蔵ストレージが遅いと十分な速度を発揮できない場合がある。

 例えば、Crucialが「Crucial Proシリーズ」として展開している現行のスタンダードSSD「T500」であれば、PCIe 4.0 x4接続によってリード/ライトともに7,000MB/s(換算値=約56Gbps)級の速度を実現できるためX9 Proは最大速度でデータを転送することができるが、旧来の6Gbps SATA(実行転送速度=約600MB/s)をインターフェイスに採用するSSDでは、X9 Proの最大転送速度を大きく下回るインターフェイスの上限速度がボトルネックとなってしまい、X9 Proは本来の転送速度を発揮できない。

Crucial ProシリーズのSSD「T500」。7,000MB/s(換算値=約56Gbps)級の速度を実現するPCIe 4.0 SSDで、ヒートシンクの有無によるバリエーションが展開されている。

 PC内蔵SSDの性能がX9 Proからのファイル転送にどの程度影響するのか、PCIe 4.0 x4対応で7,000MB/s(換算値=約56Gbps)クラスのSSD「T500」と6Gbps SATA(実行転送速度=約600MB/s)対応SSDの「MX500」に対して、30分間連続撮影で記録した372.09GBの動画ファイルを転送して比較してみよう。

ヒートシンクレス仕様のCrucial T500 (2TB)。
T500のCrystalDiskMark実行結果。
6Gbps SATA対応SSDのCrucial MX500 (500GB)。
MX500のCrystalDiskMark実行結果。

 外付けSSDのX9 Proから内蔵SSDへ動画ファイルの転送に要した時間は、T500が7分00秒、MX500が15分39秒だった。それぞれのデータ転送速度の実測値は886.2MB/sと396.3MB/sで、内蔵SSDの違いによって2倍以上もの速度差がついている。

 動画編集のためPCにファイルを取り込むにせよ、外付けSSDの記憶容量を空けるためにファイルを移動するにせよ、転送に掛かる時間は短いに越したことはない。せっかく10Gbps対応の外付けSSDを使うのであれば、PCの内蔵ストレージもそれに見合うスピードの製品を利用したいところだ。

iPhone 15 ProのProRes撮影用SSDに好適な1台「Crucial X9 Pro」本格的なProRes 4K/60fps撮影をするならなるべく大容量モデルを

 iPhone 15 ProのProRes 4K/60fps撮影に求められる要件は、ベンチマークソフトで計測できるピーク性能だけで推し測れるものではないため、実機での動作実績のある製品を選びたい。

 今回のテストで利用したCrucialのX9 Proは、iPhone 15 Proで長時間のProRes 4K/60fps撮影に対応できる性能と省電力性を兼ね備えており、本体が小型軽量であることと合わせて、iPhone 15 Proの外付けストレージとして高い適正を備えていると評価できる。安心して選べる外付けSSDのひとつと言えるだろう。

 また、本文中でも触れたが、Appleの要件には注意喚起の記載のない記憶容量も重要だ。わずか30秒の撮影で6GB以上、30分の撮影では372GBもの容量を消費するProRes 4K/60fpsの撮影には、テラバイト級の記憶容量が必須と言っても過言ではない。自分の撮影スタイルを考慮したうえで、十分な記憶容量を確保できる製品選びが重要だ。