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Ryzen 9 9900Xは前世代より低発熱で性能アップ!より使いやすくなった新CPUの実力をアップデート済みMSIマザーで検証

安くなってきた「MPG X670E CARBON WIFI」との組み合わせはオイシイ text by 芹澤 正芳

 2024年8月23日11時から国内発売がスタートするCPUの「Ryzen 9 9950X」と「Ryzen 9 9900X」。AMDの最新世代「Zen 5」アーキテクチャーを採用し、クロックあたりの命令実行数(IPC)が向上するなど、さまざまな改良が加えられた。

 一方マザーボード周りに目を向けてみると、対応ソケットは引き続きAM5、対応チップセットは現時点では600シリーズのままと、CPUはさらなる性能アップを果たしつつも、従来環境を引き継いでいる。本稿では、最新モデルのRyzen 9 9900Xと、Ryzen 9000シリーズ向けのアップデート(BIOS AGESA Combo PI-1.2.0.0a Patch A)を済ませたMSI製X670Eマザーボードを入手。前世代のRyzen 9 7900Xと複数のベンチマークで性能を比較する。

Ryzen 9 9900Xの実力をチェックしていく

前世代とブーストクロックは同等でTDPは下がる

 今回取り上げるAMDのRyzen 9 9900Xは、Zen 5アーキテクチャーを採用する12コア24スレッドのCPUだ。6コアのCCD(CPUダイ)が2基とGPUを含めた入出力機能を持つIOD(I/Oダイ)で構成されている。

 前世代のZen 4アーキテクチャーを採用するRyzen 9 7900Xと比べると、内蔵GPU機能は変わらないが、CCDは5nmから4nmに微細化、対応メモリはDDR5-5200からDDR5-5600にアップ。そしてTDPは170W(電力リミットのPTTは230W)から120W(同162W)に大きく減少、それに伴って発熱も下がり、扱いやすさがアップしているのがポイントとなる。コア数、最大ブーストクロック、3次キャッシュ量は変わっていない。

 つまり、新世代のRyzenは「クロックやキャッシュ量が同じでTDPを下げながら、アーキテクチャの進化によって性能が変わっているのか」が大きな注目点と言える。

Ryzen 9 9900X。予告されている発売価格は88,800円
前世代から引き続きAM5ソケットに対応。裏面のピン数も変わっていない
CPUクーラーを付属していないので、パッケージは薄型でシンプルだ
【Ryzen 9 9900X/7900Xの主な仕様】
CPURyzen 9 9900XRyzen 9 7900X
発売時価格88,800円92,500円
アーキテクチャーZen 5(4nm+6nm)Zen 4(5nm+6nm)
コア数1212
スレッド数2424
定格クロック4.4GHz4.7GHz
最大ブーストクロック5.6GHz5.6GHz
3次キャッシュ64MB64MB
対応メモリDDR5-5600DDR5-5200
PCI-ExpressGen5 28レーンGen5 28レーン
TDP120W170W
内蔵GPURadeon GraphicsRadeon Graphics
CPUクーラーなしなし

 ちなみに、Ryzen 9 9900Xの予価は88,800円。Ryzen 9 7900X発売時の92,500円よりも安くなった。ただ、Ryzen 9 7900Xの原稿執筆時点(8月中旬)の実売価格は77,000円前後。この価格差を埋めるだけの価値があるのか、と言うのもポイントだ。

マザーボードはMSI「MPG X670E CARBON WIFI」を用意

 テストのために用意したマザーボードはMSIの「MPG X670E CARBON WIFI」だ。カラーリングにカーボンブラックを採用する渋いデザインと信頼性と耐久性を兼ね備えたスペックで人気のCARBONシリーズのX670Eチップセット搭載モデル。電源回路は18+2+1フェーズ、MOSFETは90A Power StageにDRPS(Duet Rail CPU Power System)を組み合わせた強力なもの。Ryzen 9の高負荷時の電力要求にも余裕で応えられる構成だ。

 M.2スロットは、CPU接続でGen 5対応が2基、チップセット接続でGen 4対応が2基と合計4基あり、すべてにヒートシンクを搭載と冷却面の心配もいらない。Serial ATA 3.0ポートも6基あり、ストレージの拡張性は高い。ネットワークは、2.5Gの有線LANとWi-Fi 6E+Bluetooth5.3を備えている。

検証用のマザーボードはMSI「MPG X670E CARBON WIFI」を使用。現在の実売価格は56,000円前後
電源は18+2+1フェーズと強力だ
バックパネル。2基のType-Cが用意されているが、1基は内蔵GPU利用時に映像出力としても使える

 冒頭にも述べたが、Ryzen 9000シリーズは既存のX670/B650チップセット搭載マザーボードが利用できるが、対応した最新のUEFI/BIOSの導入が必要だ。MSIのX670/B650マザーボードはすでに対応が完了しており、各製品のサポートページで対応UEFI/BIOSが配布されている(MPG X670E CARBON WIFIの場合はこちら)

MPG X670E CARBON WIFIのサポートページ。Ryzen 9000対応の最新UEFI/BIOSが配布されている
Flash BIOS Buttonの解説ページ。最新CPUと最新CPU対応前のマザーしか手元になくてもUEFI/BIOSのアップデートが可能

 新CPUに対応させるためのUEFI/BIOSアップデートを行うには、一般的には現状のバージョンで動作するCPUを装着してアップデートを“事前に”行っておく必要があるが、MSIのマザーボードの場合は、CPUおよびメモリがなくてもアップデートが行える「Flash BIOS Button」機能が搭載されているモデルが多い。事前準備として、最新BIOSのダウンロードとこれを保存しておくUSBメモリが必要となるが、手順自体はそれほど難しくない。Flash BIOS Buttonの使い方については、MSIのブログで詳細に解説されているので参考にしていただきたい。

 なお、UEFI/BIOSのアップデートは、正しい手順で行わないと最悪の場合PCが起動できなくなるなどのトラブルの原因になりかねない。作業に不安、不明な点がある場合は、販売店などの代行サービスを利用する、代理店のサポートに問い合わせるなどするのも一つの手。

 また、これからX670/B650マザーを購入するという場合は、「すでに最新CPUに対応するためのアップデートが完了しているパッケージ」を購入するのが確実だ。MSIのマザーボードの場合、ショップ店頭でパッケージを確認し「AMD RYZEN 9000 DESKTOP READY」の文言が入ったシールが添付されている。初心者はもちろんベテランユーザーにも、組み立て時の手間が減らせてかつ安心・安全でもあるので、対応済みパッケージをオススメしたい。

店頭で販売中のMSIマザー。Ryzen 9000シリーズへの対応が完了しているのパッケージには、Ryzen 9000対応シールが添付されている

 CPUクーラーには、MSIの「MEG CORELIQUID S360」使用した。36cmクラスのラジエーターを採用する簡易水冷クーラーで、MPG X670E CARBON WIFIにマッチするブラックカラーを採用する。

 水冷ヘッドの上部には2.4型の液晶ディスプレイを搭載し、CPU温度と言ったシステム情報や好きな画像やアニメーションGIFを表示できる。さらに、水冷ヘッドには60mmファンも内蔵しており、電源回路などCPUソケット周辺の冷却を手助けできるのも特徴だ。

CPUクーラーには、36cmクラス簡易水冷のMSI「MEG CORELIQUID S360」を用意。実売価格は37,000円前後

 そのほか、検証環境は以下のとおりだ。

【検証環境】
CPUAMD Ryzen 9 9900X(12コア24スレッド)、
AMD Ryzen 9 7900X(12コア24スレッド)
マザーボードMSI MPG X670E CARBON WIFI(AMD X670E)
メモリMicron Crucial DDR5 Pro CP2K16G56C46U5
(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)
ビデオカードNVIDIA GeForce RTX 4080 SUPER
Founders Edition
システムSSDWestern Digital WD_BLACK SN770 NVMe SSD
WDS100T3X0E(PCI Express 4.0 x4、1TB)
CPUクーラーMSI MEG CORELIQUID S360
(簡易水冷、36cmクラス)
電源Super Flower LEADEX V G130X 1000W
(1,000W、80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro(23H2)

同じコア数でも前世代から多くの場面で性能アップ

 ここからはベンチマークに移る。CPUの設定は定格どおりで、Ryzen 9 9900XはTDP120W/PPT162W/TDC120A/EDC180A、Ryzen 9 7900XはTDP170W/PPT230W/TDC160A/EDC225Aとした。メモリは各CPUの定格、CPUクーラーのファンはMSI Centerアプリで「バランス」に設定している。

CPUクーラーのファン設定は「バランス」とした

 まずは、定番のベンチマークからPCの基本性能を測定する「PCMark 10」と3D性能を測定する「3DMark」からチェックしよう。

PCMark 10 Standardの計測結果
3DMark Fire Strike/Time Spyの計測結果

 PCMark 10はそれほど負荷の高いテストではないので差は出ないかと思ったが、総合スコアで約8%の上昇を確認。さらに、表計算などオフィス処理のProductivityでは、約16%も伸びている。IPCの向上が効いていると言えそうだ。3DMarkもFire StrikeとTime SpyはCPU性能が影響するテストが含まれていることもあり、スコアのアップを確認できた。

 続いて、シンプルにCPUパワーを測定してみよう。CGレンダリングを実行する「Cinebench 2024」とエンコードアプリの「HandBrake」を実行する。HandBrakeは、約3分の4K動画をH.264とH.265の2種類でフルHD解像度に変換する時間を測定した。

Cinebench 2024の計測結果
HandBrakeによるエンコード時間の計測結果

 Cinebench 2024は、マルチコアのテストで約13%、シングルコアのテストで約19%のスコア上昇と性能がしっかり向上しているのを確認できた。特にシングルコアのスコアは非常に高く、これがZen 5アーキテクチャーの強みと言える。エンコードに関しても、H.264で8秒の短縮、H.265で25秒の短縮となった。ここでもキッチリと性能向上しているのが分かる。

 次は実ゲーム。まずは定番FPSの「オーバーウォッチ2」から。botマッチを実行した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定した。画質プリセット最上位のエピック設定のほか、GPU負荷を減らしてCPUによる性能の影響を大きくするため、低画質設定でもテストしている。

オーバーウォッチ2、画質“エピック”の計測結果
オーバーウォッチ2、画質“低”の計測結果

 オーバーウォッチ2は、それほど描画負荷の高いゲームではないので、画質がエピックでもCPUの性能による影響がそれなりにあるようだ。そのためどの解像度でもRyzen 9 9900Xのフレームレートが若干上となり、画質を低まで落とすとその影響はさらに拡大。最大で7.3fpsの差が出ている。

 続いてオープンワールドゲームから「Ghost of Tsushima Director's Cut」と「サイバーパンク2077」を実行しよう。Ghost of Tsushima Director's Cutは旅人の宿場周辺の一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定。サイバーパンク2077はゲーム内のベンチマーク機能を利用した。

Ghost of Tsushima Director's Cutの計測結果
サイバーパンク2077の計測結果

 Ghost of Tsushima Director's Cutは、どの解像度でもほとんど差が出ていない。このゲームに関しては、Zen 4とZen 5の違いが出ないようだ。サイバーパンク2077は、GPU負荷が低くなるフルHD解像度ではRyzen 9 9900Xが若干フレームレートが高くなった。WQHD以上では、GPU負荷が高いためCPUの影響は小さく、ほとんど変わらない。

発熱が激減で扱いやすさが大幅アップ

 最後にCPUの動作クロック、温度、消費電力の推移を見てみよう。Cinebench 2024を10分間連続で実行時のCPU温度と動作クロックの推移を「HWiNFO Pro」で測定した。温度は「CPU (Tctl/Tdie)」、クロックは「Core 0 T0 Effective Clock」、消費電力は「CPU Package Power」の値だ。

動作クロックの推移

 CPUクロックはグラフで見ると差があるようだが、値としては100MHz程度の違い。9900Xは5.1GHz前後、7900Xは5.2GHz前後で推移していた。Cinebench 2024のスコアは9900Xのほうが上なので、処理効率が高いと言える。

温度の推移

 注目はCPU温度だ。クロックはあまり変わらなかったが、こちらは9900Xが平均75.8℃、7900Xが平均84.7℃と10℃近い差が出ている。性能向上を果たしながら、圧倒的に低発熱のCPUと言ってよいだろう。これなら、空冷のCPUクーラーでも運用できそうだ。

消費電力(CPU単体)の推移

 CPU単体の消費電力については、9900Xが電力リミットの162Wでほぼ安定。7900Xの電力リミットは230Wだが、そこまで届いておらず、変動が大きいが平均すると約160Wとなり、両者はほとんど変わらないという結果だ。ちなみに、ところどころグラフが大きく下がっているのは、Cinebench 2024のテストとテストの間のインターバル。一瞬CPU負荷が下がるので、それがグラフに出ている。

低発熱に進化したRyzen 9000の方向性には大賛成現行マザーでも問題なく動くのであとはCPUの入手性しだい!?

 Ryzen 9 9900Xは、前世代のRyzen 9 7900Xからコア数、最大ブーストクロック、3次キャッシュ量は据え置きながら、多くの改良によって性能向上を実現。特にシングルスレッド性能は大きくアップしている。それでいながら、CPUダイの微細化(5nm→4nm)などによって発熱は大きく下がっており、消費電力、発熱をガンガン増やしての性能向上を果たしてきた昨今のハイエンドCPUに一石を投じる進化と言えるのではないだろうか。

 マザーボードに目を向けてみると、冒頭にも述べたとおり、CPUは世代交代したものの新チップセットはもうしばらく先で、現時点では現行のAM5環境がそのまま利用できる。登場当初はマザーボード価格が高いと言われることが多かったAM5環境だが、実売価格は下がってきている。このあたりはプラットフォーム寿命が長いRyzenの面目躍如だ。

初値は実売8万円前後だったMPG X670E CARBON WIFIだが、発売から2年近くが経過した結果、安いときには5万円前後とだいぶお求めやすくなった

 今回テストに利用したMPG X670E CARBON WIFIも発売時から2万円以上も下がり、実用ではRyzen 9 9900Xを電力リミットでビタッと安定動作できるなど性能面は文句なし。準ハイエンドマザーながら、ロングセラーになったことでコスパも着々と向上。新世代ハイエンドCPUが登場した今このタイミングでAM5でハイエンド環境を作りたいと思っているなら、注目しておきたい存在だ。