【 2008年6月21日号 】
どこまでできる?
格安Atomマザー「D945GCLF」の実力レポート
          (ファーストインプレッション編)
Text by 橋本 新義


●D945GCLF。大きさはMini-ITXマザー標準の17cm角だ


●新しい・小さい・そして安いの3拍子(?)で、売り切れ続出中だ

 
 この6月のアキバパーツショップ店頭で注目の製品となっているのが、IntelのMini-ITXマザーボードである「D945GCLF」だ。Intelの新型CPUであるコードネーム「Diamondville」(ダイアモンドビル)こと、Atom 230が搭載された製品である。

 Intelの新型(それもモデルチェンジではなく、新シリーズである)CPUであることから、ただでさえ技術的に注目されていた点に加え、さらに実売価格が8,000円からと、Mini-ITXマザーボード全体としても最安価クラスとなることもあり、発売と同時に一気に大注目されるアイテムに化けた。

 さらに入荷数が非常に少ない(初期出荷は国内全体でわずか100枚前後との噂もあった)ことから、入荷に成功したショップではいわゆる“蒸発”状態(=瞬殺より速い売り切れ)となった。現在でも品薄状態は続いており、ほぼ入荷即品切れといっても過言ではない。

 しかしこのAtomは、本誌読者でも「まだ実力がよくわからない」という方が多いのではないだろうか? ベンチマークなどは、すでに僚誌PC WatchのMSI WIND PCレポート(1.33GHz動作のAtomを搭載)をはじめ、いくつかがネット上で発表されているのだが、いわゆる「実際に使ってみた」レポートはあまり多くは出ていないためだ。

 そこで今回は、主に製品としての特徴や面白さと、実際の使用感を中心に、楽しさ重視で(?)レポートしたい。ただし、その性質上、速いか遅いかといった点に関しては、どうしても主観的なスタンスが多くなる点はご了承いただきたい。

 なお、今回は動作音やBIOS設定などを中心としたファーストインプレッション編とさせていただき、次回掲載予定の後編ではゲームや地デジ視聴など、様々な状況下での使用感をお伝えする予定だ。


 
Intel純正なれど、意外と謎の多い製品
実は最近まで、CPUの正式名称も不明だった?



●DX38BTに付属するメッセージカード。意訳すると「初心者は(立ち入りに)気をつけろ。さもなくばやられるぞ」 (6/19) 意訳内容を一部変更しました。


●CPUのヒートシンクは31mm角×厚さ12mm。2008年のPC向けCPUとは思えない小ささだ

 まずは、D945GCLFの製品としての特徴を、本誌読者向けのところから紹介しよう。

 実はIntel純正マザーは、(一般的なイメージとは異なり)実際に使ってみると、細かい仕様やBIOS設定などで意外と謎が多く、また付属品もファンキーなもの(ゲーマー用マザーである「DX38BT」などは、立ち入り禁止主張用ドアノブ用メッセージカードなどがある)があったりと、突っ込んでみるとかなり“楽しめる”製品が多い。

 こうした点は本機にもあり、実は最近まで、本機はCPU名称からして若干の謎があった。「Atom N230」と「Atom 230」という2つの名称で呼ばれていたためだ。正式名称は(Nのつかない)Atom 230なのだが、Intelの資料やWebサイトなどにおいて、最近までは「Atom N230」という名称が使われていたのである。

 また本機の紹介ページや外箱では、「Integrated Intel Atom processor with a 533 MHz system bus」としか記載されていないため、一時的にCPU名がどちらかわからず、混乱が生じてしまった……というわけだ。

 なお、新しい資料や「Processor Spec Finder」での表記は、正式名称の「Atom 230」となっている。

 製品レベルで見たこのCPUの特徴は、TDP4Wという低消費電力・低発熱を活かし、ファンレスで冷却をおこなっている点と、マザーボード上に直接はんだ付けされている(=基本的にCPU交換が不能)という点だ。

 ファンレスといっても並ではなく、ヒートシンクはアルミ製の単純な構造で、大きさも主力チップセットに装着されたものより小さいほど。いくら4Wといえど、「これで大丈夫なの?」と思ってしまうが、ケースに入れない(いわゆるバラックの)状態では、高い負荷を掛けてもまったく問題ない程度だった。


 
注目(?)のチップセットファン
動作音は果たして小さいか?


●945GCに搭載された4cmファン。静音性という点では若干残念な感じだ


●BIOSにはSystem Fan Controlという項目があるが、これはケースファン用である

 チップセットは、Intel 945GC(+ICH7)を搭載する。945GCはDiamondville版Atomにおけるリファレンス的なチップセットで、Windows VistaでのAero Glass表示に対応したGPUを内蔵しつつ、価格が安価なことから低価格なMicroATXマザーなどでも搭載機種が多い。今後登場するAtom搭載マザーボードは、他社製を含めて(現在のところは)ほぼすべてがこの組み合わせを採用する予定だ。

 問題は、このチップセットファンの騒音だ。購入者のレポートなどを見ていると、「結構音が目立つ」という意見と「意外と静か」とという意見が混在しているが、実際に使ってみて納得した。

 全体的な音量はそれほど大きくはないのだが、4cm角と小口径で、また回転速度が4,800rpm前後と速いため、動作音の周波数が比較的高く、いわゆる耳につくタイプの音であるためだ。このタイプの動作音は人により気になりやすさが大きく異なるため、評価が分かれているのだろう。

 また、Mini-ITXケースは多くの機種がコンパクトで、騒音・振動対策がATXケースに比べて弱いことも影響していると思われる。ケースの中に入れていても、気になるユーザーにとっては、意外と動作音が目立ちそうだ。
 ただし個人的には、静かな部屋でも、30cmほど離れればあまり気にならない程度と感じた。

 さて、本機のBIOS上には、「System Fan Control」という項目がある。デフォルトでは「Automatic」となっており、これを「Disbled」にすると、「Fan Speed」というサブ項目が表示される。こちらは50%から100%まで、10%刻みの項目が表示される。

 これはどうみてもファンコントロール機能の動作なので、筆者は当初、「あ、チップセットのファンが制御可能なのか」と思っていた。

 しかしBIOSのハードウェアモニター画面を見つつ、設定をいろいろ変えていたところ、どう変えても回転数が変化しない。そこで詳細にハードウェアモニター画面を見たところ、なんとチップセットファンは「MCH Fan Speed」と表記されており、System Fan Speedという項目が別に存在している。

 ここでお気づきの読者も多いだろう。つまりSystem Fan Controlの設定は、なんとケースファン用なのだ(笑)。

 ただし、本機のチップセットファンのコネクタは汎用3ピンなので、保証外・自己責任での運用となる覚悟があれば、ケースファン用コネクタに差し替えることが可能だ。この状態で回転数を最低設定(50%)に設定したところ、4,000rpm前後まで回転数が低減されることが確認できた(ちなみに100%ではデフォルトの4,800rpm前後)。わずか800rpmだが、ファンの動作音量は意外と下がるという印象を受けた。

 さらにやる気があれば、ファンの交換や、汎用のファンコントローラによる制御などでの、定番の静音化対策もできる。


 
メモリ設定やLANチップには
若干のクセあり?


●BIOSのメモリ設定項目は一通り揃っているが、今回はメモリクロック設定が不可能だった


●Vista SP1インストール直後、デバイスマネージャでLANチップを見たところ。Vistaでは珍しい? ドライバのエラーが出てしまう

 もう一つ、BIOSレベルで本機に触れていて気になった点は、現行のBIOSでは、メモリクロックの設定に若干のクセがあることだ。

 本機の対応メモリクロックの最高速は667MHzであるが、現在主流となっているDDR2-800メモリを本機で使用すると、なんと自動設定では533MHz動作となってしまう。

 この原因は、実はメモリ(DIMM)側のSPDに書き込まれた情報の問題だ。一般的なDDR2-800メモリでは、SPD情報が定格(800MHz)と533MHz相当の2種類しかない。そのため800MHzでは動作しない本機に装着すると、強制的に533MHz動作になってしまうというワケなのである。

 となると、メモリクロック(とアクセスタイミング)を手動設定すれば大丈夫だろう……ということになる。本機でも、これらの手動設定項目はBIOSに存在しているのだが、実は現在のBIOSでは、メモリクロックを手動で667MHzに設定すると、BIOSが起動しなくなるという症状が発生するのだ(復旧には、マザーボード上のジャンパを「Recovery」モードにして再起動する必要がある)。

 つまり現在のBIOSでは、実質的に手動設定が不可能(=SPDによる自動設定のみ)になってしまい、またメモリクロック667MHz動作のためには、DDR2-667メモリを新規に購入する必要があるというワケだ。

 ちなみに、筆者手持ちのCorsair社製「CM2X1024-5400C4」(SPDに675MHzでの動作仕様が記載された変わり種メモリである)でも533MHz動作となってしまったので、きっちり667MHzでなければダメのようである。

  DDR2の667MHzと533MHzの性能差はほぼないと思われるし、また、特定のメモリが完全に動作しないといった性質のものではないが、こうした動作のクセはユーザーレポートなどでも伝えられているため、今回使用した固体の問題というわけではなさそうだ。

 また、今回の試用では、こうした理由のため、メモリクロックを533MHzに設定している点を注記しておきたい。

 また、オンボードのLANチップ(RealTek社の「RTL8102EL」)にも少々クセがあり、Windows Vista SP1では標準ドライバ(同社のRTL8101ファミリ用)がインストールされるものの、別途専用ドライバを入れないと動作しないためだ。

 最近のLANチップでVistaの標準ドライバが使えないのは比較的珍しいので、Vistaで使おうと考えているユーザーは、OSインストール後にLANが接続できなくても慌てずに(筆者は見事に慌てた)、きっちりとCDなどからのドライバインストールを忘れないようにしたい。

□D945GCLF(Intel)
http://support.intel.com/products/motherboard/d945gclf/

□関連記事
【2008年6月7日】Atomマザーが発売に、Intel製/Mini-ITXで8千円
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20080607/etc_atomcpu.html
【2008年6月7日】Atomマザーで地デジデモ、SD解像度で視聴可能
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20080607/etc_atomcpu2.html
【2008年5月19日】MSIのAtom搭載ミニPC「WIND PC」速報レビュー(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0519/msi2.htm

 (Intel D945GCLF)

※特記無き価格データは税込み価格(税率=5%)です。
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