|
(別ウィンドウで開きます) |
|
最近、ノートPCの買い換えに異変が生じている。
ほんの3年ほど前はノートPCを買い換える際、より高性能なものか、よりコンパクトでモバイル性の高いものを選ぶのが一般的だった。ところが最近、ノートPCを買い替える際に「ノートPCか、それともネットブックか?」で悩むユーザが増えているらしい。理由は簡単、価格差である。
最新のモバイルノートPCは価格に幅が出てきたと言っても、Core 2 Duoクラスを搭載していれば20万円前後はする。ところがネットブックなら高いモバイル性を確保しつつ、5万円前後で購入できるのだ。20万円と5万円、この価格差に迷うのは、ごく自然な流れと言えるだろう。
そこで「モバイル用途のノートPCを買い替える際、ネットブックを選ぶのは“あり"なのか?」を、リアルに考察してみた。果たして数年前の高性能ノートPCは、ネットブックでリプレースできるのだろうか?
| もしVAIO type Tを買っていなかったら・・・ |
筆者が5年前に購入したVAIO type S。現在はVAIO type Tを利用中だ。 |
ソニーのVAIO type S(Pentium Mモデル、VGN-S70B)を私が購入したのは、確か2004年の6月だったと記憶している。
今から約5年ほど前の話だが、それまで愛用していたバイオノートZのサイズが重荷になってきた時、発売されたばかりのVAIO type Sへと買い替えたのだ。VAIO type Sの液晶は13.3型、バイオノートZの液晶は14.4型、大きな違いはないのだが、一回り小さくなったサイズに満足した。
実際、VAIO type S以降、買い替えのペースはガクンと落ちた。VAIO type Sに満足してしまい、買い替える気が起きなかったためだ。それまで職業柄というか趣味というか、モバイルノートPCを1~2年ごとに買い替えていたのだが、VAIO type S以降の買い替えは約1年前のVAIO type T(VGN-TZ72B)である。CPU的に見るとPentium MからCore 2 Duoへ乗り換えた訳だが、サイズや重量はグッと小さくなった。約4年ぶりのモバイルノートPC買い替えは、さらにモバイル性を重視したものだったのだ。
ちなみにVAIO type Tの発売は、2008年2月頃である。そしてその頃、ASUSTeKのネットブック、7型液晶を搭載したEee PCが日本国内で姿を見せつつあった。ご存じのようにEee PCが発表されたのは2007年のCOMPUTEX TAIPEIであり、すでに一部のヘビーユーザは海外版を入手して活用していた。もちろん私も気になる存在としてマークしていたのだが、仕事で使うモバイルノートPCとは見ていなかった。
だが仮に、もう少し早くEee PCが日本国内で発売されたいたら、私もVAIO type Tではなくそちらを選んでいた可能性がある。というより「買い替え」を少し延期して、ネットブックがどのように進化し、市場に受け入れられるかを見守っていた可能性がある。そう、実のところモバイルノートPCとしてVAIO type Sに「大きな不満」は感じていなかったので、まだ気持ち的に余裕があったからだ。
また、VAIO type Sの後継機としてVAIO type Tを選んだことからも分かる通り、私は買い替え機種に「より小さく、軽く」を求めていた。ならばネットブックも立派な候補となった訳だ。さらにネットブックは日本国内でも市場に受け入れられ、より使いやすく進化し続けている。
VAIO type Sの買い替えをもう少し伸ばし、5年目にして最新ネットブックに買い替えるというというのも、十分あり得た話なのだ。
そしてこれこそ、今回の本題である。
| 5年前のモバイルノートをネットブックに 買い換えるのはアリなのか? |
本稿でネットブック代表とした「Eee PC1000H-X」(左)と5年前のモバイルノート代表とした「VAIO type S」(右)。 |
もう少し具体的には、「5年ぐらい前に買ったモバイルノートPCを、最新ネットブックに買い替えた場合、ユーザは“幸せ”になれるのか?」ということである。
モバイルノートPCと言えば、スタンダードなものでも15万円以上、20万円前後はするだろう。一方のネットブックは、5万円前後が主流である。コストという点から見れば、ネットブックは圧倒的に優位だ。
しかし、パフォーマンスという点ではどうだろう?
モバイルノートPCのCPUは低電圧のCore 2 Duoが主流であり、液晶パネルも高解像のものが多い。メモリだって4Gバイト程度を搭載でき、Windows Vistaに対しても十分な容量となっている。一方のネットブックはCPUはAtomが主流で、液晶パネルは10型前後、メモリを1Gバイト搭載し、Windows XP HomeをOSとしている。
両者の最新モデルを比較すると、「価格も性能も明らかに異なるのだから、用途で選べばいい」という至極真っ当な結論に至るだけだ。だが、ここで取り上げるモバイルノートPCは5年前のもので、さらに「買い替える場合」と状況を絞り込むと、俄然話が面白くなってくる。果たして5年前のモバイルノートPCからネットブックへの買い替えは、ユーザを“幸せ”にするのか?
なお、ここでは具体的なデータを示したいので、「5年前のモバイルノートPC」代表を筆者のSonyのVAIO type S、「最新ネットブック」代表をASUSTeKのEee PC 1000H-Xに設定してパフォーマンスなどを比較する。まずは両者のカタログスペックに目を通していただき、その上で「買い替え視点」から両者を比較していこう。
●両者のカタログスペック(抜粋)
|
Sony VAIO type S(VGN-S70B) |
ASUSTeK Eee PC 1000H-X |
CPU: |
Intel Pentium M 1.50GHz |
Intel Atom N270 1.6GHz |
FSB: |
400MHz |
533MHz |
メモリ: |
標準256MB(DDR SDRAM) |
標準1GB |
チップセット: |
Intel 855PM |
Intel 945GSE/ICH7M |
VGA: |
ATI MOBILITY RADEON 9200(32MB) |
チップセット内蔵 |
液晶: |
13.3型WXGA(1,280×800ドット) |
10.2型WSVGA(1,024×600ドット) |
HDD: |
標準40GB(Ultra ATA/100) |
160GB(2.5インチ/SATA/5,400rpm) |
光学ドライブ: |
DVD-RWドライブ |
- |
I/O: |
USB2.0×2、IEEE1394×1、Ethernet(100BASE-TX/10BASE-T)×1、ステレオヘッドホン出力(ステレオミニジャック)×1 、マイク入力(モノラルミニジャック)×1 、外部ディスプレイ出力(VGAタイプ、D-sub 15ピン)×1 、モデム用モジュラージャック×1 、ポートリプリケーターコネクター×1 |
USB2.0×3、Ethernet(100BASE-TX/10BASE-T)×1、ヘッドホン×1 、マイク×1 、外部ディスプレイ出力(VGAタイプ、D-sub 15ピン)×1 |
Webカメラ: |
- |
130万画素 |
ワイヤレス: |
IEEE802.11b/g、Bluetooth |
IEEE 802.11b/g/n(ドラフト準拠)、Bluetooth 2.0+EDR |
メモリカードスロット: |
メモリースティックPRO対応 |
SDHCメモリーカード、SDメモリーカード、マルチメディアカード |
PCカード対応: |
Type II×1、CardBus対応 |
- |
バッテリ駆動時間: |
約5.5時間(バッテリーパックS) |
約6.9時間 |
外形寸法: |
幅312.5mm×高さ35.4mm×奥行229.4mm |
幅266mm×高さ38mm×奥行き191.2mm |
重量: |
約1.89kg |
約1.45kg |
OS: |
Windows XP Home Edition(Service Pack 1a) |
Windows XP Home Edition(Service Pack 3) |
・「外形寸法」は最大値。 ・比較に使用するVAIO type Sはメモリを512MB増設して計768MBに、HDDは80GBの同等スペック品を搭載。
|
VAIO type SからEee PC 1000H-Xへと買い替える際、比較の基本となるのは、やはりCPUパフォーマンスだろう。5年前のPentium Mと、その血統を受け継ぐAtomとのパフォーマンス差は、どれぐらいあるのだろうか?
まずはスペックを把握して欲しい。
|
Sony VAIO type S(VGN-S70B) |
ASUSTeK Eee PC 1000H-X |
|
Intel Pentium M 1.50GHz |
Intel Atom N270 1.6GHz |
FSB: |
400MHz |
533MHz |
L2キャッシュ: |
1MB |
512KB |
TDP: |
24.5W |
2.5W |
こうして見ると両者で大きく異なるのはTDP、もちろんその他のスペックも微妙に異なっていることが分かる。
微妙に異なるということは、逆に言えば結構近いということでもある。Pentium Mの方が動作周波数とFSBはやや遅いものの、CPUパフォーマンスのポイントとなるL2キャッシュはAtomの2倍搭載している。一方、モバイル系のノートPCでバッテリ駆動を重要視するなら、TDPが低いAtomのメリットは大きい(理論上の話だが)。
では実際にパフォーマンスを比較してみると、どうなるだろうか?
●Crystal Mark 2004R3によるベンチマーク
ベンチマークの結果を見る限り、動作周波数とFSBが若干劣っていても、L2キャッシュの効果があるためか、Pentium Mの方が速いという結果になっている。だが、Atomと大きな差は無いため、実際にはCPU以外のパフォーマンスによって、体感スピードが左右されているようだ。要するに一般的な用途、インターネットの利用やテキストエディット程度では、Eee PC 1000H-Xの方が速く感じられるのだ。
|
Sony VAIO type S(VGN-S70B) |
ASUSTeK Eee PC 1000H-X |
|
|
|
CPU関連の値「ALU」は周波数通りの結果で、わずかにEee PC 1000H-Xの方が上回る。しかし「FPU」はL2キャッシュの多いVAIO type Sが上回っている。 総合値である「Mark」はVAIO type Sの方が上だが、それは3Dグラフィックの値である「GDI」と「OGL」のお陰だ。5年前の製品といっても、独立したGPUはやっぱりパワフル。
|
●Cleaner XL試用版によるムービーエンコードテスト
ベンチマークだけではなんなので、CPUを含めた処理パワーを実感できるテストも行ってみた。ムービーデータのエンコードがそれだ。Aotodesk社のCleaner XL試用版を使い、1分間のavi形式ムービー(217MB)を、wmv形式(WM9、NTSC、4x3、1M)へとエンコードし、開始から終了までの時間を計測してみた。CPUに負担のかかるヘビーな処理だが、その結果は次のようになった。
|
Sony VAIO type S(VGN-S70B) |
ASUSTeK Eee PC 1000H-X |
|
7分43秒 |
7分55秒 |
ほぼ同じレベルだが、わずかにVAIO type Sの方が速い。 やはりL2キャッシュのサイズが影響しているようだ。だが、忘れないで欲しいのはVAIO type SがPentium M、Eee PC 1000H-XがAtomという点である。5年前の高性能モバイルCPUと、最新低価格モバイルCPUの闘いという訳だ。 |
意外と善戦するAtomという見方もできるが、せっかく買い替えるのだから、CPUのパワーアップも体感したいという人には残念な結果だ。
しかし、さきほども書いたが、ノートPCのパフォーマンスは決してCPUだけで決まるものではない。それは次項のHDDパフォーマンスの比較を見て頂ければ分かる。
HDDは精密機械であり、機械はいつか必ず壊れる。問題はいつ壊れるか、どのように壊れるか、誰にも分からない点にある。
実際、1年ほどで不調になるHDDもあれば、10年経っても平気で動いているHDDもある。ただ、過酷な環境にさらされているHDDは、安定した環境で使われているHDDより、壊れやすい「はず」だ。その代表格がモバイルノートPCに内蔵されているHDDと思うのだが。
もっとも購入してから5年経過しているVAIO type SのHDDは、何のトラブルもなく正常に稼働している。また、トラブルの予兆もない。しかし、買い替えという視点で見れば、新しいストレージに魅力を感じるのも確かだ。データ転送のスピードは確実に5年で向上しているだろうし、省電力や静音性の向上にも期待できる。さらにネットブックには、標準でSSDを搭載しているものもあるのだ。
そもそもVAIO type SのHDDは、2.5インチのParallel ATAタイプであり、回転数は4,200rpm、データ転送モードもUltra DMA/100となっている。驚くほど古いという訳でも無いが、Serial ATAやSSDに魅力を感じるのも当然だろう。あるいは買い替えを控えて、Parallel ATAタイプのSSDに換装し、延命策を図るか・・・。
一方、Eee PC 1000H-XのHDDは2.5インチのSerial ATAタイプ、5,400rpmでデータ転送モードはSATA/150となっている。こちらの方がベンチマークでいい結果を出すのは当たり前だし、VAIO type SのHDDよりも速いことをリアルに体感できる。そもそも起動時間からして違う。容量が2倍になっていることも忘れてならないポイントだろう。
問題はこのHDDの違いが、買い替えのポイントとなるかどうかだ。ここでは参考データとして、ASUSTeKのネットブック、Eee PC S101も参加させてみた。というのもこのEee PC S101、16GBのSSDを搭載しているからである。ベンチマーク結果からはSSDの省電力と静音性、そしてデータ書き込みスピードがEee PC 1000H-Xの2.5インチHDDより劣ることが分かる。それでもVAIO type Sと比較すれば、二階級特進なのだが・・・。
|
Sony VAIO type S(VGN-S70B) |
ASUSTeK Eee PC 1000H-X |
ASUSTeK Eee PC S101 |
タイプ: |
Parallel ATA 2.5" 80GB |
Serial ATA 2.5" 160GB |
Serial ATA 16GB(SSD) |
回転数: |
4,200rpm |
5,400rpm |
- |
I/F速度: |
Ultra DMA/100 |
SATA/150 |
SATA/300 |
|
|
|
|
さて、VAIO type SとEee PC 1000H-Xのパフォーマンスを比較すると、大きな差は無いと書いた。しかし、起動時間や一般的なアプリケーションの挙動を見ると、明らかにEee PC 1000H-Xの方が高速で快適なのである。グラフィック的に重い処理をしている訳では無いのだから、このスピードに大きく影響しているのはHDDということになる(メモリを無視している訳では無い、念のため)。
果たしてこのHDDによるパフォーマンスアップを、買い替えの決め手にするか、しないか。ちなみにネットブックではなく、最新モバイルノートPCを買い替え対象とする場合も、HDDはパフォーマンスに大きな影響を与えることを忘れないようにしよう。
□関連記事
【2009年3月20日】旧式ノート→ネットブックの乗り換えは幸せか?(後編)
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20090320/sp_netbookv2.html