【 2009年3月20日号 】
旧式ノート→ネットブックの乗り換えは幸せか?(後編)
Text by 高橋 敏也
- Watch Videoで連動動画も公開中 -
(先週と同じ動画です)
起動速度や動画再生/エンコードを高橋節で解説。
(別ウィンドウで開きます)
 「旧式モバイルノート→ネットブックの買い替えは“あり"なのか?」を考察するこのレビュー。前編では、スペックとCPU/HDDの実速度を比較した。

 今回の後編では、続いてバッテリーやグラフィック、その他ハードウェアを比較していく。

 なお、Video Watchでは動画で比較できる連動コンテンツも先週から公開中だ。

(編集部)


 
バッテリ駆動をテストする

 モバイルユーザにとって、ノートPCにしろネットブックにしろ、バッテリ駆動時間は大変重要なスペックである。もちろん長ければ長いほどいいとは思うが、バッテリが巨大化して重量増加というのも困る。何事もバランスということだ。

 さてそんなバッテリだが、5年前のノートPCでも、最新のネットブックでも、搭載されているのはリチウムイオンタイプである。繰り返し充放電するうちに性能は低下し、やがて寿命が来る。性能の低下はバッテリ駆動時間の低下として、分かりやすく示される。もちろん5年間使い続けたVAIO type Sのバッテリは、相当にへたっているはずだ。

 ちなみにSonyのノートPCは、バッテリによる長時間稼働で高い評価を得ている。省電力モードでバッテリを気にしながら使えば、カタログスペックに近い稼働時間が得られるのだ。一方、ASUSTeKのネットブックもバッテリ稼働時間がカタログスペックに近いことは有名だ。VAIO type Sにしろ、Eee PC 1000H-Xにしろ、省電力モードならかなり長時間、バッテリで稼働させられるのである。


メモリメディア上のムービー再生で稼働時間をチェック(VAIO type SはUSBメモリ、Eee PC 1000H-XはSDHCを利用)
 だが、VAIO type Sは5年前のモバイルノートPCだ。果たしてどこまでバッテリの劣化が進んでいるか、是非とも知りたいところである。そこで興味深い実験を行ってみた。DVDムービーをリッピングし、それをメモリメディアにコピー、連続再生してバッテリ駆動の時間を計測したのである。

 ご存じのようにDVDムービーの再生ぐらいなら、CPUなどにそう大きな負荷がかからない。また、メモリメディア上のデータを再生したので、ハードディスクへのアクセスも少なくなっている。のんびり仕事をしている状況の、ちょうどいいシミュレーションになると考えたのだ。また、出張の際などに空いた時間でDVDムービーを再生するというのは、よくある話だとも考えた。

 電力設定を「ポータブル/ラップトップ」にし、液晶輝度を50パーセント、スピーカーをOFF、無線LANをONにして、フル充電の状態からムービー再生を開始する。ちなみにEee PC 1000H-Xは16GバイトのSDHCカード上のデータを、VAIO type Sは16GバイトのUSBメモリ上のデータを再生している。


  Sony VAIO type S(VGN-S70B) ASUSTeK Eee PC 1000H-X
バッテリー: リチウムイオン 11.1V 4800mAh リチウムイオン 7.4V 6600mAh
駆動時間
(カタログスペック):
約5.5時間
(JEITA Ver.1.0準拠、省電力モード時)
約6.9時間
(JEITA Ver1.0準拠、モード不明)
稼働時間: 2時間17分
(5年間使用したバッテリーで計測)
3時間48分
(レビューなどで数回使ったバッテリーで計測)

 再生中のムービーはクオリティも良く、コマ落ちなどのトラブルは無かった。ちなみにムービーを再生中、バッテリが残り少なくなると、どちらも休止状態に入る(その前に警告メッセージが表示される)。上記の時間は休止状態に入るまでの時間を計測したものだが、VAIO type Sの稼働時間は購入直後と比較して、明らかに短くなっている。購入直後にも同じような実験を行ってみたが、3時間は保ったはずだ。

 一方、Eee PC 1000H-Xの方は立派な数字だと思う。ムービーを4時間弱再生できるとなれば、200分の超大作映画「ドクトル・ジバゴ」をバッテリ駆動だけで鑑賞できる。付属ユーティリティなどを駆使して、省電力を徹底すればカタログスペックの稼働時間をクリアすることも夢ではないだろう。

 さらに買い替えという点で重要なのは、VAIO type Sの場合、バッテリパックを入手するのも難しくなりつつあるということだ。一方、Eee PC 1000H-Xなら純正も含めて、新しいバッテリパックを容易に入手できる。こうした点は最新機種と5年前の機種の間にある、決定的な違いだろう。


●5年間のスペック進化も


5年間でメモリーカードの規格も進化。
Eee PC 1000H-XはSDHCにも対応している。
 なお余談だが、本稿のテストを行った際、最新ネットブックと5年前のモバイルノートPCの、ちょっとした違いに気がついた。

 そう、VAIO type Sはメモリスティック対応のカードリーダーしか搭載しておらず、しかも4Gバイトまでしか認識できなかったのだ。一方、Eee PC 1000H-Xの方は16GバイトのSDHCカードを、何の問題も無く読み書きできた。

 筆者がVAIO type Sの後、今から1年前に購入したVAIO type Tは大容量メモリスティックDuoだけでなく、SDHC対応のカードリーダーも搭載している。VAIO type Sが5年前の製品であることを考えれば、別に不思議もないが、現在のメモリカード環境と併せて考えると気になる点ではある。もっともこれだけで買い替えという話にはならないだろうが。


 余談ついでに動画サイトのムービー再生もテストしてみたが、基本的な再生においては、ニコニコ動画、YouTube共にまったく問題なく再生できた。ネットワーク接続はVAIO type S、Eee PC 1000H-X共に無線LANの802.11gを使用した。

 YouTubeに関してはHDムービーを積極的に再生してみたが、ハードウェアに依存するようなストレスは見られなかった。なお、ニコニコ動画では、多数のコメントが一斉に表示される「弾幕」が現れる場合があるが、Eee PC 1000Hではこうした際、コマ落ちすることもあるようだ。


 
グラフィックパフォーマンスに要注意!

 モバイルノートPCとネットブックで、大きく異なる点はどこか? 大ざっぱに言ってしまうと、ネットブックの性能は制限されているということだ。

 将来、ネットブックのスペックがどうなるかは別として、現時点で5万円前後のネットブックはAtomとIntel 945GSE/ICH7Mの組み合わせが、一般的だと言っていいだろう。そしてもちろん、グラフィック機能はチップセット内蔵のものとなる。

 モバイルノートPCからネットブックに買い替えようとした場合、筆者は個人的にこの部分が一番問題になるような気がした。というのも5年前のVAIO type Sですら、グラフィック機能はATIのMOBILITY RADEON 9200で提供されているのだ。945GSE内蔵のグラフィック機能は、コスト面から考えれば当たり前の話なのだが「質素」である。2Dグラフィックになんら不満は感じないが、3Dグラフィックとなると「申し訳」程度のものだと思った方がいい。

 まず「FINAL FANTASY XI for Windowsオフィシャルベンチマークソフト3」による、パフォーマンスチェックの結果を見て欲しい。

  Sony VAIO type S(VGN-S70B) ASUSTeK Eee PC 1000H-X
3,273(低解像度) 1,131(低解像度)

 Eee PC 1000H-Xでは「なんとか耐えられる」程度のパフォーマンスしか得られず、実際に3Dグラフィックを多用するゲームをプレイしたなら、かなりのストレスを感じるはずだ。一方、VAIO type Sに関しては「こんなものかな」と我慢できる範疇のパフォーマンスが提供されている。やはり独立GPUのパワーは侮れないということだ。

 もちろん最新のモバイルノートPCから、グラフィックに強いものを選べば、VAIO type S以上のパフォーマンスが得られるだろう。そしてそのパフォーマンスは、ネットブックでは残念ながら得られないものなのである。もしあなたが「3Dグラフィックのパフォーマンス向上に配慮した買い替え」を考えるなら、ネットブックは対象外ということになる。

●バッテリ駆動時間では興味深い傾向も

 他方、グラフィックのベンチを計測していて、興味深いデータも得ることができた。

 パフォーマンスをチェックするのと同時に、ベンチマークソフトをループに設定して、「グラフィック負荷が高い際のバッテリ駆動時間」も計測してみたのである。その結果がこれだ。

  Sony VAIO type S(VGN-S70B) ASUSTeK Eee PC 1000H-X
稼働時間: 1時間29分
(5年間使用したバッテリーで計測)
3時間34分
(レビューなどで数回使ったバッテリーで計測)
バッテリフル充電の状態から、「FINAL FANTASY XI for Windowsオフィシャルベンチマークソフト3」を低解像度、ループで走らせ、休止状態になるまでの時間。電源設定は「ポータブル/ラップトップ」、スピーカーOFF、液晶起動は50パーセント、無線LANはON。

 GPUに負荷がかかったためか、VAIO type Sの方はムービー再生時よりも、バッテリ駆動時間が短くなった。一方、Eee PC 1000H-Xの方は少し短くなっただけである。ある意味、ネットブックが搭載するチップセット内蔵のグラフィック機能は、バッテリに優しいと言えるのではないだろうか。もちろんその分、パフォーマンスも低い訳だが。

 ネットブックにとって3Dグラフィックのパフォーマンスは、大きなウィークポイントである。だが、モバイル環境でそれを気にするユーザがどれだけいるか? また、モバイル環境で本当に「十分な3Dグラフィックパフォーマンス」を必要とするか? この点は買い替えという視点からも、非常に興味深いと思う。

 
その他の比較、ポイントは液晶のサイズか?


液晶サイズの比較。実際に使ってみると、Eee PC 1000H-Xのデスクトップサイズには不満を感じる。しかし、両者のボディサイズを比較すると「仕方がない」と納得してしまう。
 パフォーマンスだけでなく、モバイルノートPCとネットブックには比較すべきポイントが大量にある。例えば液晶のサイズなどは、真っ先に比較すべきポイントかも知れない。

 VAIO type Sは13.3型液晶を搭載し、モバイルと呼ぶには大きい方のギリギリと言えるかも知れない。モバイルなら12型以下ぐらいが、ちょうどいいように思えるからだ。

 一方のEee PC 1000H-Xは10.2型、モバイルには絶好のサイズだ。しかし、実際に使ってみるとすぐに分かるが、パネルの縦方向が600ドットというのは正直狭く感じる。とくにVAIO type Sの13.3型と比較してしまうと、全体的に狭いという印象をぬぐえなくなる。


  Sony VAIO type S(VGN-S70B) ASUSTeK Eee PC 1000H-X
13.3型 1,280×800ドット 10.2型 1,024×600ドット
※画面写真はピクセル数比較用。液晶サイズの比率とは異なる。


VAIO type Sのバックライトは5年間でやや劣化。「明るさ」という点では新品のEee PC 1000H-Xに軍配が上がる。
 両者の比較という点では、忘れてならないのが、VAIO type Sの液晶は5年前のものということだ。

 さすがSonyの液晶と言うべきなのか、発色などの劣化はあまり感じないが、バックライトの劣化は否めない。最大輝度に設定しても、どこか暗いような印象を受ける。

 Eee PC 1000H-Xの方は新品だけあって、逆に普段は輝度を落とさないと落ち着かないぐらいだ。


VAIO type Sが内蔵する光学ドライブ。光学ドライブ内蔵のネットブックはほとんど無い。
 このほか忘れてはいけないのが、VAIO type SとEee PC 1000H-Xの間にある決定的な違い、すなわち光学ドライブの有無だ。

 これに関しては意見の分かれるところだと思うが、筆書ははっきり言ってモバイル環境に光学ドライブは不要だと、VAIO type Sを使い続けてきた5年の間に確信した。

 とくに最近では安価なメモリメディアがある訳だし、OSやアプリケーションのインストールというなら、外付けドライブを活用すればいいのである。光学ドライブの有無が、買い替えの壁になるとは思えない。


【本体サイズとキーボード】

Sony VAIO type S(VGN-S70B) ASUSTeK Eee PC 1000H-X
どちらがモバイルにより適しているかは一目瞭然。Eee PC 1000H-Xの方が一回り小さく、440グラム軽い。そのぶんキーボードなどもコンパクトな訳だが、Eee PC 1000H-Xのキーボードが使いにくいという印象はまったく無い。
 そのほか、使い勝手に関しても、買い替えを妨げるほどの壁は見つからなかった。

 キーボードやタッチパッドに関しては、Eee PC 1000H-Xが一回り小さいボディのため、それなりに小さくなっている。

 だが、慣れてしまえば快適に使えるレベルであり、問題にするほどのことではない。

 ポート構成などで目立つのは、Eee PC 1000H-XがUSB2.0ポートを3つ(VAIO type Sは2つ)持っていることと、VAIO type SにあるPCカードスロットがEee PC 1000H-Xには無いというところだろうか。

 ただし、こういった違いが実用上の大きな問題になるとはとは思えない。


【ACアダプタのサイズにも注目】
5年前のものと比較して、ACアダプタはずいぶんコンパクトになった。VAIO type SのACアダプタは薄型で、ケーブル捌きにも配慮された素晴らしいものだったが、コンパクトなEee PC 1000H-Xの方がモバイルに適しているようだ。

 
5年前、ネットブックは存在しなかった

 5年。デスクトップPCにとって、特に自作ユーザのPCにとって5年というのは、あまりに長い期間だ。個人的な感覚で言わせてもらうと、自作デスクトップPCはアップグレードを繰り返しつつ、ほぼ2年で全てのメインパーツが入れ替わる。2~3年のサイクルで、デスクトップPCは新しくなるということだ。

 一方、メーカー製のノートPC、とくにモバイルノートPCに関しては、やや事情が異なっているように感じる。「モバイルノートが趣味」というような場合を除いて、多くのユーザがモバイルノートPCを入手し、そのサイズや性能に満足すると、かなり長期間に渡って使い続けるように思う。具体的なデータがある訳では無いのだが2年以上というのは極めて一般的で、場合によっては5年前後になることもあるのではないだろうか。ちょうど私のVAIO type Sがそうであるように。

 では本稿のテーマ、5年前のモバイルノートPCを買い替える選択肢として、ネットブックは“あり”なのか? そしてネットブックに買い替えたユーザは、“幸せ”になれるのか? このテーマに筆者は“あり”、そしてほとんどのユーザが“幸せ”になれるという結論を出す。

 まずパフォーマンスに関しては、5年前のモバイルノートPCと、最新のネットブックはほぼ同等だと思う。ただ1点、3Dグラフィックのパフォーマンスを除いては。従ってモバイルノートPCであっても3Dグラフィックにある程度のパフォーマンスが必要な人に、ネットブックへの買い替えはお勧めできない。

 「買い替えなんだから、パフォーマンスが全体的に向上しないと“幸せ”じゃない」という意見はごもっとも。VAIO type SよりもEee PC 1000H-Xの方が起動も終了も少しだけ速く、アプリケーションの起動や挙動も少しだけ速いというだけでは不足だろうか? また、それだけのパフォーマンスを持ちながら、価格が5万円前後というところに魅力を感じないだろうか?

 ちなみに保証、周辺アイテムといった、利用する上での環境も忘れてはいけないだろう。5年以上前のノートPCとなると、修理は受けられても保証期間はほとんどの場合、終了しているはずだ。また、サードパーティ製の周辺アイテムも入手は難しいし、場合によっては純正パーツですら入手困難ということも考えられる。5年間、お疲れ様でしたという気持ちで、そろそろ新しい機種に買い替えるいい時期だと思う。

 最後に身も蓋もないことを書いておきたい。

 高性能で多機能なモバイルノートPCに買い替えようと思うと、10~20万円前後の費用が必要となる。これは大変な出費なのだから、決して失敗できないと思うのは当然のことだ。だが、買い替え対象をネットブックにしたらどうだろう? 20万円前後の費用が、一気に5万円前後まで圧縮できるのだ。ポンと購入したネットブックに、何かしらの不満を感じたら、ほかのネットブックに買い替えるというのも、そう難しい話ではないような気もしたりして・・・。

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