忍者増田のレトロゲーム忍法帖

伝説の同人誌『ゼビウス1000万点への解法』の制作裏話を聞く!

~ナムコ『マッピー』対談 中編~

忍者増田氏と大堀康祐氏。

 前回に引き続き、学生時代に「うる星あんず」のペンネームでゲーム業界で活躍されていた、株式会社マトリックス代表取締役 大堀康祐氏との対談をお届けします。

 今回は『マッピー』から少し離れ、同人誌『ゼビウス1000万点への解法』の制作や、マイコンBASICマガジンに掲載されていたハイスコアランキングに関して、貴重な裏話を伺いました。当時の大堀氏のやる気に唸ること請け合いです!



大堀少年の熱意と行動力をもって完成した『ゼビウス1000万点への解法』

高校生のころから「うる星あんず」のペンネームでゲーム業界で活動、同人誌『ゼビウス1000万点への解法』を発行する。マイコンBASICマガジンの別冊付録でも、『マッピー』や『ゼビウス』の攻略記事を担当した。その後、ゲームデバッガー、ゲームプランナーなどの職種を経験し、1994年にマトリックスを設立、代表取締役に就任。

[忍者増田](以下、忍増):同人誌、『ゼビウス1000万点への解法』制作の経緯をお聞かせください。

[大堀康祐](以下、大堀):高1~2の頃かな……、『ゼビウス』の同人誌を作りたかったんですが、勝手に作って訴えられたらイヤなんで、当時ナムコに「『ゼビウス』の同人誌を作りたいんですけど」と電話をしたんです(笑)。そしたら、営業か広報の方に取り次いでいただけまして「よかったら会社に遊びに来なさい」と言われて……。

[忍増]:自分で作ってから「これどうですか?」ではなく、最初に「作りたいんですけど」だったんですね。

[大堀]:はい。まず作りたい内容を話しに行ったんです。行くからには手ぶらじゃいけないなと思っていて、やりたい内容のメモ書きと、自分が『ゼビウス』をプレイして1,000万点を出した内容のビデオを持って行きました。ちゃんと攻略しているのを分かって欲しかったんです。

[忍増]:えっ、当時高校生ですよね。ビデオはどうやって撮られたんですか?

[大堀]:東京ニュース通信社の「ビデオコレクション」っていうビデオ雑誌があったんですけど、その編集を行っていた「翔ブラザース」という編集プロダクションさんにご協力いただきました。

[忍増]:そこにお知り合いがいたとか……?

[大堀]:そちらも知り合いがいないところに、電話をかけて訪問して、仲良くならせてもらいました。ただのイヤなガキですよね(苦笑)。ビデオ雑誌の編集部なんで、大きなビデオカメラとかあるんですが、「これ貸してほしいです」と無理なお願いをしたところ、貸せないけど、「君が勝手に撮るのはまずいから、撮ってあげるよ」と言っていただけました。そこで神田のゲームセンターに「ビデオを撮らせてほしい」と交渉して、プレイを数時間撮影して、そのビデオができあがりました。

[忍増]:すごい行動力ですね! あの同人誌ができるまでに、ビデオ雑誌に交渉して、ゲームセンターに交渉して、ナムコに交渉して……というのを、一人の高校生がやっていたというのは驚きです。話を戻しますが、そしてそのビテオを手土産にナムコを訪問したと……。

[大堀]:ビデオを持っていったら広報の方が気に入ってくださって、「子供に対して著作権云々は言わないから好きにやっていいよ」と言ってくださり、さらに開発の方も紹介してくれたんです。その時に紹介いただいたのが、『ゼビウス』の作者の遠藤雅伸さんだったというわけです。


『ゼビウス1000万点への解法』制作秘話を聞き、増田氏は大堀氏の熱意と行動力に感動。

[忍増]:そのような努力を経て、『ゼビウス1000万点への解法』が作られたのですね。ベストセラーになったときのお気持ちはどうでしたか?

[大堀]:まず、反響の多さにびっくりしましたね。「こんなにゲームが好きな人がいてくれたんだ!」とすごく嬉しかったですね。もう一つびっくりしたのは、コピーを持っている人が多かった(笑)。

[忍増]:大堀さんは、まだ現物をお持ちなのでしょうか?

[大堀]:当時地方から、「『ゼビウス』の本買いたいんですけど」と高田馬場のゲームブティックに遊びに来た方がいて、そのときに1冊だけ残しておいた初版本をあげちゃいました。だから僕、自分で作ったゼビウス本を最近まで持っていなかったんです。そしたら去年、知り合いの社長さんが「俺持ってるからあげる」とプレゼントしてくれました。嬉しかったです(笑)。たまにヤフオクで出てないか探してたんですけどね。

[忍増]:年月が流れて、大堀さんのもとに戻ってくるというのも感動的ですね。

全国のゲーセンで盛り上がったハイスコアランキングの仕掛け人?

当時からナムコファンの大堀氏だが、『マッピー』や『ゼビウス』のほかに、『クレイジークライマー』や『ドンキーコング』もやり込んだという。

[忍増]:当時、マイコンBASICマガジンで、全国のゲームセンターの「ハイスコアランキング」が掲載されていましたが、こちらは大堀さんが仕掛け人と伺いました。

[大堀]:当時、ゲーム好きな人との接点を持ちたくても持てない人が、世の中にはいっぱいいると思っていたので、各都道府県に、ゲーム好きな人が集まれるハブゲーセンを作りたかったんです。そこでハイスコア集計をやれば、人がドッと集まるじゃないですか。全国でスコアを競って、ゲーマー同士でコミュニケーションを取らせたいという願いがあったんです。そして当時の大橋編集長に「ハイスコア集計をしたい」とお願いしました。ナムコの営業所のロケーションで、各都道府県で集計できないかと。ハイスコアボードを作ってやったんですけど、サンプルが上がってきたときは嬉しかったですね。

[忍増]:そうして全国のハイスコアが、編集部に続々とファックスで送られてきて、毎号ベーマガに掲載されていたと……。当時は、ハイスコアランキングを見て、その町のゲームセンターに行くという流れがあったようですね。キャロット巣鴨店がゲーマーの中では憧れの店舗だったとか。

[大堀]:巣鴨が神格化されましたね。巣鴨は、東京のナムコのロケーションの中では大きめな店舗だったんですね。新作も導入されやすい。巣鴨と蒲田の店舗が大きかったですね。僕がホームにしていたナムコ直営店は、高田馬場のゲームブティック。でも狭かったんで、新作を見に行こうとなると、巣鴨になっちゃいましたね。


 『ゼビウス1000万点への解法』は有名ですが、ここまでの苦労があったことは知らなかった方が多いのではないでしょうか。次回は大堀氏が考える『マッピー』の魅力についてお尋ねします。お楽しみに!

 ※次回掲載は9月5日(火)を予定しています。

注釈

  1. ゼビウス1000万点への解法
    大堀氏が高校生時代に作った、『ゼビウス』の攻略が記された同人誌。約1万部を売り上げるベストセラーとなった、いまだ語り継がれる伝説の同人誌である。
  2. マイコンBASICマガジン
    1982年から2003年まで、電波新聞社が刊行していたパソコン雑誌。読者から投稿された、様々なパソコン用のプログラムが掲載されているのが特徴。当時、本誌のプログラムを打ち込んだり改造したりしながらBASICを学んだ人は多い。別冊付録「スーパーソフトマガジン」に示されるような、アーケードゲームに特化した内容もウリの一つであった。略称は「ベーマガ」だが、ベースボールマガジンやベースマガジンとは違うので注意。
  3. 遠藤雅伸
    ゲームデザイナー。1981年にナムコ入社。『ゼビウス』、『ドルアーガの塔』などを手掛ける。現在は、株式会社ゲームスタジオ相談役、日本デジタルゲーム学会理事、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授を務める。
  4. 大橋編集長
    本名、大橋太郎。1967年に電波新聞社に入社。1982年、「マイコンBASICマガジン」を創刊。現在、電波新聞社取締役。電子技術入門誌「電子工作マガジン」の編集責任者でもある。

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『マッピー』を今遊ぶには?(参考価格/価格は税込表記)
ファミコン版(中古品)400円前後
PlayStation版『ナムコミュージアム VOL.2』(中古品)1,000円前後
PSP版『ナムコミュージアム VOL.2』(中古品)6,500円前後
ゲームボーイ版『ナムコギャラリーVOL.1』(中古品)900円前後
ゲームギア版(中古品)1,000円前後
ゲームボーイアドバンス版(中古品)2,600円前後
ニンテンドーDS版『ナムコミュージアムDS』(中古品)3,300円前後
ニンテンドー3DSダウンロード版463円
Wii Uダウンロード版463円
※2017年7月調べ

増田厚(ペンネーム:忍者増田)

 茨城県生まれ。漫画『ゲームセンターあらし』や『マイコン電児ラン』の影響を受け、中学2年生のときにパソコンをいじり始める。東京の大学入学と同時に、パソコンゲーム誌『ログイン』にバイトとして採用され、6年間在籍。忍者装束を着て誌面に出る編集者として認知度が高まる。その後、家庭用ゲーム雑誌『週刊ファミ通』に3年在籍したあと、フリーライターとなる。現在はおもに、雑誌やWeb、攻略本などでゲームのレビュー記事や攻略記事を執筆しつつ、ゲーム以外のライティングも。得意なゲームは、『ポケモン』、『ウィザードリィ』、『サカつく』など。