用途とカラーで選ぶHDD再入門

PC向けの標準HDD「WD Blue」をテスト、「全HDDの3台に1台はWD Blue」

静音かつ低発熱、「1TB時代」との性能比較もしてみた text by 石川ひさよし

WD Blue

 WD Blueは、クライアントPC向けの標準HDDだ。つまり、この記事をご覧になるPCユーザーの皆さんにとって第一の選択肢である。

 実際、「(他社を含めた)日本国内で販売された全HDDの35.7%がWD Blue(BCN2016年1月~8月)」「そもそも、Western Digital製HDDの国内シェアは50.5%(同データより)」(Western Digital)だそうで、ユーザーからの支持率にも自信を持っているという。

 というわけで、Western DigitalのHDDを「色別」に紹介する当連載、まずは基本中の基本であるスタンダードHDD、WD Blueについて説明したい。

 なお、WDシリーズ全モデルの概要に関しては前回の記事を、WD RedやWD Blackをはじめとする高付加価値モデルについては次回以降の記事を参照のこと。

SSDに収まらない「大容量ゲームデータ」はHDDへゲームをたくさん遊ぶなら高コスパなHDD

オープンワールドゲームの大ヒット作「Grand Theft Auto V」。
必要とされるストレージ容量は65GBとかなり大きい。

 SSDが標準的になってきた昨今、「システムドライブはSSD」という読者も多いと思うが、「ならばHDDは不要になったか?」というとそうでもない。

 HDDの容量単価は依然として安く、価格にして6倍程度の開きがあるし、単一ドライブでの容量も最大10TBと大きい。RAIDなどを組まずに大容量ドライブを(金額でも、手間でも)気軽に用意できるのもポイントだ。

 つまり、「速度ならSSD」「容量ならHDD」となるわけで、SSDとHDDの両方を搭載し、用途別に使い分ける、という人も多いようだ。

 ちなみに、「大容量データ」といえば、映像ファイルを思い浮かべる人も多いと思うが、昨今のゲームは、リッチな映像やサウンドを実現するため、ゲーム容量が肥大化している。

 以下、主要タイトルが必要とする推奨ストレージ容量をまとめてみたが、1つのタイトルだけで、最大65GBもの容量を必要とするタイトルも登場している。

 それ以外でも30~40GBを使用するゲームが多く、これらを複数インストールすることを考えると、250~500GBクラスのSSDではすぐに上限が見えてしまうし、ゲームプレイの録画やスクリーンショットなども考えると1TBでも不安になってくるだろう。

 また、Steamをはじめとするオンラインのゲーム販売プラットフォームでは、これまでのコレクション全てがローカルのストレージに保存されるので、50タイトル、100タイトルと溜め込むには膨大な容量が必要になる。例えば1ゲーム40GBで計算すると、1TBのSSDであれば25タイトル程度で容量が埋まってしまう。数十単位でゲームタイトルを溜め込むなら、コストパフォーマンス的にはHDDがベストな保存先になる。

 Western Digitalでは「速度などから、ゲーム向けにはWD Blackが最適」(同社)と説明しているが、価格的にWD Blackに手が届かないなら、コストを重視してWD Blueを利用するのもアリだろう。

ゲームタイトル推奨ストレージ容量
Grand Theft Auto V65GB
WITCHER III WILD HUNT35GB以上
ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド30GB以上
METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN28GB
WORLD OF WARSHIPS30GB
Fallout 430GB
STAR WARS BATTLE FRONT40GB以上
Rise Of The Tomb Raider25GB
Tom Clancy’s The Division40GB
NEED FOR SPEED 201630GB
MIRRORS EDGE CATALYST25GB以上

低発熱かつ静音なスタンダードHDD「デスクトップPC向け」にカスタマイズ

 さて、WD Blueは「デスクトップPCでの基本」を旨とするHDDだ。

 同時に、次回以降紹介する他のWDシリーズのHDDにとっても標準指標となる性能と言ってよい。まずはラインナップとスペックを確認しておこう。

 WD Blueの特徴は、デスクトップPC用のスタンダードという位置づけから、回転数は静音性でメリットのある5,400rpm(一部7,200rpmモデルも残っている)を採用。主な仕様は、キャッシュ容量が64MB、データ転送レートが147~175MB/s、動作音が21~28dB、読み書き時の平均消費電力が3.3~3.4W(5,400rpm)/6.8W(7,200rpm)、製品保証期間が2年、耐久性を示すロード/アンロードサイクルが300,000、といったもの。これが今の、「デスクトップPC向けの標準HDD」というわけだ。

 ハードウェアスペック以外でも「デスクトップPC向け」として「データを読み書きする際に何かのエラーが生じた場合、特に粘り強くリトライをして、正確な読み書きをするようになっている」(同社)という。

 逆に、RAID運用を前提としたWD RedのようなHDDでは「ホスト側を待たせてしまうと、RAIDシステム全体の応答性が低下してしまうし、そもそもRAIDによってデータの安全性が確保されている前提なので、リトライはRAIDシステムに悪影響を与えない範囲で行うようになっている」(同社)とか。

 また、WD BlueのようなデスクトップPC向け製品の場合、基本的にはPCの筐体内に1台搭載することを想定しており、NAS向け製品のように複数台搭載することを想定したものではない。そうした点は消費電力に表れる。こちらも主にヘッドやその軸にあるアクチュエータの動かし方を、ファームウェアで調節することで実現しているとのことだ。

シーケンシャルリードは安定して160MB/s前後

 では、デスクトップPC用途で注目される、パフォーマンス面をベンチマークで確認していこう。

 用いたHDDは、WD Blueの6TBモデル「WD60EZRZ」だ。実売価格は税込22,000円前後。8TB超のモデルになると容量あたりの価格が大幅に上昇するので、現状、6TBあたりまでの容量が手を出しやすいHDDといえる。

 まずはCrystalDiskMark 5.1.2 x64の結果を紹介する。4回連続で計測した結果を見ると、そこまで大きくブレることなく、特殊な方式を採用していないことが伺える。転送速度では、シーケンシャルリードで165MB/s前後、同ライトで150MB/s前後の速度が出ている。

計測1回目
計測2回目
計測3回目
計測4回目

 CrystalDiskMark 5.1.2 x64の計測サイズを変更した際の結果も合わせて紹介しよう。キャッシュヒット率が高まるデータ書込量が50MBの際のテストでは4Kのスコアが上昇する傾向にあるほか、より大きなデータ書込量の32GB時に関しては、通常とそれほど変わらない結果が得られた。

計測サイズ50MiB時
計測サイズ32GiB時

8年前の1TB HDDと比較してみた、シーケンシャル速度は大きく向上

 これらの数値が速いのか遅いのか、Western Digitalから過去販売されていたモデルWD GreenのWD10EADS(3Gbps SATA/1TB/5,400rpm)とWD Caviar SE16のWD6400AAKS(3Gbps SATA/640GB/7,200rpm)と比較してみよう。なお、2モデルともに8年前のモデル。「1TB HDDが最も人気だったころの標準モデル」と言えばわかりやすいだろう。

2008年に登場した1TB/5,400rpmのWD10EADS
2008年に登場した640GB/7,200rpmのWD6400AAKS

 ベンチマーク結果を比較すると、シーケンシャルアクセスの速度に関してはリード/ライトともに大きく向上していることがわかる。旧型とは言え7,200rpmモデルの速度も上回っており、現行のHDDは5,400rpmでもだいぶ高速化されている。

 グラフ等には起こしていないが、合わせて使用時の動作温度に関しても簡単に紹介しておこう。

 OS起動から十分に時間が経過した後のHDDに対してCrystalDiskMarkを9回実行した間のHDD温度データをSMARTのログから取得してみた。検証時の室温は25℃。PCケースには入れていないが、HDDはSATA接続のHDDリムーバブルラック(ファンなし)に搭載した状態でテストを行った。

 動作温度は、WD Blue WD60EZRZのアイドル時が39℃、負荷中は最大で41℃だった。ヘッドの動きが最小で済むまっさらな状態のためベストな値と言えるが、この数値を見る限り発熱は小さい。

 同条件計測してみたが、旧製品のWD Green WD10EADSは最大42℃、Caviar SE16 WD6400AAKSは最大46℃だった。WD10EADS側は回転数が同じクラスなので1℃違うと言っても計測誤差の範囲だろうが、7,200rpmモデルであるWD6400AAKSの場合は、明らかに現行WD Blueよりも発熱が大きい。

 環境温度やHDD温度を低く抑えることは、製品寿命の点で重要なポイントだ。劣悪な条件下では、カタログスペック以上に劣化を早めてしまい、故障の原因となり得る。古くなったHDDを使用の際は、定期的にSMARTのデータを確認するとともに、ハードウェア監視ソフトからケース内各部の温度も合わせて確認するのがよい。とくにケース内各部の温度が40℃を超えて、50℃、60℃のようにスペックシートの動作時環境温度を超えてしまうようなら、ケース側のエアフローを見直す必要も出るだろう。

 また、動作音に関しては、WD Blue WD60EZRZの場合、5,400rpmであることもありシーク時でもかなり小さく、今回のようにリムーバブルケースへ、あるいは密閉型PCケースに納めれば、ほとんど漏れることもない。今回はビデオカードを装着した環境ではないが、CPUクーラーと電源のファンにかき消されてしまうレベルである。耳を近づけ、耳を澄ませてようやく感じられる程度だ。

 ちなみに、音質の傾向は旧製品のWD10EADSやWD6400AAKSも似ている。7,200rpmのWD6400AAKSが多少大きいかなと感じるが、動作音に関しては、モデルの違い、新旧の違いよりも、HDD製造メーカーの違いのほうがクセが出て分かりやすい。そうした中で、Western Digital製品は、とりわけ静かな部類であることは間違いない。

旧HDDのリプレースや外付けHDDにも向いた特性複数HDDのデータをまとめて利便性を向上

WD Blueの店頭価格、3TBであれば税込1万円以下で購入可能。

 さて、冒頭でゲーム用途にもお勧めだと紹介したが、ほかにも大容量ストレージを必要とするシチュエーションは多々ある。

 例えば映像であれば、昨今、比較的安価な4K対応アクションカメラ・ホームビデオカメラが登場したことで、4K映像が身近なものになってきている。そうした製品では、フルHD時代とくらべ、単純計算で単位時間あたり4倍のデータサイズを扱うことになる。

 小さなデータでも何年も貯めこむことで大容量となることもある。例えば子供の成長を写真や映像として蓄積する場合、小容量の複数のドライブに分散するよりは、大容量の一つのドライブに集約したほうが管理しやすく、検索や閲覧の点でも容易になる。

 1TBクラスのHDDが普及しはじめの頃は、HDDは買い換えというよりも買い足しという使い方が多かったように思う。ちょうどPCにおけるTV録画が盛り上がった時期でもあるし、1TBが最大容量クラスかつ手頃な価格で入試できた時期でもある。こうした形で今となっては小容量のHDDを、複数台キープしている方も多いだろう。

 一方、現在のHDDは大容量タイプのモデルを単機で使用するといったケースが多いのではないだろうか。WD Blueなら6TBのモデルまで、WD Redなら8TB、WD Goldなら10TBといった具合で大容量HDDが登場しており、HDDを複数台使い容量を稼ぐ必要性は減りつつある。

 前節でも紹介したが、現在のHDDはスタンダードモデルでもそこそこの速度が出る。旧型のHDDのデータを集約することで閲覧する際の効率アップや、HDDの台数を減らせることから低消費電力化なども期待できる。古い環境を現在のHDDでリプレースすることで得られるメリットは大きい。ちなみに、Western Digitalの主なHDDでは、Acronisのバックアップソフト「True Image WD Edition」が無料で利用出来る(Webからダウンロード)。ドライブの複製や消去などにも対応できるため、リプレースのほかにも様々な用途で便利に利用できるだろう。

 また、リプレース用途のほかに、WD Blueには外付けHDDなどで使用するのにも向いている。速度と合わせ、発熱と動作音が低いことも紹介したが、これらは外付けケースなどに入れて利用するのに適した特性をもっており、バックアップ用HDDとしても利用価値が高いモデルだろう。

 ちなみに、WD Blueは一般ユーザーが使用するレベルであれば、RAID 0/1での使用も推奨されている。24時間稼働や業務用など、高負荷環境での利用は非推奨かつ保証もしないとされているが、チップセットが持つRAID機能を利用し、手軽かつ安価にデータの冗長性を得る用途には向いている。RAID対応がうたわれていないHDDをRAID環境下で使用すると故障率が高まるので、RAID 1などでデータを運用する場合には意識したい部分だ。

一般的な用途に使うなら間違いのないHDDコストと性能のバランスに優れたモデル

 今回はWD BlueというスタンダードHDDについて紹介した。

 WD Blueは、一般的なPC用途に関して言えば、十分なスペックと容量を備え、スタンダードゆえにコストも安い。だからこそ、一般ユーザーはこれを選べば間違いないと言える。

 サーバーやNAS、ワークステーションなど、用途がはっきりしている場合や、負荷が高い処理に利用するのであれば、WD RedやWD Blackなど、用途別に用意されたモデルを選択すれば良い。HDDにこだわるのであれば、耐久性を意識してWD RedやWD Goldを選択したり、パフォーマンスを重視してWD Blackを選ぶと言った手もあるが、一般用途であればWD Blueを選択して困るケースは無いだろう。

 さて、次回は用途別に開発されたWDシリーズを順に紹介する予定だ。まずはNAS向けのWD Redを取り上げ、製品の特徴を本来の目的とともに詳しく説明していこう。

[制作協力:Western Digital]