用途とカラーで選ぶHDD再入門

「監視カメラ向けHDD」ってナニが違う?「WD Purple」のヒミツを色々聞いてきた

監視カメラシステムに採用されたポイントや、自作PCでの可能性も? text by 石川ひさよし

 WesternDigitalの「カラーHDD」を色別に紹介していくこの連載、4回目の今回は「WD Purple」だ。

 WD Purpleが最適化されているのは監視カメラ用途である。WD Redならまだ自作PCユーザーにとっても身近なところだが、WD Purpleがメインターゲットとする「監視カメラシステム」となると、ちょっと自作PCとは異なるジャンルという印象がある。

 実際の利用シーンをイメージしにくいこともあり、今回は、WD Purple搭載の監視カメラシステムを販売するメーカーにインタビューを行った。

 いろいろと話しを聞いていくと、NASをベースとした低コストの家庭向け監視カメラの需要も高まっているという。監視カメラは、公共では主に防犯が主だが、個人向けではまた異なるニーズが生まれているようだ。

 「1家に1カメラシステム時代」などが到来すれば一気に注目が集まりそうなWD Purple。製品の長所と特性への理解を深めていきたい。

用途とカラーで選ぶHDD再入門
第1回「用途で選ぶHDD」5色のWDシリーズを全解説、「色分けのルーツ」も聞いてみた
第2回PC向けの標準HDD「WD Blue」をテスト、「全HDDの3台に1台はWD Blue」
第3回安定性と耐久性ならNAS用HDD、人気の「WD Red」の特性を調べてみた
第4回「監視カメラ向けHDD」ってナニが違う?「WD Purple」のヒミツを色々聞いてきた

映像データの断片化を防ぐ特殊なファームウェアを搭載「監視カメラ向け」に特化したWD Purple

 それではWD Purpleのスペックから見ていこう。

 簡単な内容は第一回の記事でも紹介したが、基本的には「24時間365日動作可能モデル」ということで、ある程度WD Redに近い仕様が目立つ。容量ラインナップや回転数、キャッシュ容量などはWD Redと似ており、ロード/アンロードサイクルや消費電力、動作音などが少しだけ異なる。

WD Purpleの製品ラインナップ

 保証期間はWD Redと同じ3年で、WD Blue(2年)より長いが、耐久性の指標であるロード/アンロードサイクルはWD Redの半分の「300,000回」で、WD Blueと同じ。

 その他の仕様を見ると、アイドル時の数値がほかのモデルと比べて大きめだが、読み書き時の消費電力はWD Redと同等。「すぐに記録すること」が重要な監視カメラ向けだけに、アイドル状態からの反応性を重視したチューニングになっているものと思われる。

 このほか、「小容量モデルでWD Redより僅かにパフォーマンスが抑えられている」といった違いもあるが、重要な仕様差とは思われない。つまり、WD Purpleのキモは「単なるスペック表の違い」ではなく、ファームウェアのチューニングということになるだろう。

WD Purpleaは24時間365日稼働に対応している
動画記録向けの「AllFrame」テクノロジー搭載

 さて、その「ファームウェアのチューニング」として重要なのが、カラーシリーズ中ではWD Purpleのみの対応となる「AllFrame」テクノロジだろう。

 そもそも監視カメラでは、「映像が連続領域に書き込まれ、スムースに再生されることが重要」(同社)なのだという。例えば映像再生時、1フレーム毎にシークが発生するなどして、コマ落ち再生になってしまうのはカメラ映像の確認時に望ましくない。そこで、コマ落ちを抑え、滑らかな映像再生を実現するためにAllFrameテクノロジが実装されている。

 AllFrameのキモはATAのコマンドに含まれる「ATAストリーミング」のサポートだ。

 正確にはATA-7以降でサポートされた「Streaming Feature Set」で、日本を中心に需要の高いHDDレコーダーのための命令セットだ。多チューナー搭載のHDDレコーダーなどでは、同時刻に複数のストリームを確実に録画することが求められる。そうした用途のための特別なコマンド、ということになる。

WD Purpleは最大32台のHDカメラをサポート

 当初はHDDレコーダーのために策定された(録画向けをうたうWD AV-GPでもサポートされている)ようだが、「映像を録画する」という点ではWD Purpleも同様。さらに、多くのカメラで同時録画しても対応できるよう、WD Purpleでは対応ストリーム数も32ストリームに強化、これもWD AV-GPとの違いの一つとなっている。

 さて、このAllFrameの詳細だが、Western Digtalの技術者によると、以下のような処理を内部的に行っていると言う。

 まず、映像を途切れなく再生するためには、データの並び方が重要だ。例えばPCなどで長らくHDDを使っていると、データ配置の分断化が生じ、HDDの速度が低下する。これを解消するため、「デフラグ」でHDDの速度を回復させた、という人も多いと思うが、要するに「データの分断化」はパフォーマンスの低下を招く。各所に散らばったデータを読み書きするために、ヘッドが激しく動くことになるためだ。

 WD PurpleのAllFrameは、こうした「データの分断化」を書き込み時点で抑えるのが特徴。ストリームの書き込みを連続位置に書き込めるよう、書き込み時に調整していくのがポイントだ。そうすることで、読み出し時はデータをスムーズに読み出せるようになり、ヘッドの無駄な動きも抑えられる。省電力化や発熱の抑制、シーク音の低下にも意味があるという。ちなみに、この機能は専用の書き込みコマンドを使わないと利用できないため、「Windows環境で手軽に活用」というわけにはいかず、専用のシステムが必要になるようだ。

 このほか、「再生の連続性」という点では、読み出しエラーが生じた際の挙動もチューニングされているという。例えば、PC向けHDDでは、正しくデータを読み出すことが重要なため、できるだけ長時間、データを読み出そうとリトライを行う。一方、ストリーム再生のような場合、エラーが発生して何度もリトライするようでは、コマ落ちが生じてしまう。そこで、タイムアウトまでの時間を短く設定し、場合によっては「読み飛ばす」こともしているという。

「監視カメラシステム」にWD Purpleを採用する理由も聞いてみた

ユニットコムの監視カメラシステム販売ページ

 さて、WD Purple自体はPCパーツショップで購入できるが、どちらかと言えば「組み込み済みシステム」としての販売が主流。

 そうした組み込み向けの製品から、WD Purpleの本来の用途、メリットなどをつかむため、今回は監視カメラシステムを販売しているユニットコムにお話を聞いた。

ユニットコム 執行役員 店舗統括部 部長の吉森浩美氏
ユニットコム サービス企画室 次長の堀田創氏

――どのような経緯で監視カメラシステムを販売することになったのでしょうか。

[吉森氏]2年前になりますが、当時、各店舗に監視カメラを導入しようということになりました。その際、監視カメラシステムが我々が取り扱うPCにかなり近い構成であることに気が付きました。そこで、「では我々でも取り扱ってみよう」とスタートしたのです。

 現在、中小企業~個人向けに販売している監視カメラシステムは、QNAPのNASをベースにしています。今回ご紹介させていたく製品は1~2ベイのモデルで、これはQNAPのTS-128/TS-228がベースになります。もちろんNASとして店頭でも取り扱っているモデルです。これに、HDDとカメラをお客様に選んでいただき、さらに設定設置のオプションを付けたものが我々の販売する監視カメラシステムです。

――PCシステムではなくNASを選んだのは理由があるのでしょうか。

[堀田氏]PCベースの監視カメラシステムは高性能ですが、コストもかかりますし、何より消費電力が大きいということで、この点に難色を示される方が多くいらっしゃいます。

 その点、NASは低価格で低消費電力、さらに小型で設置場所にも困らないといったメリットがあります。

――この監視カメラシステムではHDDをWD PurpleとWD Redから選べるようですが、選び方のポイントはあるのでしょうか。

[堀田氏]いずれも「24時間365日動作」対応の製品ですが、価格面を含め、1ベイであれば監視カメラ用のWD Purpleがベストです。一方、2ベイでRAIDを組むようであれば、複数ドライブでの利用が考慮されているWD Redがよいでしょう。

 弊社では、2ベイのモデルでもWD Purpleを選べるようにしてありますが、これは「2台のWD PurpleをJBODのように連結して大容量ドライブとして使う場合」を想定しています。

――WD Purpleのどのような点を重視して選ばれたのでしょうか。

[堀田氏]メーカーが公表しているわけではありませんが、WD Purpleは実際に大手の業務用レコーダーにも採用されています。これ自体が信頼性の高さを示していると言えます。

 そして我々のシステムがNASをベースにしておりますが、NASメーカー自身もWD PurpleやWD Redを用いて機器を検証されてるので、当然の流れと言えます。「検証済み」という点はとりわけ重要でして、例えばほかのメーカーさんの話として、「WD Purpleに切り換えたことで不良率が大きく減った」という事例もお聞きします。監視カメラであればWD Purple、RAIDであればWD Redを選ぶことは、「安心できるシステムを販売できる」という点で大きなメリットなのです。

[堀田氏]スペック面では24時間365日稼働が保証されている点が大きいですね。故障などで映像が途切れてしまったら監視カメラとして用を成しません。そして、WD Purpleを組み合わせた監視カメラシステムで驚きなのは、実際、ほとんどトラブルの報告がないことです。

監視カメラシステムはアナログのシステムからデジタルのシステムへのリプレース需要も大きいそうだ

――WD Redに関してはいかがでしょうか。

[堀田氏]WD Redも同様で、24時間365日稼働、さらにQNAPのNASとの相性も重視しました。2ベイ以上のシステムでは温度も上がりやすくなりますので、その点でも安心です。

――ここからは監視カメラシステムについてお聞きします。監視カメラシステムは、業務向けという印象が強く、自作PC中心の我々にはイメージしづらいのですが、どのくらいの需要があるのでしょうか。

[堀田氏]監視カメラシステム需要は、もちろん2020年の東京オリンピックに向けて高まっております。しかしそれだけではありません。ある調査によりますと、既に稼働中の監視カメラシステムのなかでも、低画素のアナログ世代のものが100万台以上あるということで、そのリプレース需要も大きいです。

[堀田氏]加えて、新たなところでは個人需要も拡大しています。昨今では無線LAN対応のカメラも多数登場しておりますので、配線工事や配線コストの敷居が下がってきました。

 さらに、TS-128をベースとしたシステムではHDDとカメラ1台、設置・設定を含め5万円程度からと、機器側のコストも引き下げてまいりました。実は、監視カメラの導入で敷居が高いのは「予算がどのくらいか分かりづらい」というところなのです。TS-128やTS-228で我々はそこを分かりやすく提示しております。

自宅のセキュリティや安全性を高めるため、個人ユースでの需要も増えつつあるそうだ

――いくつか特徴的な導入事例を教えていただけますか。

[堀田氏]大規模な監視カメラシステムは、有名メーカーのものが販売されていますが、我々はそうした有名メーカーではコストが見合わない、小~中規模の企業や店舗、そして個人向けに販売しております。特徴的な事例としては、果樹園や農園の事例がありまして、高級果物の盗難被害を避けるために導入する例があったりします。

[堀田氏]果樹園や農園は屋外にありますので、日中は太陽に熱せられますし、東北の農家さんなどでは夜間が冷え込みます。雨に関しては、専用ケースで凌げますが、環境温度が大きく変動しますので、(専用ケースに入れたとしても)それに耐えられるHDDというのは重要です。ちなみに、洪水のような異常気象を除けばHDDの故障の報告はありません。

 外気にさらされるカメラのほうが先に耐久性が尽きるくらいです。ほかに屋外設置では、観賞用の高価な金魚や鯉の養殖屋さんなどにも導入しております。

 また、昨今ニーズが高まっているところでは、家庭内の子供やペットの様子を見るためのカメラや、老人ホーム向けに呼びかけ機能付きのものなどがあります。

――御社は地方にも店舗を展開しておりますが、そうした地方店舗でもお取り扱いされているのでしょうか。

[吉森氏]都市部であれば、監視カメラを取り扱う店もありますが、地方となると多くはありません。我々の店舗は、そうした地方でのショールームとして「監視カメラがどのようなものか、どのように役立つのか、そしてどのくらいの予算で導入できるのか」といったところを分かりやすくご提案させていただいております。

監視カメラシステムは個人でも5万円台から導入可能だ

――それでは具体的な製品選びのポイントをお聞きしたいと思います。まず、監視カメラシステムのトレンドとして、何台くらいのカメラを接続するのが、実際の販売から傾向を教えていただけますか。

[吉森氏]一般的な監視カメラ用途では4台程度、最大ではルータそのほかのネットワーク機器などの制限を受けますが16台まで対応できます。ご家庭向けとなりますと、玄関や裏口に1台、リビングに1台と、およそ1~2台が中心です。

――次に、HDDの選び方ですが、だいたいの目安というのはあるのでしょうか。

[吉森氏]従来の30万画素程度のアナログカメラの時代と比べて高画素化が進み、大容量のHDDを選ぶことが多くなっております。例えば監視カメラ映像の保存期間ですが、およそ1カ月程度が目安になるかと思います。記録する解像度やフレームレートにも左右されますが、1カ月カメラ1台となると最低2TBでして、ご家庭向けに販売されているなかでは、さらに余裕を見積もった3~4TB HDDが中心となります。

――ありがとうございます。では最後に監視カメラシステムの将来的な見通しを教えてください。

[堀田氏]現在は月に100~200台規模で販売しておりますが、2年後には1,000~2,000台規模までもっていきたいと考えております。そしてオリンピックも近づく3~4年後には需要も10億台規模に拡大すると考えております。また、今後は個人宅への普及も高まると考えております。簡易IPカメラとNASのセットのラインナップを10月初旬から増やす予定です。さらに、現在展開中の設置・設定サービスの半額キャンペーンが好評でして、こちらを延長する予定です。個人需要が高まるなか、手軽ですぐに導入できる環境をご用意していきたいと考えています。

デスクトップPCで使ってもしっかり速度が出る「監視カメラ最適化HDD」

 さて、最後にWD Purpleのパフォーマンスを計測してみたい。

 CrystalDiskMark 5.1.2 x64からWD Purpleの8TBモデル「WD80PUZX」のパフォーマンスを計測したところ、WD Redの8TBモデル「WD80EFZX」よりもシーケンシャルリード/ライトで若干よいスコアを出す傾向にあった。一方、4Kに関してはWD PurpleとWD Redはほぼ互角で、どちらが速いとは断言できない。

計測サイズ1GiB時
計測サイズ32GiB時

 このとおり、WD PurpleはデスクトップPCで使用したとしても、同社の5,400rpmモデル級のパフォーマンスを備えているといえる。これならば監視カメラ用途としてNASに搭載しても十分な性能が得られるだろう。

 WD Purpleは、24時間365日連続稼動、そして高い信頼性がなによりのポイントと言える。

 シングルドライブでの運用ならば「WD Redには手が出ないが、24時間365日稼働させたい」といった場合に選択できるし、もちろん「監視カメラシステムを作る」といった場合にも使えるだろう。

 ちなみに、NASベースの監視カメラシステムは、WD PurpleとNAS、カメラユニットのセットが基本で、あとはソフトウェアのセットアップだけ。自作PCユーザーであれば、それほど難易度は高くないはずだ。

[制作協力:Western Digital]