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2020年、HDDが1台30TBになる可能性も? データ復旧業者が語るHDD/SSDの最新技術

「NAS EXPO 2016 秋」開催レポート(データ復旧サービス編) text by 石井英男

 10月8日、ベルサール秋葉原で、NASがテーマのイベント「NAS EXPO 2016 秋」が開催された。

 NAS EXPO 2016 秋は、主要NASメーカーや関連機器メーカーが参加し、NASの基本的な使い方からクラウド/スマホとの連携、ビジネスやプライベートでの活用までを紹介するウエスタンデジタルジャパン主催のイベントであり、今回が2回目の開催となる。初開催となった昨年は1万名近くが来場し大成功となったが、今回は昨年を上回る13社・ブランドが出展し、来場者数も昨年を上回ったという。

 当日のイベントでは、新製品の展示やステージセッションなど、多くの見どころがあった。弊誌では、既に「NASの入門編」「NASメーカー編」「HDD/周辺機器編」のレポートを掲載しているが、最後の今回は「データ復旧サービス編」をお届けする。

 データ復旧サービスとして出展したのは、くまなんピーシーネットとAOSデータだ。

最新HDD、そしてSSDの構造を解説 ~くまなんピーシーネット~2020年、HDDは1台30TBになるかも?

ステージセッションを行なったくまなんピーシーネット代表の浦口康也氏
HDDプラッタ1枚あたりの容量ロードマップ。現在は1プラッタあたり2TB程度だが、ビットパターンメディアを採用すれば、2020年にはその2倍超を実現できる可能性があり、これが実現できた場合、3.5インチHDDなら、7枚プラッタならば「最大30TB」の可能性も見えてくるという

 まず、昨年に引き続き、濃いセッションと濃い展示で人気を集めたのがデータ復旧サービス「WinDiskRescue」や、プロ向けHDD診断解析ツール「PC-3000 JAPAN」を手がけるくまなんピーシーネット。

 ステージセッションを行なったのは、くまなんピーシーネット代表の浦口康也氏。

 浦口氏は、去年も最新HDD技術とデータ復旧についてとても興味深いセッションを行なっており、今年も多くの来場者が詰めかけた。今年はHDDの基本構造や最新技術だけでなく、近年増加しているSSDなどのフラッシュメモリストレージについての解説も行った。

 ちなみに、SSDはコントローラーが書き込みを分散するため、データ復旧がより困難、しかもコントローラーのアルゴリズム解析が必要になるため、作業に数ヶ月かかることもあるという。ただし、スマートフォンやタブレットで使われるeMMCタイプのフラッシュストレージは、コントローラーまで1チップに搭載されており、外部からインターフェースを使ってダイレクトに解析、データ復旧も比較的容易とのこと。

 HDDについては、今後の大容量化の見通しも解説。2020年ごろにはビットパターンメディアなどが実用化される可能性があり、計算上、3.5インチならば30TBくらいのHDDが実現できる可能性があるという。

 なお、浦口氏は、“もしアップルがデータ復旧サービスを始めたら”というテーマでプレゼンを実施した。いかにもアップルを連想させる文言とそのページデザインは、Macユーザーなら思わずニヤリとさせられそうだ。

【HDDの構造について】
HDDの高密度化技術として期待されている熱アシスト記録方式とマイクロ波アシスト記録方式の解説
最近実用化された瓦記録方式では、トラックを重ねて記録していく(SMR)。さらにS/N比を高めるために2次元方向にもヘッドを動かし、互い違いに記録するTDMRもある
SMRでは書き込む際には上書きではなく追記が基本となり、不要データがたまると自動的にガベージコレクションが行なわれ、不要データが削除される
SMRのガベージコレクションの例
サーモカメラによるHDDの発熱の比較。左が最新のWD Redで、右が数年前のHGST製HDD(容量は同じ)。2時間ランダム書き込み後を比べると、発熱量はかなり違い、WD Redは表面温度が低い
今後実用化が期待されているビットパターンメディア。あらかじめデータを記録するためのビットパターンをメディアに作っておき、そこにピンポイントで記録することで、隣接トラックの影響を受けにくくなる
【フラッシュストレージについて】
最近は、HDDに代わり、フラッシュメモリを採用したメモリストレージデバイスを利用する製品が増えてきた
メモリストレージデバイスは、インターフェースとコントローラー、NANDメモリから構成される
HDDとは異なり、NANDメモリは常に分散されて記録されるため、復旧の難易度が高い
SSDのデータが読めなくなった場合、専用装置を利用してSSDからNANDメモリを取り外し(チップオフ)、ダンプデータを抽出後、コントローラのアルゴリズムを解析してデータを再構築する必要があり、解析には数ヶ月かかることもあるため、現実的とはいえない
MicroSDカードなどは、NANDメモリと基板が一体化されているため、チップオフができず、外装を削ってマイクロソルダリングによる解析を行うことになる
ただし、スマートフォンやタブレットなどで主流のeMMCでは、コントローラーも搭載された1チップになっているため、チップオフしてインターフェース経由でダイレクトに解析できるので、データ復旧も現実的になる
【「もし、アップルがデータ復旧サービスを行なったとしたら?」】
くまなんピーシーネットのデータ復旧サービス「WinDiskRescue」の紹介。「もし、アップルがデータ復旧サービスを行なったとしたら?」という想定で紹介を行なった
データの価値は自分にしかわからず、それはプライスレスである
データ消失は、心の不安を伴う不幸な出来事であり、心のダメージも大きい
データが読めなくなったら、落ち着いて行動することが大切。叩いたり、分解してはいけない
安心が必要なら、データ復旧サービスを利用する
くまなんピーシーネットのこだわりを一つにしたのが、「WinDiskRescue」である
プロフェッショナル向けのHDD診断解析ツール「PC-3000 JAPAN」
MicroSDカードにマイクロソルダリングをしてワイヤーを接続し、データを解析した例

 なお、同社の展示ブースでは、MicroSDカードのデータ復旧を行うため、マイクロソルダリングでワイヤーを接続したものの実物が展示されており、興味深そうに見る来場者も多かった。

 今回は、来場者が持ち込んだ障害のあるHDDの診断と解析を行ない、データ復旧の可能性を確認するコーナーも設置。数名の来場者が実際に自分のHDDの診断を行なってもらっていた。また、PC-3000 JAPANの最新バージョンでは、専門家ではない人でも扱えるよう、自動解析修復機能が搭載されたという。この自動解析機能のデモを見せてもらったところ、ユーザーパスワードがかけられてアクセスできなくなってしまったHDDも、わずか数秒でパスワードを外すことができた(パスワードを解いたのではなく、特殊なコマンドでパスワードを初期化している)。

HDD診断解析ツール「PC-3000 JAPAN」の説明
PC-3000 JAPANの新バージョンでは、ユーザーパスワードでロックされているHDDも、自動的にそのセキュリティを解除することができる。セキュリティをかけたHDDを繋いで、クイックテストを行なったところ、「HDD security locked」の項目が「YES」になっている
HDDのセキュリティコードは、「Unlock」ボタンをクリックするだけで、解除することが可能。セキュリティ解除中の画面。「USER password」が「set」されていることがわかる
セキュリティ解除後の画面。先ほどと同じHDDだが、「HDD security locked」が「NO」になっており、セキュリティが解除されたことが分かる

AOSデータも初出展事前申し込みの「データ復旧パック」やバックアップサービスを紹介

AOSデータのブース
AOSBOXは、多くの企業が導入パートナーとなっているという

 今回初出展のAOSデータのブースでは、「AOSデータ復旧安心サービスパック」「データ復旧出張サービス」「AOSBOX Business」などのサービスを紹介。

 「AOSデータ復旧安心サービスパック」は、サーバーやNAS、PCなどの新品購入時に契約できるプランで、機種を問わず利用できることが魅力だ。また、法人向けのクラウドバックアップサービス「AOSBOX Business」は、ローカルストレージ、通常ストレージ、コールドストレージの3種類のストレージを組み合わせることで、クラウド保存のコストを従来の1/3に削減するという。

サーバーやNAS、PCなどの新品購入時に契約できる「AOSデータ復旧安心サービスパック」。機種を問わず利用でき、価格もリーズナブルだ
法人向けのクラウドバックアップサービス「AOSBOX Business」。ローカルストレージ、通常ストレージ、コールドストレージの3種類のストレージを組み合わせることで、クラウド保存のコストを従来の1/3に削減