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ASUSの隠れた「タフ」ビデオカードとは?
高耐久・長寿命の「Phoenix」コンセプトによるGTX 750のポイントを聞いてみた text by 関根慎一
(2014/4/30 12:25)
GeForce GTX 750シリーズは、Maxwellアーキテクチャを初めて採用したミドルレンジのGPU。最も大きな特徴は、ワットパフォーマンスの高さ。Keplerと比べても低消費電力・低発熱であり、電力あたりの性能は、Keplerの2倍に達するとされる。
そして今回、「このGPUの特徴を最大限に活かす」として新コンセプトのビデオカードを投入したのがASUSだ。同社が発売した3モデルのGTX 750系ビデオカードのうち、「GTX750TI-PH-2GD5」と「GTX750-PHOC-1GD5」は、一見普通の製品に見えるが、実は高耐久・長寿命を旨とした新コンセプト「Phoenix」を適用したもの。搭載クーラーも防塵を重視した新タイプだ(残り1モデルはデュアルファンクーラーを搭載したOC重視品)。
同社の「高耐久製品」というと、プレミアモデルである「TUF」シリーズが思い浮かぶが、今回のビデオカードは「通常モデル」としての投入で、そのあたりも興味深い。
ASUSの考える防塵・高耐久ビデオカードとは、一体どのようなものなのか。今回はASUS JAPANのプロダクトマネージメント アカウントマネージャー・Peter Chen氏に、その生い立ちと強みについて、話を聞いてみた。
高耐久・長寿命コンセプト「Phoenix」を採用したビデオカード
――まずは、製品コンセプトをお聞かせください。
[Peter氏] 「小型軽量かつ耐久性に優れるビデオカード」というコンセプトで開発しました。GeForce GTX 750シリーズは低消費電力・低発熱が特徴ですので、これを最大限に活かすために、冷却性能の高さよりも「ビデオカードそのものの取り回しの良さ」や「(冷却が悪くなりがちな)小型PCなどに入れて使っても安心できる耐久性」を重視しました。
弊社ではこれを「Phoenix」コンセプトと呼んでいまして、型番に入っている「PH」もこの略です。
――なるほど、では「Phoenixコンセプト」とはどのようなものでしょうか?
簡単に言うと、高耐久・長寿命を実現するためのビデオカード全体のコンセプトで、防塵性を高めることでビデオカード全体の寿命を長くする「ダストプルーフファン」や、高耐久・長寿命のMOSFET「Super Alloy MOS」、同じくコンデンサ「Super Alloy Capacitor」の採用などがその主な特徴です。
防塵の「ダストプルーフファン」を採用し高い冷却性能を長期間維持
――「ダストプルーフファン」というのは面白いですね、ファンに防塵性を持たせた背景を教えてください。
[Peter氏] ご存知のようにビデオカードでは「冷却」が重要です。
基本的な要素として「高い冷却性能」が必須要素になるわけですが、長期間メンテナンスされなかったり、埃が多かったりする環境では、基本的な冷却性能が高くても、埃によってその冷却性能が落ちてしまいます。
弊社の主力クーラーである「DirectCU」は高い冷却性能を出すことにフォーカスしており、もちろん普通以上の耐久性がありますが、それでも埃が詰まってしまえば冷却性能が落ちてしまいます。また、ファンの故障は、内側のモーター部分に埃が入り込むことで起こることが多いのですが、埃を防ぐことでこうした故障も防止できます。
――ダストプルーフファンの仕組みをお聞かせください。
[Peter氏] 簡単に言うと、「(ファンの)上方向にも弱い風を発生させる」というのが基本的な仕組みです。これは、カバー・ファンとヒートシンクのデザインを工夫することで実現しました。
また、ヒートシンク全体も埃が詰まりにくいよう、そして仮に詰まってもエアダスターなどで対処しやすいよう、全体を覆わないデザインにしていますし、ファンカバー部も冷却効率を上げるために、ファンの周囲を円筒状にして、ヒートシンクに風が当たりやすいように工夫しました。
使用環境にもよりますが、クーラー部分の寿命は、従来品と比べて25%程度伸長している、と考えています。
――「上方向にも弱い風」というと、冷却性能が心配になりますが、これについてはいかがでしょうか?
[Peter氏] 冷却性能を最重視するDirectCUに比べれば冷却性能は落ちますが、それに近い、高い冷却性能は確保しました。また、ビデオカード全体の設計が「高耐久」コンセプトですので、DirectCUとは違う意味で「オーバークロック向け」な面もあり、オーバークロックをされる方が選んでも、十分楽しめるモデルだと思っています。
ちなみに今回、特に性能を重視される方向けには、デュアルファンクーラーを搭載したGTX 750 Tiのオーバークロックモデルも用意しました。このモデルは補助電源コネクタもありますし、まさに「オーバークロック向け」の設計です。このあたりは、欲しいコンセプトによって選んでいただければと思います。
――そのほかの特徴はありますか?
[Peter氏] 変わった特徴といえるのが、「軽くて小さいこと」です。DirectCUは銅パイプを搭載しているので重くなり、どうしてもサイズが大きくなってしまいますが、今回のクーラーは軽く、小さいことも重視しています。
小ささは「ビデオカード全体の小型化」ということで理解していただきやすいと思うのですが、「軽さ」については説明が必要かもしれません。
経験がある方もいるかと思いますが、重いビデオカードは輸送などの際、固定が悪いとどうしてもズレたりしがちです。結果、動作不良になるわけですが、軽いカードであれば、こうした故障も防げます。また、今回のようなビデオカードは小型PCに搭載されることも多いですし、「小さいPCなら軽量なビデオカードがいいだろう」というのもあります。
また、ファンが故障する原因の一つであるモーターですが、このモーターを埃から守るために、このモデルではシールドでカバーしてあります。そのため、一般のファンよりモーターの寿命が長いです。
ファンは4ピンタイプ、PWMで制御
――それでは、高耐久性を実現しているポイントはどのようなところにあるのでしょうか?
[Peter氏] ビデオカードはPCコンポーネントの中でも特に高温になるパーツですので、製品コンセプトの点から見ても、使用する部品には耐久性が求められます。
当社ではビデオカード製品の特徴として、部品単位で性能を向上させた「Super Alloy Power」を掲げていますが、GTX 750シリーズでは、MOSFETの「Super Alloy MOS」と、コンデンサの「Super Alloy Capacitor」の2つを採用しました。
MOSFETとコンデンサは、30%高い電圧に対応させています。特にコンデンサは熱を持ちやすいという点から、耐久性が求められる部品ですので、リファレンスよりも耐用年数が2.5倍長いものにしています。この副次効果として、OC耐性も獲得しています。
――ファンのコネクタが2ピンや3ピンではなく、PWM対応の4pinになっているのは、耐久性とも関係があるのですか。
[Peter氏] 回転数の自動制御によって、ファン自体の耐久性を長くするための工夫です。
PWM制御ができることで、必要なときに必要なだけの回転数を高精度でコントロールできる点でメリットがあります。アイドル時は必要最小限の回転数を保つようにしているので、静音性にも繋がっています。
また、付属ソフトの「GPU Tweak」ではコアクロックとメモリクロックの変更に加えて、ファンの回転数も細かく制御できますが、これも4pinだからこそ実現できる機能です。
4pinと3pinの違いはPWM制御の有無ですが、簡単に言ってしまえば4pinの場合は3pinよりも回転数をコントロールできる範囲が広く、制御の精度が高いのです。構造的には、4pinはファン自体にICチップを搭載し、3pinはプリント基板上にコントロールがあるという点に違いがあります。
余談ですが、ファンを2基搭載しているモデルでは、2基それぞれの制御用に5pinのコネクタを採用している製品もあります。
「普通の人のための高耐久ビデオカード」高耐久コンセプトは今後も強化
――想定しているユーザーはどのような層でしょうか。
[Peter氏] 「高耐久」というと特別なモデルに見えるかもしれませんが、今回のモデルは、「コストをかけず、気軽にゲームをしたい」という普通の人に使っていただきたいと考えています。メンテナンスの手間がなく、長期間安心して使える、という便利さをぜひ実感して欲しいと思います。
――ASUSの高耐久製品といえば、マザーボードの「TUF」シリーズが思い浮かびますが、今回のビデオカードとTUFシリーズを一緒に使うことで得られるメリットはありますか。
[Peter氏] TUFシリーズにも放熱効果と防塵効果を持たせているので、相乗効果としては、ビデオカードにもマザーボードにも埃が付きにくいというメリットがあります。「防塵PC」を作りたいということであれば、組み合わせて使ってみるのも面白いと思います。
また、省電力、省スペース、高耐久なPCを作りたいのであれば、当社のmicroATXマザーボード「VANGUARD B85」と組み合わせることで、どのような使用環境であってもメンテナンスフリーで長く使えるPCを組むことができますね。これはASUSからの提案です(笑)。
――こうした高耐久製品をラインナップに増やしている理由とは、どういったものなのですか。
[Peter氏] やはり「買ったものを長く使いたい」というニーズがあるからですね。
おかげさまでTUFシリーズもすっかり日本市場に定着し、定番モデルになりましたし、今後も「高耐久」コンセプトの製品を投入していきたいと考えています。
――読者に一言お願いします。
[Peter氏] ASUSのビデオカードは、それぞれのGPUに適したものを妥協せず開発していきます。同時に、イノベーションを大事にして、高品質で長く使える、特徴のあるものを引き続き作っていきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
――ありがとうございました。
【ASUS製品の発売が「ワンテンポ遅い」ワケ】
ASUS製品といえば、「発売時期が他社よりワンテンポ遅い」というイメージを持っている人もいると思う。実際は「遅くても数日~数週間程度」だが、やはり最新GPUやチップセットが出た後は少しでも早く欲しいもの。
今回、その理由をインタビューに同席した国内代理店「テックウインド」の中村氏にお伺いできたので、紹介しよう。
[中村氏] 「他社よりワンテンポ遅い」理由を一言で言ってしまえば、全ての製品に対して、厳格なクオリティ・コントロールを通しているためです。
日本で販売するASUS製品は、本国でのクオリティ・コントロールを経て、さらに厳しいチェックを日本でも行います。仮に日本市場で受け入れられるクオリティに達していないという判断になった場合は、日本ローカルで手直しもしています。
具体的には、ハードウェア本体というよりは、その周辺の確認と調整が主で、たとえば日本語の製品パッケージやマニュアル、Webサイト、付属ソフトの表記、付属品の内容などを厳密にチェックしています。
「ASUSの製品が良い」というのは理解いただけていると思うのですが、製品が良くても、その製品が正しく理解されないと、お客様にご迷惑をかけてしまいます。ここ数年は、チェック作業も改善し、速くなってきたと自負していますが、皆様に満足していただける製品を発売するための時間、と理解していただければありがたいです。
Mini-ITXケースに入れてみた
今回の製品のウリのひとつは、小型PCへの搭載も可能なサイズ。……ということで、実際にMini-ITXのケースに組み込み、動作の様子を確認してみた。
ビデオカード以外のパーツ構成は以下の通り。コンセプトは、「ゲームもそこそこ動く、ローコストな省スペースPC」といったところだ。
・CPU : Intel Core i5-4570S
・マザーボード : ASUS H87I-PLUS
・メモリ : CFD W3U1600PS-2G(DDR3-12800)
・電源 : COOLERMASTER RS-450-ACAA-B1
・ケース : COOLERMASTER Elite 110 Cube
・OS : Windows 8 Pro 64bit
・室温 : 23℃
さて、実際に、3DMark Fire Strikeをループ実行して負荷をかけ、アイドル時と高負荷時のGPU温度およびファン回転数の値を比較したのが以下のデータだ
なおGPU Tweakのプロファイルは、デフォルトのGaming。GPU Tweakでは、GPUの温度によってファンのRPMを何%まで上げるかを4段階で調整できるが、今回はデフォルトとした。
さて、3DMark Fire Strikeを30分ほどループさせてテストしてみたが、GeForce GTX 750 Tiモデルの最大GPU温度は63℃。アイドル時(36℃)の倍以上にはなったが、ファン回転数はそれほど大幅に増えず、動作も安定している。
今回は、内部の狭いMini-ITXケースでテストしたわけだが、そうした状態でも無事に動作することが確認できる。
なお、GPU Tweakの回転数設定のデフォルトは、GPUの温度が85℃前後になるまで最低値の22%に設定されているが、温度が気になるならば回転数が増えるしきい値を手動で変更してもいいだろう。GPUの温度をモニタリングしながら、用途によって設定するのが現実的な運用方法といえそうだ。
また、下の図は、3DMarkで負荷をかけている最中のGPU Tweakのグラフだ。GPU温度とファン回転数に注目すると、RPM設定のしきい値で制限がかかっていても、GPUに負荷がかかっている状態では、適宜冷却のために必要な回転数を確保しているようだ。ファンの動きも細かく変動しており、このあたりはPWM対応ファンの恩恵といえそうだ。