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「Atermの中の人」に聞く、円熟期の11ac、その使い勝手と最新事情

「中継機能」「子ども向け」が強化ポイント? text by 平澤 寿康

 IEEE 802.11ac(以下、11ac)対応製品が国内登場して、まもなく2年。最近は低価格品も含めて対応モデルが主流となり、スマートフォンやノートPCも11ac対応がほぼ標準状態。いよいよ普及期から円熟期へとフェーズが移行してきた印象だ。

 そういった中、高い安定性と充実した機能、コンパクトなボディサイズで、初心者から上級者まで幅広いユーザーから支持を集めているのが、NECプラットフォームズの「Aterm」シリーズ。一昨年インタビューさせていただいた、「米粒アンテナ」や「なるとマーク」を覚えている方も多いだろう。

 今回はそのAtermの開発を担当している方々に、最新11acルータ事情やAterm WG1200HPの特徴などについてお伺いしてきた。同社では1月にギガビットイーサネットに対応したミドルレンジモデル「Aterm WG1200HP」(WiFi速度867Mbps)を投入しているが、この製品では、市場のニーズから機能面の強化に注力したという。

 今回お話しをお伺いしたのは、NECプラットフォームズ株式会社アクセスデバイス開発事業部第二販売促進グループ 主任の山本 進義氏(以下、山本氏)、量販HGW事業グループ マネージャーの安藤 利和氏(以下、安藤氏)、量販HGW事業グループ マネージャーの大杉 基之氏(以下、大杉氏)、同じく量販HGW事業グループ マネージャーの三角 淳氏(以下、三角氏)の面々だ。

想像以上に早い「11ac化」既に5割以上が対応品に

AtermシリーズでもIEEE 802.11acモデルが売れ筋という。
NECプラットフォームズ株式会社アクセスデバイス開発事業部第二販売促進グループ 主任の山本 進義氏

――ドラフト版11ac対応機器が登場してもう2年になります。昨年1月には正式版11acも発表され、御社をはじめ多くのメーカーから多数の11ac対応製品が登場していますが、最近の動向を教えてください。

[山本氏]11acルータは、想定よりも早く普及しており、台数ベースでは2014年10月にIEEE 802.11n対応ルータを上回りました。無線LANルータ市場での11acモデルのシェアは今年度中に6~7割になると見込んでいますが、直近の販売データで既に57%にも達しています。

 こうした早い普及は、クライアントとなるスマートフォンやタブレットの11ac対応が早かったことと、3×3対応の高性能・高価格モデルから、2×2、1×1の安価な製品まで、製品の裾野が広がり、選択肢が増えたことが要因だと考えています。

――クライアント側の11ac対応ですが、現在、利用されている無線LAN対応機器の中で、11ac対応はどの程度の割合を占めているのでしょうか。また、対応速度どのようになっていますか。

[山本氏]まず圧倒的に数が多いと思われるのがスマートフォンです。

 国内キャリアが販売するAndroidスマートフォンは、2013年5月発表の夏モデルで初めて11ac対応品が登場、同年9~10月の冬春モデルでは100%の対応となりました。iPhoneは2014年9月に登場したiPhone 6・iPhone 6 Plusから11acに対応しています。そう考えると、現在の最新スマートフォンに関してはほぼ100%対応していると言えます。

 ユーザーさんが使用されているスマートフォン全体での割合は、正確な数字を把握するのが難しいですが、感覚的には「ほぼ半分ぐらい」という印象を持っています。

 PCに関しては、NECが8シリーズ中5シリーズ、富士通が8シリーズ中4シリーズ、東芝が5シリーズ中4シリーズ、アップルはPCとタブレットを含めて4シリーズ中3シリーズというように、既に現行製品では過半数が11acに対応しています。

 対応速度は、スマートフォンでは1×1の433Mbps、PCでは2×2の867Mbps対応が中心になっているようです。

――スマートフォンは1×1の433Mbps対応がほとんどですが、それでも11nに比べると速度的なメリットは大きいと感じますね。

[山本氏]スマートフォンは11nでも1×1(150Mbps)だったので、11ac(1×1)の433Mbpsでは速度が3倍近く向上します。数字上、3x3などと比べると地味ですが、体感上は「かなり速くなった」と感じる筈です。

――「Atermシリーズの好評な点」というのはどういった所でしょうか?

[山本氏]まず11ac対応になって速度が速くなったという点が大きいです。また、我々の製品では、ユーザーの皆さまに「簡単・安心・快適」というキーワードを訴求しています。ユーザーの皆さまが最もつまずいてしまうのが、WiFiに接続するという場面です。そこで、NFCタグを利用してスマートフォンにタッチするだけで接続できる「らくらく「かざして」スタート」や、QRコードを読み取るだけで接続できる「らくらくQRスタート」などを用意していまして、それらが非常に好評となっています。

 安心という部分では「こども安心ネットタイマー」、快適という部分では電波が安定しているという点が好評です。

主戦場は2×2、新機能搭載の新モデルも投入

1月に発売した最新モデル「Aterm WG1200HP」。バランスの良さがウリ
量販HGW事業グループ マネージャーの大杉 基之氏

――Atermシリーズの売れ筋はどういったモデルでしょうか?

[山本氏] 売れ筋の中心は2×2で、弊社製品では「Aterm WF1200HP」(以下、WF1200HP)がよく売れています。これは、ノートPCやタブレットなどが2×2対応になっていることと、価格的にも1万円を切り、性能/速度と価格のバランスが見えやすい、という2点から人気になっているようです。

 2015年1月に新製品として投入した「Aterm WG1200HP」(以下、WG1200HP)も、この2×2のラインナップを強化するために用意した製品です。

 「2×2の新・スタンダード」となる製品で、「2×2でギガビットイーサネットに対応、実売で1万円を切る」というバランスの良さだけでなく、我々が市場ニーズを汲んで搭載した独自機能「こども安心ネットタイマー」や「WiFiデュアルバンド中継機能」、そしてビームフォーミングの初対応など機能面でも充実しているのが特徴です。

――WG1200HPは、ギガビットイーサネット非対応のWF1200HPの後継という位置付けではなく併売になるそうですが、それはなぜでしょう。

[大杉氏]11acのシェアが伸びている一方で、有線LANのファーストイーサネット(100BASE-TX)もまだまだ根強くシェアがあります。実際、我々の持っているデータでは有線LANのおよそ半分ぐらいがファーストイーサネットです。

 家庭で利用している固定回線がADSLだったり、光回線(FTTH)でも100Mbps未満のサービスだったりする場合には、ファーストイーサネットでも速度がボトルネックになりにくいので、コスト優先でファーストイーサネット対応製品を選択されるお客様も多いのです。

 ただ、光回線でも100Mbps超、1Gbpsのサービスが増えてきて、今後はギガビットイーサネットの需要が増えていく可能性が高いと考えます。そういった中で、製品のラインナップを充実させるという意味で、今回ギガビットイーサネット対応のWG1200HPを投入しました。あとは、お客様が利用環境に合わせて選択していただければいいと考えています。ただ、有線側はファーストイーサネット対応でも、WiFi側の機器間では高速となりますので、この点は大きなメリットになると思います。

こども安心ネットタイマー = 「MACアドレス+時刻」で無線を制御リピータモードでも利用可能

こども安心ネットタイマー機能
量販HGW事業グループ マネージャーの三角 淳氏

――では、WG1200HPに搭載された機能についてお伺いします。ここまでお伺いしてきた中で、「こども安心ネットタイマー」機能は、数ある機能の中でも特に大きな機能だと感じましたが、機能的な説明をお願いします。

[三角氏]この機能は、スマートフォンや携帯ゲーム機の普及を背景として、「子供のネット利用をコントロールしたい」という声が、非常に大きくなってきたことに応えたものです。

 これまでですと、こうしたコントロールは、MACアドレスによる単純なフィルタリングか、ルータ自体のWiFiを止める、ということをしていたかと思うのですが、前者ですと臨機応変な対応がしにくいですし、後者ですと親も通信できなくなってしまいます。そこで、端末単位(MACアドレス)でWiFi通信を利用できる時間帯を設定できるようにしました。これで、親が子供のネットアクセスをコントロールでき、しかも親は親で自由に通信可能です。これが、最も実現したかった機能です。

 設定が簡単な点も特徴で、通常、MACアドレスフィルタリングをかけるには、端末のMACアドレスを調べて、それを手入力でルータに設定する必要がありました。しかし、「こども安心ネットタイマー」機能では、今ルータにつながっている無線機器が一覧表示され、しかもゲーム機の名称やPC名などといった、個別の名称も表示されます。そこから選択するだけでよいので、設定も簡単に行えます。この画面を使うことで、想定していない無線機器が接続されていないか、チェックもできます。

 このほか、AndroidやiOS向けに用意している専用アプリを使えば、スマートフォンやタブレットからも設定が可能です。

――制限がかかっている間、端末からはどのように見えるのですか?

[三角氏]端末側からは、アクセスポイントは見えるが、ネットワークに接続できない状況になります。そういう意味で、ルータの電源を落としている場合とは挙動は大きく異なります。

 ちなみに、この「こども安心ネットタイマー」は、ルータモードだけでなく、ブリッジモードや中継機モードでも動作するのがポイントで、例えば「特定時間は子ども部屋だけネット禁止」といったことも簡単に行えます。

 ルータモードだけで動作する仕様であれば、作るのはもっと簡単だったのですが、固定回線事業者からルータ機能を備えるホームゲートウェイを使っている場合などでは“多段NAT”になってしまい、管理が非常に難しくなります。

 ブリッジモードや中継機モードでも使えるようにしたことで、複雑な管理が必要なく、簡単に利用できるのがポイントです。

――そのほかの使い方などはあるのですか?

[大杉氏]今回はそれ以上の機能は盛り込んでいませんが、機能の裏側はかなり作り込んでいるので、実はいろいろな可能性が考えられます。例えば、使っている端末によって接続設定をチューニングして快適度を高めたり、速度をかえたりレイテンシを変えたりといったことも検討できます。

 実は、ルータの機能名は「こども安心ネットタイマー」ですが、設定を行うスマートフォンのアプリは「Atermスマートリモコン」という名称にしています。これは、このアプリでいろいろなことができる、という意味を込めて付けています。既に、いろいろと作り込んでいますので、今後タイミングを見て機能を追加していきたいと考えています。

「ネット動画時代」で中継機能が重要に「速度が出ないと動画再生が……」

WiFiデュアルバンド中継機能の解説
量販HGW事業グループ マネージャーの安藤 利和氏

――WG1200HPには、WiFiデュアルバンド中継機能というものが搭載されていますが、これはどういった機能なのでしょうか。

[三角氏]WiFiデュアルバンド中継機能は、WG1200HPで初めて搭載した機能です。WG1200HPを中継機モードで利用する場合、上流側のルータとの接続には、5GHz帯域または2.4GHz帯域のどちらかで接続します。それに対してクライアント機器とは、5GHz帯域と2.4GHz帯域を同時に接続して利用できます。これによって、PCからゲーム機まで、同時に接続して利用可能となります。

 上流のルータとの接続は、WPSなどを利用して簡単に接続できるようにしていますし、最適な帯域を自動で選択して接続するようになっています。例えば、上流のルータが5GHzと2.4GHz双方に対応している場合には、自動的に5GHzを選択して接続します。

――今回WiFiデュアルバンド中継機能を実現した大きな理由は何でしょうか。

[大杉氏]中継機能を利用すると、上下で同じ周波数帯域を利用する場合には通信速度は半分になってしまいます。ただ、速度が半分になるとしても、11nの半分と11acの半分とでは速度が大きく異なります。11acの速度なら、中継機モードで通信速度が半分になっても十分に使えると判断しました。また、11acのルータには高性能なCPUが搭載されて、安定した高い処理能力が備わったという側面もあります。

[山本氏]今回のWiFiデュアルバンド中継機能は、中継機能の最終形に近い形であると考えています。

――中継機能の需要は結構多いのですか?

[大杉氏]実はかなりあって、しかも、だんだん増えてきていると感じています。例えば、1階にルータを置いていて、2階の角の部屋だけスピードが出ないというお客様もいらっしゃって、中継機能を活用されている例が多くなっています。また、鉄筋の住宅や、地方で母屋と離れの間などで活用する場合も多いようです。

――これまでは、1台で無線のパワーを高めて接続できる範囲を拡げるという手法が中心だったように思いますが。

[大杉氏]1台でカバーできるお宅もありますが、同様に1台ではカバーできないお宅も多くあります。そういった声に応えるという意味で実現したものでもあります。

[安藤氏]つながればいい、という時代ではなくなってきたというのもあると思います。スマートフォンでWeb動画を安定して見るには、つながるだけではなくて、ある程度の速い速度が必要となります。社内の話ですが、「ネット動画を安定して見ることができないと、娘に口をきいて貰えない」なんて話もあるようでして(苦笑

――中継機能をフルに活用するには、3×3対応機器など、速度の速い製品に搭載したほうがより有利にも感じますが、なぜWG1200HPで初搭載になったのでしょう

[大杉氏]たまたまタイミング的にWG1200HPで初めて搭載になっただけです。もちろん、今後発売する製品にも順次搭載していく予定です。

ビームフォーミングの効果は、数値化しづらいが確実に得られる

――WG1200HPでは、Atermシリーズで初めてビームフォーミングに対応しましたが、なぜ今回対応したのでしょうか。

[大杉氏]いくつか要因があります。当初より繰り返し検討はしてきておりましたが、そろそろ世に出してもいい状況になったのではないか、と判断して採用しました。ビームフォーミングは親機だけでは成り立たず、子機があっての機能ですが、スマートフォンなどの対応子機が増えてきたという点も理由のひとつです。

――1年半ほど前に話しをお伺いした時には、その当時はビームフォーミングを利用してもあまり良い効果が見られないために見送ったということでしたが、その後に採用するに足る技術的な進化があった、ということでしょうか。

[大杉氏]はい、その通りです。実際にビームフォーミングを使ってみた場合の効果も検証しましたし、ビームフォーミングに対応していない端末への悪影響もないことが確認できました。以前は、うまく接続しなかったり、速度が安定しないという弊害も確認していました。しかし、それら弊害が解消されていることを確認しましたので、採用しています。
 環境によって効果が大きく変わりますので、どの程度速度が向上するか、というのはなかなか数値で示すのは難しいのですが、様々な環境で速度が向上するのは確認しています。

――ビームフォーミングは、どういった環境で利用すれば良い効果が得られるのでしょうか。

[大杉氏]壁を挟む場所のように、電波の反射の多いような環境では、良い効果が得らる場合が多いようです。壁が1枚2枚と増えていくと、効果が徐々に見えてきます。水平方向の壁を越える場合だけでなく、階を隔てて上下に超える場合も同様です。ただ、障害物のない同一室内などではほとんど効果がありません。

[安藤氏]効果については、環境によって大きく変わります。見通しのいい場所では、距離が離れていてもあまり効果はないかもしれません。鉄筋の住宅などで電波の通り道が入り組んでいるような場所では、それまでつながりにくかった場所でも安定してつながるようになるかもしれません。しかし、それも環境によりけりなので、”これだけ速度が速くなります”というように定量的に効果を示すのは非常に難しいです。

――ちなみに、ビームフォーミングに対応させるために、チップセットは従来のメーカーから変わっていたりしますか?

[大杉氏]今回は、新しいメーカーのこれまでとは違うチップセットを採用しています。そのメーカーのチップセットでなければビームフォーミングに対応できないというわけではなくて、製品の価格帯や機能面などを加味してベストなものを選択しています。

――従来までとチップセットが変わると、内部のロジックなども大幅に変更になったりするのでしょうか。

[大杉氏]単に動かすだけであれば、それほど大変ではありません。しかし、そこから商品化まで持って行くにはかなりの苦労がありました。例えば、ビームフォーミング部分だけでも10回以上チューニングを行っています。そのたびに夜中に会議室で効果を確認するなど、かなり苦労しました。同じ環境で実験しないと結果を比較できませんし、再現性を高めるためには周囲になるべく人がいない方がいいので、夜中に検証をしていました。

[安藤氏]日中に製造ラインが動いている状態では無線が飛びまくっているので、その影響もあって検証は夜中にやってます

――ビームフォーミング対応のために、アンテナ部分にも何か大きな変更が加えられていたりしますか。

[大杉氏]我々の製品では、「Aterm WG1800HP」から「μSRアンテナ」というアンテナを採用しています。その後の製品でもずっと採用していて、WG1200HPでも採用していますが、製品ごとに少しずつ進化させてきています。例えば、より遠くに飛びやすくするようにしたり、周りからの影響を受けにくくするといった進化です。ですので、ビームフォーミングだけではないですが、WG1800HPから数世代進化したものを採用しています。

[安藤氏]基本的な部分は変わりません。しかし、我々は開発の専門部署もありますし、利得や指向性をより理想的なアンテナ特性に近づけるために、μSRアンテナのパターン最適化を継続的に行い、よりよいものを目指して進化させています。

 ご存じのように、アンテナのパターンは基板上にあります。ですので、基板全体のノウハウも必要になります。例えば、スルーホールの打ち方ひとつで特性が変わってきたりします。そういう部分も含めてノウハウを蓄積して進化させているわけです。

[大杉氏]基板上に5GHz用、2.4GHz用の複数のアンテナが搭載されていますが、それぞれがなるべく干渉しないようにする、というのも重要となります。アンテナパターンの長さや配置場所のわずかな違いを、試行錯誤でチューニングしていくという感じです。

小型ボディはシリーズ通してのこだわり

サイズの小ささもウリ
基板の一部をアンテナとする、米粒サイズの「μSRアンテナ」。Atermシリーズでは11acモデルから採用されている(写真はWG1800HPのもの)
WG1200HPのμSRアンテナ。実は細かな改良が続けられているという
「なるとマーク」のようなμEBG構造。このパターンを適切に配置することでノイズを抑制する(写真はWG1800HPのもの)

――WG1200HPは、ギガビットイーサネット対応無線LANルータとして国内最小サイズですが、本体サイズに関する御社の考え方を教えてください。

[安藤氏]近年の無線LANルータ市場は、明らかに既存製品の買い換え需要が中心です。

 そこで、WG1800HPでは、「11n対応製品と同等サイズ」にこだわりましたし、それ以降の製品もサイズにこだわって開発しています。今回のWG1200HPについても同様で、リプレースを意識すると、従来のギガビット対応ルータよりも大きくなってはいけないわけです。そのうえで、縦置き、横置き、壁掛けと、ユーザー様の利用シーンに柔軟に対応できるように開発を進めています。

――このサイズを実現するうえで苦労した部分はありますか?

[大杉氏]WG1200HPは、ギガビットイーサネット対応ルータとして国内で最小サイズになります。当然、開発のやりやすさという意味では、大きいサイズのほうがやりやすくなります。サイズが小さくなると、まず熱が問題になります。弊社では、利用時のボディの温度を何度以下にしなければならない等、厳格なルールがあります。それを守るためには、消費電力を減らさなければならないし、放熱も効率良く行わなければならなくなります。

 チップやコネクタなどはサイズが決まっていますので、この小さなサイズに必要なものを集約するという点も苦労する部分ですが、我々には高密度実装技術のノウハウがありますので、十分に対処が可能でした。

 また、小さくなればなるほど、アンテナの干渉やノイズによる影響も増えるわけですが、我々には小型アンテナのμSRアンテナや、ノイズ対策の「μEBG構造」という技術がありますので、この小ささが実現できています。こういった技術は、他社に負けない部分と考えています。

――小型になると熱が問題になるというお話しでしたが、WG1200HPではデュアルコアCPU搭載、ギガビットイーサネット対応、11ac対応と、熱源が非常に多く、熱対策には特に苦労したのではないかと感じます。

[大杉氏]細かなことを言うと、部品をどこに配置するのかということだけでも大きく変わってきます。また、性能と消費電力のバランスを取るという点も難しいところです。処理能力を下げると消費電力が下がって発熱が減りますが、性能も落ちてしまいます。それらのバランスの調整にはかなり苦労しました。

――御社はとにかく小型化を追求されていますが、競合製品では非常にサイズの大きい製品もいくつか登場しています。そういった大型の製品についてどのように思われますか?

[大杉氏]ユーザーの好みもありますし、難しいですよね。アンテナが外に配置されて大型の方が存在感を感じられていい、という方もいらっしゃるでしょう。そういう意味で、我々とはこだわっている部分が違うのかな、と思います。

[安藤氏]一昔前は、外にアンテナがないと電波が飛ぶ気がしない、という人も多かったです。我々は以前からアンテナ内蔵をやってきていますが、最近は他社さんの製品でもアンテナ内蔵の製品が増えてきて、やっとアンテナが外になくても問題がないと認知されてきたように思います。

――ちなみに、外付けアンテナの利用を考慮されたりもしましたか?

[安藤氏]最近は全くないです。使う気がないです。外付けにする意味がないですので。また、外付けアンテナがあると、置き場所や置き方にも制限が出てしまいますし。

[山本氏]以前は外付けのアンテナを利用されていた他社さんの製品も、11acでは内蔵のものが増えていますし、今後は内蔵がスタンダードになるのかな、と思っています。

[大杉氏]携帯電話も、昔は外にアンテナが付いていましたが、今は内蔵が当たり前です。それと同じ感覚で、内蔵が当たり前と考えています。

11acルータは、固定回線の速度と接続する機器を考慮して選択すべし

11ac対応の据え置き型Atermシリーズラインナップ

――これから御社の11acルータを選ぶ上でのポイントを教えてください。

[山本氏]大きく2つあります。

 まず1つめは、お客様が使っている固定回線の速度です。100Mbps以下であればファーストイーサネット対応の製品、100Mbpsより速いのであればギガビットイーサネット対応製品を選択すればいいでしょう。Atermでは、製品名の頭が”WG”となっているものがギガビットイーサネット対応、”WF”となっているのがファーストイーサネット対応の製品となります。

 もう1つは、どういった機器を接続するのか、という部分です。スマートフォンのみを接続するなら1×1対応で問題ありませんが、ノートPCやタブレットを接続するなら、2×2以上がおすすめです。また、高画質動画など、大容量のデータを安定して扱いたいなら、3×3対応機器でイーサネットコンバータのような使い方をするのがいいでしょう。

 あとは、細かな機能面もチェックしてもらいたいです。具体的には、「こども安心ネットタイマー」や中継機能などで、細かな使い勝手が変わってくると思います。

Atermシリーズの多くは壁掛けにも対応している

――ルータ購入後の設定や設置場所についてのアドバイスはありますか?

[大杉氏]設定については、買ってきてそのまま使っていただけるというコンセプトで設計しています。PPPoEのIDやパスワードは入力する必要がありますが、その他は自動判別で設定されますので、特に細かな設定変更の必要はありません。

 設置場所については、住宅の間取りや建材の違いもありますので、一概には言えないのですが、家の真ん中付近に設置すれば、まんべんなく電波が飛ぶと言えます。また、なるべく周囲に障害物のない場所や、ノイズを出す機器が近くにない場所に置くのがいいでしょう。

[安藤氏]全方位に電波が飛ぶアンテナを搭載していますし、どこにでも置けるデザインにしていますので、基本的にはどこに置いてもらっても構いません。皆さん、余りやっていただけていないようなのですが、壁掛けも便利ですよ(笑

――最後に一言ありますでしょうか?

[山本氏]今回のWG1200HPは、スペック、機能、価格のバランスに優れた製品として企画しました。11ac対応の無線LANルータも種類が増え、選択に迷う場合も多いかと思いますが、「よくわからない」という方はまずこの製品を選んでいただければ間違いないと思っています。

 もちろん、上位には3×3のWG1800HP2が、下位には2×2でファストイーサネットのWF1200HPや1×1のWF800HPがありますので、様々なニーズに合わせて製品を選んでいただけると自負しています。

――本日は、ありがとうございました。

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平澤 寿康